花のお願い 〜シーナとゾフィー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 85 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月05日〜01月11日

リプレイ公開日:2008年01月14日

●オープニング

「あ、花さん、こんにちはなのです〜☆ 今日はどんな依頼ですか?」
 冒険者ギルドの受付嬢シーナはカウンターに座った依頼人に挨拶をした。前に依頼をしてくれたジャパンの娘、川口花である。他にもジャパンの食材を融通してもらったりしてシーナ自身も世話になっていた。
「おばあちゃんがいうんです。お母ちゃんの出産はもうすぐだって。うちの家系は少し早いんですって。そこでお手伝いをお願いしたくて依頼しに来たんです」
「わかりましたです〜。いろいろと大変ですよね。それに一人で依頼に来れるようになったなんて、花さんすごいのです♪」
「いえ、ギルドに辿り着くまで三日かかりましたし‥‥。まだ迷子のクセは治っていないの」
「えっ?‥‥」
 シーナは笑顔を引きつらせる。普通ならば花が住んでいるパリの実家から冒険者ギルドまで一時間もかからない。どこをどう迷えば三日かかるのか、逆に聞きたいくらいだ。
「あと三時間ぐらいでわたしの仕事時間は終わりなのです〜。帰りは送るので、しばらくギルド内で待っていて下さいです」
「シーナさん、大丈夫ですから。気にしないで――」
「送るのです。待っててくださいです!」
「は、はい!」
 シーナは珍しく語尾を強めた。驚いた花は頷くしかない。
 具体的に手伝ってもらいたい事を花から訊いてシーナは依頼書を仕上げる。
 シーナは約束通りに仕事が終わってから花を家まで送るのであった。

●今回の参加者

 ea7900 諫早 似鳥(38歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb7706 リア・エンデ(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

マミ・キスリング(ea7468

●リプレイ本文

●実家
「あけまして、おめでとうございます」
 エフェリア・シドリ(ec1862)は花を前にしてジャパン語で挨拶をする。
 冒険者達は一度ギルドに集まり、シーナとゾフィーに挨拶をしてから花の母方の実家を訪れたのだ。
「花様の所で赤ちゃんが生まれると聞いて、お手伝いに来たのですよ〜♪」
 リア・エンデ(eb7706)は元気いっぱいに笑顔を振りまいた。頭の上でフェアリーのファル君と雪玉のちっちゃい雪ちゃんがグルグルとダンス中だ。
「なるほどね‥‥」
 諫早似鳥(ea7900)は屋敷の様子をざっと眺める。
「先日はお餅搗きの道具とかどうもありがとうなのだぁ〜。お陰様で良い御正月を迎えられたのだぁ〜」
 玄間北斗(eb2905)は左右に愛犬の五行と疾風を従えながら花にお辞儀をした。二匹は花の迷子予防の為に連れてきたのである。
「侍の鳳双樹です。宜しくお願いいたしますね。買い物とかお手伝いしたいと思います」
 鳳双樹(eb8121)のお辞儀をフェアリーの雲母も真似る。示し合わせたのようにぴったりのタイミングだ。
「川口家の方々とはお初にお目にかかります。陰守と申します。お手伝いさせていただきますね」
 陰守森写歩朗(eb7208)は家事については自信がある。ただお産となると、どうしても男は役に立たない。勤労とはまた別の問題だ。その分家事をがんばろうと心を引き締める陰守であった。
「みなさんありがとうございますね。どうぞお入りになって下さい」
 花は冒険者達を家に招き入れた。
 通された部屋には祖母のオイレーナ、父親の源造と身重の母親リサの姿があった。板間に毛皮が広げられ、その上にジャパン風の布団が敷かれている。
「手伝いに来てくれてありがとね。母のいうとおり花の時も薬草師がいうより、少し早く産まれたんだよ。きっとこの時期だと思うんだけどね〜」
 リサが源造に支えられて布団から上半身を起こす。
 諫早はリサに陣痛、破水の事を訊ねた。まだ兆候はないらしい。あまりに源造が心配するので横になって安静にしているのだとリサは答える。
「はう〜大きいおなかなのです〜」
 リアは目をまんまるに開いてリサのお腹を眺める。ちょっとだけ触らせてもらうと、中で赤ん坊が動いているのがわかった。
「赤ちゃん、なんて名前の予定なのですか?」
 エフェリアの質問によくぞ聞いてくれましたという感じで源造が咳払いを一つした。
「男の子なら菊太郎。これは昔っからわしが考えていた名前じゃ。菊はリサの好きな花でもあるしの。女の子ならジャパンの百合から、こっち風の発音にしてユーリにしようと思うておる」
 源造は大きく頷いた。
「なんと名前をつけるのか気になってました。元気で産まれてきてくださいね」
 双樹はリサのお腹に向かって微笑みながら声をかける。
「名前が決まっていたのは知らなかったのだぁ〜。とってもいい名前なのだ〜」
 玄間は細い目をさらに細くする。
「それではさっそく家事をやらせていただきましょう。花さん、まずは家の中を案内してもらえますかね?」
「はい。こちらへどうぞ」
 陰守は立ち上がると花に案内を頼んだ。迷子の件はシーナから聞いていたが、さすがに半年以上もいる家で迷うことはないだろう。
「どんな食材があるのか見せてもらえるかい?」
 諫早は源造に頼んで地下貯蔵庫を案内してもらう。
「でわでわ〜お手伝い開始なのです〜♪」
「は〜い」
 リアに合わせてエフェリアと双樹が手を挙げる。
「‥‥はう〜、そういえば何をすればよいのでしょ〜」
 リアは深く考えていなかった。エフェリアと双樹がずっこけたあと、家事に詳しい陰守に聞こうと決まる。さっそく花と一緒にいる陰守の元へと三人で向かった。
「おいらはもう少しお話をしておきたいのだぁ〜。食べたいものとかはあるのだ?」
 玄間は今後を考え、もう少しだけリサとオイレーナと話しをしておく。会話の中から困っていることがないのか探るためだ。
 午後になると、冒険者達は本格的に行動を始めるのであった。

