盗賊の財宝 〜デュカス〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:5人
冒険期間:11月26日〜12月03日
リプレイ公開日:2007年12月04日
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●オープニング
パリの市場。
デュカスはいつものように荷馬車に積んできた野菜や薪を行商していた。あらかたの品が売り終わり、落ち着いた頃に声をかけられる。
「久しぶりだな。デュカス!」
デュカスは振り向いた。そこに立っていたのは青年ガルイであった。
「お久しぶりです! てっきりエテルネル村に直接向かわれると思ってました!」
「いや、何。パリに寄ったんで、もしやと思って市場を覗いてみたのさ」
二人は再会を喜び合う。
ガルイはデュカスの仲間だ。エテルネル村初期の復興を手伝ってくれた人物でもある。
その夜、酒場で酒を酌み交わした。
「今はある田舎町の孤児院で働かせてもらってよ。まあ、似合わねぇのは承知しているがよ」
「ガルイさんが孤児院で働いているのですか。想像出来ませんね」
「デュカス、おめぇ〜いうようになったな。まあ、そんなこんなで俺自身はうまくいっている」
「そうですか。エテルネル村でも歓迎しますよ。いつでも帰ってきて下さい」
「それがよう‥‥‥‥。はっきりというぜ。エテルネル村に顔を出そうとしたのには訳がある」
「なんです?」
「孤児院が金に困っている。どうにかしてやりてぇ〜が、俺にはどうにもならん。あ、勘違いすんなよ。デュカスにたかろうとしている訳じゃねえぞ。旅の途中である情報を手に入れたんだ。『コズミの財宝』についてだ」
デュカスはガルイの言葉に驚く。コズミとはデュカスの故郷の村を滅ぼした盗賊集団の名称である。滅ぼされた土地に新たに出来たのが現在のエテルネル村だ。デュカスにはコズミという策士を冒険者の力を借りて倒した過去があった。
「コズミを構成していた集落群だが、今では領主の手が入って誰も住まない土地になっている。その近くの山にコズミの隠した財宝が眠っているっていう話なのさ」
ガルイはぼろぼろの羊皮紙を取りだした。
「孤児院も大変だが、そっちの村もいろいろと物いりだろ? まあ、この地図がでたらめって事もあるから強くはすすめられん。だが協力して欲しいんだ。頼む!」
ガルイがデュカスに頭を下げる。
「そうですね。その話し乗りますよ」
「そうか。よかった。これであの子らも助けられる」
デュカスは喜ぶガルイに手を握られながら考えた。もし財宝が見つかっても少しだけもらい、ほとんどを孤児院に渡そうと。
幸いな事にエテルネル村は恵まれている。助けてくれる人々が多くいた。これ以上望んではいけない気がしていたデュカスであった。
翌日、デュカスは冒険者ギルドに向かい、依頼を出した。一緒にコズミの財宝を探してくれる仲間を求めて。
地図にはゲルマン語ではない文字で書かれている部分もあるし謎もありそうだ。どんな知識が必要になるかはわからないが、冒険者ならそれに応えてくれるとデュカスは信じる。
エテルネル村の弟フェルナール宛てにシフール便で手紙を送り、しばらく留守にする事を伝えた。
デュカスは出発の日までガルイとパリに滞在するのだった。
●リプレイ本文
●集合
「ガルイ様お久しぶりでございます。ご壮健そうでなによりです」
「おう、冬霞さんか。デュカスとうまくやってるかい?」
柊冬霞(ec0037)はそそとガルイに近寄るとお辞儀をする。
初日の朝方、パリを護る城壁近くが集合場所であった。
「ええ、私はこのように」
冬霞がガルイに微笑んだ瞬間、叫び声が聞こえる。デュカスの声だ。
「だ、旦那様、大丈夫ですか!」
「平気だ。突然だったので驚いただけだ」
転げていたデュカスに冬霞が駆け寄る。近くで一羽の鶏がコケッと鳴いていた。
「は〜お〜♪ 冬霞、げんきぃ〜?」
「レシーア様、何が起きたのですか?」
レシーア・アルティアス(eb9782)は冬霞に挨拶をしながら鶏を抱きかかえる。
「デュカスに飼っていた鶏をあげようとしてね。後ろから頭にのせたら、驚かれちゃったってわけ〜。ごめんねぇ〜。あ、ガルイ、久しぶりだねぇ〜」
レシーアは起きあがったデュカスに改めて鶏を進呈すると、ガルイの元に近寄って世間話を始めた。
「賑やかだな。財宝探しと聞いたので参加させてもらう」
