養女と料理 〜アロワイヨー〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:1 G 9 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月22日〜12月31日
リプレイ公開日:2007年12月30日
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●オープニング
パリから北西、ヴェルナー領の北方に小さなトーマ・アロワイヨー領はあった。
トーマ・アロワイヨー領主となった青年アロワイヨーにまつりごとの他にもう一つ悩みがある。
パリ近郊の森の集落で出会った娘ミラのことである。今は城下の商家へと世話になり、城にいるアロワイヨーとは離れて暮らしている。互いに好意を持つ二人の間は接近していたが、それを快く思わない者もいた。
「ここはやはり‥‥」
城の執務室で領主である青年アロワイヨーが歩き回る。
考えていたのは恋人のミラの事。
今はレディになる為の猛勉強中なのだが、それと平行して何とかしなければならない事があった。
「バヴェット婦人に頼むのが一番だな‥‥。あの人なら快く引き受けてくれるだろう」
アロワイヨーが考えていたのはミラの身元を誰に頼むかである。現在は城下の商家に預けているが、早い時期に貴族の家系に養女として迎え入れてもらえるようにと考えていた。
アロワイヨー自身は今のままのミラで充分であったが、周囲がそれを許さない。
近頃のお見合い攻勢には凄まじいものがある。早くにミラとの間を公にしないと、誰かと無理矢理結婚させられそうな勢いであった。
バヴェット婦人とアロワイヨーとは親戚同士。そして料理を通じて昔から気が合っていた。
バヴェット婦人は四十歳近くの独身で、結婚の経験はなし。バヴェット家の当主である。次期当主については妹夫婦の息子が継ぐことになっているようだが、バヴェット本人は財産のすべてを食い物にして食べ尽くすと豪語している。
世継ぎとは直接関係のない娘ならば、周囲の抵抗も少ないだろうし、アロワイヨーも頼みやすい。養女とはいえ、ミラがバヴェット家の一人となれば身分がどうのこうのという者も少なくなるはずだ。
「やはり‥‥ここは、冒険者の力を借りよう」
アロワイヨーはバヴェット婦人を晩餐に呼び、その席でミラを養女にしてもらおうと考えていた。
問題は晩餐の料理である。
バヴェット婦人は昔のアロワイヨーを見ているようなまんまる体型だ。食欲大魔人である。
先頃、話したところによると一般に広がる料理を食べてみたいといっていた。あいにくとアロワイヨーもよくは知らなかった。
アロワイヨーは鈴を鳴らして執事を呼ぶ。
「バヴェット婦人に喜んでもらって、事をスムーズにすすめたいんだ。そのためにはいろんな土地にいったり、新進の料理人が集うパリに拠点を構えている冒険者に教えてもらうのが一番だと思う。どうだ?」
「はい。とてもよいお考えです。冒険者の意見に沿って料理を取り揃えましょう」
「そういってもらうと心強い。冒険者ギルドへの依頼を頼むよ」
「かしこまりました」
執事が執務室を静かに出てゆく。
アロワイヨーはポッコリとした自分のお腹を見下ろした。どれだけダイエットしてもこれだけは変わらない。
「ミラの養女の一件が終われば、バヴェット婦人にもダイエットを勧めてみよう。あの方には長生きしてもらいたいし‥‥」
アロワイヨーは残っていた書類仕事に再び手をつけるのであった。
●リプレイ本文
●奔走の半日
「皆様、よろしくお願いします。こちらにいる者になんなりとお申し付けを」
一歩前に出た執事が侍従達の前で冒険者達へ挨拶を行う。
一日目の朝、パリの船着き場に全員が集まっていた。
まずは簡単な相談である。
「このパリから歩いて一日ぐらいの場所に――」
鳳双樹(eb8121)が侍従の一人に教えていたのは美味しいお肉で有名な集落の位置である。そこに行ってお肉を調達して欲しいと頼んだ。双樹自身はワインとエスカルゴを手に入れる為にベゾムでひとっ飛びの予定である。
「それでは私に任せて行ってらっしゃい」
「はい。よろしくお願い致しますね」
国乃木めい(ec0669)はチサト・ミョウオウイン(eb3601)を見送った。それから侍従の一人に相談を持ちかける。パリにあるジョワーズというレストランについてだ。
