●リプレイ本文
●集合
「レミア・エルダーっていいます。お願いします」
「俺はアーレアン・コカント。よろしくね」
集合場所の空き地に現れたレミア・エルダー(ec1523)はアーレアンに駆け寄って挨拶をする。
「あの、お兄ちゃんを‥私達ハーフエルフを嫌わないで下さい!」
「お兄ちゃん? えっと? ああ、わかった、エルダーって、セルシウス‥‥」
エルダーの姓でアーレアンはお兄ちゃんが誰なのかを知る。前回迷惑をかけてしまった相手だ。
「お兄ちゃんがアーレアンさんに『申し訳なかった』って」
「あれは俺が‥‥」
レミアは兄の言葉をアーレアンに伝えた。狂化行動を止めてくれて感謝している事も。
「レミア、僕にも挨拶をさせてくれよ。バードのウィルシス・ブラックウェルです。コカントさん、よろしくお願いします」
愛馬を連れたウィルシス・ブラックウェル(eb9726)がアーレアンに挨拶をする。
「水のウィザード、リスティア・レノンです。前回は姉のリディアがお世話になりました。宜しくお願いしますね」
次に現れたのは首に蛇の子供を巻いたリスティア・レノン(eb9226)であった。アーレアンはかしこまって挨拶をする。
「こんにちは。はじめまして。あっと‥‥」
馬に乗って現れたヘレナ・アーウェン(ec4170)は、下りる時にバランスを崩しかけた。背中の荷物が多すぎたのである。すぐに荷物の一部を愛馬ルウに載せかえた。
「ポルターガイスト退治だと聞いて参加させてもらったよ。ロイ・グランディだ。よろしくね」
レザーヘルムを深く被ったロイ・グランディ(ec3226)も愛馬で登場する。ハーフエルスの特徴である耳を隠す為である。
「よろしく、ロイさん。ん?」
アーレアンはロイと握手を交わした後、背中に何かが触り振り返る。視線を下げると一人のパラ女性の姿があった。
「楓(ふぉん)と申します、皆さん宜しくお願いします」
劉楓(ec4092)が両手を合わせて挨拶をする。
「全然気づかなかったよ。その忍び足はすごいね」
アーレアンは劉楓とも握手を交わした。
「これで全員ですか?」
「いや、もう一人、ギルド員のハンスが‥‥」
ヘレナの問いにアーレアンは周囲を見回した。
「よお〜、待たせちまったかな。すまんすまん」
ハンスが荷物を抱えて集合場所に現れる。
「いや、みんなもついさっき集まったばかりだ」
アーレアンはハンスの荷物の一部を自分のロバに載せた。
そして一行は出発した。劉楓の知人のセタも今日一日は一緒である。馬に跨る冒険者もいたが、速度は人の歩みだ。
「話は聞いているよ、あれはむしろ大健闘だと思うよ。あの状況でよく戦ったね」
「ロイさん、ありがとう。でもね、仲間を傷つけてしまった事は確かなんだ‥‥」
前回参加者の知り合いが多い事もあり、どうしても失敗についての話題となる。
励ましの言葉を投げかけてくれてアーレアンは嬉しかったが、すぐには心は晴れない。吹っ切ろうとしても、なかなかできないでいたアーレアンであった。
一時間程で一行は目的地である貴族の屋敷前に到着した。
屋敷の周囲には石塀がある。塀と繋がる形で警備の者達用の休憩所があり、敷地内に通じる門もすぐ側にあった。
まずは全員で出向き、警備の者達から屋敷がどのようになっているかを聞く。
ポルターガイストのせいで、貴族の一家は遠くの別荘に脱出中。仕えていた者達も一部を除いてお暇を与えられているそうだ。警備の者達は外部の賊が侵入するのを防ぐため、敷地外の見回りのみをしていた。基本的には敷地内に立ち入らない。
依頼主の貴族からの伝言が残っていた。
屋敷内が戦いになるのは承知しているので少々の破壊はやむを得ないが、屋敷そのものを吹っ飛ばしたり、広範囲に燃やしたりするのは止めて欲しいという。
それから警備の者達はランタン用の油をいくつか提供してくれた。ポルターガイストは日が暮れてから出没するからだ。足りない分は自分達で用意してくれといいながら、警備の一人が門を開けてくれた。
