タタラ製鉄 〜シルヴァン〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 30 C

参加人数:7人

サポート参加人数:7人

冒険期間:01月18日〜02月02日

リプレイ公開日:2008年01月25日

●オープニング

 パリ北西に位置するヴェルナー領は、ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーの領地である。
 その領内の森深い場所に、煙が立ち昇る村があった。
 村の名前は『タマハガネ』。
 鍛冶職人の村である。
 鍛冶といっても他と赴きが違う。ジャパン豊後の流れを汲む作刀専門の鍛冶集団であった。
 村の中心となる人物の名はシルヴァン・ドラノエ。ドワーフである彼はジャパンでの刀鍛冶修行の後、ラルフの懇意により村を一つ与えられた。
 ジャパンでの修行後期に作られた何振りかの刀が帰国以前にノルマン王国へ輸入され、王宮内ですでに名声が高まっていたのだ。
 ジャパンから連れてきた刀吉と鍔九郎、そして新たに集められた鍛冶職人によって炎との格闘の日々が続くが、完成した刀剣は少ない。
 そのほとんどがブランシュ騎士団黒分隊に納められる。中でも真打はラルフ黒分隊長の元に、影打はエフォール副長の元にあった。


 夜遅く、シルヴァンの住処に刀吉と鍔九郎が訪れていた。
 囲炉裏を囲んで酒を酌み交わす。
「今期は二振りのシルヴァン・エペをラルフ殿に届けられそうだな」
「差し出がましいようですが、三振りの間違いでは?」
 シルヴァンの呟きに刀吉が疑問を感じて言葉を投げかける。
「シルヴァン様は一振りを残しておくつもりなのだ。特に役に立ってくれた冒険者にお渡しするおつもりだと推察しましたが?」
 鍔九郎にシルヴァンは頷いた。
「その通りだ。一度では評価出来ないが、よく働いてくれた者に贈るつもりだ。もしも、その者がシルヴァン・エペを使えないとしても、どなたか腕の立つ者に譲ってくれると信じている。それこそが鍛冶師の俺ができるノルマン王国からデビルを一掃する唯一の方法だからな‥‥」
 シルヴァンはデビルに両親を殺された過去がある。タマハガネ村がデビルに襲われ、多くの命を失ったのも、去年の七月の出来事だ。
 デビルとの戦いに身を投じるブランシュ騎士団黒分隊に納めるのが一番に優先されるものの、シルヴァンは冒険者にも大きな期待をしていた。調べたところによると、冒険者の力なくしてはデビルの暗躍を阻止する事はかなり難しいようだ。
「たくさんは残しておけないが、せめて一振りは手元に残しておこう。同時にお二人以上が評価に値することがあった時は、どちらかに待ってもらう事になるが」
 シルヴァンは鉄箸で囲炉裏の炭をつつく。
「では、明日にでも依頼をしにパリへ向かおうと思います。期間はどうしましょうか?」
 刀吉はシルヴァンに視線を送る。
「頼もしい方々なのは、この間の働きで充分にわかった。可能な限り、長い期間で頼んでおくれ」
「承知致しました」
 シルヴァンに刀吉は頭を下げた。

●今回の参加者

 ea7372 ナオミ・ファラーノ(33歳・♀・ウィザード・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb2927 朧 虚焔(40歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3781 アレックス・ミンツ(46歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb5734 ニセ・アンリィ(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 ec1565 井伊 文霞(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec2965 ヴィルジール・オベール(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ec4355 春日 龍樹(26歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

壬護 蒼樹(ea8341)/ 鳳 令明(eb3759)/ アンリ・フィルス(eb4667)/ エセ・アンリィ(eb5757)/ 頴娃 文乃(eb6553)/ 虚 空牙(ec0261)/ マアヤ・エンリケ(ec2494

●リプレイ本文

●パリにて
「蒼兄、朝早くすまない」
 タマハガネ村出発の夜明け前、春日龍樹(ec4355)は兄である壬護蒼樹の棲家を訪ねた。訪ねたといえば聞こえはいいが、いわば無理矢理の突撃である。
「いろいろ黙っておくから鏡餅をくれ! 後は、おぉ、新巻鮭もあるな」
「それは‥‥、あの‥‥あぅぅ‥‥」
 龍樹は寝ぼけている蒼樹から次々と食材を奪い取ってゆく。涙目の蒼樹は依頼で必要なのだと説明されて仕方なく納得させられる。ジャパンと関わり深いタマハガネ村で鏡開きをして雑煮を作るのだという。
 タマハガネ村は遠い。出発を遅らせてはならないと、蒼樹も連れて残る食材を買いに朝の市場へと向かう龍樹であった。

