海上で待つ者は 〜トレランツ運送社〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:8 G 65 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月30日〜01月07日

リプレイ公開日:2008年01月07日

●オープニング

 パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
 セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
 ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。新鮮な食料や加工品、貴重な品などを運ぶのが生業だ。


 フレデリック領で手に入れた『羊皮紙を綴じた束』は写しがとられ、ヴェルナー領のラルフ領主へすでに届けられてあった。
 トレランツ運送社男性秘書ゲドゥルは人物名『ガルセリア・トゥーノス』と組織名『オリソートフ』について独自の調査をするが、ルーアンで手に入った情報は皆無である。
「オリソートフねぇ〜。職人寄り合いの上層部が集まった組織かい。まあ、そういうのがあっても不思議じゃないが、一般に知られていないってのが気にかかるね。だからこその闇の組織なんだろうが‥‥。で、そいつらがノルマン王国をひっくり返そうとしている訳かい? たかが、小さな領内の寄り合い程度の分際で」
 社長室で女社長カルメンとゲドゥル秘書はいつものように話し合っていた。
「そうは仰られても、所属してるグラシュー海運の社長シャラーノは元領主の娘。メテオスは貴族出身の武器商人。侮ってはいけないかと」
「少ない武力でノルマンをひっくり返そうとしているのなら、テロか要人暗殺しかないだろ。その為のジャパンの忍者なのだろうしね。同業者が殺されたのは前準備って辺りかねぇ‥‥。てっとりばやいのが王様の暗殺だろうが、もし出来たとしてもオリソートフなる組織がノルマンを牛耳れるとは限らない。あたしが知らないだけかも知れないが、そこまで王宮内部に食い込んでいるとは思えないしね。王様に世継ぎはいないが、メテオスに御鉢が回る事もあり得ないだろう。‥‥だとすれば頑張ったところで国内に混乱を引き起こすが関の山だ」
「ですがそんなことしてたら、混乱に乗じてまたどこかの国に占領されてしまいますね。そういう国からの支援で混乱を起こそうとしている可能性は?」
「可能性は0ではないだろうが、話がでっかすぎるね。あたしらがいるヴェルナー領と対立関係にあるとはいえ、フレデリック領は所詮弱小領‥‥地‥‥」
「カルメン社長、どうかなさったんですか?」
「ものすごく当たり前の事だが、目の上のたんこぶだよね。フレデリック領主フレデリック・ゼルマにとってヴェルナー領主ラルフ・ヴェルナー様は」
「そうなりますね」
「オリソートフの最終目標は何だかわからないが、その過程でラルフ領主を狙う可能性は高くないかい?」
「元々黒分隊長として自ら前線へお出になられる事が多いお方ですから‥‥」
 カルメン社長とゲドゥル秘書の話し合いの途中、社長室のドアがノックされる。女性社員に案内されてやってきたのは、ヴェルナー城からの使者であった。
 使者は来社までの経緯を説明する。
 ヴェルナー城には『ガルセリア・トゥーノス』なる人物から保護してもらいたいという内容の手紙が届いていた。
 当初無視されていたのだが、カルメン社長の報告から重要な案件ではないかとの考えに至ったという。
「ガルセリアは接触場所としてドーバー海峡内の海上を指定しているのだ。貴社の協力を願えないだろうか?」
 使者がカルメン社長にヴェルナー家の紋章印で封蝋された手紙を渡した。
「‥‥あたしどもでよろしいのであれば喜んで」
 カルメン社長が了承すると、使者は立ち去った。
「シャラーノが血眼になって追っている謎の人物自ら接触してくれるみたいだね‥‥。万全にやらないといけないね。冒険者にも手伝ってもらおうか」
 カルメン社長の指示に従ってゲドゥル秘書はパリの営業所に手紙を出した。冒険者ギルドへの依頼内容をしたためた手紙を。

●今回の参加者

 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2884 クレア・エルスハイマー(23歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3525 シルフィリア・ユピオーク(30歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec0317 カスミ・シュネーヴァルト(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

