箱の持ち主は誰? ちびブラ団

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 57 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月27日〜12月03日

リプレイ公開日:2007年12月04日

●オープニング

「よいしょ」
「こらしょ」
「えんこらや」
「どっこいしょ」
 パリの空の下、声をあげるはちびっ子ブランシュ騎士団。略してちびブラ団の四人は空き地で穴を掘っていた。
 掘る理由はないに等しい。そろそろちび猫とはいえなくなってきたメルシアが激しくこの場所で鳴き続けたのだ。あまりに鳴くのを止めないので、仕方なく掘り始めたのである。
「ふう〜」
 家から持ってきたスコップを杖にして、ちびブラ団の藍分隊長こと少年クヌットが額の汗を手の甲で拭う。
「何にもでてこないね」
 橙分隊長こと少女コリルが膝を抱えて穴を覗き込む。
「なんでメルシアは鳴いたのかな」
 黒分隊長こと少年ベリムートが掘るのを止めようとした時、カチンと音が鳴る。
「何かあるよ」
 灰分隊長こと少年アウストは穴の底から小さな箱を取りだした。箱に近づいたメルシアはヒゲをと尻尾を立ててニャ〜ンと鳴く。
 ちびブラ団は急いで穴を埋めると、セーヌの畔にいって箱を洗う。
「何かデビルっぽいものが彫ってあるね」
「コウモリみたいな翼がついてる。他の模様もおどろおどろしいね」
「悪魔崇拝のなんかの品物か? 前にも似たようなの見たぞ」
「一概にはいえないよ。例えば建物に飾られるガーゴイルの石像なんかは魔除けの意味があるしさ。ジャパンでもそういう考えの物とかあるらしいよ」
 ちびブラ団の面々は箱を前に悩んだ。
「中には何か入っているのかな?」
 無理に開けようとしてもびくともしない。鍵がないので意味はないが、鍵穴の中には泥が詰まっていた。
「あ、これ名前じゃないかな。えと‥‥、『ブリクオス・ド・ロステーニ』ってあるよ。貴族の人かな?」
「その人が持ち主だな」
「探す?」
「探そうか」
 ちびブラ団は持ち主を探して箱を返す事に決めた。
「ギルドにいこ〜」
 ちびブラ団は駆けだす。
 今まではいろいろと冒険者ギルドでの依頼に苦労していたちびブラ団であったが、今回からは心強い味方がいた。今はパリにいないが、ちびブラ団と仲がよいシスターアウラシアである。
 この前、本物のブランシュ騎士団を助ける依頼を三件も出してくれたのが、アウラシアであった。
 三件の依頼は無事に済み、依頼した金額以上の報償金を黒分隊からアウラシアはもらう。その一部をちびブラ団に活動資金としてくれたのである。
 絶対に買い食いその他、私利私欲には使わない。正義の為に使うと約束をしたちびブラ団であった。お金の管理はアウストの受け持ちである。
 ちびブラ団は冒険者ギルドを訪れると戸惑う。今までは大抵、大人と一緒に依頼を出していたからだ。どの受付の人も恐そうに感じる。
「あ、あの人なら平気そうだよ〜」
 コリルが、受付の片隅でほわわ〜んと笑顔の受付嬢を指さす。
「なんでしょう〜?」
 ちびブラ団はシーナという受付嬢のカウンター前に座って依頼を出した。
 箱の正体を見極め、もし持ち主がいるなら返してあげたいという依頼であった。ちびブラ団達もこれが正義に繋がるのかは疑問である。
 それでも、もしかして大切なもので長い間、持ち主が探しているのかも知れないと考えた。悪事に繋がるものであったのなら、もっと大変だ。
「確かに受け付けましたです〜☆」
「シーナお姉ちゃんよろしくね〜」
 シーナに手を振ってちびブラ団は冒険者ギルドを後にするのだった。

●今回の参加者

 ea7372 ナオミ・ファラーノ(33歳・♀・ウィザード・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2390 カラット・カーバンクル(26歳・♀・陰陽師・人間・ノルマン王国)
 ec4151 レシフェ・ヘヴン(16歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

