海に沈んだ家宝 サルベージ

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:11 G 32 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月16日〜11月28日

リプレイ公開日:2007年11月20日

●オープニング

 雷雲轟き、強風とうねる波の海。
 横殴りの雨がロープを握る海賊共に次々と襲いかかる。
 マストが折れて舵がいかれた海賊船はただ波の動きに任せるのみとなった。
 海賊共は脱出用の小舟を海へと降ろして飛び乗るがすぐに転覆する。だからといって誰も海賊船に戻るつもりはなかった。既に船底には穴が空いていたからだ。
 海賊の一人がキラーホエールらしき影を目撃した。どうやら衝突されたようである。
 沈んでゆく海賊船を後目に、海賊共は必死になって荒れ狂う波の中を泳ぐ。
 大きな船が沈むときにはそれに見合う渦が起きる。その渦に掴まったのなら引きずり込まれ、海の藻屑だ。
 海に投げだされた誰もが手と足をばたつかせる。沈む海賊船の渦に一人が掴まり、そしてもう一人とさらわれてゆく。
 生き残ったのは一人の青年だけであった。
 青年は海賊に捕まり、もう少しで殺されそうになったところを嵐とキラーホエールの衝突に救われた。
 海が穏やかになったのは、海賊船が沈んでから七時間が過ぎた頃である。
 青年は目を覚ます。知らない間に寝てしまったが、丸太と身体をロープで繋いでおいたおかげで助かったようだ。
「とにかく生きて帰るんだ‥‥」
 青年は岩場を見つけて泳ぎつく。そこから眺める景色は海と空ばかりであった。
 二週間が経ち、偶然に通りかかった輸送帆船に青年は救出される。酷く衰弱していたが、大きな怪我はなく、徐々に回復しゆく青年であった。


 それから七年の月日が経っていた。
 青年は大人になり、父の片腕として活躍していた。彼は元々地方貴族の次男である。
 彼の名はスエズール。あの時の生きるか死ぬかの体験はスエズールの考え方を変えた。
 父に反発ばかりしていたスエズールだったが、今では父を誰よりも慕う良き息子になっていた。長男が亡くなった事もあり、時期当主はスエズールになるはずだ。
「家宝を奪った海賊船の位置が、最近になってようやくわかったのです。ただ、とても危険な海域で私どもではどうにもならず、そこで冒険者ギルドを思いだしました。冒険者の方々は様々な特技をお持ちだとお聞きします。どうか手伝ってもらえないでしょうか?」
 スエズールは受付の女性に詳しく依頼内容を説明した。
 海賊に捕まったとき、同時に家宝が詰まった箱も奪われてしまった。どうしてもそれを取り返したくて、沈んだ海賊船を今まで探させていたのだという。
 海賊船が沈んだ周辺には様々なモンスターが生息する。グランパスやシーウォーム、キラーホエールなどが目撃されていた。
「キラーホエールに関しては昔、わたしも酷い目に遭った事があります。ある意味では助けられたのでしょうが、やはり凶暴な奴です。とにかく海へダイブする素潜りの者達は集められたのですが、モンスターとなると、どうにも専門外で」
「わかりました。きっと勇猛な冒険者が参加してくれることでしょう」
「よろしくお願いします。出来る限りのお礼はしたいと考えております。家宝さえ戻れば、その他の物は大して興味はありませんので、なるべくお金にでも変えて分配したいと考えています」
 スエズールは丁寧に受付の女性へ礼をすると、帽子を被って冒険者ギルドを立ち去った。

●今回の参加者

 ea4465 アウル・ファングオル(26歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb1964 護堂 熊夫(50歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb4840 十野間 修(21歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb9482 アガルス・バロール(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

