シーナの誕生日〜シーナとゾフィー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月30日〜12月05日

リプレイ公開日:2007年12月08日

●オープニング

「もうすぐか‥‥」
 冒険者ギルド勤務の休憩時間。受付のゾフィー嬢はギルドの奥で考えていた。
 今日は仲のいい後輩のシーナ嬢の休日である。そして考えていた事もシーナについてである。
「なんだかんだといって、シーナには世話になっているのよね。もうすぐ誕生日だし、何かしてあげたいのだけど‥‥」
 ゾフィーは一人でシュクレ堂の焼き菓子を摘む。
 シーナの誕生日は12月3日。つまりもうすぐである。
 シーナといえば肉料理好きだ。どこかのレストランで奢ってあげれば、それだけで済むといえば済む。かといって、あまりにもひねりがない。
 シーナのおかげで恋人のレウリーともうまくいっているし、出逢いの場でも用意してあげようとも考えた。だが、シーナは色気より食い気に走る気がして仕方がない。
「やっぱり、お肉がいいのかしら‥‥」
 ゾフィーはため息をつく。
 とにかく祝う事は決めたので、当日のレストランジョワーズ・パリ支店の個室は予約してある。
「シーナとつき合いのある冒険者もいる事だし。盛り上げるのがうまい冒険者もいるし‥‥」
 ゾフィーは簡単な依頼を出すことにした。自分の家とシーナの家の、年末掃除お手伝い募集である。
 これなら後で実はシーナの誕生日を祝う為の募集だといっても大丈夫だろうと。
 どうせならシーナには内緒にして驚かせた方が楽しい。買い物につき合うようにと誕生日についてはシーナの予定を空けさせておけばいい。
 さっそくゾフィーは自ら依頼を出した。
 表向きは年末掃除の手伝いだが、実はシーナの誕生日を祝ってもらうつもりだ。掲示板の隅っこに貼り付けると、ゾフィーは仕事に戻るのであった。

●今回の参加者

 ea2113 セシル・ディフィール(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb7706 リア・エンデ(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)
 ec2472 ジュエル・ランド(16歳・♀・バード・シフール・フランク王国)

●サポート参加者

エイジ・シドリ(eb1875

●リプレイ本文

●内緒
「それではみなさんよろしくなのです〜」
 冒険者ギルドの受付嬢シーナ・クロウルが、手を振りながら元気よく自宅を出かけていった。家に残るは掃除の依頼を受けた冒険者達と依頼を出したゾフィー嬢である。
「年末のお掃除大変なのです〜、でもでも綺麗な家で年越しするのは気持ちがいいのですよ〜」
「あの、最初にお話があるの。リアさんも集まってもらえるかしら?」
 ゾフィーは箒を持って掃除を始めようとしたリア・エンデ(eb7706)に声をかけた。他の冒険者にも同じく集まってもらう。
「実はね――」
 ゾフィーは冒険者達に掃除とは別の相談を始めた。
 3日後の12月3日はシーナの誕生日である。真に頼みたいのは掃除ではなく、シーナの誕生日を祝いだとゾフィーは告白する。
「シーナさん、誕生日なのですか?」
 エフェリア・シドリ(ec1862)は何度か続けて瞬きをした。兄のエイジとかなり誕生日が近い。その兄はもう少ししたら掃除の仕方を教えに来る予定である。
「お祝いはええことやわ。ウチは何しようかな?」
 シフールのジュエル・ランド(ec2472)は家具の上に座り、右の人差し指を口の端に当てて考え始める。
「今回の掃除はそういう理由だったのですね♪ ゾフィーさん、お声がけ感謝いたしますね♪」
 鳳双樹(eb8121)はシーナの誕生日と聞いて真っ先にあるものを思い浮かべた。
「それは私にとっても願ってもないことです。シーナさんに喜んで頂く為に。シーナさんを喜ばせたいゾフィーさんの為にも頑張りますね」
 セシル・ディフィール(ea2113)はイリュージョンのスクロールを持っていた。これをキッカケにして何か出来ないかを模索する。
「もうすぐシーナ様の誕生日だったですか〜。それは大変です〜、みんなでお祝いするのです〜♪」
 リアは笑顔で軽く跳びはねてガッツポーズ。フェアリーのファル君もリアの頭の上で跳びはねた。雪玉の雪ちゃんがリアの周囲をぐるぐると回る。
「掃除はシーナの家の埃を払って、ちょっと整理するぐらいでいいわ。わたしの家は普段から掃除しているので、無視していいし。誕生日当日はジョワーズ・パリ支店の予約をとってあるの。飾り付けの費用や食べ物に関する代金はわたしが出すので心配しないでね。誕生日のこと、よろしくお願いしますね」
 ゾフィーは午後からの出勤に備えて自宅に戻ってゆく。
 まずはシーナの家を掃除しながら、具体的にどうするかを考える冒険者達であった。