アニエス・グラン・クリュ(eb2949

●リプレイ本文

●箱
 一日目、冒険者ギルドの一室。暖かい室内でまずは相談が始まった。
 ちびブラ団の四人と冒険者四人、一日応援の冒険者一人がテーブルを囲む。残念ながら一人の冒険者は都合で来られないようだ。
「これだよ〜」
 少女コリルが手を伸ばしてテーブルの中央に問題の箱を置く。
 ナオミ・ファラーノ(ea7372)が箱を手にとってよくよく眺めた。
 主な材質は銀。宝玉ではなく、色つきの陶器が所々に填められている。振ってみると大きな音がした。重さから考えても、中身の品はそれなりの重さの物が入ってる。
 子供達のいう通り、蓋に刻まれたレリーフはデビルを表現していた。残念ながら悪魔学概論をアニエスから借りた壬護蒼樹(ea8341)にも具体的なデビルの名前はわからなかった。
「それなりの品ではありそうね」
 ナオミは他の職人が作ったものに関して興味が薄い。刻まれている大きさからいっても『ブリクオス・ド・ロステーニ』は、職人ではなく注文した持ち主の名のようだ。
「ここ掘れにゃんにゃんで変な箱ですか〜。不思議ですね〜」
 ナオミから箱を受け取ったエーディット・ブラウン(eb1460)は、持ち上げて底を眺めたり、蓋と本体の隙間から中が見えないか片目を細めてみる。ぴっちりとしまった蓋に隙間はなくお手上げだ。
「埋めた物という事は、隠しておきたかったのでしょうか〜。とにかく見つけたメルシアは凄いですね〜」
 エーディットは箱をテーブルに置くと、ペットのノルマンゾウガメの上で丸くなって眠る猫メルシアを撫でてあげた。薄目を開けたメルシアがニャ〜ンと鳴く。
「彫刻は素人の僕が見てもうまいですね。職人の仕事だろうな」
 今度は壬護が箱を手にとった。レリーフを木炭などで写そうとしたが羊皮紙が厚くてうまくいかない。後で箱を借りようと考える壬護であった。
 ついでに壬護は近所で拾ってきた野良猫を箱を近づけてみるが、特に反応はない。すぐに窓から逃がしてやった。
「さすがにバーストアタックで壊す訳にはいきませんね」
 壬護は箱をカラット・カーバンクル(eb2390)に渡した。
「それではしばらく預からせてもらいます。職人さんの作ったムズカシイかぎだとお手上げかもです〜」
 カラットは乾いた声で笑うが、気合いを入れる為にスクロールのフレイムエリベイションを使った。まずはとても根気と時間が必要なかぎ穴の泥掃除である。
 ちびブラ団の四人がカラットの周囲に集まり、作業をじっと観察する。視線がこそばゆくなったカラットは深呼吸をした。
「これ、盗品だった扱いに困って埋めたとかですかね。見つけたメルっちなら、なにか知っているかもしれませんな‥‥。どうなの?」
 カラットはメルシアに訊ねるが、当然猫なので『ニャー』と答えるだけだ。
「私がオーラテレパスで聞いてみます」
 カラットの代わりに魔法で訊ねたアニエスの表情が青くなる。
「どうしたの? アニエスちゃん」」
「‥‥血の臭いが、この箱が埋まっていた土からしていたとメルシアはいっています」
 アウストに答えたアニエスの言葉に、部屋にいた全員の表情が強ばった。猫の嗅覚は犬ほどではないにしろ人間よりもはるかに利く。猫のメルシアだけが気がついても不思議ではない。
 アニエスは念の為、箱の中にもオーラテレパスを使ってみたが、反応はなかった。

●調査
 ギルドの個室で箱開けに従事するカラットをアウストが手伝う事となる。
 ナオミにはベリムート。
 壬護にはコリル。
 エーディットにはクヌット。
 冒険者一人にちびブラ団一人が付き添って調査は開始された。

「が〜ごいるの話を聞いて、箱のレリーフもてっきり鬼瓦のようなものだと思ったのになぁ‥‥」
「そんな大変なものだなんてしらなかったよ〜。あっ、こっちだよ。空き地」
 壬護はコリルを肩車しながら空き地へと向かった。猫メルシアも一緒である。
「ここですか‥‥」
 壬護はコリルとメルシアを降ろして、窪んだ穴のあった場所を眺めた。
「そういえば、元々もこんな感じだったよ〜。平らじゃなかったよ」
「そうだとすると、箱を埋めたのはそんなに昔じゃないですね。穴を掘って全部の土を戻したとしても、どうしてもこうなるもんです」
 壬護はコリルと話しながら、メルシアを観察した。窪んだ場所だけをメルシアがうろついている。血の臭いがした場所は穴掘った場所だけのようだ。
 空き地は特に貧しくもなく裕福でもない者達が住む場所にある。当初壬護はちびブラ団のような子供達が箱を埋めた物と考えていたが、怪しい品だと決めつけて調査する事にした。
 近くで事件などがなかったか、コリルと一緒に調べる壬護であった。

