みんなで餅つき 〜デュカス〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 84 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月27日〜01月04日

リプレイ公開日:2008年01月04日

●オープニング

 『ジャパン』と『ノルマン王国』とは月道が通じ、そ復興戦争において協力関係にある。
 エテルネル村の青年村長デュカスにとってもジャパンは親しく感じられる国であった。
「ジャパンでは一月一日を祝うと聞いたのです。そして『お餅』というものを食べると聞いたのですが本当でしょうか?」
 デュカスは冒険者ギルドシーナ嬢からパリに住む川口親子を紹介してもらった。しばらく出産の為にパリで生活するので様々なジャパンの食材を持ち込んでいると聞いたからだ。
 川口親子が住んでいる母方の実家を訪れていた。
「はい。構いませんわ。最近はおとうちゃんも、こっちの味に慣れてきたので余り気味で。どうぞご遠慮なく」
 川口花が微笑みながらデュカスに答える。
 デュカスはコズミの財宝で得たお金でジャパンの食材を買い付けた。ちゃんと村民の同意も得てあった。
 聖夜祭で感謝の時を過ごしているエテルネル村である。ただエテルネル村初めての年越しなので、みんなの記憶に残る特別な事をしようと考えた末の食べ物による感謝であった。
 主に買い付けた食材は餅米。その他に少しばかりの醤油と、味噌玉を譲ってもらう。
「これはパリで見つけたものですがどうぞ。挽けば蕎麦粉になります。それからパリの木工職人に特注で作ってもらった杵と臼です。お餅を作るのに必要なんです。お貸ししますね」
 川口花は実家の倉庫から運ぶを手伝ってくれる。
「ありがとうございます。こんなにたくさん、安く譲ってもらえるとは」
 デュカスは食材を馬車に積み込むと一旦宿屋に戻る。そして車庫に馬車を預け、冒険者ギルドを訪れた。
 出した依頼は、エテルネル村で年末年始にかけて一緒に祝ってくれる人達の募集だ。
「今まで世話になった冒険者もたくさんいますし、それにジャパンの料理を作るので不安でもあります。どうかよろしくお願いします」
 デュカスは依頼を出し終えると市場へ向かい、他に必要なものを買い付けるのだった。

●今回の参加者

 ea7900 諫早 似鳥(38歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb9782 レシーア・アルティアス(28歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 ec0037 柊 冬霞(32歳・♀・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