●掃除と相談
「やっぱり、あれしかありませんね‥‥」
 双樹は雑巾で棚を拭きながら呟いた。
 プレゼントは用意するとしても、その他にもう一つ必要だ。シーナと仲良くなったきっかけである、お肉がなければ始まらない。
 あまりに早く手に入れても肉が傷んでしまう。
 今回の調理はジョワーズの料理人に任せるとして、誕生日前日の夕方頃にお肉を買い付けに集落へ出かけるつもりの双樹であった。
 前日の夜に頼めば、翌日の昼前には受け取る事ができるだろう。行きと同じくベゾムでひとっ飛びすれば、パリから歩いて一日程度の距離なのですぐに戻ってこれる。誕生日パーティは夕方からなので、充分に間に合うはずだ。
「エフェリアさん、明日はゾフィーさんを誘って一緒に買い出しに行きましょうね」
 双樹はエイジに掃除の仕方を教わるエフェリアに一声かけた。
「はい。鳳さんたちと行きます。プレゼントも買いたいです」
 エフェリアは双樹に呟いた後、エイジのいう通りに箒で床を掃く。
「ジョワーズの個室を飾り付けなくてはいけませんです〜」
 掃除を張り切りながら、リアはどんなもので飾り付けるかを考えた。綺麗な布を使っていろいろと作るのが良さそうだとアイデアが固まりだした時、思いだした物がある。
「双樹ちゃんとエフェリアちゃんもシルバーリースを持っていくのです?」
 リアの質問に二人とも頷く。
「えとえと、私も持っていくのです〜。綺麗に飾り付けるのですよ〜」
 リアの話を聞いていたジュエルが話題に入ってきた。
「掃除と同じように高いところはウチに任せておいてや。見事に飾り付けてみせるやさかい」
「よろしくです〜♪」
 冒険者仲間がジュエルにお願いをする。
「それと、さっき鳳さんがペットをどうとかいっとったけど、どないにするん?」
 ジュエルが触れたのはペット達による劇の事だ。絆の強いペットが多く、テレパシーやオーラテレパスが使える者もいるので、双樹を中心にして計画が立てられていた。
「フェアリーのキララはいいとしても、猫の空にはオーラテレパスで根気よく教えないといけませんね」
「ファル君と雪ちゃんにもご挨拶してもらうのですよ〜」
「鷹のイグニィなら良い子にしてくれると思うし‥‥雪玉は‥‥、リアさんの雪ちゃんと一緒に転がってもらおうかしら?」
「スーさんも頑張ってくれるはずです。良いエサをあげます」
「いくら個室とはいえ、馬二頭をレストランに入れるのは気がひけるわ。ウチは演奏でがんばることにするわ」
 冒険者達は相談しながら夕方にはシーナ家の掃除を終えるのであった。

●準備
 二日目、双樹とエフェリアはゾフィーと一緒に買い物に出かけた。
「シーナの好きな花? 花、花ねぇ〜」
 双樹に質問されたゾフィーは腕を組んで考える。考えに考え抜いたゾフィーであったが、残念ながら何も思いだせないようだ。
 双樹とエフェリアは、シーナへのプレゼントと飾り付けの材料を買い求める。ゾフィーの家に戻ると、リアとセシルによってペット達に挨拶が教えられていた。
 ジョワーズにいろいろと頼みに行っていたジュエルも戻り、ペット達の挨拶練習が本格的に始まった。
 吟遊詩人が三人もいることもあり、音楽や歌には事欠かない。
 厳しく練習させるのもなんなので、失敗も愛嬌としてペットの練習は続けられた。

