思惑は他に 〜シレーヌ〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 48 C
参加人数:6人
サポート参加人数:5人
冒険期間:01月10日〜01月16日
リプレイ公開日:2008年01月16日
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●オープニング
道沿いにあった巨木が突然に倒れ、走っていた馬車は乗り上げて転倒する。
「なんで‥‥木が」
地面に叩きつけられた御者の男は立ち上がろうとするが、あまりの痛みに再び伏せる。足の骨が折れたのかも知れなかった。
地面の頬をつける御者の目の前に剣が突き刺さる。見上げると、ガラの悪い男が側に立っていた。その他にも何人かの男達が転倒した馬車に近づいてくる。
御者は直感した。噂の山賊が現れたのだと。
「じゃあな。祈りたきゃ祈りな」
山賊の一人が剣を振り上げる。
「待てや!」
誰かの声で山賊の一人が動きを止めた。
「殺すんやない。生かしておけば、また懲りずに運んでくるかも知れんだろ。その方が我々の為や」
山賊の仲間が倒れたままの御者に近づく。どうやら山賊の中で偉い立場の者らしい。仲間から首領と呼ばれていた。
「そうやろ? この道を通らないとなれば、パリへ向かうのは極端に遠回りになる。俺等が現れないのを祈ってまた運んできてくれや。のう、旦那」
首領の言葉に山賊達が下品に笑う。
「ただし‥‥」
首領が剣を抜いて振るった。
御者の近くに誰かが倒れ込む。
御者は目を凝らす。倒れたのは一緒に馬車へ乗っていた仲間だ。鍬を手にしている。どうやら首領に戦いを挑もうとして逆に倒されたようだ。
「刃向かおうとするならば、こいつと同じ目に遭う。わかったな? せいぜい長生きして俺等に良い思いをさせてくれや」
御者は道ばたに放っておかれ、馬車に積まれた食料などはすべて山賊に盗られる。
翌日の朝、通りがかった近くの村の自警団に御者は助けられた。
一命はとりとめるものの、御者は途方に暮れることしか出来なかった。
「どうしたものか‥‥」
15歳の娘シレーヌ・ブルーニは冒険者ギルドのテーブルにつき、ぼんやりと掲示板を眺める。
当初入ろうと考えていた依頼に参加できず、新しいものを探していたのだが、良さそうなものはなかなか貼り出されない。
「父上の考えにはいつも裏がある‥‥。果たして言葉通りに受け取っていいものか‥‥」
シレーヌの父親はガエタン・ブルーニといい、ブランシュ騎士団黒分隊の騎士である。
騎士の修行の場として冒険者となり、ギルドで依頼を受けてこいとシレーヌは命じられた。その事自体は疑う余地はない。
「どんな事件に大きな災いの種が眠っているかわからないと‥‥、前に父上は仰っていた事がある。もしや‥‥」
シレーヌは父親のガエタンが考えている事を想像する。もしかしてこうして娘の自分が依頼に入る事により、何かしらの情報を得ようとしているのではないかと。
「父上のお役には立ちたいが‥‥」
シレーヌが独り言を呟くと、ギルド員が掲示板に依頼書を貼り付けてゆく。
「なになに‥‥」
シレーヌは立ち上がって掲示板に近づいた。
山賊退治の依頼であった。
●リプレイ本文
●出発
一日目の朝。集まった冒険者はシレーヌを含めて冒険者五人であった。
「わが村だけでなく、近隣の人達の為でもあるんだ」
村の自警団から二人がパリを訪れていた。
冒険者達は二人と挨拶を交わす。大まかな作戦を決めると、さっそく出発である。
「それでは先にいってくるわね」
元馬祖(ec4154)はフライングブルームで跨ると、ふわっと浮き上がる。そのまま大空に舞い上がった。