●海原
 三日目の夕方頃、一行を乗せた帆船は目的の海域に錨を下ろした。
 海賊船が沈んだ目印となった岩場以外は海と空のみである。
 水平線に太陽が沈もうとする海でイルカが跳ねた。
「やはり寒いですね」
 海から上がったアウル・ファングオル(ea4465)は船乗りが貸してくれた大きな布にくるまる。そして船室の食堂に入り、暖炉の前へ座り込んだ。
 アウルは途中で見かけたイルカの姿になって試しに泳いでみた。うまく泳げたのだが、冬の海はとても冷たくて身体を震わせる。
 帆船にたくさんの薪が積まれていたのは、その為である。素潜りをする者達用に暖房が用意されていた。船内の暖炉以外にも、甲板でたき火が出来るように特別なスペースも用意されている。
「これをどうぞ」
 十野間修(eb4840)がアウルにシチューをよそった器を手渡す。あらかじめ身体が温まる料理を帆船の係に頼んでおいたのだ。十野間修は暖房にも注意を払うつもりであったが、元々の設備で問題はなさそうである。
「本格的な冬だとこんなもんやないで〜。おいらなら平気やけど。これ、ごっつうまいんや」
 河童の中丹(eb5231)が鍋から自分でよそってシチューを食べ始める。ついさっきまで寒いといいながら綿入り半纏に首を引っ込めていたのは内緒である。
「キャメロットが騎士、アガルス・バロールも泳ぎにかけては自信があるなり!」
 椅子にどっしりと座ったアガルス・バロール(eb9482)は、帆船に常備された発泡酒を呑んで笑った。
「なんだか楽しそうだな。わたしも一杯もらおうか」
「船乗りが怪しい影を見かけたというので、ティシュトリヤに乗って空から確認してみましたが、異常はありませんでした」
 エメラルド・シルフィユ(eb7983)とコルリス・フェネストラ(eb9459)も食堂に現れた。アウルは隣りの部屋に移り、着替えて戻ってくる。
「やはり、グランパスやらキラーホエールとやらがいるのですか‥‥」
 テーブルの椅子に座る護堂熊夫(eb1964)が天井で揺れているランタンの灯りを見つめた。
 依頼人のスエズールも食堂に現れ、冒険者達に話しかける。
「サルベージは明日からになります。見張りを配置して、キラーホエールなどのモンスターには注意しています」
 スエズールは明日からの手順を一通り説明した。
「海に沈んだ家宝をとりもどしたいとは天晴れな心意気! このアガルス心を打たれましたぞ!」
 アガルスはスエズールの行動が心に染みるほど感動したようだ。
「ああ、そうだ。家宝とやらとは具体的に何か教えてもらえるか? こちらも事情は聞いておきたいしな」
「構いませんよ。家宝とは女性の装飾品です。わたしの母の形見でもありまして‥‥」
 エメラルドの問いにスエズールは答えた。もしうまく引き揚げられれば形見を婚約者にあげたいという。脇に抱えられる程度の小箱に収められているそうだ。
「わたしが子供の頃の話です。亡くなった母がわたしの妻となる者に、自分がつけている飾りを譲りたいといっていたのです。みなさんよろしくお願いします。それでは」
 スエズールは食堂を立ち去った。冒険者達は明日に備えて早めに就寝するのだった。