 三日目になって、双樹はベゾムで集落へ肉を買いに出かける。
 明日はシーナの誕生日。
 他の冒険者達はゾフィーの家で飾り付けの前準備をする。明日の誕生日当日一日はジョワーズの個室は貸し切りである。朝から準備を整えれば、夕方には飾り付けは間に合う。道具や材料と格闘しながら、ちゃくちゃくと準備は進んでいった。

●誕生日
 四日目にあたる12月3日。
 夕方、シーナはゾフィーと一緒に石畳の道を歩いていた。
「ゾフィー先輩、たくさん買いましたね〜」
「そうお? シーナはあまり買わなかったわね」
「先輩が買い物終わったら、食事、奢ってくれるっていってたから待っていたのですよ〜☆」
「あいかわらずね。シーナは」
 二人はレストランジョワーズ・パリ支店へと入る。
「あれ? 先輩、どこいくんです?」
 テーブルを通り過ぎるゾフィーにシーナが声をかける。
「今日は奥よ。ついて来て」
 先に進むゾフィーの後をシーナは急いで追いかける。
「わたし、給仕を呼んでくるから、先に入ってて」
 ゾフィーがドアの前で一旦立ち止まると、シーナを残して廊下を戻っていった。
 シーナはドアをそっと開けると薔薇の香りがする。
 室内は暗かったが、小さく灯るものが一つだけある。蝋燭が一本、テーブルに立っていた。
「なんだろ‥‥」
 シーナが足を踏み入れた瞬間、部屋が明るくなった。
「あ、みんな!」
 冒険者達は手にランタンを持っていた。さっきまでは何かで覆っていたのだろう。天井から釣り下がる鈎にランタンが取り付けられてゆく。
 シーナが振り返ると、いつの間にかゾフィーの姿もある。
 室内は綺麗な布やシルバーリーフで飾り付けがされていた。シーナの事が書かれた垂れ幕もある。
 シーナが来る前までつけられていた暖炉に再び炎がよみがえる。
「シーナさんお誕生日おめでとうー!」
 全員からの祝福の言葉に、シーナはしばらく固まった。そしてだんだんと涙目になってゆく。
「あ、ありがとうなのです〜。みんな知ってたのですね〜」
 うるうるした瞳でシーナは集まる一同の顔を眺める。
「誕生日、楽しんでや」
 ジュエルはシフールの竪琴を取りだして短いアップテンポの曲を演奏する。
「さあ、シーナ様〜、こっちなのですよ〜♪」
 リアがシーナの背中を押してテーブルの席へと誘導した。
「お願いしますー」
 セシルがドアを開けると、ウェイトレスとウェイターが次々と料理を運んでくる。
「サービスするわね♪」
 一人のウェイトレスがエフェリアにウインクしてゆく。
「さあ、シーナさん、カップを持って下さい」
 双樹がシーナのカップにワインを注いだ。
「みなさん、カップは持ちましたね。それでは、改めてシーナの誕生日を祝って、かんぱ〜い!」
 ゾフィーの音頭で食事が始まった。
「今回の料理使われるほとんどのお肉は、あたしが取りにいってきたんですよ。シーナさんとの想い出のお肉です」
「あの集落のお肉ですか〜」
 双樹が用意して調理してもらった特別お肉料理がシーナの前に置かれていた。
「頂きます〜♪」
 シーナが骨付きお肉をがぶりつく。その様子を双樹を始めとする一同が笑顔で見つめた。
「これはウチが特別に頼んで用意してもらった『薄切り肉の湯引き』なんやで。存分に食べてや」
 ジュエルがウェイターが運んできた鍋を指さした。
「グツグツいってるのですね〜」
「こうやって食べるんやで」
 大きめの鍋に真っ赤に焼けた石が入っていた。湯気がもくもくと出ている鍋に、ジュエルがフォークで薄切り肉を泳がせた。
「これでいいわ。口、開けてや」
 小皿に入ったタレに泳がせた肉をつけ、静かに宙を舞ったジュエルはシーナの口に入れてあげる。
「美味しいです☆」
「野菜と一緒にパンに挟んでもいけるんや」