李 風龍(ea5808)/ リアナ・レジーネス(eb1421)/ マアヤ・エンリケ(ec2494

●リプレイ本文

●海
 冒険者達を乗せた帆船はパリを出航し、翌日の昼にはルーアンを通過する。その際、小舟によっていくつかの物が帆船に運ばれる。
 夕方頃にはセーヌ河口に辿り着く。そのままどこにも寄らずに海原へと帆をなびかせる。
 冒険者達はすでに様々な用意の上で行動を起こしていた。
「今の所、問題はないわ」
 クレア・エルスハイマー(ea2884)はマスト上の見張り台で不審船やモンスターがいないか監視を行っていた。
「フッフフーン♪ ‥‥エレンとエレナ、どうしてるかな」
 エル・サーディミスト(ea1743)は自分の能力が発揮できるように植物を持ち込ませてもらった。鼻歌混じりに水やりをするエルだ。
「何をしているの?」
 エルはまるごとあざらしくんを着込み、ふわふわ帽子を被ってゴロゴロしている黄桜喜八(eb5347)に声をかける。
「たてごとあざらしっ!」
 白いフワフワした毛で有名なあざらしの真似のようだ。
「よく真似てるな。見たことあるぞ。北の海で」
 甲板で夕日を観ていた船長アガリも黄桜に近づいた。
「それはそれとして‥これ、使って欲しいんだがよ‥‥」
 黄桜はストリーボグの旗を船長アガリに渡す。風向きの変化が前もってわかる優れものだ。船長アガリは感謝して借り受けた。
「これでいー感じです。おまちどおさま〜」
 井伊貴政(ea8384)の特製スープが出来上がると、狭い食堂に集まる船乗り達から歓声が沸き上がる。初日に出された料理を船乗り達はとても気に入ってくれたのだ。普段は持ち回りで料理当番らしい。
 井伊は毒の混入に気をつけていた。敵に忍者がいるのは判明している。変装して乗り込まれているかも知れない。
「近頃の海はそんな事に‥‥大変だな」
 エメラルド・シルフィユ(eb7983)は知り合いの船乗り達と肩をくっつけ合いながら井伊のスープを頂く。
 船乗り達によれは、例年より海が荒れているという。船の難破も少しではあるが多いらしい。他の船乗り達と呑んだ時、大きなモンスターの噂も聞いたそうだ。
「これが終わったら、みんなの変装も手伝うつもりだよ。もう海に出る頃だしね」
 シルフィリア・ユピオーク(eb3525)は給仕として井伊の手伝いをしていた。その姿はすでに船乗り姿である。
 シルフィリアも忍者の潜入を危険視していた。何か怪しい点がないか、船乗り達にも目を光らせる。
「悪いね。こんな事させちまって」
「いえ、最初からこうするつもりだったので気にしないで下さいね」
 クァイ・エーフォメンス(eb7692)は調理場近くの廊下で食材を切る為のナイフや鍋などの補修作業をする。声をかけてきたのは通りすがりの船乗りだ。
 クァイはこれが終わったら、ダウジングペンジュラムでガルセリアについて調べるつもりでいた。もしかすると指針になる何かがわかるかも知れないからだ。
 リアナからの手紙はルーアンを過ぎる時にクァイは受け取っていた。残念ながらパリでもガルセリアの情報はなかったようだ。
 同じようにマアヤから井伊宛てに出された手紙もガルセリアについての情報はない。今の所、まったくの謎の人物だ。
「ない‥‥ですね」
 クァイが鉄製品の補修をしていた頃、コルリス・フェネストラ(eb9459)は冒険者達に与えられた船室でダウジングペンジュラムを海図に垂らし、様々な単語で調べていた。
 これといった反応はなかった。しかし、この時のダウジングが機能していたとしても、動かないのが当然なのが後にわかる。
 コルリスはあきらめると、地下倉庫にいるグリフォンのティシュトリヤに会いに行く。
「かわいいですね」
 カスミ・シュネーヴァルト(ec0317)は甲板で膝を曲げて屈む。あざらし姿の黄桜を観て和んでいた。ロシア出身のカスミにとってはなじみ深い動物である。
「先程、フランシスカさんとガルセリア氏は河童ではないかと話されていましたが、私も陸上に住む種族ではないのかもと思っています」
「そう思ってるんだけどよ‥‥。どうなんだろ‥‥な」
 カスミは黄桜と一緒に水平線に沈む瞬間の太陽を眺める。
「海の依頼は初めてですが、がんばらないといけません」
 レイムス・ドレイク(eb2277)はランタンを手にして客人専用の船室を訪ねる。ガルセリアの為に用意されたものだ。
 レイムスはガルセリアと付きっきりで護衛をするつもりであった。少しでも会話をなめらかにする為に、予め調理場からワインをもらってきたのである。
「果たしてどうなるでしょうか」
 レイムスは揺れる船室内で呟く。船長アガリによれば、明日の夕方頃、手紙で指定されていた場所に辿り着くという。
 明日の今頃、ガルセリア・トゥーノスはこの船室にいるはずであった。