「これは、気づかなくて失礼しました。リンカさんですね」
「すまないが握手は――」
リンカ・ティニーブルー(ec1850)が握手を求めようとするデュカスから一歩下がった。男性との接触はハーフエルフの狂化に繋がると聞いてデュカスは納得する。初めて会う者達にも伝えるリンカであった。
「盗賊の隠された財宝が洞窟に眠っている‥‥ロマンですわ。はじめまして、シフールのミシェルよ。よろしくね」
空から飛んできたミシェル・サラン(ec2332)がレシーアの肩に座って挨拶をする。そしてレシーアに近くまで運んできた荷物の事を頼んだ。いろいろと苦労して運んできたが、もう力の限界らしい。
「よろしくなのだぁ〜。さっそく地図を見せて欲しいのだ」
愛犬二匹を連れて玄間北斗(eb2905)が軽快に集合場所に現れる。
依頼に同行する仲間全員が揃ったところで相談が始まった。野外ではあるが、見送りに来てくれた者達も参加して文章の翻訳である。ガルイが持ってきた地図には様々な言語で注意書きがされていた。
ヴェスルがどんな言葉でも少しはわかるので、まったく読めない文字はなかった。
特に多く使われていたのはゲルマン語である。次にイギリス語、ジャパン語だ。その他にも違う言語が使われていた。どうやらこの地図の作成者は言語にかなり精通していたようだ。
デュカスは羊皮紙にわからない文字を除いた地図の写しを描いてきていた。翻訳文をまとめ、地図に書き込んでゆく。完成した頃には昼になっていた。急いで全員が荷馬車に乗り込む。
「気ぃつけてこいよー」
軽い馬のいななきの後、荷馬車がゆっくりと動き始める。荷物の積み込みを手伝ってくれたオルフォークを始めとする見送りの者達の姿が遠ざかってゆく。
荷馬車組とは別に玄間とリンカはセブンリーグブーツで洞窟へと先行する。犬達と馬を連れて二人は荷馬車進行方向に消えていった。
パリを出発して二時間後、シルフィリアがセブンリーグブーツで荷馬車に追いついてデュカスに調べた事を報告してくれる。
領主の世代交代があったのを機に、コズミの集落群には完全な手入れがあったようだ。シルフィリアは投げキッスを残してパリへととんぼ返りする。
「こうしておけば、後が楽だしねぇ〜。そうそう、ガルイ。旅で何があったか教えなさいよ」
レシーアは持ってきたロープを結んでおく。短くするのは簡単だが、長くするには時間がかかるからだ。
「旅か。まあ、いろんな事したぜ。ある村で畑仕事手伝ったり、迷子を親に届けたこともあったな。思いだしてみると冒険者みたいな事を多くしていたような気がする」
ガルイの話をレシーアだけでなく、荷馬車に乗る全員が耳を傾けた。
「旦那様もガルイ様に会えて嬉しそうです」
冬霞がみんなの様子に呟く。
目的のコズミ集落近くの山までは荷馬車で二日。一行は到着までに出来る用意を行うのであった。
●三日目
「ここなのねぇ〜。ま、洞窟ではあんま関係ない、か」
レシーアは洞窟を覗くが、真っ暗でよく見えなかった。休んでいる馬のたてがみを撫でてあげながら、仲間の会話にレシーアは注意を向ける。
天候は悪く、曇り空であった。それでも雨が降らなかったのはレシーアのおかげである。魔法で予報をした上で天候を操作したのだ。そうでなければ今頃大雨のはずだ。
レシーアは荷馬車で向かっている途中で保存食が足りないのに気がつく。鶏のお礼にと余裕があったデュカスが保存食を無料で譲る。
先行した玄間とリンカによって麓の集落跡に誰も住んでいない事が確認されていた。洞窟の周囲にも人や危険動物がいない事も確認されてある。
時間の半端さから今日のところは洞窟周囲の地形調査や、野営の用意に費やされることが決まった。夜になれば平地よりも厳しい寒さになる事は想像にかたくない。
「う‥おもっ‥」
ミシェルの荷物を預かったレシーアはよろめく。少しは馬車に置いていった方がよさそうである。
「ちょっといってきますね」
ミシェルはシフールらしく大空に舞い上がる。そして上空から洞窟がある山腹を眺めた。
洞窟は天然のものに人が手を入れたもののようだ。地図の通り、出入り口が一個所とは限らないし、経年の果てに陥没して途中が潰れていてもおかしくはない。
ミシェルは三個所の陥没を見つける。それが重要な洞窟内通路部分だったのか、それともただの枝道が陥没したものなのかは上空からはわからなかった。
夜になり、一行はたき火を囲んだ。やはり低い山とはいえ、とても寒さが堪える。
