●リプレイ本文
●冒険者
「プラティナ、プラティナ、どこ〜」
半泣きしながらコリルは叫ぶ。
ちびブラ団の男の子三人も懸命に探すが、目にするのは市場に集まる人ばかりだ。
「お、ちびブラ団のベリムートはん、どないしたんや? そないな顔して、またなんかあったんやな」
「ウサギが喋った?!」
ベリムートは建物の影から顔だけを出して喋るウサギに驚く。
「あ、違った‥‥。中丹さんだ。あのね――」
ウサギが喋ったのではなかった。ウサギのうさ丹を片手に抱いた河童の中丹(eb5231)が建物の影から現れたのだ。馬のうま丹も一緒だ。
「まあまあ、おいらも探すさかい」
ベリムートから事情を聞いた中丹は自分の胸をドンと叩いた。その後、むせたのは他のちびブラ団には内緒である。
「行方不明?」
サーシャ・トール(ec2830)はキョロキョロと辺りを見回していたコリルが気になって声をかけ、話を聞いた。どうやらこの前のフェアリー、プラティナが行方不明になったらしい。
サーシャとフェアリーのシーリアは顔を見合わせて頷く。
「心配だね。怖い思いもしているかもしれないから早くみつけてあげないと」
「うん‥‥」
サーシャとコリルの会話は続く。それを通りすがりのグロリア・ヒューム(ea8729)が耳にする。
「私も探すのを手伝うわ」
「お姉さん、ありがとう〜」
グロリアにコリルは涙目でお礼をいった。
「こっちにいるよ」
「そんなに急ぐと転びますよ〜」
アウストがエーディット・ブラウン(eb1460)の手を引いてコリルの元に走ってきた。すぐ後ろをノルマンゾウガメがトコトコとついてくる。
「聞きましたですよ〜。妖精さんが迷子になったですか〜。大変ですね〜。私も探すのを手伝うですよ〜」
「大切なおともだちなの‥‥」
にっこりと首を傾げて笑うエーディットを観てコリルは涙を指で拭く。
一瞬、コリル頭上に影が落ちる。
次の瞬間に現れたのはフライングブルームに乗ったアニエス・グラン・クリュ(eb2949)とクヌットである。アニエスはプラティナ探しのクヌットと会い、事情を聞いて駆けつけたのだ。
「コリルさん、自分を責めないで下さいね。今後気をつければ良い事です」
「ありがと〜。アニエスちゃん」
アニエスはコリルの肩を抱いて慰める。
「アニエスとクヌットが飛んでいると思って来てみたら、何の相談なの?」
シフールのシルヴィア・ベルルスコーニ(ea6480)は軽快に飛んで現れる。事情をコリルが話すとプラティナ探しを快く引き受けてくれた。
ベリムートと中丹もみんなの元にやって来る。
まずは集まった全員で聞き込み調査を行う事にした。
プラティナの特徴をコリルから訊いて冒険者達はそれを元に探す。ミニミニクマさんはいなくなる直前までバックの中だったので着ていないそうだ。一番の特徴はやはり、銀色の羽根である。サーシャのフェアリー、シーリアに似ているので参考にしてもらう。
グロリアはまず近場の宿屋を探すが見つからなかった。
アニエスはフライングブルームで冒険者ギルドに出向き、受付嬢のシーナを訪ねた。残念ながらそれらしい情報は知らないが、もし見かけた時には連絡してくれるという。その後は大人の女性を中心にして市場周辺で聞き込みをする。
シルヴィアはプラティナの行方を占ってみる。結果、楽しい何かが関係すると出る。続いて持っていた金貨に太陽光を当ててサンワードで行方を訊ねてみた。『分からない』と結果が出た。どうやら日の当たらない場所にプラティナはいるようだ。
「なあなあ、この辺で人形劇やってる間、妖精を見かけんかった?」
中丹は市場の売り手の人達に訊ね回った。
サーシャとエーディットはちびブラ団の四人と周囲を探しながら、雑談風に当時の様子をさらに訊いてみる。
約束の時間を示す教会の鐘が鳴り、待ち合わせ場所に一同が集まる。
「ぜーはーぜーはー、結局、あの人形劇で見たっていう話があったんやけど‥‥」
息を切らせながら、中丹が唯一の情報を仲間に伝えた。
「とても面白い人形劇だったようで、みんな夢中で観ていたようなんだ。そして見終わった後でいなくなった‥‥」
サーシャは今一度プラティナがいなくなってから、自分達とちびブラ団が会うまでの出来事をなぞる。
「人形劇を近くで見ていたのなら、好奇心旺盛な妖精も身を乗り出して見ていた可能性が高いです〜。劇団の人達が何か知ってるかもですよ〜」
エーディットは右の人差し指を立ててリズミカルに左右に揺らす。