 日が昇り、全員が待ち合わせ場所に集まる。
「頑張って来い」
「まァ頑張ってね」
「寒いのに大変ねぇ〜」
「僕のお餅‥‥、大事に取っておくんじゃなかった‥‥」
 刀吉が御者をする冒険者達を乗せた馬車は、アンリ、頴娃、マアヤ、蒼樹に見送られて出発した。

●村
 二日目の夕方、馬車はタマハガネ村に到着する。
 道中からの刀剣談義には終わりはなく、寝床となる家屋に着いても冒険者達の会話は途切れる事はなかった。
 家屋には板間の中央にジャパン式の囲炉裏がある。炭を燃やして暖をとるのと同時に、天井にかけられるようになった鍋で温かい食事の用意も出来そうだ。
「よく来てくれましたな。新しい方々もいると聞いたので。それと仕事の話も少々ありましてな」
 シルヴァンが家屋を訪れて冒険者達に挨拶をする。刀吉と鍔九郎も一緒である。
「刀の命は鋼の良し悪しできまるずら。すんばらしい玉鋼をつくるずら」
「頼もしい方だ。その出来、楽しみにしていますぞ」
 真っ先にニセ・アンリィ(eb5734)がシルヴァンに握手を求める。ドワーフであるシルヴァンに親近感を覚えているようだ。今にも『ドワーフ万歳ずら〜♪』と叫び出しそうなほどに。
「貴方がシルヴァン殿か。はじめまして、春日龍樹というものだ。大した事は出来ないが誠心誠意手伝わせてもらう」
「人手は足りなく、とても助かる。いろいろとお願いするよ」
 龍樹はジャパンの心得を持ってしてシルヴァンに挨拶をした。
 再び訪れてくれた冒険者達とシルヴァンが挨拶を交わした後、鍔九郎から今回の仕事についての説明が行われた。
 一通りの作刀作業は残っているが、先を見据えると刀の主な材料となる玉鋼の備蓄が少なかった。依頼書でも提示されていたが、砂鉄採集から玉鋼を作りだすタタラ製鉄の工程が今回主に行ってもらいたい仕事だという。
「前回、砂鉄や玉鋼造りを手伝いましたゆえ、いろいろと覚えておりますわぃ。ワシが場所を案内させてもらおうのぅ」
 ヴィルジール・オベール(ec2965)は玉鋼造りを一度こなしていたので他の仲間より慣れていた。少しでもシルヴァンや鍔九郎の負担が少なくなるようにフォローするつもりだ。
「良い鉄なくして、良い刀は生まれません。シルヴァンさんがこの地を選んだからには、良い鉄が得られるということなのでしょうね」
 前に相槌役を務めた朧虚焔(eb2927)は人手足りないと聞き、今回はタタラ製鉄作業に精を出すつもりでいた。より質の高い玉鋼をどうすれば効率的に作り上げる事が出来るかをテーマとする朧虚焔だ。
「力仕事になりそうだ。俺もタタラとやらを手伝おう」
 龍樹は豪快に笑う。力仕事なら任しておけという勢いだ。
「根気よく根気よく根気よく火の面倒をみて最高の玉鋼をを作り出すべく、わしの鍛冶技術の粋をつくすずらよ」
 ニセも挨拶通りに玉鋼造りに参加する。出来上がったケラの中からよりよい玉鋼を選別するつもりであった。出来るならば真打ち用の玉鋼を。
 砂鉄から玉鋼までのタタラ製鉄工程を手伝う冒険者は、鍔九郎の監督下である。
「わたくしは小物御一行の作成を担当するわ。最初は砂鉄採集を手伝いましょうか」
 ナオミ・ファラーノ(ea7372)は鍔に少しだけ遊び心を加えるつもりであった。時間がある時、羊皮紙に候補を描き上げておこうと考えていた。
「せっかく要領も得た事ですし、炭の輸送作業や道具の手入れなど致しましょう。最初はナオミ様と同じく、砂鉄採取を手伝いましょうか」
 井伊文霞(ec1565)は補助作業を主に行うつもりであった。他の作業の鍛冶場も覗いて今後の参考にしたいとも考えていた。
 砂鉄の作業を除くナオミと井伊文霞の監督は刀吉が行う。
「前回同様、相槌をさせてもらうつもりで来た。しかし最初は誰もが砂鉄集めを行うようだ。玉鋼造りが遅れれば、結果として全体が遅れる事になろう。俺も手伝わせてもらう」
 アレックス・ミンツ(eb3781)はシルヴァンに頷く。鍛冶を通じて村の人々に親近感を覚えているアレックスであった。
 相槌作業についてはシルヴァンの監督下になる。
 明日からの作業内容も決まり、冒険者達は早めに就寝した。