「ジョワーズの料理は、おふくろの味‥と言った趣の家庭的な風合いを色濃く残しつつも、本格的な素材を活かした料理が売りなんですよ」
「そうなのですか。パリにどうも疎くて助かります」
「今チサトちゃんが交渉しに行きましたので、その結果の後で。きっと喜んで頂けますから‥是非、招待して下さい」
「ええ、是非そうさせて頂きます」
国乃木の相談は続く。華国料理に用いる食材についても訊ねてみた。どうやらある程度の物はあちらの領内でも手に入るようだ。新鮮さも考えて向こうで調達することにした国乃木である。
「それではちょっとエフェリアちゃんと行ってきますですよ〜」
「すこし、いってきます」
リア・エンデ(eb7706)とエフェリア・シドリ(ec1862)は元気よく出発した。
「私はすぐに出発出来るように黒龍とハヤオウ、そしてみんなのペットを帆船に乗せておきましょうか。お世話お世話と‥‥」
アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)はペット達を誘導して執事が手配してくれた帆船に乗せてゆく。
昼の出発まで冒険者達は分かれて行動するのだった。
「こんにちは、川口花さん」
「花様、こんにちはなのですよ〜」
エフェリアとリアはパリにある川口リサの実家を訪れる。迎えてくれたのは娘の花であった。
「おしょうゆ、すこしわけてください」
「はい。どうぞお持ちになってね」
エフェリアの言葉に笑顔で頷いた花が、ワインの空瓶に醤油を入れたものを持ってきてくれる。
「じつはお母ちゃん、もうすぐ赤ちゃんが産まれるの。冒険者ギルドに依頼を出すから、よかったら手伝ってね」
「はう〜、それは大変なのです〜」
花の言葉にリアがのけぞり気味に驚く。フェアリーのファル君もリアの肩の上で同じポーズだ。瞬きしながらエフェリアは『あかちゃん』と小さく呟いた。
花が深々とお辞儀をする。エフェリアとリアもマネをしてお辞儀をしてから花の家を立ち去る。なにやらジャパンの門松とやらが玄関に飾られてあったので、リースをあげるのはやめておいたエフェリアである。
次はリアの目的地。パンとお菓子の店シュクレ堂だ。
「おいしいおいしい焼き菓子、買いに来たのですよ〜」
「こんにちは、です。いい匂いがします」
リアとエフェリアはざっと見回す。焼き菓子を見つけたリアはオジフに出来るだけたくさん売ってくれと頼んだ。
オジフは笑顔で布を敷いた大きな編みカゴに焼き菓子を詰めてくれる。編みカゴはパリに戻ってきた時に返せばいいらしい。
リアとエフェリアは一カゴずつ手にぶら下げて船着き場へと戻るのであった。
「サロンテさん、実は――」
双樹はベゾムでワインで有名な村を訪れると、さっそくサロンテに相談する。
「ええ、平気ですよ。エスカルゴも下処理済みのやつを、ワインを貯蔵している鍾乳洞に保存してあります。両方とも取ってきますので」
サロンテは双樹を家に残して出かけるが、すぐに戻ってくる。エスカルゴの入った袋とワインが抱えられていた。
「ありがとうございます。こんなにたくさん」
双樹は感謝してお代をサロンテに支払う。双樹の分だけでなく、他の仲間が買ったものもアロワイヨーが支払ってくれる予定である。
「お肉も手に入ればいいけど‥‥」
ベゾムで舞い上がった双樹はパリへと全速力で戻るのだった。
「とある領主様が、美食家で有名な貴族を持て成すのに、ジョワーズさんのお料理を出したいそうなんですけど‥お力を貸してもらえませんか?」
チサトはジョワーズ・パリ支店を訪れ、マスターとコック長にお願いをする。是非に出張料理をしてもらいたいと。
「素材の味を十分惹き立てた美味しい料理を味わいたい‥と仰られているそうで、そう言った料理を食べさせてくれる場所は無いかって相談を受けたんです。私もめいお婆ちゃんも、店長さんの顔がすぐに浮かんだので‥掻き入れ時で忙しいとは思いましたが、お願い出来ませんでしょうか」
チサトの言葉にマスターとコック長が相談を始める。若いが腕のいいコックを一人、派遣してくれる事となった。ただし、準備があるのでいますぐ出発という訳にはいかない。
「その点は大丈夫だと思います。追って代わりの者が来ますのでよろしくお願いしますね」