セレスト・グラン・クリュ(eb3537)/ 龍 陽友(ec1235

●リプレイ本文

●集合と準備、そして出発
「初めて会ってから、も〜1年‥色々あったねぇ」
 レシーア・アルティアス(eb9782)はデュカスと出会うなり、感慨深そうに抱きついた。驚いたデュカスだが、その言葉に今までを思いだす。確かにレシーアのいう通りであった。
「あ、冬霞。こっちねぇ〜」
 レシーアが待ち合わせ場所に現れた柊冬霞(ec0037)を声をかけた。
「――ぬぁ〜んてね。この幸せ者っ♪」
「うぐっ」
 レシーアはデュカスの腕で軽く締め付ける。
「旦那様、大丈夫ですか?」
 少し咳き込んだデュカスに冬霞が小走りに近づく。レシーアは少し舌を出すと、馬車に乗り込んだ。
「よろしくなのだぁ〜」
 愛犬、愛馬と共に玄間北斗(eb2905)が走ってやってきた。
「ジャパンの食材とかは花さんのところで手に入れたとギルドで聞いたのだぁ〜。蒸籠がないかちょっと寄ってみたいのだ。あと、市場に寄っていいのだぁ?」
 玄間の提案にデュカスは頷く。いつの間にか馬車に寄りかかっていた諫早似鳥(ea7900)も市場に用事がある。ちょうどいいと心の中で呟いた。
 突然日陰になり、デュカスは振り返る。
「お餅‥何年ぶりかなぁ〜。みなさん、こんにちは」
 巨体のジャイアント、壬護蒼樹(ea8341)の登場だ。餅をつくのはかなり体力がいるとデュカスは聞いていた。頼もしい冒険者が来てくれたと仲間共々に喜ぶ。そして市場へ向かい、必要な物を揃える。
 川口花の実家に寄った玄間も市場で合流する。あいにくと蒸籠はなかったようだ。玄間は先にエテルネル村に向かうと告げてペット達と一緒にセブンリーグブーツで出発した。
「ぼくたちも向かおうか」
 デュカスが御者をして馬車は出発する。パリを囲む城壁門を抜けて向かうはエテルネル村だ。
「パリに来たのが一年前、それからいろいろな事がありました‥‥。コズミとの戦い‥‥五人で始めた村の復興‥‥」
「そうか。あれからそんなに経ったのか」
 冬霞は御者台のデュカスの横に座り、想い出を語る。
「特に、私にとって一番大きな出来事は‥‥、奥さんにしてもらった事でしょうか」
 冬霞は頬に両手を当てて顔を真っ赤にする。
「旦那様、皆様、今年一年ありがとうございました」
 冬霞は姿勢を正すとデュカスにお辞儀をした。よく見ればデュカスも真っ赤な顔だ。
「えっと‥‥、まだまだ村はこれからだけど、あまり無理しないでくれ。冬霞」
 デュカスの言葉に微笑んだ冬霞が頷く。
「そういえばさあ〜」
 レシーアがデュカスに鶏の事を告げる。あらためてエテルネル村に寄付したいということでデュカスは受け取った。
「ちょうどあったようだし、よかったです。これで‥‥」
 壬護は唾を呑み込んだ。玄間が花からもらってきた鰹節二本を軽くぶつけて音を出す。もしダシに使えるものがなければ、昆布を道中に干そうと考えていた。鰹節があればなんの問題もない。他に手に入った食材も本格的で、かなりのジャパン料理が期待出来る。そう思うと壬護のお腹は減ってきた。
 諫早は愛犬小紋太、埴輪のはにまると一緒に寝転がりながら、エテルネル村で作る料理の手順をあらためて頭の中で組み立てていた。
 寒空の下だが、それをも吹き飛ばす笑い声を乗せて馬車は駆けるのであった。

●村での準備
「待っていたのだぁ〜」
 三日目の昼頃、玄間は馬車の一行をエテルネル村で出迎える。
 昨日のうちにエテルネル村にやって来た玄間はデュカスの弟フェルナールと一緒に蒸籠を完成させていた。
 冒険者用の家屋二軒に男女で分かれる。荷物を置くと、さっそく準備を開始する。
 壬護は薪割り。蒸かす餅米はかなりあるので準備しておけなければならない。
 諫早と玄間はフェルナールと一緒にジャパンの道具を作っていた。諫早は羽子板作り、玄間は凧作りである。
 諫早はペットの小紋太と、はにまるを子供達と遊ばせておいた。
 冬霞は家の大掃除を行う。暮らし始めて日は浅いが気持ちの問題である。デュカスと一緒に埃を払うのであった。
「今のところ、平気なのねぇ。よかった」
 レシーアはまず村の医者レナルドの元を訪れる。村人は特に酷い病気にはかかっていないようだ。ただ寒い時期なので注意は必要だともいわれた。
 冬霞の事もよろしくといってレシーアはレナルドの診療所を立ち去る。それから村に張り巡らされた用水路を辿ってみる。壊れている個所はなかった。
 レシーアは水車小屋にも寄ってみた。ワンバが運んできた蕎麦を小さな石臼で挽こうとしていたが、少し残しておく事を提案した。栽培してみてはどうだろうかと。
「でもさ‥何だか食の村になりつつあるよねぇ」
「ほんまや。まあ、生きることはまず食べることから始まるよってに」
 レシーアとワンバは二人で笑い合う。
 前にレシーアが植えた豆は収穫され、今は保存されている。収穫された量が少ないので食べるには至らなかったのだ。時期が来れば畑に蒔かれ、今度こそは口に入る程の量が見込まれていた。
 レシーアはウェザーコントロールを使い、天候をよい方向に導いておく。
 夕方には全員で餅米の水洗いを行う。村人全員に振る舞うのでかなりの量だ。
「一晩つけておけば大丈夫なのだぁ〜」
 玄間の言葉に壬護が餅に思い馳せる。我に返り、餅を全部食べてしまわないように少し保存食を食べておこうと壬護は心に誓った。
「皆様、どうぞ」
 冬霞が用意した夕食を全員で食べ、明日に備えて早めに就寝する一行であった。