「もしかしたら、人形とまちごうて持ってったんかもしれへんしな」
中丹はクチバシを撫でながら推理を言葉にする。
「人形劇団は占いで出たようにとっても楽しそうだし‥‥怪しいわね」
シルヴィアはちびブラ団の上を飛び回る。
「わたしもそう考えます。人形劇団の幌馬車か何かについていったのではないでしょうか?」
アニエスも人形劇団そのものを調べた方がいいと答えを導きだした。
「周辺の宿には劇団らしき人達は泊まっていなかったわ」
グロリアの調べから考えると、野宿、もしくは誰かの家、遠くの宿の可能性が高い。
残念ながら、辺りが赤く染まり始める。
ちびブラ団の子供達にとって終わりの時間だ。だんだんと市場のにぎわいも落ち着いてきて、調べるのも無理な状況である。
明日も集まって探す事を約束し、全員が家路を辿るのであった。
●捜索
翌日の二日目から人形劇団を目標としてのプラティナ捜索が始まった。
アニエスの案で、まずは全員で大道芸人の寄り合い所に向かう。
昨日、パリの市場近くで演目を披露している人形劇団はないかを聞くが、そこまで細かい状況は寄り合い所では把握していないそうだ。
そこでちびブラ団の四人はどんな劇であったのか、人形を操っていた劇団員はどんな人達だったのかを寄り合い所の職員に伝える。
候補として職員は三つの人形劇団を教えてくれた。まずこの中のどれかだろうと。
問題はこれらの人形劇団が現在どこにいるかだ。一つだけはわかっているが、残る二つはわからない。冒険者達は三つの劇団名と代表者の住所をメモする。
全員でお礼をいって大道芸人の寄り合い所を後にした。
一行は三つに分かれてそれぞれに人形劇団を探す事となる。
まずは居場所がわかっている劇団に向かうのは、一班シルヴィア、グロリア、コリル、クヌット。
代表者がパリ市内に居を構えている劇団に向かうのは、二班アニエス、中丹、ベリムート。
郊外に代表者が居を構えている劇団に向かうのは三班サーシャ、エーディット、アウスト。
さっそく午後から行動を開始した。
●一班
「うーん、フェアリーねぇ〜。見かけなかったけどね」
グロリアが訊ねると劇団の代表者は腕組みをして首を捻る。
一班の一行はパリ市内の広場で公演中の人形劇団を訪れていた。
「コリル、どう? 俺様はちがうとおもうけど」
「うん。これもおもしろいけど、別のひとたちだとおもう〜」
クヌットとコリルは演じられていた人形劇を観ながら、昨日の思い出と比べてみる。人形の大きさも内容も違う。声も違うように感じる。
「ちょとだけ失礼ね。もしも嘘つかれていると大変だし」
シルヴィアは屋根の上に座り、エックスレイビジョンで劇団の荷物を透視してゆく。残念ながらプラティナの姿はどこにもなかった。
一行は相談し、どうやらこの劇団ではないと結論を出した。念のため仲間が探している二劇団の事を訊ねておくのだった。
●二班
「ごめんくださ〜い」
二班の一行はパリ市内にある代表者の家を訪ねてみる。しかし返事はない。どうやら留守のようである。
通りがかった隣人によれば、いつもは夕方頃になれば戻ってくるらしい。
三人は陽が当たり、風が避けられる場所で待つ事にした。
「あ、あれ‥‥、コレあったんや‥‥、か、かぱぱぱぱぱ‥‥」
中丹が出したのはダウジングペンデュラムである。昨日のうちに借りてきた地図を取りだして、垂らしてみる。探すのは人形劇団、もしくはプラティナの居場所だ。
「ここや〜!」
見事ピタリと振り子が止まる。中丹のクチバシがキラ〜ン☆と輝いた。
「‥‥ここを指しているみたいだね」
「みたいですね」
ベリムートとアニエスの指摘通り、振り子が指していたのは今いる周辺である。せっかく当たったのにがっくりとする中丹であった。
夕方になっても代表者は現れなかった。文字が読める事を期待して簡単な手紙を置いてゆく。
明日また訪れようと約束をして二班は別れるのだった。
●三班
「結構時間がかかったな」
サーシャが村への門を見上げる。
「アウストさん、大丈夫ですか〜」
「うん。平気だよ」
エーディットがアウストを気にかける。
三班の一行はパリ郊外の村を訪ねた。この村に劇団の代表者がいると聞いたからだ。
「妖精を知りませんか〜? ここにいるシーリアさんによく似ているフェアリーさんなのですよ〜」
「フェアリーか。初めてみるよ。探しているのかい?」
エーディットは家にいた劇団代表者にプラティナの事を訊ねてみる。どうやら今までにフェアリーを見たことすらない様子だ。