「そう、ありがとうね。行こうか、ベリムート君」
 ナオミはまず『ブリクオス・ド・ロステーニ』の名を冒険者ギルドの職員に訊ねてみる。高名な貴族ならばすぐにわかると考えて。
 ギルド職員の答えからして、少なくとも領地を賜っている貴族の当主レベルではないらしい。ロステーニ家という騎士の家系はあるらしいが、詳しい資料まではなかった。
 ノルマン王国では七月の預言の際に貴族の一部が王宮に反旗を翻した事実がある。その時の混乱が影響しているのだろう。
「誰かの創作用の名前かしら? 貴族風の名前をつけただけの‥‥ああ、ややこしい」
「そうだな。そういうのもありそうだね」
 ナオミとベリムートはギルドを出て街を歩き回る。箱が開けば他に調べようもあるのだろうが、今は名前だけが手がかりといってよい。
「いっそ歌ってもらおうかしら‥‥。掘り起こされた箱の歌を」
 街角で唄っている吟遊詩人を見つけてナオミは呟いた。声をかけようとした時、はたと思いだす。血が染み込んだ地面から箱が出てきたのなら慎重に調べなくてはならない。何かしらの犯罪に絡んでいたら大変だ。
「歌を頼まれてくれるかしら?」
 ナオミはチップを吟遊詩人に握らせて、ある内容を含んだ歌を唄ってもらうように頼んだ。掘り起こされた箱についての歌である。
 また明日来るといってナオミとベリムートは立ち去る。離れた場所で唄うもう一人の吟遊詩人にも同じように頼むナオミであった。

●箱の中身
「さて、追い込みガンバ!」
「カラットさん、がんばってね〜」
 三日目の昼、ギルドの個室では全ての準備が整っていた。
 アウストがカラットにカップを渡す。ギルド員に頼んでよろず開きの根を煎じてもらった飲み物だ。
 カラットは一気に飲み干すと、フレイムエリベイションをかけて道具を使い鍵穴をいじる。
 約二十分後、鍵から微かな金属音がする。カラットは慎重に蓋を開けた。中には鉄の棒と細長い羊皮紙が一枚入っていた。
 どちらも変哲もないものだ。カラットは念のためミラーオブトルースやリヴィールポテンシャルのスクロールで調べたが、何の反応もなかった。
「でも気にかかるのよね」
 カラットは鉄の棒と羊皮紙をじっと見つめる。よく見ると鉄の棒には円柱の表面に斜めの線が彫ってある。
「あ、お日様に聞いてみましょうか」
 箱を窓の近くまで運び、金貨を取りだして箱の元の持ち主を訊ねた。曖昧ながら『いない』という答えが返ってくる。
 仲間も集まって鉄の棒と細長い棒を眺めるが、答えは出ない。
「箱をお借りしますね〜。職人さん達に聞いて回れば、作った人や工房がわかると思うのですよ〜」
 エーディットが仲間に許可をとった。壬護もそのつもりだったので、エーディットと一緒に出かける事にした。
 ナオミは吟遊詩人が情報を仕入れていないか、ベリムートと確認に行くつもりだ。
 カラットはアウストと猫メルシアを連れてお散歩がてらに調査に向かう。古い物を扱う店とかに目星をつけていたが、聞き込みは苦手なのでアウストに任せるつもりのカラットであった。