●市場
 リア、玄間、双樹は陰守と諫早から必要な物を聞くと市場へ買い物に出かけた。
「はう〜、ぎゅ〜ってしないで下さいなのですよ〜。潰されちゃうのです〜。玄ちゃん様、助けてくださいなのです〜」
「こっちなのだあぁ〜」
 人波に呑まれたリアに玄間が手を伸ばす。
「強く握ってください!」
 さらに双樹が右手で玄間の手を握りしめ、左手で木の幹を掴む。
 本当に流された人を助けるように、玄間と双樹によってリアが助けられた。
「は、はう〜、市場でお買物するのは大変なのですよ〜」
 冷や汗でびっしょりのリアは肩で息をする。いくら市場でも、ここまでの人手は滅多になかった。今日は特別なのだろう。
 今度こそは慎重にと、三人で固まって買い物を続ける。
「鳥のささ身が欲しいと諫早さんはいってました。あそこでお肉、売ってますね」
 双樹が鶏肉を買ってカゴに入れる。
「そういえばお餅も欲しいと諫早さんにいわれていたのだぁ〜。帰ったら少しだけお餅搗きするのだぁ。この前やったから大丈夫なのだ」
 玄間は買い物途中で思いだす。
「塩漬け海藻に〜、お豆もたくさん買って‥‥、これでよいのです〜♪ は、はう〜‥‥?」
 リアはたくさん買いすぎて動けなくなる。玄間が荷物の一部を担いでくれた。
 市場を出たところでマミが待っていてくれた。マミの愛馬とペガサスに買った物を載せてもらい、みんなで花の母方の実家へ戻るのであった。