●砂鉄集め
 三日目からは冒険者全員で砂鉄採集が行われた。
 鍔九郎の指揮の元、村の職人達と共に作業は続けられる。
 龍樹、ニセは職人達に混じり、スコップを手に山の一部を崩してゆく。土砂は小川を流れて人工の池に流れ込んだ。こうする事で重い砂鉄が池の底に溜まる仕組みである。
 人工の池は何カ所かある。以前に土砂が流し込まれてあった池の水が抜かれた。ヴィルジール、アレックス、朧虚焔によって池の底から砂鉄が掬い上げられる。
 朧虚焔は磁鉄鉱による砂鉄収集が可能かどうか試してみたが無理なのが分かる。必要な砂鉄の量があまりに膨大だからだ。
 それでも他によい方法はないのか作業しながら考える朧虚焔であった。
 ナオミ、井伊文霞は水分を含んだ重い砂鉄を運び、広い岩盤の上に広げて天日で乾燥させる。風が強く当たる場所でまだ残っている軽い土など埃となって吹き飛んでゆく。大きめの石などは目で探して取り除き、回収する時には一度ふるいにかけるという。
 運搬作業には村の馬やロバも活躍していた。朧虚焔がペットのロバを作業用に貸すと、仲間も馬やロバを貸しだす。少しでも足りない労働力を補う為である。
 水辺の作業なので冬場にはきつい作業だ。井伊文霞はなるべくみんなが暖かくなるように焚き火の用意を手伝った。
 三日目は二十日。夜にはジャパンの行事にちなんだ振る舞いがあった。
「なかなかいけそうだ」
 龍樹が中心となって鏡開きによる雑煮が作られたのである。囲炉裏にかけられた鍋で切られた蕪や人参が煮込まれる。綺麗にした餅も割られて入れられて柔らかく姿を変えてゆく。出汁は昆布が手に入らなかったので干し魚で代用だ。
「これはうまそうずら」
 ニセが喉を鳴らす。
 仲間も食材を提供してくれてとても豪華である。特にたくさんの鮭のおかげでボリューム満点であった。
 酒も用意されてちょっとした宴会が始まる。シルヴァン、鍔九郎、刀吉も呼ばれてより賑やかに、タマハガネ村の一夜は過ぎていった。

●それぞれの作業
 砂鉄収集は六日目まで行われた。そこから先は各々の仕事に分かれての作業となる。
「よいさほ〜 よいさほ〜 火を絶やすな やいさほ〜」
 乾燥された砂鉄と炭を交互に入れる作業はヴィルジールとニセに任される。真っ赤な炉の近くで職人達と待機する。
「もう次じゃ。皆の衆、行くぞぃ!」
 ヴィルジールの合図と共に砂鉄が投入された。約三十分の間隔で炭と交互に炉へと入れられる。気が遠くなる程繰り返される作業だ。
「春菜、がんばってくれ」
 龍樹は愛馬と共に炭や砂鉄運びをがんばっていた。汗が大量に流れ、水と塩が欠かせない。真冬だというのに炉の熱さと相まって、真夏のようであった。
「いきますよ! せいのおーで!」
 朧虚焔は鍔九郎の指示であちらこちらを飛び回る。重い砂鉄を持ち上げる為に肩を貸し、時にはフイゴを動かす作業も手伝う。
 指揮とはいえ鍔九郎も冒険者や他の職人と同じように汗を流していた。
 炉から真っ赤に輝く不純物のノロが流れてゆく。
 三日に渡って続く作業はまだ始まったばかりであった。

