生き残りのデュカス

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月16日〜12月20日

リプレイ公開日:2006年12月25日

●オープニング

 空気を切り裂く音が続いていた。星明かりもない闇の世界でデュカスは剣を振る。
「がんばってますな」
 デュカスは動きを止めて、突然灯ったランタンに振り返る。空き地の切り株に置かれたランタンの横にはワンバがいた。
「仕事は終わったの?」
 十四歳の少年デュカスは、十九歳の青年ワンバの元で世話になっていた。デュカスは剣の練習を再開する。汗が飛び散り、体からは蒸気が昇っている。
「いつもの通りでさぁ。それよりその形見の剣が伝説のなんとやらだったら、苦労せずとも仇が討てますのにね」
 ワンバが薄ら笑いを浮かべる。
「そんなのはあるかどうかさえ怪しいよ」
 デュカスは微笑んだ。
「でもデュカスの親父さんは農夫だったのに、そんな剣を持ってたんしょ? 何か裏があるんじゃないっすかね」
「ないない」
「そうですかねー。あ、それと練習。パリなら剣術指南を生業としている者もおるでしょうに。師事したらどうです? 金は気にしなくて結構ですよ」
「師匠と弟子とか性に合わなくてね。でも、このままではどうにもならないのはわかってる」
 デュカスは練習を止めて剣を鞘におさめた。
「‥‥昨日もうなされていましたぜ」
 ワンバの言葉に耳を傾けながらデュカスはランタンを手に取った。
「ごめんね。もっと早く出ていくつもりだったのに」
「いやいや、そういう意味じゃなくて。心配してるんですって。それにおいら達は結構うまくやってるじゃあありませんか」
「感謝してます。少し水を浴びてくる」
「この寒空にですかい?」
 デュカスが水場に向かって歩いていくのを、ワンバは見守った。

 デュカスが戻ると、住まいにワンバの姿はない。いつものように酒場へ呑みにいったのだろう。冷たくなった食事を取り、薄い毛布にくるまって横になった。
 練習の疲労ですぐに寝入ることは出来た。だが夢の中で忘れられないあの日が蘇る。
 十三歳のある日、デュカスは父親にいわれて隣村へ届け物にいった。
 用事はすぐに済み、生まれ育った村へと続く道を馬車でゆっくりと進んでいた。村の見える少し前から地平近くの空が赤く染まっていたのは気がついていた。村全体に広がる火事のせいだとわかった瞬間、デュカスは手綱で馬を叩いた。
 デュカスが村近くまで到着した時はすでに手遅れだった。炎は村全体に広がっていて手がつけられなかった。逃げだして力尽きたのか、村はずれには死体が転がる。
 デュカスは一心に生きている者を探す。村には両親と二歳年下の弟がいたはずだ。探す途中で死体も確認するが、殆どは焼け死んだのではなく、剣で斬りつけられた傷が残っていた。
 声が聞こえて、デュカスは駆け寄る。背中に大怪我をした男、ワンバが木にもたれていた。ワンバは村人ではないものの、周辺の村々を回って注文された物を用意してくる物売りだ。デュカスも村で見かけたことがあった。
 デュカスは隈無く探したが、家族は誰一人として見つからなかった。助けたワンバによれば『コズミ』と名乗る盗賊が村を襲ったらしい。後に領主は動いたものの、結局うやむやで終わってしまう。
 村を襲った火事が収まった後、我が家の跡をデュカスは掘り起こす。家族の骨は見つからない。生きている希望を持てるのと同時に、墓すら満足に作ってやれない虚しさでやりきれなくなる。掘り進めるうちに床下があった場所で穴を発見した。デュカスが今まで知らなかった穴に一振りの剣が隠されていたのだ。
 その後、ワンバが回復するとデュカスは共に行動した。商売を手伝いながら、旅をしてパリに辿り着いたのだった。
 寒い部屋なのに、寝汗をかいたデュカスが悪夢から飛び起きる。あの日から一年が経っていた。

「剣術修行をしたいのです。同じ位の実力の方々と数日間過ごして何か感触を掴みたいのです」
 デュカスは冒険者ギルドを訪れ、受付の女性に相談していた。
「では、剣や刀を扱う冒険者がよろしいのですか?」
「いいえ、そうではなくて、いろいろな武道を知る機会が欲しいのです。ですので魔法を扱う冒険者も紹介して頂けますか?」
 デュカスには実戦の体験がなかった。せいぜいチンピラとの喧嘩ぐらいである。独学ではわからない術も知りたいのだが、今は戦いにおける基本を得たかった。
「わかりました。そのような内容で依頼書を書かせて頂きます」
 デュカスは受付の女性にお礼をいう。
 帰る途中、今は実力をつけなくてはいけない時だとデュカスは心の中で呟く。いつか敵を討つと、亡き両親と弟に強く誓うのだった。