●餅つき
「ホカホカのアツアツなのだぁ〜」
 四日目の30日。玄間が蒸かしたばかりの餅米を包んだ麻布をひっくり返して臼にいれた。
「さてと、ここはがんばらなくては」
 着物姿にたすきがけの壬護が杵でグリグリと餅米を潰してゆく。つく前に必ず必要な作業だ。
 そうこうしているうちに冒険者達だけではなく、村人達も餅つきの庭に集まりだす。今日から三日までは見張りを除いて村の休日と決められていた。
「いくよ! 呼吸を合わせるんだよ! 最初は優しくね」
 諫早が声をかける。餅米が潰れたところで本格的なつきが始まった。
 壬護が杵を上段に構えて振り下ろす。タイミングよく諫早が水につけた手で臼の中の餅を返してゆく。
 粘りが少ない最初のうちは優しく、そしてだんだんと強く、杵のつきは変化する。そのリズムは見ているだけでも楽しいものであった。
 一番最初の餅がつきあがり、小分けされる。
「面白い〜♪」
 餅を食べた子供達はビヨーンと伸ばしながら食べてゆく。
 次のつき手は玄間の番であった。二度目のつきで、ほとんどの者の口に餅が入る。
 三度目の餅つきからは雑煮用の餅だ。ここでつき手と返し手を村人達と代わる。一度くらいなら餅つきは結構楽しい作業だ。すでに二回、餅つきの様子を見れば大体の事はわかる。
 玄間と壬護が餅米を潰すまでをし、杵つきを子供に少しだけやらせてあげた。返し手はあまりに難しいのでさすがに子供には任せられない。
 レシーアと冬霞は丸餅にする作業をしていた。正月に用意する雑煮が主な使い道だ。
 途中で諫早に呼ばれた冬霞は返し手のやり方を教えてもらう。そしてデュカスがつき手になり、餅つきをした。
 あいにくと鏡餅をたくさん作るだけの餅はなかった。玄間は鏡餅を一つだけ作り、ジャパンの文化を村人達に教える。
 ペタンペタンとエテルネル村に餅つきの音が広がった。

●大晦日
 五日目、31日の夜。相談用に作られた大きめの家屋に村にいるほとんどの者が集まる。冬霞のリクエストで部屋の中心には囲炉裏が作られていた。
「ジャパンでは除夜の鐘が響くんですよ。煩悩といって‥‥どう説明すればいいんだろ」
 壬護は子供達と一緒に蕎麦を食べながら、ジャパンの事を教える。
 蕎麦はみんなで昼間に作ったものだ。食材もほとんど遜色はなく、ジャパンそのものの味である。作りやすさを考えて繋ぎとして小麦粉を使った二八の切り蕎麦だ。
「蕎麦がきって言うのだ。こうやって出来た塊を掬い取って、付け汁につけて食べるといいのだぁ〜」
 玄間はほかに蕎麦がきを作ってみせた。興味ある者達に教えながら食べる。
「旦那様、お口にあいますかどうか」
 冬霞はデュカスに自分が作った蕎麦を食べてもらう。
「スルスルっと食べられて、とても美味しいよ」
 デュカスも気に入ったようで、手を止めずに頂いていた。ただ、木材で作った箸だけはなかなか使いこなせずに、フォークを使う。
「結構、いけるもんや。ジャパンの酒は」
「気に入ったのかい? もっと呑んじゃっていいよ〜」
 レシーアとワンバはどぶろくを呑んでいた。他にもお酒はたくさんある。踊りは年明け後にとっておいて、楽しくお酒タイムだ。
 諫早は蕎麦を食べた後、冬霞と明日の相談をしておくのだった。