「わしらも先にいって、問題の場所を調べておくつもりじゃ。それじゃあ嬢ちゃん、後で会おうぞ」
「どうか、気をつけて」
シフールのガラフ・グゥー(ec4061)はシレーヌに軽く手を振った後で、騎乗しているフランシス・マルデローロ(eb5266)の後ろに乗った。馬の蓮華はガラフのペットだ。
「盗賊が隠れやすそうな場所や仕掛けやすい場所を確認しておく。任せてくれ」
フランシスはシレーヌを含む仲間に言葉をかけて馬を走らせる。乗馬はあまりうまくないフランシスだが、それでも馬車よりは速いはずだ。ガラフは毛布にくるまってフランシスの背中の荷物に紛れ込んだ。
残る者達は馬車に乗り込む。御者役は自警団の二人である。
シレーヌは見送りの十野間空と国乃木めいから声をかけられた。励ましの言葉に、騎士として立派に努めるのを約束する。
全員が乗り込み、馬車は発車した。
「よろしくな」
「よっ、よろしく」
リディック・シュアロ(ec4271)が隣りに座るシレーヌにあらためて挨拶をする。馬で村まで向かおうと考えていたが、シレーヌと少し話しておこうと馬車に乗り込んだのだ。愛馬は今、馬車を牽いている。
「それにしてもな。ろくでもないコト考える連中はどこにでもいるってか?」
「そのようだ。どうにも世知辛い世の中だな」
リディックはシレーヌの返事に思わず吹きだした。若いのに老人のような返事だったからだ。笑った後でリディックはすまんと謝っておく。
「ねえ、シレーヌちゃんって呼んでいい?」
「構わないよ。それじゃあわたしはヒナと呼ばせてもらうおう」
ヒナ・ティアコネート(ec4296)がニコニコしながらシレーヌに声をかけてきた。ヒナの方が年上だが、おとなしいシレーヌとまるで年齢が逆のようだ。
「盗賊退治。張り切っていきますよ〜♪」
ヒナはとても元気である。馬車の中で勢いよく立ち上がって天井に頭をぶつけるほどに。
(「わざわざいう事ではないな。訊かれない限りは父上が黒分隊所属というのは黙っておこう‥‥」)
シレーヌは涙目のヒナの頭をさすりながら心の中で呟くのだった。
●村
太陽が沈んだ宵の口に馬車は村に到着した。問題の道を通過するものの、何事も起こらなかった。
先行して調べていた元馬祖、ガラフ、フランシスとも合流済みである。
冒険者達は馬車を降りて、自警団の二人についてゆく。
「どうぞ。こちらを自由にお使い下さい」
自警団の二人が案内したのは、村の小さな家屋である。暖炉に薪もあって、テントで過ごすよりかなり快適そうだ。
すでに暗く、お互いが疲れている事もあって自警団との話し合いは明日になった。
冒険者達は思い思いにくつろぎながら相談を始める。
先行した三人が調べたところによれば、山賊が出る道は少々曲がりくねっていた。両脇には森が広がる。季節が冬なのが幸いして、比較的遠くまで見通せた。それでも、枯れ草などが視界を遮るので、敵が隠れるのは可能だ。
「馬車に乗っていた自警団の人はどうだったのかな?」
元馬祖は照れた様子でシレーヌに声をかける。知人の晃塁郁の話によれば、自警団は平穏に暮らせるのなら特に血は好まない人が多いらしい。例外もあり得るので、元馬祖は馬車で長く自警団の人達と接していたシレーヌに訊ねたのだ。
「そうだな。優しい感じの二人だったよ。出来る事なら戦いたくない‥‥。そんな印象を持ったよ」
シレーヌの言葉に元馬祖は頷く。仲間とも話していたが、自警団の人達には共闘してもらうつもりだ。しかし、なるべく後方で待機してもらい、弱らせた山賊共を捕らえてもらった方がよさそうである。
山賊共と戦って戦意を削ぐのは冒険者側の役目だ。
「ふむふむ‥嬢ちゃんの御父上は嬢ちゃんに期待しておるようじゃ」