●今回の参加者

 eb6954 ガラハド・ルフェ(42歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb9015 シャルル・イルーダ(28歳・♀・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 eb9317 ジル・ブレイ・ブローズ(31歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb9475 アヴリル・ロシュタイン(31歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb9782 レシーア・アルティアス(28歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

リディア・フィールエッツ(eb5367)/ グラン・ルフェ(eb6596

●リプレイ本文

●始まりの日
「そろそろ向かいましょう」
 ガラハド・ルフェ(eb6954)は冒険者ギルドに集まった仲間に声をかける。それぞれに用意が整ったからだ。
 シャルル・イルーダ(eb9015)はアヴリル・ロシュタイン(eb9475)に頼んで荷物を駿馬に載せてもらった。必要な物を集めていたら重たくて動けなくなってしまったからだ。
 ジル・ブレイ・ブローズ(eb9317)は予め用意する時間がなく、エチゴヤに防寒服一式と保存食を買いに走った。その際、レシーア・アルティアス(eb9782)に内緒の話を耳打ちされる。一日分の食料はなんとかするから三日分でいいよと。

 森に続く郊外の道を冒険者達は進む。道中、デュカスは今までどんな稽古をしてきたかを語っていた。
「強くなりたいという気持ちは私も常に持ち合わせていますが、デュカスさんの意気込みには目を見張るものがありますねえ」
 ガラハドはデュカスに頷いた。
「やる気満々ですね、デュカスさん。私に出来る限りのお手伝いをさせていただきます」
 ジルもデュカスに近づく。
「いろいろと学ぼうと思っています。みなさんはどんな稽古をしているんでしょうか?」
 デュカスは次々と全員の顔を眺めた。
「私の場合は一番年上の兄に教えてもらってたんですが‥‥」
 アヴリルは片腕を伸ばしてから曲げてみせる。力こぶといえるものはまったく現れない。
「力が無いですからあまり参考にならなくて。結局自分で考えながらやっていますね」
 笑顔でアヴリルは答えた。
「私はシフールですし、武器はちょっと。最近は陽の魔法を練習しています〜」
 身軽になったシャルルはみんなの頭の上をグルグルと飛んでいる。
「レシーアさんはどんな稽古を?」
 デュカスが振り返ると、レシーアは周囲を熱心に眺めていた。
「レシーアさん?」
「ごめ〜ん、何だって?」
 レシーアは森に入ったので道を覚えようとしていたらしい。笑顔でみんなの背中を軽く叩く。
「さあ、行くわよ!」
 レシーアは元気に先頭を歩きだすのだった。