チサトはお礼をいってジョワーズを立ち去った。
そして船着き場に戻り、執事に相談する。食材の用意の為に侍従達も遅れて戻る予定である。ジョワーズのコックを連れてゆくのに何も問題はなかった。
みんなで決めた通り、昼頃に冒険者達は再集結する。帆船へと乗り込んで、まずはルーアンを目指すのであった。
●領地までの道のり
「旅のお供にはこれなのです〜。執事様もどうですか?」
リアは船に揺られながらパクリと焼き菓子を一口。仲間にも分けて休憩時間である。
「なるほど。最後のデザートにはよい感じですね」
「そうなのです〜。アロワイヨー様とミラ様の未来を感じさせる甘さなのですよ〜」
執事に微笑んだリアは妖精の竪琴を奏でる。
「執事さん、耳をかしてください」
エフェリアは思いついた食事について執事に相談してみる。残念ながら刺身についてはやめておいた方がいいらしい。冒険者が考えるより、カキなどの貝類を別にすればノルマンでの生食はタブーである。プレ・サレの羊肉については検討してみるという。トーマ・アロワイヨー領は海に面してはいないが、比較的近い位置にあるからだ。
「御二人とも‥とっても腕の良い料理人さんなんですよ」
チサトは冒険者の中で腕の立つ料理人を執事に教えた。何かの機会の時に役に立つかも知れないと考えて。
冒険者達を乗せた帆船は二日目の夕方にルーアンへ入港する。その日は宿に泊まり、明日に備える為に早めに就寝するのだった。
●到着
三日目の朝、ルーアンを一行は馬車で出発する。昼にはトーマ・アロワイヨー領へ到着した。
城には現在邪魔者はいないらしく、アロワイヨーの他にミラの姿もあった。
「引き締まってますね。トレーニングは欠かしていないようですね」
「あの時は特にお世話になりました」
アーシャの一言でアロワイヨーが笑い、みんなに伝わる。
「ミラさん、これを貸しますよ」
「なんですか。これ?」
アーシャがミラに手渡したのは鉄人のナイフと金の煙草入れであった。これで料理の腕が一段と上がるはずだ。
「ミラさんの手料理も加えたらどうでしょうか? 鶏肉と野菜を中心としたヘルシー料理をです」
「あれをですか? アロワイヨーの時はだんだんと慣らしていったので、バヴェット婦人には物足りないような気がします」
「他の料理にこってりしたものがあるので大丈夫だと思います。聞いたところ養女の話が決まったら健康の為バヴェット婦人にダイエットをすすめるらしいですよ。後でアロワイヨーさんも話しやすいと思います。あの料理を食べて健康な身体になったって」
アーシャの説得が成功し、ミラは料理を作る事となった。
「私にも作らせて頂けるかしら。いえ、作り方を教えるだけですので。華国の料理は、医食同源‥美味しい物を食べて健康に成る知恵が豊富ですから」
本番の晩餐まで、ミラの料理指南を国乃木もやることになる。
その日の夜、食事が終わった後で冒険者達は一つの部屋に集まった。
「考えていたより早く着いたので、ここで祝うのですよ〜。神様にアロワイヨー様とミラ様が幸せになれるようお願いするのです〜」
リアが用意してきたローズキャンドルに火が灯される。
全員が祈りを捧げる。困難の多い二人の未来が拓けるようにと。
●準備
七日目の晩餐に備えて四、五、六日目は費やされた。
ジョワーズのコックと食材が到着し、さっそく時間のかかる料理に取りかかる。
冒険者達は城下に繰りだして食材集めを行った。リアは酒場で竪琴を奏でて土地の美味しい料理を探り、コックに教えた。チサトはお肉の軽い湯通し料理を教える。
国乃木が華国の見本料理を作り、コックがノルマン風にアレンジを加えてミラに教える。どうしても足りない食材はあったが、それを工夫で乗り切った。エフェリアが手に入れてくれた醤油もとても役に立つ。料理酒として国乃木のどぶろくも活用される。
双樹の想い出が詰まった集落の美味しいお肉。海岸線から運ばれたプレ・サレの羊肉。この二種類のお肉でジョワーズ名物のチーズと豆と合わせた料理と、地元の料理が作られる予定だ。
アロワイヨーに試食してもらった所、了承が得られたエスカルゴのガーリックバター風味。
双樹が手に入れたワイン。アーシャが提供してくれた日本酒。
ミラの作る鶏肉を主体にした料理もメニューに加えられた。エフェリアのリクエストで野菜料理にはリンゴが付け加えられる。ルージュハムの薄切り付きだ。