●部屋の掃除
「ここを、拭きます」
 エフェリアは桶の水で雑巾を絞り、部屋の拭き掃除を始めた。この部屋でお産は行われるようだ。すでにいくつか必要な品物が運ばれてあった。
 エフェリアは丁寧に拭く。たまに古道具を見つけて魅入ってしまうが、気を取り直して拭き掃除を再開する。
 何度も桶の水を交換しに行き、徹底的に綺麗になるまで部屋を磨き上げた。
 エフェリアの頭の中にあったのは赤ちゃんの事である。どんな赤ちゃんなのか想像するだけで心が踊りだす。
 表情には出さないエフェリアだが、とても楽しい気分であった。

●洗濯
「結構たくさんありますね。やりがいがあります」
 陰守は金の煙草入れ二つの蓋を開けると洗濯を始める。
 買い物はリア、双樹、玄間に任せた。
 お産用の部屋の掃除はエフェリアがやっている。
 食事に関しては諫早の担当だ。
 陰守はまず洗濯物をかたづけ、その後で布おむつを縫うつもりであった。花の祖母であるオイレーナも布おむつを縫っていたが、こういうのは多いほうがいい。
 愛犬のぶる丸は玄間の愛犬二匹と一緒に花の護衛をさせていた。ここで花に迷子にでもなられたら大変な事だ。
 両手いっぱいに洗濯物を抱えて大きな桶に入れる。手際よく洗濯を始める陰守であった。

●料理
「こんなもんかね」
 諫早は味見をしながら料理をしていた。新巻鮭の味噌汁もある。
 買い物組が戻ってきて食材も揃う。地下の食料庫にあったジャパンの調味料なども活用して作るのは、リサ用のメニューだ。
 リサはノルマン出身とはいえ、かなり長い間ジャパンに住んでいた。ノルマンの料理より、ジャパンの料理の方が舌に合っていると玄間からも聞いている。
 出来上がった料理を温かいうちに食べてもらおうと、足跡も立てずにススッと廊下を忍び歩く諫早であった。

●お産
 家事や料理、出産の準備の日々は過ぎ去る。
 時々、リアが演奏や唄をリサに聞かせた。エフェリアも手伝ってくれる。
 赤ん坊を穏やかにする為、緊張しがちなみんなを和らげる為でもある。何より自分が落ち着いたリアであった。
 陣痛がリサを襲ったのは四日目の就寝時間である。
「いっい、行ってくらぁ〜!」
 源造が馬に乗って薬草師を連れに出かける。冒険者達が代わりを申し出たが、これぐらいしか自分には出来ることがないといって源造は譲らなかったのだ。
「安全に、いってきます」
 エフェリアは陰守から借りたフライングブルームでパリの夜空に舞い上がる。冒険者ギルドのシーナと知らせる約束していたからだ。
「ほら、そっちも点けておくれ」
 諫早は出産用の部屋を暖める為に、たくさんの炭を用意していた。火鉢はないので代わりの燃えない入れ物がいくつも並んでいる。暖炉にも薪をくべてゆく。
「大丈夫ですよ。そうだ。産まれた後の事についてお話しましょう」
 陰守は花にいろいろと話しかけた。赤ん坊が泣きやまない時の話題を中心に。排泄で気持ち悪い時、お腹が空いた時が主だが、甘えたい時もありえる。
 なるべく心穏やかに接してあげて欲しいと陰守はやさしく花に伝える。
 源造が薬草師を連れて来た。
 出産用の部屋にはリサの他に薬草師と諫早、そしてオイレーナのみの立ち入りとなる。
 二人目の出産とはいえ、まだまだ産まれるまでには時間がかかるという。予定では朝方なるそうだ。
「おとっちゃんがしっかりしなくてどうするのだぁ〜」
 玄間は戻ってきてシュンとなっている源造を励ました。
「戻りました。シーナさんと一緒です」
「遅くなったのです〜。ゾフィー先輩に仕事を引き継いでもらったのです。少ししたら先輩も来るのですよ〜」
 エフェリアがシーナを連れて戻ってきた。
「こういう時はお湯をたくさん沸かさないと〜」
「はう! そうなのですよ〜」
 シーナとリアは一緒に鍋を抱えようとする。
「まだ早いみたいです。普通に足りる分は沸かしてあるので大丈夫です。お産は朝までかかるっていってました。もう少し待ってからでも遅くありませんから」
 慌てるシーナとリアを双樹が止めた。
「花さん、源造さん、これを聞くと、きっと少しは落ち着くのです」
 子猫のスピネットを膝に置くエフェリアは、波打ち際の貝殻を花の耳に当てた。
「ありがとう。エフェリアさん」
 花は源造にも貝殻の音を聴かせる。
「生まれたら花様もお姉ちゃんになるのです〜」
「大丈夫ですよ、薬草師さんと私達にお任せくださいね」
 リアと双樹も花の気が紛れるように明るく振る舞った。
 時々、リサの唸り声が隣りの部屋にいる者達にも聞こえてくる。
「諫早殿はお産のお手伝いでがんばっていますので、自分があるもので作ってきました。これから大変になるでしょうから、食べておきましょうね」
 陰守が料理を出産を待つ部屋に運ぶ。出産の部屋の人達用にも残してある。
 何度か諫早が隣りの部屋に現れて、現状を話してくれた。今のところは、ごく普通の状況だが油断は出来ない。逆子であったり、へその緒が変に巻き付いていると、とても難産になるらしい。
 ゾフィーも現れて、みんなで様子を見守る。
 朝が近づき、本格的にお湯の用意が始まった。
 赤ん坊が産まれたのは、五日目の完全に太陽が地平から離れた頃だ。
 男の赤ん坊である。
 母子共に健康であった。