 森の中に草むらが広がっていた。拠点にすることが決まってテントが張られる。
 一通りの準備が終わると、まずは前衛を担う者同士で模擬戦をする事となった。
「あたしは最後でい〜わ〜」
 レシーアは手をひらひらさせながら森の中に消えてゆく。
「それではわたしがやりましょう」
 鞘から剣を抜いたデュカスの前にガラハドが剣を手に立つ。
 ガラハドがデュカスに向かって正面から剣を打ち込む。受ける度にデュカスは強い衝撃を感じた。機を見てデュカスが攻めに転じると、ガラハドは流すように剣を受ける。衝撃を和らげているらしい。負けじとデュカスは剣を打ち込む。強く、さらに強くと打ち込んだ。
 ガラハドはデュカスの人となりを剣筋で知ろうとした。真っ直ぐに打つデュカスの剣に何かを感じたようだ。数十分が経ち、ガラハドとの手合わせは終わる。
「次は私とやってみますか? それなりに修行していますがまだ未熟者ですからお互い何か掴めるかも知れません」
 ガラハドとアヴリルが入れ替わる。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
 デュカスはガラハドとの勢いのまま剣を振るった。アヴリルが剣を受ける優しさはガラハドの比ではない。何度か剣を打ち込むとデュカスは動きを止める。
「アヴリルさんにはまるで雲に打ち込んでいるようで。すぐに消えますし。死角に入るというか。どんな感じにやっているんですか?」
「私は力が弱く割りと機転が利くタイプなので、回避重視で相手を翻弄する様な戦い方が得意です。なるべく死角に入るように動いてます」
 アヴリルは握り手がよく見えるように剣を持ち上げる。
「柔らかく受けるにはやはり剣の持ち方でしょうか? それに力を入れすぎても疲れるだけですし、握り方を工夫すればすっぽ抜けたりしないようになります」
 デュカスも剣を持ち上げていろいろと握りを変えてみる。
「かといって、私の真似をしても始まりませんし、まずは自分の適性を見つけるのが一番重要です。力が強いなら、動きが早いなら、という風に自分に合った戦い方を見つけるのが良いですね」
 アヴリルの話しの後で模擬戦を再開する。いろいろな戦い方があるものだと心の中で呟きながらデュカスは動いた。
「あっ‥‥ありがとうございました」
 立て続けに二戦は疲れたようで、デュカスはへたり込んだ。まだレシーアは戻っていないので、その間、魔法に長けた仲間の技を見せてもらうことになる。
「いきまーす」
 シャルルが足を地につけて構える。離れた位置にあった一本の木に向かってサンレーザーを唱えた。
 木の幹から煙が立ちのぼったかと黒く焦げる。大きな幹だったので燃え上がるまでには至らなかったが、これが獣毛や布地ならば激しく燃え上がっていただろう。
「では」
 続いてジルが魔法による援護を想定して唱えた。ストーンウォールにより、石の壁が現れる。その際にかなりの重量があると思われる岩を持ち上げて弾く。岩が敵ならば、かなりの怪我を負っただろう。その他にも攻撃を受けそうな仲間の盾として使えるし、単純に敵の退路を塞ぐ遮蔽物にもなりえよう。
 ウォールホールも味方の緊急回避に使えそうだ。向かってくる敵に落とし穴も出現させられる。
「あたしの出番よね」
 いつの間にか戻っていたレシーアがナックルを手にデュカスを誘う。あがっていた呼吸も戻ったデュカスは剣を再び手に取った。
「戦う時はつい手の武器だけを気にしてしまうけど、足での攻撃や回避も大切だ〜わ」
 戦いながらレシーアは喋りまくるが、デュカスが繰りだす剣を次々と避けていった。
「ほらねぇ」
 レシーアの攻撃をデュカスは剣で受ける。だが、横腹にはレシーアの伸びた足が触れていた。

 夜になると冒険者達はテントを張った近くで焚き火を囲んでワインを口にしていた。デュカスが体を温める為に用意したのである。
「そろそろ寝ましょうか」
 アヴリルが切りだすと、いい気分になった冒険者達は陽気に返事をする。特にレシーアが上機嫌だ。
「やっぱ寒いわねぇ、防寒具貸して〜」
「忘れてました。レシーアさんにお貸しする約束をしてました」
 ガラハドが防寒具を取りだして渡そうとするとレシーアが抱きついた。
「これでもい〜けどねぇ? そういえば二人用テントで誰かに添い寝してあげるとかさっきいってたわよねぇ?」
 慌てたガラハドが防寒具をレシーアに押しつける。
「わっ私は最初に見張りをしますので‥‥そうです。女同士、シャルルさんとテントを使ったらどうでしょうか? それでは」
 ガラハドは焚き火の側から逃げていった。

●二日目
 ガラハドは初日に同じ姓を持つグランからいい狩り場を聞いていた。実戦の勘を養うのと食料を獲る一石二鳥だ。みんなで森の狩り場に出かけると手分けして獲物を探す。
「いました!」
 空中から発見したシャルルが叫ぶ。
 一直線に向かってきた猪の牙にデュカスの剣が弾かれる。控えていたアヴリルが逃げ道をそらすと、ジルが出現させた石壁に衝突した。動きが鈍った所をガラハドが引きつけて、レシーアがバックアタックで止めを刺す。
 その日の食事は猪の焼き肉と、塩ゆでの野草だった。野草は初日にレシーアが場所を発見し、夕食前のあいた時間に採ってきたのである。食事の用意をしていたデュカスにこっそりと渡したのだ。
 月と星明かりで夜とはいえ辺りが見通せた。寝るまでに夜間の練習をすることとなる。
 シャルルとレシーアはライトを唱えて光球を出現させる。その眩しさは闇に突然現れれば眩むはずだ。シャルルはさらに強い光を放つダズリングアーマーも行った。
 ジルは昼間に石壁を出した感覚を完全に自分のものにする為に繰り返す。
 夜に刃を合わせるのは意味もなく危険だとして、デュカス、ガラハド、アヴリルは素振りを行った。レシーアとは棒きれを使って避ける練習もする。
 寝るときになってデュカスがテント内の仲間に話しかけた。
「昨日から充実していて話すのを忘れていたんだけど、ぼくは酷くうなされる時があるんだ。昨晩、迷惑かけたんじゃないかな?」
「寝言ですか? 無かったですね」
「わたしはスヤスヤ寝てましたから」
「まったくありませんでした」
「寝つきはいい方なのでまったく知りませんでしたです〜」
「別に聞こえなかったけどねぇ」
 いつの間にか四人用テントにシャルルとレシーアに顔を覗かせていた。
 デュカスは曖昧にしていた修行の理由をみんなに話した。敵討ちに至るまでのすべてを冒険者達に伝えたのだった。

