作刀の村タマハガネ 〜シルヴァン〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 32 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月28日〜01月09日

リプレイ公開日:2008年01月05日

●オープニング

 パリ北西に位置するヴェルナー領は、ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーの領地である。
 その領内の森深い場所に、煙が立ち昇る村があった。
 村の名前は『タマハガネ』。
 鍛冶職人の村である。
 鍛冶といっても他と赴きが違う。ジャパン豊後の流れを汲む作刀専門の鍛冶集団であった。
 村の中心となる人物の名はシルヴァン・ドラノエ。ドワーフである彼はジャパンでの刀鍛冶修行の後、ラルフの厚意により村を一つ与えられた。
 ジャパンでの修行後期に作られた何振りかの刀が帰国以前にノルマン王国へ輸入され、王宮内ですでに名声が高まっていたのだ。
 ジャパンから連れてきた刀吉と鍔九郎、そして新たに集められた鍛冶職人によって炎との格闘の日々が続くが、完成した刀剣は少ない。
 そのほとんどがブランシュ騎士団黒分隊に納められる。中でも真打はラルフ黒分隊長の元に、影打はエフォール副長の元にあった。


「これでようやく、施設に関しては元に戻るな。問題は‥‥」
 鍛冶師シルヴァンは散歩をしながらタマハガネ村の様子を眺める。
 ノストラダムスの預言の七月にタマハガネ村はデビルに襲撃され、かなりの被害を受けていた。
 現在はルーアンから派遣された兵士達が駐在し、護りも万全である。
 一言で作刀といっても工程は非常に細かく、そして設備も膨大だ。これがジャパンなら村単位で分担されていてもおかしくないのだが、このノルマンの地においては全てを自分達で賄わなくてはならない。
 川から砂鉄を採取。融かすのに最適な炭作り。様々な場面で使う藁。焼刃土用の土など、その他にもいろいろと必要だ。特に砂鉄と炭は大量に使う。
「シルヴァン殿、すぐにでも作刀の再開をしたい所ですが‥‥」
 夜、シルヴァンの住処を刀吉と鍔九郎が訪れていた。刀吉の言葉にシルヴァンは腕を組んで囲炉裏の炎を眺める。
「俺もわかっている。職人の数が足りないのだな。デビル襲来の悲劇は忘れていない。村人の三分の一が亡くなったあの日の事を‥‥。職人達だけでなく、その伴侶や子供も犠牲となった‥‥」
「力仕事から始まって、鍛冶の技を持つ者も‥‥足りない。もちろん現状の人数でも時間をかければなんとかなるが、それでは間に合わない。デビルとの戦いに身を投じるラルフ様の要望には」
 シルヴァンに鍔九郎が答える。
「ラルフ殿に相談すべきです」
「ラルフ様にこれ以上の頼む訳にはいかないだろう。設備の修復、そして護りの兵士に関してもかなり無理をいったのだ」
「かといって、そのラルフ様が必要としているのだろう? デビルを斬り伏せる為の『シルヴァン・エペ』を」
「そう簡単に我々の要求に答えられる者達を集められると思うのか?」
 刀吉と鍔九郎が口げんかを始める。シルヴァンが諫め、無言の時間がしばらく続いた。
「ラルフ様と酒を酌み交わした時、聞いた事があるのだが、『冒険者ギルド』の冒険者達はとても頼りになると」
 シルヴァンは冒険者に頼んでみてはどうだと二人に相談した。シルヴァンはノルマン出身であったがパリに居住した事はなく、冒険者ギルドをよく知らなかった。当然利用した事もない。
 刀吉は賛成し、鍔九郎は反対する。
 話し合いの結果、試しに頼んでみようという結論に達した。
 ゲルマン語も達者で馬の扱いにも慣れた刀吉がパリに行って依頼を出すこととなる。
 シルヴァンは不安を感じながらも、馬車で出発する刀吉を見送るのであった。

●今回の参加者

 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea7372 ナオミ・ファラーノ(33歳・♀・ウィザード・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb2927 朧 虚焔(40歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3781 アレックス・ミンツ(46歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec1250 アリア・ラグトニー(22歳・♀・レンジャー・シフール・エジプト)
 ec1565 井伊 文霞(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec2965 ヴィルジール・オベール(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