最後はシュクレ堂の甘い焼き菓子であった。
●晩餐の時
「アロちゃん、お招きありがとうね。あら、こちらの方は?」
「ミラと申しまして、わたしがパリ近郊で暮らしていた頃に世話になった女性です」
現れたバヴェット婦人にアロワイヨーがミラを紹介する。
「よろしくお願いします。バヴェット様」
ミラがバヴェット婦人に覚えて間もない挨拶で応えた。
噂に違わず、バヴェット婦人はまん丸体型である。
ついに七日目の晩餐が始まった。
給仕役として冒険者達も同じ食事の広間に立ち会う。リアは真面目モードで演奏係を引き受けていた。
(「大丈夫なのですよ〜。ミラ様の近くにはアロワイヨー様がいるのです〜」)
リアはミラをテレパシーで元気づける。やはり緊張で固い様子だ。
「いつもとは変わった趣向なのね。この時期だからジビエ料理だとばかり思っていたのよ」
出された料理を観て、バヴェット婦人は何度も瞬きをする。
「かねてより仰っていた一般に広がる料理を用意させて頂きました。もちろんジビエも用意させましたが、まずはこちらを」
「嬉しいわ。覚えていてくれたのね。アロちゃん」
次々と出される料理を食べ進めてゆくバヴェット婦人。
冒険者達は自分の意見が反映された料理が出されると息を呑んだ。
「どれもいつもとは一味違うわね。とっても美味しかったわ」
バヴェット婦人が満足げな顔をした所で、アロワイヨーはミラの養女の件を切りだす。自分の妻として迎える為に、お願いしたいと。
「そう‥‥、ミラさんがお気に入りなのね。アロちゃんは」
バヴェット婦人は涼しげな目でミラを見つめた。
「もしかして、アロちゃんが痩せたのもミラさんの為?」
「正直にいいます。‥‥正確にいえば、わたしがミラに気に入ってもらおうと思って、痩せたのです。なのでミラがどうこう言った訳では」
バヴェット婦人の質問にアロワイヨーは緊張しながら答える。
「富豪貴族の当主というだけでなく、今や領主のアロちゃんにそこまでさせたのね。ミラさんは」
「わっわたしは‥‥」
一度ミラを睨んだ所で、バヴェット婦人は高笑いをした。
「いいでしょう。アロちゃんの頼みを断れる私ではありませんことよ。ただ、いくら我が一族に迎えたとしても、まだまだ関門は多くあってよ。承知しているわよね? アロちゃん」
「はい。バヴェット婦人」
アロワイヨーにバヴェット婦人は頷いた。それを聞いていた冒険者達は互いに目線を合わせて喜ぶのであった。
●パリへ
八日目の朝、アロワイヨーとミラはパリへと戻る一行を見送るために現れる。執事も一緒であった。
「後で聞いたところ、バヴェット婦人はミラが作ってくれた料理を特に気に入ってくれたようです。これを受け取って下さい。せめてものお礼です」
アロワイヨーが冒険者達に手渡したのは天使の羽飾りであった。
「ダイエットをすすめて下さいね。あのままだと大変ですよ」
アーシャはバヴェット婦人の事を指摘しながら、アロワイヨーが斧を振り上げる事も出来なかった頃を振り返る。
「余分な脂がとれる湯通し料理も召し上がっていましたもの。きっと管理さえすればやせられるはずですわ」
チサトは馬車の窓から顔を出してニコリと笑う。
「チサトちゃんのいう通り、きっとアロワイヨーさんがすすめれば大丈夫かと。話す機会はありませんでしたが、いい人のようです。労ってあげてくださいね」
国乃木がアロワイヨーとミラに礼をしてから馬車に乗り込む。
「嫌いなもの、なかったみたいです。もっと団子とかあればよかったです」
エフェリアはかつて食べた美味しいものをバヴェット婦人に食べさせてあげたかったようだ。
「エスカルゴは抵抗なく食べられていましたね‥‥。美味しいものなら大丈夫な方なんですね」
双樹は晩餐の様子を思いだす。
「会話も調味料なのですよ〜。楽しくお話していたのできっとうまくいった‥‥はうっ、エスカルゴ食べていたのですか!」
ニコニコしていたリアが双樹の言葉からようやくエスカルゴの存在に気がつき、大きく口を開けたまま固まった。ファル君がリアのほっぺたをつつく。
ほどなく馬車が発車する。
冒険者達とコックを乗せた馬車は半日後にルーアンへ到着した。
馬車から帆船に乗り換えた一行は、楽しい想い出を抱えたままパリへと戻るのであった。