●三日目
 午前は多人数対デュカスの練習を行う。徐々に人数を増やして最後は四対一だ。わかりきった事だが、大して実力が違わない四人と一人では勝負は決まっていた。
 それでもデュカスは粘る。森という地の利を生かしてうまく立ち回った。
「やはり敵の数が多い時は逃げるしかないね‥‥」
 日の差し込む場所で体を休めながらデュカスは呟く。
「増援までの時間稼ぎが必要な時もあるからねぇ。背を向けるのが恥かも知れないけど、あたしならそんな恥は捨てるよ」
 レシーアが話しかける。
「逃げるに勝るものはありませんね」
 ガラハドが笑う。
「後は自分の方が強いと思えるくらい腕を磨くか‥‥ワナに嵌めるか寝ている時分に夜襲をかけるかですが‥‥デュカスさんには向いているとは思えませんね〜」
 ガラハドは岩に腰かける。
「まずは相手の力量を見抜くのが大事です。多勢ならお二人のいう通り逃げですが、そうでない場合、相手の一撃、または自分の攻撃で測るのが一般ですかね」
 ジルは持ってきた水を飲む。
「最初は堅実にいく事です。まず、相手に傷を与えて弱ってから戦闘に持ち込みます。どんな強力な技も当たらなければ意味ないですからね。その際には自分、仲間そして敵の間合いを把握しましょう。どんな強い敵も背後は弱点です」
「そうねぇ。背後の注意も怠らない事も大切。あたしのみたいなバックアタックで喰らったら大変だもの」
 ジルに言葉にレシーアが同意する。
「頭の上も注意したほうがいいです。シフールみたいに空飛べる敵もいるでしょう〜」
 木の枝に座るシャルルも話しかけた。

●そして
 最後の日は六人を三対三にわけてチーム戦を行った。途中メンバーを入れ替えては模擬戦闘を続ける。
 太陽が高く昇り、休憩をとっていた頃に事件は起こった。
 テントに何者かが忍び込んだのを木の上で休んでいたシャルルが発見したのだ。聞いた冒険者達は急いでテントに戻る。何者かが冒険者達の荷物を持ち出そうとしていたのだ。
「ゴブリンです!」
 ジルが叫ぶと武器を手に冒険者達は展開する。ゴブリンは持っている物を投げつけた後、攻撃をしてきた。
 ガラハドとデュカスが正面を切ってゴブリンに対峙する。アヴリルとレシーアは後方の逃げ道を塞いだ。見かけによらずゴブリンの動きは速い。レシーアは逃げようとしたゴブリンに横っ腹に向けて蹴りを放った。
 ジルのウォールホールが発動し、ゴブリンの足元に穴が空く。落ちるには至らなかったが、足を引っかけて地面に転がる。
 シャルルのサンレーザーが停止したゴブリンを輝かせる。火が点いたゴブリンは悲鳴をあげた。
 ガラハドとデュカスの剣がゴブリンの胸板を貫く。アヴリルが剣を振り下ろして長い一筋の傷がゴブリンの背に刻まれる。前のめりに倒れたんだゴブリンは二度と動かなくなった。

 黄昏時、冒険者達はパリに戻っていた。
「ありがとう。いろいろと教わりました。敵討ち、がんばります。それに‥‥」
 デュカスは冒険者達にお礼をいうが、最後の言葉は濁す。
「デュカスさん、一緒に強くなりましょう!」
 去りゆくデュカスにガラハドに声をかけた。
「貴方に目的があるなら、全ての経験を自分の糧としなさい!」
 振り返ったデュカスにジルも叫ぶ。
「私にはデュカス様の悲しみは‥‥でも1つだけ、復讐だけに囚われず己を大事にしてください!」
 アヴリルは胸元で両手を合わせて告げる。
「退くのも戦術よ。覚えておいてねぇ!」
 レシーアは大きく手を振った。
「楽しかったです〜」
 シャルルは空中から石畳に下りた。
 デュカスも手を振る。そして夕日の赤さに消えてゆくのだった。