ガラフとシレーヌはしばらく話し込んだ。依頼に参加した理由を聞かれ、シレーヌは父親からの命で来た事を話す。
「父上はわたしの目標です。いつか必ず‥‥」
シレーヌは決意にも似た言葉を呟く。
ガラフとシレーヌの側にいたフランシスはシレーヌの言葉を耳にする。あまり気負うとろくな事はない。特に初めての依頼ではそうだ。
(「それとなく守ってやるか‥‥」)
フランシスは暖炉の前で暖まりながら、シレーヌの事を考えるのであった。
「盗賊を誘き出すのに使うので貸してください。襲われる予定なのでちょぴり壊れるかもしれないですけど」
夜が開けて二日目となる。自警団との話し合いの場でヒナは荷馬車を貸して欲しいと願う。他に冒険者側で参加しているのはリディックとシレーヌである。他の仲間は昨日と同じく、借りた地図を手に山賊が出る問題の道周辺を探りにいってここにはいない。
「なるべく、壊さないように気をつけるのでお願いします」
ヒナが言い直して、しぶしぶ許可が出た。やはり壊すのを前提で貸す者はいなかった。荷馬車部分だけなら修理も出来るが、馬が殺されたのならそれこそ死活問題である。
「商人を装って荷馬車を動かしてもらいたい。俺達は荷馬車後部に隠れて、山賊の来襲を待つ。それと、自警団のあんたらには戦意を失った山賊共を捕まえてくれ。直接の戦いの場は俺達冒険者が引き受けよう」
リディックが作戦を説明した。自警団から山賊退治に参加してくれる者は五名である。
自警団の五人には輸送中の商人のように振る舞ってもらう。三人は荷馬車の御者役。残る二名は馬で併走だ。
シレーヌは自警団の人達をあらためて観察した。自分より年上だろうが、村の平均からすれば若い者達だ。山賊達の横暴にいてもたってもいられず立ち上がった感が強い。
「若輩者のわたしがいうのも何なのだが‥‥。悔しい思いをした村人も多いだろう。しばしの安息の時間が流れるように尽力するつもりだ」
シレーヌは礼儀正しく、自警団の者達に誓う。
ヒナとリディックはシレーヌのお堅い感じに何度も瞬きをする。同時に『シレーヌらしい』と感じた。出会ったのは昨日だが、それでも人となりはわかるものだ。
偵察の三人も戻り、細かい内容が煮詰められる。
作戦開始はは明日の三日目から。山賊に怪しまれないように問題の道を通るのは、一日一往復のみとする。
山賊のアジトは今のところ見つかっていない。どうやら近場ではないようだ。
山賊と接触したのなら、出来る限り逃げて引きつけてから反撃をする。倒すのではなく、捕まえて官憲に引き渡す。
冒険者側が六人、自警団側が五人の計十一名。
今までの目撃例から考えると山賊は十名前後。
勝機は充分にあった。
●囮
三日目から囮作戦は始まった。
フランシスがガラフの愛馬に乗って荷馬車より先行する。
商人に化けた自警団の二人は荷馬車の近くで護衛を行う。
荷馬車の御者台には商人に化けた自警団の三人。荷台の荷物の中に紛れて冒険者達が潜む。
ガラフは藁の中に隠れながら問題の道を通る時、ブレスセンサーを使ってみた。
運がついているのか、ついていないのか、往復した二回の機会に山賊が現れる事はなかった。
山賊が現れたのは四日目の事であった。
「来たようじゃ」
村への帰り道で、隠れていたガラフが仲間に囁く。山賊らしき者の呼吸をブレスセンサーで捉えたのだ。
警戒は自警団の五人にも伝えられる。
荷馬車の隙間から元馬祖とフランシスが外を覗く。ガラフのいう通り、山賊がいるようだ。
作戦の通りに、御者が荷馬車の速度をあげる。出来る限り有利な地形で戦う為だ。
荷馬車の一行が通り過ぎた後方で、道の両脇の木々が倒れてゆく。山賊共の足止めは荷馬車を停める事は出来なかった。
幅が狭まった道に入り、荷馬車の一行は停まる。
「逃げろ!」