 シーナはさっそく自分で薄切り肉を湯に潜らせる。目を細めながらパクついた。
「シーナ様、これこれ‥‥」
 リアがシーナに椅子ごと近づいた。隠しながら持ってきた焼き菓子をシーナに見せる。
「シュクレ堂の焼き菓子です〜」
「買っておいたのです〜。あとで皆で食べるのですよ〜」
 シーナとリアは同時に頷く。
「はう、エフェリアちゃん凄く可愛いのですよ〜♪」
 リアはエフェリアの姿に気づいてシーナと一緒に眺めた。猫耳付きの魔法使い姿である。
「色が派手なのは少し苦手ですが、劇のためです。楽しみにしてください」
 エフェリアはシーナにペットの劇が始まることを知らせる。
「それでは、シーナさん、一寸した演出にイリュージョンかけますね。宜しいですか?」
「もちろんですよ〜。どうぞなのです」
 セシルはシーナの許可をとってイリュージョンを唱えた。
 シーナの視界に花びらが舞い始める。部屋いっぱいに輝きが広がった。
 リアとジュエルによって演奏が始まる。
 セシルの鷹イグニィが何回か鳴き、チョコチョコと床を一回転して去ってゆく。セシルの説明によれば鷹イグニィは『シーナおめでとう』といったそうだ。
 続いて出てきたのはセシルの雪玉とリアの雪ちゃんの雪雪コンビだ。シーナの身体をごろごろと転がった。リアによればおめでとうと転がっていたらしい。
 そしてリアのフェアリーのファル君の登場である。紋付を着たファル君はジャパン風にお辞儀をしてくれた。シーナがお辞儀で返す。
 続いて出てきたのは双樹のキララが空中でステップを踏みながら現れた。演奏はジュエルの特別曲である。
 踊りが終わるとキララはファル君と一緒に挨拶をして去っていた。
 最後は双樹の空とエフェリアのスーの猫コンビである。お互いの尻尾を追いかけ、右回り左回りと交互に回った。
「すごいのです〜☆」
 シーナは冒険者達のペットに向けて盛大な拍手をする。
「これは私からです。たまにはお洒落も良いですよね。本当に、お誕生日おめでとう御座います」
 ドライフラワーの髪留めを手渡した。
「いい香りがするのですよ〜。ありがとなのです〜」
 シーナはさっそく髪につけてみた。
「これはあたしからです。シーナさん、誕生日おめでとうございます♪」
 双樹から渡されたのは市場で買い求めた材料で作った香水である。
「これもいい香りがするのですよ〜。お肉の友よ。ありがとうです〜」
 シーナは首筋につけてみる。
「私からはこの間手に入れたこれなのです〜」
 リアがシーナに手渡したのは『スネークタング』である。変わった干し肉らしく、何の肉で出来ているのかわからないらしい。
 さっそく食べようとするシーナ。口を開けてかじろうとする間際で、リアは止める。誕生日会が終わってから食べた方がいいと。
「この食器、使って下さい。シーナさん、これからも頑張って下さい」
「ありがとなのです〜。そろそろ食器も新しいのが欲しいと思っていたのです〜」
 古風なデザインの食器をエフェリアはシーナにプレゼントする。さっき描いた絵もプレゼントした。
「これはウチからや。大事につこうてや」
 ジュエルはゾフィーに預けていた筆記用具を受け取り、そしてシーナに渡した。
「羽根ペンとか大分傷んでいたのですよ〜。とっても助かりますです〜」
 シーナは羽根ペンで空中に字を書くマネをしてみせた。
「これはわたしから。おめでとう、シーナ」
 ゾフィーが今日一緒に回ってシーナが欲しがっていた手袋をプレゼントする。シーナの隙をみて買っておいたのだ。
「ありがとなのです〜」
 シーナはあらためて全員に感謝し、両手で握手をする。
 吟遊詩人三人の演奏と歌が始まる。
 食事も追加され、シーナを祝う誕生日の夜はまだまだ続いた。


 最終日に報告を受けた際、ゾフィーは冒険者達へラッキースターを贈る。感謝の言葉を添えて。