井伊 貴政(ea8384)/ ディエミア・ラグトニー(eb9780

●リプレイ本文

●タマハガネ村
 冒険者達は刀吉の馬車に乗り、二日をかけてパリからタマハガネ村に到着する。
 山中の高い木々の育つ森の中なので暗くなるのが早い。着いた頃は夕方のはずだが、夜と表現してもおかしくない闇に包まれていた。
 冒険者達は村の所々に真っ赤に輝く施設をいくつか目にする。炉や窯の炎だ。鉄の臭いが鼻につく。
「こちらです。少々お待ちを」
 刀吉によって冒険者達は寝床となる家屋に案内された。しばらくすると、村の主であるシルヴァン・ドラノエが現れる。刀吉と鍔九郎も一緒だ。
「シルヴァン・ドラノエだ。刀吉はすでにお知りのはず。こちらが鍔九郎。鍛冶というのは一人で成り立たない作業が多々ある。何かわからない事があれば、刀吉と鍔九郎に聞いてくれ。もちろん俺も答えよう」
 シルヴァンに続いて刀吉と鍔九郎も挨拶をした。
「ノルマンの刀匠、ヴィルジール・オベールじゃよ。よろしくのぅ。ヴィルと呼んでくだされ」
 冒険者側はヴィルジール・オベール(ec2965)を皮切りにして全員の挨拶が行われた。
「全体的に手が足りないのだが、出来るだけ要望に沿った仕事をしてもらうつもりだ。能力も関係してくるのだが、まずはお聞きしよう」
 シルヴァンは囲炉裏のある板間にあがり、冒険者達と膝をつき合わせる。刀吉と鍔九郎はその後ろでメモをとった。
「刀の本場ジャパンで修業されたとか。是が非でも力になりたいと思いますわぃ。ワシは玉鋼を作成致したい。砂鉄を集める作業、そして実際に玉鋼を作る工程じゃな」
 ヴィルジールの仕事は要望そのままに決まった。明日からは鍔九郎の監督下での作業となる。
「ヴィルが砂鉄を採りにいくのなら、私は炭焼きを手伝おう。他にも玉鋼作りの温度や時間管理も手伝うつもりだ。もちろんシルヴァン達がいうような仕上がりにしてみせる」
 アリア・ラグトニー(ec1250)の要望も元々の鍛冶の腕もあってすんなりと通る。明日からは鍔九郎の監督下だ。
「シルヴァンさんの補助役に回ります。道具の手入れを始めとして雑用をこなすつもりでいますが、出来れば刀を打つ際の相槌役を任せて頂きたいと考えています」
 朧虚焔(eb2927)の願いにシルヴァンは腕組む。そしてしばらく様子見をしてからと答えた。実際に目にしてはいないが、今までの経歴からいっても、朧虚焔の鍛冶の技量は相当なものだろう。不足はない。だが相槌役となるとお互いの呼吸も関係してくるので、断言は避けたのだ。明日からはシルヴァンの監督下になる。
「実際に刀を打つ作業を中心にしたいとは思っている。だが力仕事や材料集めが人不足ならそちらに回るつもりだ。どんな仕事でも腐り、サボることはしない。何でもいってくれ」
 アレックス・ミンツ(eb3781)はシルヴァンと話しながら、心の中でラルフ黒分隊長を思いだしていた。何度か戦いを一緒に潜り抜けた間柄だ。ラルフ黒分隊長が必要としているのなら、ここは恥のない仕事をしなければならない。アレックスは朧虚焔と同じくシルヴァンの監督下になる。
「わたしくは鍔や目貫、縁頭、笄とかの刀身とは別の作業をしたいと思うわ。出来れば鞘の工程も見学させて頂けるといいのだけど」
 ナオミ・ファラーノ(ea7372)の要望も聞き入れられた。刀作りで目立たない部分の作業だが、ここがおろそかになると刀は刀でなくなる。明日から刀吉の監督下での作業となった。
「わたくしは作業の補助や、材料の調達や準備などの雑務を担当させて頂きたいと思います」
 井伊文霞(ec1565)は鍛冶の作業場となる火床と呼ばれる小屋に様々な材料を運ぶ役目となった。炭などの材料の補充である。その他に材料の手入れなどもしてもらう予定だ。刀吉の監督下となる。
「今わたくしに出来る事は‥‥警備の人達を労いつつデビルの襲撃に関しての対策を練ることかと考えています。鍛冶に関しては後ほど二振りの刀剣をお見せする所存です」
 三笠明信(ea1628)は主に村の警護について手伝うつもりであった。シルヴァンは村の護りを任せているルーアンから派遣された兵士長への手紙を用意して三笠に手渡した。これがあれば、いろいろと警備について話してくれるはずだと。
「大分遅い時間になってしまったな。明日からよろしく頼んだよ。期待している」
 シルヴァンと刀吉、鍔九郎は家屋を後にした。