「こんな感じでいいかしらね」
 ナオミは鍛冶小屋で小物を作成していた。許可を得た上で鍔のデザインに凝ってみる。ちょっとした遊び心だ。黒分隊では剣帯が黒なので、それに合わせた漆黒の錆を浮かせてみようと考えていた。
 刀吉によれば鞘は何カ所か金属で補強してあるものの木製である。わざわざ朴の木をジャパンから取り寄せているという。ノルマンの事情に合わせて金属製の鞘も作成されたが、重さや刃の保存状態から木製に落ち着いたそうだ。
 漆も同時に輸入されている。それと漉す為の和紙も本当にわずかであるが取り寄せられていた。
 ナオミに質問された刀吉は悩んでいる様子であった。もしノルマン王国で代替の材料が手に入るなら越したことはないと。
 卸鉄についてはシルヴァンに訊ねてみたものの、ノルマンではいろいろと問題があるようだ。ナオミが知っているように古釘や玉鋼を造る際の質の悪い和鉄を用いて大鍛冶を経て作られる。
 刀鍛冶の習作に使われるのは問題はない。一般的な包丁やナイフに鍛えても充分に使える。ただ本気の刀にはやはり使えないというのがシルヴァンの考えだ。一線の引き方は鍛冶師によっても違うので絶対ではないのだが。
 シルヴァンが行うデビルスレイヤーへの仕上げ方には相応の儀式がある。シルヴァン曰く、認めて頂くのに粗末な刀を捧げる訳にはいかないのだという。

「さて、わたくしもがんばりましょう」
 炉の作業場、小物などを作成する鍛冶小屋を見学してきた井伊文霞は、刀身を打つ火床に戻る。
 奥ではシルヴァンが刀身作りを行っている最中であった。相槌はアレックスと刀吉が任されていた。
 シルヴァンによってテコ棒の先にある玉鋼に泥水と真っ黒に焼かれた藁灰が付けられる。そして炭の中に入れられ、真っ赤に熱くなったところで取りだされた。
 相槌のアレックスと刀吉がシルヴァンが支えるテコ棒先の玉鋼を打つ。激しく火花が散る。水につけられて冷やされ、そして何度も繰り返される。
 井伊文霞も鍛冶の知識はあるし、前回に何度も見学している。自分達が手伝いだして一から出来上がる刀の誕生はまだまだ先のようだ。
 井伊文霞は炭をシルヴァンの近くに運ぶと火床から出た。炭小屋に出来上がった炭を取りに行く為である。
 仲間のニセも心配していたが、刀作りでは炭用として大量の木が使われる。何も考えないで伐採を続けると簡単に禿げ山になってしまう程だ。
 それを防ぐために建てられた炭小屋は一個所だけではなかった。玉鋼造り用の炭は間伐の雑木が使われる。刀身を鍛える為の炭は火力が必要なので松が使われるが、なるべく広範囲から伐採された。
 炭を作るということは同時に山道を作ることであった。開拓した方が効率はよいが、それは森林の保護の為に避けられていた。

(「この村は居心地がよい‥‥」)
 真夜中、アレックスは布団に寝ころびながら思った。タマハガネ村の職人達とは鍛冶を通じて意気投合する事が多い。この村と関わりのあるラルフ黒分隊長もよく知っている。少しでも自分の能力が役に立てばとアレックスは考えるうちに眠りについた。

●結果
 一心不乱に作業は行われ、瞬く間に時間が過ぎる。
 十三日の夜、シルヴァン、刀吉、鍔九郎が冒険者達の家屋に現れた。
「ナオミ殿、とても助かった。是非これをお納め下され」
 シルヴァンはナオミにシルヴァン・エペを一振りを手渡した。
「何しろ作刀出来る数は限られている。余程の事がない限り、お一人に何振りもの刀を差し上げる訳にはいかないのだが、出来るならこれからもこのシルヴァンを、いやタマハガネ村を手伝って欲しい。もちろん重大な理由があればもう一振りを考えよう」
 シルヴァンはナオミに深く感謝していた。作刀をしていると、どうしても刀身作りに目がいってしまい、小物はおろそかになりがちであったからだ。
 それから追加の礼金が全員に配られた。よくやってくれた事へのお礼である。

 十四日の朝、冒険者達は馬車に乗ってパリへの帰路につく。無事に十五日の夕方にはパリに到着した。



●六段階貢献度評価
ナオミ 3、3 計6
朧 2、3 計5
アレックス 2、2 計4
ニセ 2 計2
井伊 2、2 計4
ヴィルジール 2、2 計4
春日 1 計1

ナオミには今回一振りが進呈されました。