「そうなのですか。ありがとうございました〜」
 エーディットは工房から出て、外で待っていた仲間の元に駆け寄る。カメと並んでいるコリルとクヌット。そして壬護だ。
「どうもこういう品はよくわからないそうなのですよ〜。高級品でもなく、かといって普及品でもない。オーダーメイドだけどお金をかけていない中途半端な品物みたいなんですね〜」
 仲間と歩きながらエーディットは説明した。すでに何カ所か職人を回っていたが、これといった情報は得られていない。箱に刻まれた名前についても同じであった。
「箱や中身、名前など全部ひっくるめて図書館に調べにいきましょうか?」
 壬護の一言で次の目的地が決まる。
 図書館に到着すると、全員で手分けして調べる。コリルとクヌットも、ある程度は読み書き出来るのでちゃんと役に立つ。
 壬護はアニエスから借りたノルマン紋章目録を手がかりにして、さらに図書館の本でブリクオスを調べる。
 エーディットは箱が中途半端な品物という観点から調べてゆく。貴族が所有するのではなく、事務的な行為で誰かに物を送るのなら、こういう箱を使うのではないかと想像したのだ。調査の最中、職人の何人かも似たような感想を呟いていた。
「見つかりましたよ。これです」
 壬護は重い本を軽々と抱えて、エーディットに近寄る。
 ブリクオス・ド・ロステーニは確かに貴族であった。地方領主に仕える騎士の家系である。年齢は生年月日から計算すると現在三十二歳。
「さすが壬護さんです〜。だから男の恋‥‥モグモグッ」
 エーディットの口を壬護が大きな手で塞ぐ。コリルとクヌットが不思議そうに見つめる。どうやら壬護にはちびブラ団には知られたくない秘密があるらしい。
「お帰りなさい。いくら子供は風の子といっても、寒かったですよね。体のあったまる飲み物とかを用意してありますぜ」
 四人とカメがギルドの個室に戻ると、カラットがお茶の用意をして待っていた。ついさっきクヌットの母親が来てハーブティーを差し入れてくれたのだ。
 すぐにナオミとベリムートも戻ってくる。お茶を飲みながらの情報交換が始まった。
 日が暮れる時間となり、冒険者達はちびブラ団の四人を家まで送り届ける。
 冒険者達の脳裏にはなんとなくではあるが、全体像が浮かび始めていた。
 しかし、箱の中に入っていた鉄の棒と細長い羊皮紙についてはまだであった。

●中身の正体
 四日目、ギルドの一室で鉄の棒と細長い羊皮紙とにらめっこしていたカラットは突然立ち上がる。
「ずっ〜と気になっていたケド、わかりました!」
 カラットの叫びに、うたた寝寸前のアウストがびっくりして椅子から飛び起きた。
 仲間が全員戻ったところで、カラットによる説明が始まる。あくまで推測であるが、このただの棒と紙は暗号に使うものではないかと。
 棒に刻まれている斜めに沿って紙を巻き、そこに文字や絵を描く。そして紙をほどけば何が描いてあるのかよくわからない。この棒と紙は実際に使うものではなく、あくまで原器なのだろう。これを見本にして同じ太さの棒や大きさの紙を用意するつもりだったのに違いない。
 鍵という物理的な暗号を得意とするカラットならではの発想であった。
「箱ではなく、中身を探している者がいるみたいだわ」
 ナオミは吟遊詩人から情報を得ていた。
 箱について吟遊詩人に訊ねた者達がいたようだが、中身がからっぽだと聞くとすぐに立ち去ったのだという。もしもの時はからっぽと答えておくれと、ナオミが吟遊詩人に頼んでおいたのだ。
「七月の預言の終焉直後のことだったらしいのですが――」
 壬護は空き地の周辺で起きた出来事を仲間に話す。現在は安全だが、あの時のパリは危険に満ちていた。当時、怪しい集団が何かを探していたのを近所の一人が覚えていた。
「『ブリクオス・ド・ロステーニ』の事をさらに深く調べてみたのですよ〜」
 エーディットはすでに箱の名前の人物は亡くなっている事を突き止めた。騎士である彼は七月の預言での反乱に加担し、その時に戦死したのだという。
「反乱の騎士の持ち物だった暗号に使う品‥‥。しかるべき所に提出した方がよさそうだね」
 ナオミの意見に全員が賛成する。一行は個室を出てギルドの職員に事情を話した。どうやら反乱組織の暗号原器を発見したと。
 ギルドの職員は手配を約束してくれた。

●解決
「ありがとう。とっても助かった」
 五日目、冒険者ギルド。
 冒険者達とちびブラ団が集まる個室を、ブランシュ騎士団黒分隊エフォール副長が訪れる。
「残念ながら、あの戦いで敵となった組織がまだ残っている可能性がある。これまでの押収品の中にも、今回の棒と紙で解読出来るものもあるかも知れない」
 エフォール副長は冒険者達にブラッドリングを進呈した。
「この子達の手柄ですから〜♪」
 エーディットは屈むと、ちびブラ団四人の背中を軽く押してあげる。
「これからも何かあったら知らせておくれ。この前の隊長の事は感謝しているが‥‥出来るだけ危険な目に会う前にな」
 エフォール副長は両手に持ちきれない程のたくさんのお菓子詰め合わせをちびブラ団に渡した。
 馬で王宮に帰るエフォール副長を見送ると、冒険者達はギルドに報告をする。そしてちびブラ団の四人を順に家まで送ってあげて今回の依頼は終了となった。