●リプレイ本文
●車中
パリを出発した馬車は冒険者達を乗せて、まずは村に向かう。
自警団の一人が御者を行い、旅路は順調である。
車内では交代要員の自警団団員が今回の依頼の詳しい説明を行っていた。
「そうなのです。やはり、盗まれたままでは悔しくてそれで依頼を出させて頂きました」
自警団員が奥歯を噛みしめる。
この前の依頼の時、冒険者達の活躍によって山賊共は捕らえられたが、盗まれた物品はアジトにはなかった。唯一の残された手がかりは地図である。
「盗品の事は気になっていたんだ。村にとって一番いい形で終わらせたいしね」
シレーヌは剣を抱えるように椅子に座っていた。
「今度こそ納得のいく形で終わらせたいもんだがな」
リディック・シュアロ(ec4271)もシレーヌと同じ考えのようだ。今は自警団からの話しを聞く為に車内だが、終われば御者を代わるつもりでいる。
「地図の地点まではどのような地形なのかしら。地元のあなた達なら立ち入ったことがなくても大体どんな土地かわかるわよね?」
カーテローゼ・フォイエルバッハ(eb6675)は山中の移動を心配していた。雪深い道程ならば、それなりの覚悟を持って行かなければならない。
それほど深い雪は積もっていないはずだと自警団員が答えるものの、安心は出来なかった。途中で雪が降るかも知れない。
「なるほどのぉ。村で少し縄をもらえんじゃろか? 靴に巻いておけば少しは歩きやすくなるはずじゃからな。馬の蹄にも巻いておくつもりじゃ」
ガラフ・グゥー(ec4061)は毛布を被りながら会話に参加する。
重い物が持てないシフールのガラフにとって防寒は薄手になりがちである。山道にも自分の愛馬を仲間に手綱を引っ張ってもらって連れてゆくつもりだ。探索活動以外は荷物の毛布の間で寒さをしのがせてもらう。仲間の荷物も載せてゆくので全体の負担は減るはずである。唯一の心配は馬がどこまで寒さに耐えられるかであった。
「どんな敵が来たって、このあたしにかかればちょちょいのちょいよ」
カモミール・トイルサム(ec4419)は元気よく宣言したところで、大きなくしゃみをする。よく考えてみれば毛布こそ持参していたが防寒服を忘れていた。
「たとえ平地でも冬場では防寒の用意をしておいた方がいい。ガラフさんは引っ張る馬の中に待機するとして、カモミールさんはどうしようか‥‥」
シレーヌが悩んでいるとヒナ・ティアコネート(ec4296)がちょこんと手をあげる。
「シレーヌちゃん、任せて。今回はヒナの防寒服を貸しましょう〜。はい、どうぞ♪」
ヒナはカモミールに防寒服を貸しだした。ものすごい薄着のヒナであったが、不思議な指輪のおかげで暖かいらしい。
「怪しい紋章がかれているというのは気になります」
アマーリア・フォン・ヴルツ(ec4275)は地図を借りると描かれた紋章を見つめた。ドクロをかたどった不吉な紋章である。
「気になるのです」
ヒナが地図を覗き込む。
シレーヌは紋章についてはよくわからないと答える。チサトも調べてくれるらしいが、今の所どこのものなのか不明である。
村までの道のりは何事もなく、夕方には無事に到着するのだった。
●目的の地へ
村の小屋で一晩を過ごし、地図を辿るべく二日目の朝早くに一行は出発する。
「寒さに負けないよう、元気良くいくですよ!」
とても寒そうな格好のヒナが一番はしゃいでいた。
シレーヌは心の中で呟く。どうやら指輪の効果は本当らしいと。
自警団側は五人。連れてゆくのは荷物輸送用の馬一頭。
冒険者側は七人。連れてゆくのはガラフの馬一頭、犬一頭である。
その他のペットについては徒歩での山道では邪魔になるとして村に残された。リディックも愛馬を連れてゆくつもりだったが、代わりにガラフの馬の手綱を持つことにする。
雪は深く積もっていなかったが、それでも歩きにくい。まずはカーテローゼが先頭になって一列に連なって進む。途中で交代しながらも順調であった。
「今の所大丈夫なようじゃな」
ガラフは馬の毛布の中にくるまりながら、時折ブレスセンサーで探っていた。