 すべてが落ち着いた昼過ぎに冒険者達は赤ん坊と対面する。
「はじめまして、エフェリアと言います」
 エフェリアは眠っている菊太郎に挨拶をする。そして熨斗付お年玉をそっと枕元に置いた。
「赤ちゃんの手は自分の人生を握っているのですよ〜。未来が幸せなものになるように私達もがんばるのです」
 小声でリアは囁く。菊太郎の指はとっても小さくて、まるでお人形のようだ。
「菊太郎ちゃん、元気に育ってね」
 双樹は無垢な赤ん坊を見つめ続ける。
「比較的軽いお産だったようだね。よかったよ」
 諫早は部屋の隅でみんなの様子を眺めていた。
「ささやかだけど、お祝いなのだぁ」
 玄間は出産祝いとして熨斗付お年玉を枕元に置いた。
「新しい命を守護する物とならんことを」
 陰守は祝いにクマのぬいぐるみを菊太郎に贈った。深い意味はないので持っていて欲しいとリサに告げる。
「先輩、とってもちっこいのです〜」
「そうね。とってもかわいいわ」
「先輩も早くレウリーさんと結婚して子供を産むといいのですよ」
「シーナったら、近所のおばさんみたいな事いうのね」
 シーナとゾフィーも菊太郎をしばらく見つめるのであった。

●祝
 六日目にも冒険者とシーナは様子を見に花の母方の実家を訪れた。
「おかげで、滞りなく無事に菊太郎が産まれもうした」
 源造は土下座をするがごとく、冒険者達に頭を下げて喜びを表す。
 母親のリサと祖母のオイレーナは疲れて眠っているみたいなので起こさずにそっとしておく。
「冒険者のみなさん、ありがとうございますね。これはせめてものお礼です」
 花は冒険者一人一人にシェリーキャンリーゼを手渡した。
「そのままお呑みになってもいいですけど、必要な時にそのシェリーキャンリーゼと同じ量のお醤油と交換致します。鰹節とかでも構いませんので。あ、シーナさんと関わりのある場合でお願いしますね。まったく関わりのない時だと、困ってしまうので‥‥」
 花は深くお辞儀をした。
「あ、一つ間違っていた事があったのです。花さん、13歳みたいなんです‥‥。さっき訊いてシーナも驚いたのです。ごめんなさいです」
 シーナは前に冒険者から聞かれた時に少しだけ花の年齢を上に答えていたのだ。
 冒険者達は報告をする為、シーナと一緒に冒険者ギルドへ向かう。歩きながら交わされる話題の中心は赤ん坊のかわいさであった。