●砂鉄
「ここで集められるのじゃな」
 ヴィルジールはその様子に目を見張る。
 鍔九郎が案内してくれた場所は山の斜面にある人工の小川であった。山中の川から水が流されている。途中に何カ所か池があり、山の一部を崩して土砂を流し込んでいた。砂鉄は重いので沈殿する。それを集めるのだ。
 やることはたくさんある。土砂を流し込む作業。川底から砂鉄を取りだす作業。天日で砂鉄を乾かす作業。
「さて、がんばるかのぅ」
 依頼の前半はこれらの作業に精を出すヴィルジールであった。

●炭
「これぐらいの炎でよさそうだね」
 アリアは窯の前に座り、じっと炎と格闘する。
 炭にする作業を任されたアリアは他の炭焼き職人と一緒に森の中にいた。必ずしも一般に良いとされる炭が刀作りに適している訳ではない。
 特に玉鋼作りにおいては生焼けの炭が良いとされている。高温になりすぎても駄目、低温でも駄目なのだ。半端な温度で作ることで、肝心な玉鋼部分と不純物部分が分かれてくれる。
(「ディエミアも出発の時、みんなと仲良くしろといっていたし‥‥。それなりには気をつけるか」)
 アリアは自分の経験を活用しながら、炭焼き職人達の意見を聞いて理想の炭を作り上げてゆくのだった。

●玉鋼
「アリア殿、ここが肝心ですぞ」
「その通りね。ここからが大変」
 ヴィルジールとアリアは出来上がった炉を眺めた。既に火が入り、フイゴによって炉の中の炭は真っ赤に燃えさかる。
 玉鋼作りの指揮は鍔九郎が執っていた。三昼夜に渡る長い戦いの始まりだ。
 タイミングを計って砂鉄が投入される。炭と砂鉄は繰り返し炉の中に入れられてゆく。
 不純物が混ざっているノロが流れだす。
 アリアとヴィルジールは職人に混じり作業を手伝いながら、タマハガネ村でのやり方を覚えてゆく。次の機会があれば任せられても大丈夫なように。

 炉が壊されて、中から大量のケラが取りだされる。細かく砕き、質によって選別される。すべてが玉鋼になる訳ではない。一部のみが作刀に使われるのであった。

●相槌
「この数日間、よくやってくれた。これから『水減し』『積み沸かし』『鍛錬』と続けてゆくが、相槌を任せようと考えている。朧殿、アレックス殿、よろしく頼むよ」
 シルヴァンは炭で真っ赤に燃える炉の近くでフイゴを使い、風を送る。普段は刀吉と鍔九郎の役だが、今は他の作業の監督を任せている。もし相槌を任せられるならば、全体を把握しやすい状況が出来上がるはずだ。
「それでは、アレックスさん」
「いくぞ」
 交互に朧虚焔とアレックスが水につけた鎚を振るう。鉄床の上に置かれた玉鋼を叩かれ、真っ赤な火花が散る。何度か繰り返し、シルヴァンは平たくした玉鋼を水に入れた。
 冷えたところで割り、テコ棒の上に積んで縄で縛る。
 長い作業の始まりであった。

 休憩時間、朧虚焔はシルヴァンに提案した。いろいろなタイプの刀を用意したらどうかと。
 朧虚焔のいう事はもっともなのだが、今はその時期ではないとシルヴァンは答えた。多少のブレはあるにしろ、形状を揃えた方が周囲の職人の負担は軽くなるからだ。
 今は少しでも早く、そして多くのデビルに対抗出来る刀を作る事こそが使命だとシルヴァンは考えていた。