一行は屋敷の敷地に足を踏み入れる。庭は広く、かなり歩かないと屋敷には到達できない。
まずはペット達を安全そうな場所に繋げると、現場となる屋敷内に全員で入った。依頼書にあった通り、三階建ての屋敷で別棟はない。どの階もそれなりに広く、天井も高い。担当の階を見回るだけでもかなりかかりそうだ。
室内の一部は酷く壊され、散らかっていた。これがポルターガイストの仕業なのかと、リスティアは呟き、パーストを使ってみる。
パーストは物事が起きたぴったりの時間を探り当てなければ意味はない。繰り返し使い、最後にようやくそれらしき現象を目撃する。月夜に石像が宙を舞って、貴族の娘を襲った。娘は無事に逃げおおせるが、床には石像の破片が飛び散る。
今に意識が戻ったリスティアの目の前にも、ランタンに照らされた破片が散らばっていた。
屋敷を出た一行は庭の片隅で野営の準備を始めた。セタに屋敷内の見取り図制作を任している間に睡眠をとる為である。
魔力の心配をしなくてもいいハンスは、他の仲間より遅れて眠った。
笛を用意する為である。ナイフで木片を削り、簡易な笛を人数分作りあげる。壊れやすいが、依頼の間ぐらいは持つはずだ。
太陽が落ちようとした頃、一行は目を覚ます。屋敷の見取り図を用意してくれたセタに礼をいうと、準備を始めた。
●夜通し
冒険者達は屋敷の見取り図を手にとり、ランタンに火を灯す。ランタンはアーレアン所有の物を足しても三つしかないので、一つを警備の者達から借りた。
「屋内では私やアーレアンさんの範囲攻撃魔法では建物に傷をつけてしまいます。さりとて、屋敷内では打撃力に不足し、とどめにまでは及ばないでしょう」
リスティアがアーレアンに外で待機するように説得をする。アーレアンに冒険者としてやっていける自信をつけさせる為に止めを刺してもらおうと考えていた。仲間のほとんどが同じ意見である。ちなみにリスティアは防寒の用意を忘れた為に、劉楓から借りた『まるごとすいぎゅう』の姿だ。
「誘いだすからアーレアンさん、よろしくね」
「どれだけ追い込んでも、逃げられてしまっては意味がありません。とても重要な役割ですから、頑張って下さいね」
レミア、劉楓がアーレアンに声をかけて屋敷に入ってゆく。
外で待つのはアーレアンとウィルシス。
一階担当はヘレナとハンス。
二階担当は劉楓とレミア。
三階担当はロイとリスティア。
本格的なポルターガイスト退治の始まりであった。
「ここに来る途中でも話題になりましたが、前回は残念でしたね‥‥。怖いですか? 依頼に失敗する事が」
屋敷外の庭で待つアーレアンにウィルシスが話しかける。
「恐い‥‥とは少し違うな。ぴったりの言葉が見つからないけど、護るべき相手を自ら傷つけてしまったことが何より心傷んだんだ‥‥」
「常に完璧に依頼が成功するとは限りませんよ」
「わかっている。わかっているんだよ‥‥。でもさ、割り切れるもんじゃないんだ」
「失敗は辛いです。けれど次に活かす事は出来ます。それが次の依頼の成功に繋がるのですから。‥‥と義兄さんから伝言です。心の隅にでも置いてあげて下さい」
アーレアンに微笑むと、ウィルシスはテレパシーを使って仲間との連絡をとる。
二日目の夜から三日目の朝にかけては、何も起こらなかった。緊張のみの一晩に渡る警戒に、一行は疲れ果てた。
●出現
事は三日目の夜から四日目の朝にかけての時間に起こった。
「今、何か聞こえましたよね?」
二階を警戒する劉楓が相棒のレミアに話しかける。二人で耳を澄ましてみた。どこからか、パチンと弾ける音が聞こえる。
(「ウカ兄、ラップ音が鳴っているよ!」)
レミアはまだテレパシーが繋がっていた庭にいるウィルシスに報告する。続いて大きく息を吸うと、ハンスから受け取った笛を強く吹いた。
笛の響きは三階、一階、そして庭にも届く。
三階のリスティアはクリスタルソードを作りだすと相棒のロイに手渡す。サウンドワードも使い、耳をそばだてながら静かに階段を下りてゆく。