「私みたいな小動物は冷気に弱いのよ‥」
ミシェルが防寒服を着込んだレシーアの胸元から顔を出す。ファー・マフラー一つではちょっときつい寒さのようだ。
「大丈夫かい? 冬霞」
「旦那様、お気になさらず」
デュカスが自分のマントの中に冬霞を入れる。
「黒曜はとっても美人さんと一緒で羨ましいのだ。久々に一緒に御仕事がんばろうなのだぁ〜」
玄間は愛犬二匹。リンカも愛犬とくっついて寒さをしのいでいた。リンカのペットである犬の黒曜の元飼い主は玄間である。
「ガルイもこっち来なさいよ〜。お金とらないからさぁ〜♪」
一人だけのガルイはレシーアにからかわれ気味に呼ばれるが断った。すけべ心より体裁を保つ方が勝ったようだ。
落ち枝や枯れ木は普段より多めに用意していた。たき火は普段より大きめの炎にしておく。
日中に知った情報を伝え合うと、早くに就寝する一行であった。
●洞窟探検
四日目の朝早くに一行は洞窟に足を踏み入れた。荷馬車を牽く馬達は玄間の愛犬二匹に任される。
不慮の事態を想定して、たいまつかランタンの灯りを二つ以上用意して洞窟を照らしながら進む。
全員の歩速が同じになるようにデュカスとガルイも荷物を分担して担いだ。デュカスが用意してきたたいまつは重いので、もっていける数に上限があった。
玄間がランタンを掲げながら先頭を歩く。真横にはリンカから借りた犬の黒曜がいる。頭の上にはミシェルが飛んでいた。
殿はリンカが受け持った。装備には玄間が作ってくれた簡易縄縹がある。そして糸を入り口近くの木に結わえて転がす。出入り口をわかりやすくする為だ。その他に仲間と示し合わせた記号を洞窟内の壁に刻んでゆく。分岐がある場合は必ず。
「停まれなのだぁ〜」
先頭の玄間が立ち止まり、仲間も倣う。
洞窟の途中に下へと続く深い穴があった。シフールのミシェル以外に飛び越えるのは無理な様子だ。
「ちょっと見てきてくれるかねぇ〜」
レシーアがライトの光球を作って穴に落とす。光球の明かりを頼りにミシェルが穴底を探るが特に何もない。穴は無視して奥に進む事が決まった。
玄間が用意してきた糸をミシェルが持ち、穴の向こう側にある太い木の根に引っ掛けて仲間の元へ持ってくる。糸にロープを繋げて全員で引っ張り、穴の上にロープを張った。
洞窟内は何カ所も分岐があり、翻訳した地図と照らし合わせながら探ってゆく。
「これは‥‥」
地図を持つデュカスが呟く。
天井が崩れて塞がれている個所があった。地図には崩れたすぐ先に財宝が眠る小部屋があると記されていた。
「私が見て参ります」
覚悟を決めた冬霞がほとんどの荷物をデュカスに預けると、アースダイブを使って崩れた土や岩を泳ぐように通り抜けてゆく。すぐに冬霞は戻ってきた。
「ランタンで照らして確認しましたが、小部屋には何もありませんでした。ダミーか、もしくはすでに宝は持ち去られたか、どちらかだと思います」
「そうか。冬霞、ありがとう。残る在処とされる場所は二個所か」
冬霞はデュカスの言葉で安心する。初めての事で内心はうまくやれるか緊張していた冬霞であった。
一行は分岐点まで引き返し、他の道筋を進む。一時間程歩いて休憩をとる。
「さっきの小部屋は何語で表現されていたのさ?」
「ゲルマン語ですね」
レシーアの質問にデュカスが答える。
「いろんな言葉で書かれている事自体にも意味があるんじゃないのかねぇ? ゲルマン語は全て惑わす為の嘘とかさぁ〜」
「この地で一番使われるゲルマン語の部分だけで地図を読み解くと‥‥塞がっていた先の小部屋のみが宝の在処となる。だが、実際には宝はなかった‥‥。その説が正しいとすると‥‥ラテン語で書かれた洞窟最深部が怪しいな」
デュカスが岩に座りながら地図をじっと見つめた。
「もう一個所の在処は何で書かれているのだぁ?」
「イギリス語ですね。ジャパンとノルマンは月道で繋がっていますが、地理的にいえばイギリス語の方がノルマンにはなじみ深い。かといってラテン語もジーザス教に関連する方々ならよく知る言葉。この説には無理があるような」
玄間の質問に答えながら、デュカスが悩んだ。
「そんなことありませんわ。三個所とも嘘かも知れないしね。シフール共通語ではないのは確かですけど」
ミシェルの考えをヒントにして全員でもう一度、元の地図と翻訳した地図を見比べる。
よく見るとジャパン語の文章の中に羽根のようなマークが描かれていた。羽根がシフールを意味するならば、このマークがある文章だけは特別なのではと全員の考えが至る。