●分解
「こういう感じなのね」
 ナオミは刀吉から借りたシルヴァン・エペの目釘を抜いて分解する。
 デザインは西洋と東洋が合わさっていたが、構造そのものは日本刀である。
 そこから自分が理解しやすいように図面を引く。ここは寸分違わぬ同じ物を作るつもりのナオミであった。
 刀吉から遊びはどれくらいなのかを聞いておく。数字というより感覚での話だが、そこは鍛冶職人同士である。指先でわかる世界がそこにあった。
 刀身作りの火床とは別にある鍛冶小屋を借りて、製作に没頭した。

●材料
(「労いの弁当、とても美味しかったわ。また腕を上げたようです」)
 井伊は食事を頂きながら、初日に渡してくれた弟の貴政特製弁当を思いだす。長く会っていない間に成長したものだと感慨深い。
 井伊は張り切って作業を再開する。
「あらためて思いますけど、本当にたくさんの炭が必要なのですね」
 台車に載せて炭を運ぶ井伊は呟いた。
 玉鋼を作る際の炭とは違い、刀を鍛えてゆく際の炭は火力の強い松が使われる。それらを使う量が半端ではない。これでもかと使われるのである。
 なるべく森に負担をかけないように広い範囲から木材は切られた。炭焼きの場所も村の中だけでなく、山中にも何カ所か存在する。井伊はそれらを回って火床に運んだ。
 木材だけでなく、砂鉄も大量も使われていた。
 たった一握りの玉鋼の為に、一振りの刀の為に、たくさんの素材と労力がつぎ込まれる。
 そして出来上がるのが日本刀である。
 井伊は時間のある時に、刀吉からシルヴァン・エペを貸してもらう。その刃紋に魅せられる井伊であった。

●護り
「デビルに対しての防護は万全のようです。しかし、やはりというか村人の心の傷は癒されてはいませんね」
 三笠はタマハガネ村を回った得た感想をシルヴァンと話した。刀剣二振りに関しては三笠の大切なのものなので、あえて拝見するのを遠慮する。今はシルヴァン・エペの製作に集中したい事とも関係する。
 残る時間、三笠は木材運びを手伝ってくれた。

●終了
 時間は過ぎ去る。
 アリアは一人の職人から提案される。村でしか使えないが、必要な器具があれば作る用意があると。的確に炎の色を見てくれたお礼なのだそうだ。
 ナオミは刀身に合わせていろいろな部分を作り、仕上げに貢献する。
 ヴィルジールのがんばりでかなりの砂鉄、そして玉鋼作りがはかどった。
 朧虚焔とアレックスはシルヴァンと息を合わせ、かなりの状態まで鋼を鍛え上げる。
 井伊は細やかな道具の手入れでシルヴァンから感謝される。
 三笠は大木の搬送に力を貸してくれた。

 十一日目の朝、馬車に乗り込む冒険者達をシルヴァンと刀吉、鍔九郎は見送った。
 シルヴァンは感謝の言葉と共に気持ちながら追加の謝礼金を冒険者達に渡す。
「シルヴァン様、俺が間違っていました。冒険者達はよくやってくれた」
 鍔九郎の言葉にシルヴァンは頷いた。
 刀吉が御者をする馬車がタマハガネ村から遠ざかってゆく。
 参加した冒険者達にも様々な感想がある。それらは本人しか知り得ない事もあったが、共通した意見もいくつかあった。
 一番大きな意見は、当初からわかっていたことだが人不足についてだ。その為に作業が滞ってしまう。
 様々な工程を同時進行していたせいもあるが、期間中に完成した刀身はなかった。
 これは手伝いにいった冒険者が悪いのではなく、タマハガネ村の問題である。デビル襲撃の際、かなりの職人が亡くなったのだろう。
 職人の中にはデビルへの憎悪を原動力とし、体調を無視して働いている者もいた。
「デビルがまた襲うこともあり得るのかしら?」
 ナオミの呟きは三笠の疑問でもある。
 デビルを討ち滅ぼす刀剣作りのタマハガネ村。再び襲われても不思議ではない。
 十二日目の夕方、冒険者達は無事にパリへと到着した。


●六段階貢献度評価
三笠 1
ナオミ 3
朧 2
アレックス 2
アリア 2
井伊 2
ヴィルジール 2