小動物は見つかるが人間を含む危険な動物は発見されなかった。それでもどこからか狼の遠吠えが聞こえる。油断してはいけない。
「ちょっとした縁で手に入れたんだが俺が持っていても仕方ないしな。護りの魔法が掛かってるって噂だ、持ってりゃイイコトあるかもだろ?」
リディックはコメットブローチをシレーヌに贈る。
「ありがとう。大切にするよ」
ちょっと戸惑ったシレーヌであったが、ヒナの薦めもあってリディックから受け取った。
「もうすぐ崖になりますので、みなさんお気をつけて」
地図を預かっていたアマーリアは早めに情報を仲間に伝えた。おかげで危険な目に遭う前に回避出来ているようだ。
「ジャパンの友人の言葉を借りるなら、『出るステェクは打たれる』って奴だねぇ」
カモミールはハーフエルフであるのを隠さずに堂々と自警団の者達と接していた。訝しむ団員もいたが露骨な態度に出る者はいない。山賊退治を成功に導いてくれた冒険者という存在に感謝しているからだろう。
夕方頃、地図に描かれた地点にもうすぐという所まで辿り着いた。
カーテローゼとアマーリアは岩の上に登り、目を凝らして遠くを観察する。
どうやら目的の場所は古い石造りの建物のようである。森の拓けた場所にあり、人影は見あたらない。
ガラフは毛布から抜けだして調査に向かう。森林の知識と小さな身体を生かして建物に近づく。途中にあった穴で呼吸を探ってみると建物の中で反応がある。どうやら二人いるようだ。
ガラフはふと上を向いた。そして目撃してしまう。
ガラフは急いで仲間の元に戻り、状況を説明した。
「建物の中にいるのは二人じゃが‥‥、木の太い枝にロープがあってな‥‥首吊りの死体が三体ほどぶら下がっていたのじゃよ。山賊らの仲間なのかそれとも被害者なのかは分からんかのぉ‥‥」
ガラフの報告に自警団の者達だけでなく、冒険者達もショックを受ける。
これから先をどうするか、全員で多数決がとられる。このまま突入するのか、それともしばらく休憩してから突入するかをだ。
結果、今すぐに突入に決まる。
山賊であろう二人がどの程度の実力なのかは未知数だが、これだけの人数で奇襲をかければ問題はないはずである。
一行は夕闇に紛れて動いた。
落とし穴などの罠が危惧されるので、自警団の馬を建物に向かって走らせて、その後をついてゆく。
幸いな事に落とし穴を含む罠はなかった。
カーテローゼとリディックが敵と思われる二人をスタンアタックで気絶させる。縛るとすぐに起こす。
二人を尋問すると建物には地下倉庫があるという。冒険者達はランタンを灯して二人に案内をさせる。
「こんなにたくさん‥‥」
自警団の一人が呟く。
暗く寒い地下倉庫にはたくさんの物資が保管されていた。自警団の者達が見覚えのある品物もある。ここが盗品の保管倉庫なのは間違いないようだ。
シレーヌを始めとする一行はさらに山賊の二人を尋問する。外にある首吊り死体は、迷い込んだ旅人らしい。この場所を外部に漏らさない為に殺したようだ。
冒険者達は理不尽な行為に拳を強く握りしめる。
「バウトース結社? それがこの紋章の集団の名称なんだね? 何を目的とする集団だい?」
「我々にとっての悲願である無秩序をもたら‥してくれる‥‥デビル様を敬う為の集まりこそがバウトース結社だ‥‥」
カーテローゼの問いに山賊の一人が辿々しく答えた。バウトース結社とは山賊行為を行っている悪魔崇拝者の集まりのようだ。
あまり長居をすればバウトース結社の奴らが戻ってきてしまう。かといってここにある物すべてを運ぶのは不可能だ。
一行は再び選択を迫られるのだった。
●策
「なんだこれは!」
三日目の昼頃、古い石造りの建物に戻ってきたバウトース結社の者達は地下倉庫の中を見て驚く。
物資を入れておいた木箱のほとんどが石化していたのである。
「へ、変なのが跳ねながら叫んでます!」
地下倉庫に下っ端が報告しにやって来る。指導者は不機嫌そうな顔で階段を登り、外へと飛びだす。
「わーっはっはっは! ヴィクトリー!」
森の向こう側で木の上に何度も顔を出す人間がいる。