●お正月
 日が昇り、年が明ける。六日目の一月一日の訪れだ。
「結構難しいな」
 羽子板を手にデュカスは首を捻る。
「顔をこっちに向けて」
 諫早が墨をつけた筆でデュカスのほっぺたに渦巻きを描くと笑い声が沸き上がる。
 冒険者達は全員で庭に出て羽根突きをしていた。
「つぎは僕がいきましょう」
「じゃ、おいらが戦うのだぁ〜」
 デュカス対諫早に引き続き、壬護対玄間の戦いである。
 二人の戦いは接戦であった。最後は顔が墨で真っ黒になる。
「旦那様、恥ずかしいのでそんなに見ないで下さい」
「いや、なんというか‥‥。綺麗だよ」
 冬霞をデュカスが見つめていたのには訳がある。冬霞はセレストにもらった打掛姿をしていた。着付け、髪結い、化粧と諫早のおかげで艶やかな姿だ。冬霞の頬は真っ赤に染まる。
「レシーア様、やってみましょうか」
「それじゃあ、いくねぇん」
 冬霞とレシーアの羽根つきが始まった。だんだんと子供達が集まり始める。女の子には羽子板と羽根を貸してあげ、男の子は玄間が作った凧揚げをする事となる。
 冒険者達は用水路で顔を洗ってから村の外に出た。
「こんな感じに飛ばすのだぁ〜」
 男の子達に凧の飛ばし方を教えた玄間は持ってきた大凧に乗る。子供達が飛ばす凧に並んで自分も空に舞う。
「あ‥‥!」
 レシーアが呟く。
 強い風が吹いて、玄間の乗る大凧がくるくると横に回る。なんとか持ち直した玄間は冷や汗をちょっぴりかいていた。
 子供達との遊びが終わり、昨日みんなで集まった大きめの家屋に再び集まる。
 おとそと雑煮を全員で頂く。様々な工夫がされて、その味はジャパンの者達も納得の仕上がりだ。おとその元になる日本酒は様々な冒険者が提供してくれた。
「懐かしいなー」
 壬護は雑煮の味で想い出が揺り起こされる。
「とっても目出度いのだぁ〜」
 玄間は狸浴衣を纏い、越後屋手拭いを捻り鉢巻をして現れる。外だと寒すぎる格好だが部屋の中なら大丈夫だ。
「これをあげるのだぁ。フェルナールさんならうまく扱えるのだ」
「こんないいものを、いいんですか?」
 玄間はフェルナールに細工用工具一式をプレゼントする。聖夜祭のプレゼントだ。
「さてと‥‥、やってみるかねぇ〜」
 レシーアは演舞を始めた。武術を採り入れた今までと違う踊りだ。
 一番のっていたのはワンバである。
「型とかないから、多少見栄えは悪いけどね〜」
 少々の損じたところは笑顔で誤魔化すレシーアであったが、拍手でフィナーレを迎える。
「旦那様、こちらをどうぞ」
「では、ぼくも」
 冬霞がおとそをデュカスに注いだ。デュカスも冬霞に注ぐ。
 諫早はペットと遊ぶ子供達や料理に手をつける村人の様子を眺め、一度大きく頷いた。
 雑煮だけでなく、丸餅は焼かれて醤油がつけられた。また違った味に村人と冒険者達は頬を綻ばせる。
 エテルネル村はのどかであった。

●パリ
 楽しい時間は終わり、七日目の朝に冒険者達を乗せた馬車は帰路につく。
 セレストからもらったハーブは畑の一部に植えられてある。冬霞の体調を保つ為に。
 八日目の夕方に馬車はパリへと到着した。
 デュカスは冒険者達に感謝し、少しだけ持ってきた収穫物を売りに市場へと向かうのだった。