二階の廊下へと下り立ったリスティアはラップ音を耳にした。
(「間違いありません! すぐ近くにポルターガイストが発した‥‥!」)
リスティアがテレパシーで繋がるウィルシスに話しかけた時、闇の中で一瞬何かが光った。
一緒にいたロイが大きく剣を振るうと衝撃音がし、そして振動音が聞こえる。ランタンに照らされた壁には剣が刺さり、細かく振るえていた。
「教えて下さるかしら! ポルターガイストがどこに潜んでいるのかを!」
劉楓がロイから借りたホイップで廊下の壁を叩きながらロイとリスティアに近づいてきた。ホイップにオーラパワーは付与済みである。
レミアも小太刀で周囲の物品を叩きながら合流しようとする。
「今、劉楓さんの右手方向の壁! その周囲にポルターガイストがいます! レミアさんが叩いた所もそうです!」
リスティアはサウンドワードでポルターガイストの取り憑いている箇所を探ってゆく。
リスティアを狙ってポルターガイストは物を飛ばしてきた。瓶や板絵、彫刻など手当たり次第に。
ロイが盾となって叩き落とすが、その数にだんだんときつくなる。クリスタルソードももうすぐ消滅してしまうはずだ。
「加勢に来たぜ!」
ハンスとヘレナも二階に到着する。ロイと一緒にリスティアを狙う物を弾き飛ばした。
程なくして、もやっとした霧のような何かが壁の中から現れる。ポルターガイストの正体だ。鼓膜が破けそうになる、ものすごい悲鳴をあげた。
「えっと‥‥、まあいいか」
ヘレナは動じずに悲鳴をあげるポルターガイストをフェイントアタックで翻弄しながら一撃を加えた。
(「一回、戸板をわざと開け閉めして二階のどこら辺か場所を知らせる。二度目に開け放つから、アーレアンとタイミングを計ってくれ!」)
ハンスがテレパシーで繋がるウィルシスに話しかけ、大きな音を立てるように廊下の戸板を一度開け閉めする。そして開放した。
「ほらよ! ここにいると、強ぇ〜冒険者にやられちまうぜ。どうするよ!」
ハンスの一言が効いたのか、効かなかったのか、とにかくポルターガイストは夜空へと飛びだした
夜空に浮かんだポルターガイストを輝く矢が貫く。ウィルシスのムーンアローである。
「燃えろ!」
アーレアンのかけ声と同時に紅蓮の火球が夜空に膨らんだ。ファイヤーボムである。
ポルターガイストは火球の中で小さくなり、やがて消滅した。
「可愛いかったのに‥‥」
その様子は見ていたヘレナは呟いた。
●確認
四日目の朝が訪れて、一行は警備の者達に報告をする。
ついでにもう一晩、確かに消えたか確かめる事も伝えた。
昼間はテントで寝て、夕方から見張りを始める。
ヘレナは屋敷内にあった鏡に自分の顔を映して、何かを気にしていた。ハンスが訊ねても答えてはくれなかった。
まったく出現の兆候は現れず、五日目の朝日が昇る。
一行はテントで休んだ後に屋敷を出発し、暮れなずむ頃にはパリに戻った。
「これは俺からのお礼の品だ。もらってくれ」
ハンスは冒険者達に幸福の銀のスプーンをお礼をいいながら手渡した。
「あのよ‥‥、どうすんだ? これから」
ギルドへの報告が終わると、ハンスはアーレアンに声をかける。
「姉ちゃんのいるアレイユ村に帰るつもりだ」
「そっ、そうか‥‥、そうするのか‥‥‥‥。本人が決めたんならしょうがねぇな‥‥」
ハンスはアーレアンの返事に肩を落とす。
「ハンス、羊のミルク製チーズの土産でもいいか?」
「ん?」
「だから、冬服を取りに田舎に行ってくるよ。一週間ぐらいで帰ってくるから、土産はそれでいいかと訊いているんだよ」
「こいつ! 立ち直ったんだったら、そういいやがれ! てっきり俺はよぉ〜」
「おい、やめろ! ハンス! こんなところで俺をどついていると、また怒られるぞ」
「もう心配かけんじゃねぇぞ!」
「わーかった。わかったからよ」
アーレアンとハンスのやり取りは続く。
冒険者達は微笑ましく眺めているのだった。