「なに突っ立っているのだ! とっ捕まえろ!」
指導者の言葉に従い、下っ端共が武器を手に森へと走りだす。そこに罠が仕掛けられているとも知らずに。
「ありがとう。うまくいったようだ」
シレーヌの言葉でカモミールは跳びはねるのを止めた。
残さざるを得なかった物資を石化させたのはカモミール。そして跳んで敵を誘導したのもカモミールである。
高価な品物は取り返せたので、このまま村に戻れば成功といっていい。だが、バウトース結社の者達を野放しにしておけば再び村に被害が及ぶかも知れない。
冒険者達が選択したのは、ある程度の敵減らしである。
カモミールに誘いだされた下っ端共は次々と落とし穴に落ちてゆく。雪に掘った穴なので比較的簡単に作ることが出来た。
「悪魔に加担する外道など、このわしが許さんのじゃ!」
ガラフのライトニングサンダーボルトが放たれるのを合図にして戦闘が始まる。すでに有利になる魔法の付与は済んでいた。
「しつこい! あきらめたほうがいいわよ!」
カーテローゼはいちいち相手にするのは面倒なので落とし穴へと敵を叩き落としてゆく。
「女性には優しく接するもんだぜ!」
リディックは戦いの全体を見渡して手薄な所を加勢した。
「お二人ともこちらへ」
アマーリアはホーリーフィールドを張り、安全地帯を確保する。魔力を使い果たしたガラフとカモミールが退避する。馬二頭もいるので少々窮屈ではあった。
「行きますよ〜♪ シレーヌちゃんは、あっちお願いです!」
ヒナは少々不安定な雪の上ながら拳を敵にねじり込んでゆく。
シレーヌも剣で参戦していた。ガラフの愛犬トチローも敵の誘導に一役買う。
自警団の者達も戦うが、ある程度の結果を目安にして退いた。敵の数が多く、全滅させるのにはさすがに辛かったからである。それに今いるのが敵全員とは限らなかった。
雪の中を馬二頭と捕虜二人を連れて逃げる。
ある意味ではここからが本当の戦いであった。どこから来たのかわからないように村とは別方向へと向かう。
ずっと雪山の中を彷徨い歩いた。
完全に追っ手がいなくなったのは五日目の朝方。ガラフが飛び回って確認してくれたので確かである。
五日目の夕方に一行は村へと戻ることが出来た。
●パリへ
六日目の朝、馬車で出発した冒険者達は夕方にはパリへと到着する。
馬車は冒険者ギルド前に停まった。
「もっとお礼をしたいのですが‥‥」
自警団の一人がワインと追加の報酬金を冒険者達に渡した。
「取り戻すのが依頼であったのに、盗賊、いや悪魔崇拝者達を倒して頂けるなんて、とても助かりました」
一人一人と握手をし、自警団の者達は馬車で立ち去った。
冒険者達はギルドの扉を潜る。
「しかしデビルの手下であったとはのぅ。昨今、愚かにも悪魔崇拝に邁進するなど、道を誤った事に気付けぬ者も少なくはないからのぅ」
ガラフは考え深げに呟いた。
「雪山ってのはかったるい所だな。俺とあろうものがほんの少しだけ苦労しちまったぜ」
シレーヌを見ながらリディックは笑顔で首を回す。
「あの紋章の組織はまだあるのかな〜?」
「私も気になります。あれで全員が倒せたとは思えませんし」
ヒナとアマーリアがシレーヌに訊ねる。
「そうだな。その前に話さねばならないことがある。実は――」
シレーヌは他の仲間も呼び寄せて、自分の父親がブランシュ騎士団黒分隊に所属している事を明かした。
「なので、バウトース結社については父上に聞いてみる。当分あの村は大丈夫だろうが、もしや他にも迷惑している村や集落があるかも知れない。そうならまた別の依頼人が依頼を出すのも考えられる。わたしはしばらくバウトース結社に関わる依頼に入るつもりだ」
シレーヌは自分の考えを今回の仲間に伝えた。
「捕まえた二人はギルドの方で官憲に引き渡してくれるそうだよ」
カーテローゼは話しながら手櫛で髪を整える。
「私の誘導でかなり助かったようね。シレーヌ、よかったわね〜!」
カモミールはギルドの中心で高笑いをし、みんなの注目を浴びた。
ギルドへの報告は終わり、ここで今回の依頼は終了となった。