●隠れていた敵
 四日目の朝日が昇るとまもなくサルベージが開始された。
 素潜りの者達はたき火で身体を暖め、潜る準備を行う。
「少しでも負担を無くしましょう」
 護堂はウェザーコントロールで曇りを晴れにするように操作した。そしてコルリスから借りたスクロールを手にしてマストを登る。見張り台から周囲を監視する護堂である。
「いくんや〜」
「それでは、皆行って来るぞ!」
 素潜りの者達に同行する為に、中丹とアガルスも海へと飛び込んだ。
「太陽が出ているだけでかなり気温も違うものです」
 アウルは船乗りが操る小舟に乗って周囲の海の監視を行う。時々イルカに変身して素潜りの者達の手助けや、海中の監視をするつもりだ。小舟とはいえ、炭による暖が用意されている。定期的に戻ってくれば、昨日とは違って何とかなりそうである。
 アウルは昨日の内に素潜りの者達と潮の流れについて相談していた。海賊船が沈んでいる辺りは比較的穏やかな海である。だが、少し離れた潮流に乗ってどんな生き物がやってくるかわからないという。大事な事として、命綱を三回連続で引っ張れば戻れの合図なのも教えてもらう。知ったすべては仲間に伝えたアウルである。
「わたしはここからの支援をしよう。深く潜るほど、泳ぎは得意ではないからな」
 エメラルドもアウルと同じ小舟に乗っていた。剣を鞘ごと抱えながら、青く澄んだ海を眺める。このまま、何事もなければいいと心の中で呟く。
「今の所、何もなし。あなたを無条件で乗せてくれたのだから、期待に応えないと」
 コルリスは跨るグリフォンのティシュトリヤに話しかける。大空を舞いながら周囲の監視する。エメラルドから預かった動物の血が入った革袋を腰からぶら下げて。
「では行っています」
 身体に油を塗り終えた十野間修はスクロールのウォーターダイブを使うと、小舟から海へ飛び込んだ。アウルとエメラルドとは別の小舟で、操船は船乗りに任せる。帆船に残った護堂と時々役割を交代するつもりの十野間修である。
 海の底は暗いと考え、十野間修はライトで作った光球を持って深く潜ってゆく。
(「あれは‥‥?」)
 十野間修は海の底からすごい勢いで向かってくる何かを見かけた。長いくねくねとした巨大なものが十野間修の持っていた光球を弾く。
 エメラルドは海上に姿を現したシーウォームを目撃した。
 全長は長く、ゆうに8メートルはあるはずだ。口らしき先端の回りについた触覚を含めればもっと長いはずである。
「沈んだ海賊船の中に潜んでいたんや!」
 海上に顔を出した中丹が叫んだ。
 中丹は浮かんできたアガルスと一緒にシーウォームにしがみつく。
 エメラルドは剣が抜き、宙に輝く軌跡を残す。
 触覚の一本が斬り落とされると、シーウォームは海中へと潜った。
 アウルはイルカに化けると小舟から海に飛び込む。十野間修と一緒に素潜りの者達の誘導を行う。
「船首を基点に北北東20メートルの辺りを泳いでいます!」
 護堂は魔法を駆使して調べ、グリフォンを駆る上空のコルリスにシーウォームの位置を知らせた。
 コルリスは弓を構えて、チャンスを待つ。
 海中の中丹はシーウォームからわざと手を放した。ストライクで可能な限り連続でパンチを打ち込み、衝撃を与えてから離れる。
(「騎士をなめるのではない!」)
 アガルスはシーウォームに短剣を突き立てた。シーウォームが泳ぐ勢いを利用して胴体を切り裂く。
 海上に飛びだしたシーウォームの口を狙ってコルリスが矢を放つと、吸い込まれるように突き刺さる。痙攣するような動きをみせたシーウォームに向けて、エメラルドの剣が振り下ろされる。
 シーウォームは倒されて海上に浮かんだ。その上に乗っかると中丹は胸を張り、腰に手を当てて天空を仰ぐ。クチバシキラ〜ン☆と輝かせて。
 しばらくするとシーウォームは沈んでいった。
 海賊船に巣くっていたのは一匹のみである。誰一人として被害もなく作業は再開されるのだった。

●キラーホエール
 五日目は何もなく作業は進んだが、目的の家宝は発見できずに終わった。
 六日目は海が荒れ、強い嵐の状況に作業は中止となる。天候が悪すぎて護堂が操作しても、あまり効果はなかったのだ。
 空を巡回してきたコルリスがずぶ濡れで戻ってくる。空も海も鉛色でとても不気味だったと報告した。
 食堂に冒険者全員が集まっているところへスエズールも現れる。そしてこの海で体験した想い出を話した。このような嵐の時、海賊船はキラーホエールに襲われて沈没したのだと。
 着替えてきたコルリスは黄金の竪琴を取りだして奏でる。海が鎮まるように祈りながら。
「キラーホエールが出たぞ!」
 一人の船乗りが足音を立てながら廊下を駆けて大声を張り上げた。
 冒険者達は船の揺れに翻弄されながらも甲板へと出る。すでに甲板にいた船乗りが指さした先では黒い巨体が波間に見え隠れする。
 まもなく黒い巨体は完全に姿を現す。帆船と同じくらいの大きさのキラーホエールであった。
 帆船に向けてキラーホエールが突進してくる。頭に生えた牙で突かれたのなら、帆船が沈むのは誰にでも容易に想像できた。
 中丹、アガルスが荒れ狂う海に飛び込んだ。その他の者達は命綱を身体にくくりつける。
 護堂はメロディーを使うが、範囲にはなかなか収まらない。
 間一髪のところで帆船はキラーホエールの攻撃を回避する。だがキラーホエールは反転し、もう一度接近してきた。
 十野間修はライトを作り、船乗りの一人に掲げてもらう。
 エメラルド、アウル、護堂は船首に立ってキラーホエールを待ちかまえた。帆船は攻撃を避けようと舵が切られて傾く。
 十野間修のシャドゥボムが弾け、コルリスの魔弓がうなる。
 海中では中丹とアガルスがキラーホエールの下に潜り、腹に向けて一撃を放つ。
 護堂はキラーホエールを前にしても怯むことなく、メロディーを唄い続けた。
 アウルの剣がキラーホエールの脳天に向けて強く振り下ろさる。エメラルドの剣は巨大な目を撫で斬った。
 二度目の攻撃も帆船は無事回避する。冒険者達は待ちかまえるが、すれ違ったままキラーホエールは姿を消した。
 しばらく嵐は続いたが、二度とキラーホエールは現れる事はなかった。