自警団の者達は怖じ気づいた演技をしながら荷馬車を捨てて逃げてゆく。
山賊共は笑いながら、荷馬車へとゆっくり近づいた。
「かかったな!」
シレーヌが飛びだして藁の山を取り去った。現れたのは詠唱中のガラフであった。
「喰らうんじゃ!」
ガラフのライトニングサンダーボルトが山賊共を痺れさせる。道幅が狭いおかげで、山賊共は一直線に並んでいた。ほとんどの山賊が雷の洗礼を受ける。
第二弾の詠唱が行われ、ガラフの手から再び雷が山賊共に向かって放たれる。同時に隠れていた仲間も荷馬車から飛びだした。
「殴り倒すのです!」
ヒナは痺れた直後の山賊の中に突っ込んだ。大地を踏みしめ、勢いをつけた拳を振り抜く。動けない程度にとどめながら次々と山賊共に血と土の味を思いださせてあげる。
「近づけさせないからね!」
元馬祖はオーラボディを自らにかけ、羊守防も駆使しながら荷馬車へと近づく山賊に拳を突き立てた。血気盛んなようで山賊が怯む事なく向かってくる。
「まったく、てめぇらみたいのがいると苦労するんだよ」
リディックは迫り来る山賊に向かって剣を振るった。すぐ横ではシレーヌも剣で戦っている。背中はシレーヌに任せて目の前の山賊に集中する。
「逃げようとしているんじゃ!」
空を飛んだガラフが叫び、フランシスが弓を構えた。見事放たれた矢は、逃げようとした山賊の足を貫いた。
演技で逃げた自警団の五人も引き返してきた。
「ずらかれ!」
山賊の首領が叫んだ。
元馬祖は荷馬車に隠してあったフライングブルームに跨って空中を滑空する。首領の前に降りて逃げ道を塞いだ。
上空からガラフが首領目がけて雷を落とす。その後、元馬祖の一撃が決まって首領が地に伏せた。
指揮を失った残る山賊共を捕まえるのは容易であった。
●アジト
五日目、冒険者達は捕らえた山賊共から訊きだしたアジトへと向かった。
昨日に捕まえた山賊は十二人。全員と思われるが念の為に逃げた者や待機していた者かいないか確認する為だ。
元馬祖とガラフが上空から見つけだして仲間を案内する。
森の奥にアジトは存在した。
フランシスがランタンを灯した。
建物内には大した物はなかった。今までに盗られた物を回収しようと考えていたが、肩すかしを食った感じだ。
自警団から聞いた話では山賊十二人が消費出来る以上の食料が盗まれている。その他にも様々な品物が盗まれているはずなのに見あたらない。
シレーヌは一枚の地図を発見した。かなり遠くの場所までの道順が描かれてあるが、あまり時間は残っていない。今回の依頼期間中に地図を辿る訳にはいかなかった。
冒険者達は村に戻ると自警団に地図を渡した。
自警団は地図について山賊を尋問をする。どうやら地図の場所に盗んだ物を上納していたようである。盗まれた物を取り返す為に、もう一度依頼を出すか検討するようだ。
その晩、冒険者達は村人達から祝いの場に招待されるのであった。
●パリ
六日目、冒険者達は村で作ったハーブティーをもらってパリへの帰路についた。
愛馬で追走する者、馬車に乗る者など様々であったが、行きとは違って全員一緒に帰る。
途中、山賊を退治した道を通り過ぎる。長く安全が続くように冒険者達は祈った。
冒険者達が乗っているのとは別に馬車はもう二両ある。二両には捕らえられた山賊共が乗せられていた。官憲に引き渡す為の移送である。
途中で馬車二両と別れて、冒険者達は無事パリに到着した。
「助けてくれてありがとう」
シレーヌは仲間との別れ際にお礼をいう。未熟な自分を仲間が補助してくれたのを知っていたのである。
(「あの山賊の地図‥‥、何か引っかかる。特徴的な紋章が描かれていたが一体‥‥」)
夕日の中、パリを愛馬で駆けながら、シレーヌはアジトで見つけた地図を思いだしていた。