「荷物に紛れているかも知れない。確認させてもらえないかな?」
サーシャのお願いを代表者は受け入れてくれた。探してみるがプラティナは見つからなかった。
お礼をいって三班の一行は村を立ち去る。パリに着く頃には夕方であろう。
「残る二つの班のどちらかに明日は合流しましょう〜」
「それがいいね。きっと残る二つの劇団のどちらかにいるはずだよ。プラティナは」
「そうだね。早く見つけてあげないとコリル、かわいそうだし」
エーディット、サーシャ、アウストはパリへの帰り道を急ぐのであった。
●プラティナ
二班に一班、三班が合流し、三日目に劇団代表者の家を再び訪ねる。
昨晩は帰っていない様子で、手紙も玄関に置きっぱなしであった。夕方まで待ったが代表者は現れない。
代表者を探すにも手がかりは残っていなかった。ギルド員のシーナ嬢のところにもフェアリーに関連する情報は入っていない。
四日目も代表者の家の近くで待つ事にする。
全員がいるのもなんなので、何名かは交代で代表者探しに出かける。隣の家の方からエーディットが特徴を聞いて仕上げた似顔絵を頼りにして。
シルヴィアはサンワードで代表者の居場所を訊ねてみるが、これまた『わからない』と出る。どうやら外にはおらず、どこか屋根のある場所にいるのかも知れない。
夕方になって探しにいっていた仲間も戻ってきた。
全員が今日の接触をあきらめかけた時、最後のシルヴィアのサンワードに反応がある。『すぐ近くにいる』と。
「なんだい? こんなにたくさんの人が俺の家の前に」
酔っぱらった男が一同に声をかける。どうやらこの男が劇団の代表者らしい。
「お兄さん、劇団の人? プラティナ、知らない?」
「確かに俺は劇団を主催しているが。なんだい、お嬢ちゃん。プラティナって」
コリルが代表者に一生懸命にプラティナ失踪の説明を始めた。
「そうか。確かに市場近くで人形劇をやっていたのは、うちの劇団さ。でも‥‥フェアリーには気づかなかったがな‥‥」
代表者はふらふらとしながらも、懸命に思いだそうとする。
「団員の一人が荷物から変な音がするとか、いっていたような、いっていなかったような‥‥」
一同は代表者の呟きに音の正体がプラティナではないかと勘が働く。
荷物の確認を頼み込み、見せてもらえる事となる。家近くの幌馬車が格納されている倉庫に出向く。
「プラティナ〜。どこ〜? いるの〜?」
コリルが叫び、全員が耳を澄ます。カサカサと音が聞こえた。
何度か繰り返して一つの箱に辿り着く。
「いるわ」
シルヴィアが箱を開ける前に透視する。
「プラティナ!」
箱が開けられると、銀色の輝きが倉庫内に飛びだす。ちょこんとコリルの掌にプラティナはのった。
「探したよ〜」
コリルは涙を零して喜んだ。
ちびブラ団の三人もコリルの回りに集まる。
その姿を冒険者達は微笑ましく眺めるのであった。
●そして
五日目、冒険者達は昨日の別れ際、ちびブラ団に来て欲しいといわれて空き地に集まっていた。
「冒険者のみんな、ありがと〜」
ちびブラ団が用意していたのは、活動費から用意されたわずかながらのお金と、指輪である。
指輪は知り合いのシスターアウラシアからもらったものだ。彼女はルーアンにいるのだが、月のフェアリーを飼う事になったと手紙を送ったところ、ちょうどいいものが手に入ったからと指輪を贈ってくれた。ちびブラ団の分はあるので是非もらって欲しいと冒険者達に手渡される。
「はい。あと少し」
飛行隊長としてアニエスは隊員のプラティナに簡単な罰を科す。小枝の素振りである。
「それぐらいで勘弁してあげてね。プラティナちゃんも心細かっただろうし」
サーシャの言葉もあってプラティナの素振りは終了する。
「ま、これぐらいはね」
シルヴィアは岩の上で大の字に寝転がるプラティナの横に座った。
「人形劇も楽しそうですね〜」
エーディットはいつかちびブラ団と人形劇がやりたいと考えた。具体的にはどうしたらいいのか迷うのだが、ちびブラ団も賛成してくれる。ゾウガメは猫のメルシアを背中に乗せて遊んでいる。
「とにかく見つかってよかったんや。めでたしめでたしや‥‥あれ‥‥これ‥‥」
中丹はもらった指輪をはめてみるが外れなくなって緑色の顔を真っ赤にした。
「見つかってよかったね。それじゃあね」
グロリアは別れの言葉を残し去ってゆく。ちびブラ団は大きく手を振る。
プラティナが無事に戻ってきた事を大いに喜ぶちびブラ団であった。