●引き揚げ
 七日目には嵐も過ぎ去り、作業は再開される。
 十野間修も時々探索現場まで潜り、魔法で探索の手伝いをする。
 ある時、中丹とアガルスが小舟に乗って帆船に戻ってきた。二人で引き揚げた古びた箱を持って。
 残念ながら目的の家宝の箱ではなかったが、中にはいろいろな品が入っていた。割れた器などの他にたくさんの指輪が見つかる。種類がたくさんあり、どれがどんなものなのかわからない状態だ。
 引き揚げられた品物はすべてが船室の一室に集められる事が決まっていた。ガラクタも多いが、なにやら価値がありそうな像なども多くある。箱はその船室に収められる。
 作業は順調であったが、休憩時間も度々用意された。身体を暖めなおさなければいけないからだ。
「いやはや、わしも泳ぎにかけては多少自信はあったのだが、流石に敵いませぬな!」
 薪が燃やされている甲板でアガルスが愉快に笑いながら中丹と昼食をとる。
 他の冒険者達も食事を済ませた。やはり温かい食べ物がこの寒さにはぴったりである。
 もう一踏ん張りと、宝の回収と護衛に力を入れる冒険者達であった。

 八日目は、沈んだ船内の廊下を塞ぐ木材などの撤去に費やされた。
 九日目は実質的な最終日である。作業が出来るのは今日で最後だ。
 撤去もある程度終わり、素潜りの者達が海賊船内を探索する。中丹とアガルスもそれらしい小箱を探し回る。
(「!」)
 ウォーターダイブで潜る護堂が指さした先を、イルカの姿をしたアウルが眺める。そこにはグランパスが悠々と泳いでいた。
 イルカのアウルは海賊船を探っている素潜りの者達の元へ大急ぎで向かう。護堂は海上の仲間に知らせる為に浮上する。
「大変で‥す。シャチが‥いました‥‥」
「わかった。グランパスが現れたぞ。コルリス!」
 浮かんだものの海中でウォーターダイブが切れてしまい、息も絶え絶えの護堂に代わってエメラルドが叫ぶ。
「わかりました! みんなに早く浮上してもらって下さい!」
 グリフォンに乗って上空を飛んでいたコルリスは、帆船から少し離れた海に袋を投げ入れた。入っていた血が海中に広がる。
 コルリスがしばらく様子を見ていると、海面近くに影が現れる。血の臭いにおびき寄せられてグランパスが移動してきたようだ。
「みなさん、しっかり」
 帆船では海から上がってきた素潜りの者達を十野間修が励ます。身体を拭く布を手渡してゆく。
 中丹とアガルスが護衛してきた素潜りの者が小箱を抱えていた。
「まだ袋を投げた辺りにグランパスはいました。みなさん平気でしたか?」
「大丈夫だ。みんな無事だ」
 戻ってきたコルリスにエメラルドが返事をする。
 スエズールに小箱は渡された。さっそくその場で蓋が開けられる。
「これです‥‥。母がしていた首飾り‥‥、見覚えがあります。みなさん、ありがとうございます」
 スエズールは船に乗っていた全ての者に感謝した。
 沈んだ海賊船内はあらかた調べ終わっていた。目的の家宝も手に入り、ここで回収作業は終了となった。
 夜には祝杯用の酒が用意され、出来る限りの豪華な料理が振る舞われる。
「品物がいいという冒険者の方々が多かったので、たくさん出てきた指輪の中でお好きなものを、お一つずつお持ちになって下さい。追加の謝礼金も少しで申し訳ありませんが、受け取って下さい」
 スエズールがあらためて冒険者達にお礼をいった。
 冒険者達はたくさんある指輪の中から価値がありそうなものを7つ選り分ける。そして最後はクジでどれをもらうのかを決めた。
 誰かが恨みっこなしだというと笑いが沸き起こる。そして冒険者の手には指輪が一つずつ握られた。

●帰路
 十日目の朝に帆船は錨を上げて、パリへと出航する。
 護堂が天候を常によい状態にしてくれたので航海は順調であった。
 コルリスは船旅の安全を祈り、甲板で黄金の竪琴を奏でた。
 帆船は海からセーヌ川を上り、無事十二日目の夕方にパリへ入港した。
 冒険者達を下ろすと帆船は再び出航する。甲板で手を振るスエズールに、冒険者達は手を振り返した。
 冒険者達は海での出来事を話しながら、ギルドへと報告に向かうのだった。