●正体
 三日目の暮れなずむ頃、帆船は約束の場所に到着しようとしていた。
「おエメ‥‥腹‥‥冷やすなよ」
 黄桜はエメラルドに声をかけると海に飛び込む。ケルピーのタダシと、スモールシェルドラゴンのオヤジも一緒だ。
「では、いってきます」
 コルリスはグリフォンに跨り、周囲の警戒と探索に向かう。
「私は東側を見てまいりますわ」
 クレアはペガサスのフォルセティで、コルリスとは反対の方角の空に飛び立つ。
 間もなく目的の場所に到着する。だんだんと空が赤く染まり始めた。
 冒険者達のほとんどは変装をし、それぞれに待機する。
 手紙には今日を含む三日間の夕日が沈む頃にガルセリアは現れると書いてある。ただしどのような方法なのは記されていない。
「やはり‥‥河童さん?」
 カスミがブレスセンサーで探った所、海上辺りに人らしき呼吸を見つける。とても小柄な人であった。わかる範囲は100メートル以内なのに、その方角を観ても船影は見つからない。波は荒れ気味だが、視界は良好のはずなのに。
 カスミは船乗りに頼んで鐘を鳴らしてもらう。上空からコルリスとクレアが戻り、海中から黄桜が顔を出す。
 エメラルドに確認してきて欲しいと頼まれた三人は、カスミのいう方角に向かう。
「こんにちは。こう揺れると歩きにくいんです。乗せて頂けますか?」
 波打つ海面にはエルフの少女が立っていた。驚く冒険者達に少女が挨拶をする。彼女はウィザードらしく、ウォーターウォークで海の上を歩いてやってきたようた。
「いや‥‥違いますわ」
 クレアは呟く。帽子のせいで確認しづらいが耳の形が違う。彼女はエルフではなく、ハーフエルフのようだ。
 コルリスがグリフォンに少女を乗せて帆船まで運んだ。
 クレアは引き続き、空の警戒を行う。
 黄桜はペット二匹と共に海中の警戒だ。
「ガルセリア・トゥーノス‥‥なのですか?」
 レイムスが甲板に降りた少女に訊ねる。
「いえ、ガルセリア・トゥーノスは父ですが亡くなりました。わたしはリノ・トゥーノス。ラルフ様に保護を求めたのもわたしです。使者の方々、父の名を騙った事はお許しを」
 リノ・トゥーノスと名乗った少女は礼儀正しく挨拶をするのであった。

●護衛
「すべてはラルフ様にお会いした時にお話するつもりでいます」
 船室に案内されたリノは淡々と答える。
 レイムス、エメラルド、エルが船室に残り、付きっきりの護衛となる。残る仲間はそれぞれの任に戻る。
 黄桜はペット二匹を指揮して海中の警戒だ。怪しい感触があれば自ら潜って確認をとる。
 クレアは船乗りと交代で監視台での見張りを行う。
 コルリスはグリフォンで上空の警戒。
 カスミは魔力の許す限り、ブレスセンサーで帆船に近寄る生き物の監視を行っていた。
 クァイはまるごとこまいぬとスカルフェイス姿のまま、廊下で警戒する。リノと名乗る者をまだ信用した訳ではなかった。もし敵ならば、顔を覚えられるのは非常にまずい。
 井伊とシルフィリアは食事の係を続けることにした。忍者が潜入しているのなら、これからが行動の時だ。注意深く、周囲を監視する二人であった。

「もし喜八が来ても、近付いちゃ駄目だよ、痺れさせちゃうからね」
 エルはプラズマフォックスのグレーシャに言い聞かせる。水に濡れた黄桜にやって来ても近づかないようにと。
 他にもエメラルドのリザード、ミスティも船室に置かれていた。
「せめて、これが何かくらいは教えてはくれないだろうか?」
 エメラルドは、カルメン社長から預かった羊皮紙を綴じた束からの写しの一文を、リノに見せる。
「これを手に入れていたのですか。それでですね。今まで無視されていたのに、突然保護の願いがかなったのは」
 リノが自分だけがわかったような顔をする。エメラルドだけでなく、レイムス、エルもあまりいい気分ではない。
「こちらでもどうですか?」
 レイムスはワインではなく、発酵していない葡萄ジュースを調理場から取り寄せてリノに勧める。
「ありがとう」
 リノは素直に飲んだ。
「ところで――」
 レイムスはうち解けようと何気ない話題をリノに振った。
 エルは黙ってレイムスとリノの話に耳を傾ける。もしシャラーノの間者なら、ヴェルナー領内が混沌とする。暗殺され放題になってしまうだろう。忍者ではなくウィザードだが、危険な存在なのは間違いない。
「シャラーノとは会ったことがあるのか?」
 エメラルドはレイムスの話が終わるのを見計らってわざとストレートな質問をする。例え答えなくても、表情などの反応から感情は計れる。
 父親のガルセリアは深く関わっていたようだが、リノ自身はシャラーノとの関係は薄いのが何となくだがわかる。
(「あれは‥‥ブロズ家の‥‥」)
 レイムスはリノの首から下がる父親の形見だといっていたペンダントを見つめる。図案はブロズ家の紋章に似ていた。ブロズ家といえばシャラーノの家系である。
 椅子の背もたれに寄りかかりながらも、エルは緊張に身を置いていた。この船室にも植物の鉢が置いてある。何かあればすぐにでもリノを拘束するつもりだ。
 一見四人がくつろいでいる船室は、実は緊張感の漂う空間であった。