ミシェルの説明によれば、シフール共通語は読み書きする言葉ではない。口語のみの言語だ。たくさんの言語の中にシフールを暗喩するマークを記すなんて、皮肉好きが地図を作ったのだろうかとデュカスは考える。
「マークのある文章だけを読みますと、洞窟の一個所を示していますね」
冬霞が地図のある場所を指さした。
目星がついた一行であったが、途中で向かうの止めて野営の準備を始めた。照明の消費を考えると、すでに日暮れの時間になっていた。
洞窟内は寒い。デュカスとガルイが持ってきたたいまつの何本かでたき火をする。そして男と女に分かれて身を寄せ合ってテントの中で眠るのであった。
●財宝
「いや〜、ごめんごめん」
「気をつけろよ。怪我でもしたら大変だからな」
転びかけたレシーアがガルイの肩に掴まって照れながら謝る。
五日目の朝だと思われる時間に一行は探検を再開した。
レシーアが転びかけたのは罠に注意する為に前方以外を注視していた為だ。財宝を埋めたのは盗賊である。罠があるのが普通だ。
時折、レシーアはリヴィールマジックを使った。魔法を使って何らかの仕掛けをしている場合も考えられる。
昼前には羽根のマークが示す場所に一行は到着していたが、何も発見できない。天井まで10メートル程ありそうな広い洞窟空間であった。
「ちょっと見てきますね」
ミシェルは洞窟の天井に穴を見つけて上昇する。手にはレシーアがライトで作った光球を抱えていた。明るすぎるので布を被せてある。
光球が持つ時間は六分。急がないと真っ暗闇の中でひとりぼっちだ。視力が飛び抜けてよいミシェルであっても、真の闇とあっては何も見えなくなってしまう。
「皆様、ありましたわ!」
戻ってきたミシェルは拾ってきた一枚の金貨を仲間に見せた。
「ここが怪しいのだぁ〜!」
玄間はただの土壁を叩いた。黒曜も土壁に向かって吠える。
自然のままに見える洞窟の横壁だが、玄間によれば人の手が加わっているという。トラップ作りが上手な玄間だからこそ分かった細工であった。
「今度はあたいが行こう」
リンカが冬霞から借りたアースダイブのスクロールで壁の向こう側を確認してくる。ミシェルが発見した部屋は土壁の向こう側にあった。
「ここからは体力勝負だな」
ガルイがスコップを二つを取りだして、さっそく穴掘りに取りかかる。疲れると交代をして、二時間後には財宝が眠る小部屋が現れた。
たいまつの灯りが金や銀、宝石に反射する。
その輝きに一行は喜び合うとさっそく運びだした。
最低限必要なたいまつと食料を残し、デュカスとガルイは財宝を担いだ。
金製品が多く、見かけは大した事はなかったがとにかく重い。帰りの時間を考えると往復は無理である。価値のありそうな物だけを選んで持ち帰る事となる。
洞窟の帰りは行きと違って迷う事はなかったので、それほど時間はかからない。
洞窟を出た一行を真っ先に夕日が出迎える。
「帰っていたのだぁ〜」
玄間の愛犬二頭が喜びに吠えた。荷馬車の馬達も何事もなかった。
●パリへ
六日目の朝、荷馬車に乗って洞窟を後にした。
天候は崩れていたがレシーアが変化させて抑えてくれる。ただでさえ寒いのに荷馬車で雨に降られたら大変である。
レシーアは特に冬霞の事を心配していた。最近は調子がいいようだが油断大敵だ。
「デュカス、そりゃ、いくらなんでもよぉ‥‥」
七日目の夕方にパリへ到着して財宝を分ける段になる。
「いいんです。ほとんどを持っていって下さい。最初からそうしようと考えていたのですから。それに少しだけはもらいますし。あ、この指輪が入っている箱はもらえませんか? 冒険者のみなさんに差し上げたいので」
「そんなんで本当にいいのかよ‥‥。あのよ。俺は‥‥」
ガルイがデュカスに背中を向けて天を見上げた。
「エテルネル村は、私達は様々な人に助けられていますから。どうぞ孤児院に使ってください」
冬霞もガルイに声をかける。
「すまねえ‥‥」
ガルイは今回手伝ってくれた全員に一人ずつ深々と礼をいった。
デュカスの手から冒険者達には通常の報酬の他に指輪が渡された。
「リンカさんは同じものを一つ持っているようですが、受け取って下さい。もらった財宝は換金してエテルネル村での聖夜祭や、新年の祝いに使おうかと考えています。みなさんありがとうございました」
デュカスも冒険者達に深く頭を下げるのだった。