●侵入者
 襲撃されたのはリノを保護した深夜であった。
「散りなさい!」
 空中で魔法詠唱する敵シフール達をカスミがストームで蹴散らす。
「空から船室に潜り込もうとする敵を叩きます」
「私はまず船上からファイヤーボムで。その後で合流しますわ」
 コルリスがグリフォンで舞い上がり、クレアはペガサスを傍らに置いて炎の精霊を操る。
「やらせないわ!」
 クァイは弓をしならせ、接近するシフールを見張り台から撃ち落としてゆく。矢はトレランツ側が用意してくれるので心配はない。
(「懲りない‥‥奴らだな‥‥だけどもよ‥‥」)
 黄桜は暗い海中で敵忍者と対決する。
 敵は忍者の他にガマが一匹の合計二体。黄桜はペット二匹と術で出したガマの助で、合計四体。
 数の上では圧倒的優位に関わらず、黄桜側の分が悪かった。かろうじて五分という感じであった。
 黄桜は疑問を持ちながら水中戦を続ける。そして理解する。敵忍者の正体が自分と同じ河童である事を。
 フランシスカの加勢が入って黄桜側が押し始めると、すぐに忍者は撤退した。引き際を心得ている敵であった。

「ここは僕に任せて!」
 井伊が叫び、シルフィリアが駆けだす。
 二人の船乗りが食材に毒を仕込んだ現場を井伊とシルフィリアは目撃した。一人は井伊が取り押さえようとしていたが、もう一人は廊下に飛びだしてしまう。その足の速さは尋常ではなかった。
「敵襲だよ! エメラルド! レイムス! エル!」
 シルフィリアはあらん限りの大声で叫んだ。
 船乗りはリノが休む船室のドアをぶち破る。侵入しようとした船乗りの足に蔓が絡みついてバランスを崩させる。エルの機転だ。
 エメラルドの輝ける剣がランタンだけの暗がりの部屋に軌跡を残す。クナイを取りだした船乗りとの戦いが始まる。
 レイムスがリノから離れずに護衛を行う。
 エルの援護もあって、エメラルドは船乗りを追いつめる。
 戦いの終わりはあっけなくやって来る。突然に船乗りが倒れ込む。どうやら毒を飲み、自害したようだ。
 術が解けて姿が変わる。
 尋ねたい事もあったが、こうなっては仕方なかった。

●ルーアン
 昨晩の襲撃では味方に大した被害はなかった。リカバーで治せる程度で済んでいた。
 四日目の夕方に帆船は河口に到着し、セーヌ川を上り始める。五日目の昼前にルーアンへ入港する。
 六日目がヴェルナー城での謁見日となった。
 リノの他にカルメン社長、ゲドゥル秘書、そして冒険者達の立ち会いが許される。
「ガルセリア・トゥーノスではなく、リノ・トゥーノスなのだな?」
「はい。おそれおおくも欺く事となり――」
 ラルフ領主はリノに質問を行った。そして多くの事実が明らかになる。
 ガルセリアはシャラーノの父である元領主ブロズの臣下であった。ブロズが断罪された後、一度は野に下ったシャラーノと行動を共にしたのだが、ついてゆけずに家族を連れて逃亡。その途中で命を落とす。リノの母親でもあるガルセリアの妻も命を落とした。
 ガルセリアはブロズの下で、伝令組織の監督をしていた。
 ブロズ領で使われた暗号はすべてガルセリアの息がかかってた。それらを引き継いだグラシュー海運内の暗号文書も同様である。
 シャラーノがガルセリアを探していた理由を冒険者達は理解した。彼が何者かに暗号の解読方法を知らせれば被害は甚大であるからだ。
 リノは父親から暗号の解き方を教えてもらったと答える。試しに羊皮紙を綴じた束が渡された。
 リノが読み始めると、ラルフ領主、カルメン社長、ゲドゥル秘書の顔色が変わる。
 羊皮紙を綴じた束の内容は名簿であった。ただの名簿ではない。オリソートフの協力者の名前である。
 読まれた名前の多くにヴェルナー領内の有力者のものも含まれていた。
 謁見の間は重苦しい雰囲気に包まれるのであった。

●パリへ
 七日目の朝、冒険者達は帆船でルーアンを出航する。
 別れ際にカルメン社長は追加の謝礼金を冒険者達に渡した。そしてラルフ領主と相談をしてから、なるべく早いうちに依頼を出すことを伝えた。
 リノはしばらくトレランツ本社内で預かる事となる。安全を考えれば城の方がよいのだが、リノの希望であった。真意をリノは語ろうとはしなかった。
 八日目の夕方、冒険者達を乗せた帆船は無事にパリへと入港した。