ミラのドレス 〜アロワイヨー〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月04日〜02月09日
リプレイ公開日:2008年02月12日
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●オープニング
パリから北西、ヴェルナー領の北方に小さなトーマ・アロワイヨー領はあった。
トーマ・アロワイヨー領主となった青年アロワイヨーにはまつりごとの他にもう一つ悩みがある。
パリ近郊の森の集落で出会った娘ミラのことである。
ミラは冒険者達のおかげで無事にアロワイヨー家の親戚であるバヴェット家の養女になれた。これで家柄について文句をいう者は少なくなるはずだ。
バヴェット家の屋敷はトーマ・アロワイヨー内はなく、別の領内にある。ミラが移り住むとアロワイヨーと離ればなれになってしまう。そこで別荘宅がトーマ・アロワイヨー領内に用意される事となった。
バヴェット婦人は昔からアロワイヨーの事を気に入っている。二人の結婚が決まるまで、当分の間別荘宅でミラと過ごすつもりのようである。
ミラはアロワイヨー家の執事と共に馬車に揺られていた。久しぶりのパリの地だ。
「やはり、アロワイヨー‥‥様がよく利用なさっていた冒険者ギルドに頼んだ方がよさそうですね」
「それがおよろしいかと」
まだまだ慣れない言葉でミラは執事に相談をする。
パリにやって来たのには理由があった。バヴェット婦人のいいつけで服を揃えにやって来たのだ。
これからミラは様々な場所に顔を出さなくてはならない。その為には多様の服が必要だった。
ミラと執事は馬車から降りると冒険者ギルドの扉を潜る。
「どのようなご依頼でしょうか?」
カウンターには受付のゾフィー嬢の姿があった。
「服を揃えたくて、そのお手伝いをお願い出来ませんでしょうか」
ミラは依頼内容を説明する。まずはすぐに着られる既製の服を集めたいと。
貴族が着るような服はオーダーメイドがほとんどである。それはミラにもわかっているのだが、突然の催しに呼ばれるかも知れない。丈を詰めたりしてでもいいのですでに出来上がっている服を手に入れたかった。出来れば十着程度は欲しいとミラは考えていた。
それとは別にオーダーメイドの服も注文する予定である。
時間がかかるのはわかっているので一ヶ月から二ヶ月程度は仕上がりを待つつもりである。こちらは春も見越して三十着程度を考えていた。
一見多いようにも感じるが、今までの服がまったく使えない事を考えれば少ない方である。まん丸体型のバヴェット婦人の服はあまりにもサイズが違いすぎて、ミラが着るのはとても無理なのだから仕方がない。
服を買う手伝い依頼を出すと、ミラと執事はギルドを後にする。
ミラは依頼の初日までは慣れ親しんだ森の集落で過ごそうと決めていた。
●リプレイ本文
●朝
「はう〜!」
一日目の朝、セブンリーグブーツで森に向かっていたリア・エンデ(eb7706)は大急ぎで立ち止まる。
見慣れた馬車とすれ違ったからだ。リアが振り返ると停まったばかりの馬車から女性が降りてくる。パリに向かう途中のミラであった。
ミラを迎えに行くつもりだったリアは馬車に乗せてもらう。アロワイヨー家の執事も一緒である。
「ミラ様もそしてアロワイヨー様も、心はあの丸木小屋を作ってた頃とと変わりないと思うのです〜」
「ありがとう、リアさん。そうね、忘れないようにしないと」
リアとミラは馬車の中でお喋りをしながらパリに到着する。そのままギルドを訪れると、他の冒険者達は既に集まっていた。
「ミシェルよ。ミラ様のことはよく聞いているわ」
「とっても助かります。ミシェルさん、よろしくね」
ミラもよく知る友人の名を出しながらミシェル・サラン(ec2332)は挨拶をした。
「ちょっと待ってね」
ミシェルは羽根を羽ばたかせて浮かぶと個室を出て行く。そして受付のゾフィー嬢を連れてきた。
「わたしが知る範囲のお店は――」
ゾフィーが服飾関係の店を評判を交えながら羊皮紙に書いてくれる。簡単な地図も付け加えてくれた。
「みなさん、がんばってね」
ゾフィーは仕事が残っているのでカウンターへと戻ってゆく。
「ミラさんと執事さんにお話を。どのような場合での服が必要なのでしょうか? 場に合わない奇抜すぎるデザインではいろいろと問題でしょうから」
具体的にどんな服が必要なのかクリミナ・ロッソ(ea1999)は質問をする。ミラはまだ実際の貴族社会には詳しくないので執事が答えた。
「わたくしが営むお店にもご招待致しましょう。他で手に入れた服の仕立て直しも出来ますよ」
答えを聞いたクリミナは力になる為に提案する。
「あ、ありがとうございます」
思わぬクリミナの申し出にミラは喜んだ。
「さて、緊急として既製の服の用意をしなければならないようですね。まずは知っているお店や、知り合いなどを総当たりすべきでしょうか」
十野間空(eb2456)にもいろいろと考えがあった。貴族とはいえ、いつも舞踏会などの社交場に出席している訳ではない。くつろげるようなものや、ジャパンの着物もあればいいと考えていたのだ。
「エチゴヤさんに、行ってみます」
エフェリア・シドリ(ec1862)はゾフィーが書いてくれた内容を自前の紙に写すとミラを見つめて呟いた。他にも川口花の実家や劇団員のヨーストの家にも向かうつもりである。
「お洋服集め、がんばるのですよ〜♪ あのぉ〜、皆様、今夜お時間ありますですか?」
リアがみんなに質問をする。
「私は大丈夫ですわ」
にこにこの笑顔でチサト・ミョウオウイン(eb3601)が首を傾げた。全員に大丈夫だといわれてリアはフェアリーのファル君と一緒に勝利のポーズをとる。
チサトもリアの計画を知っていて、一緒にある所へお願いをしてある。
夜の行き先は内緒ということで、一日目の服探しが始まるのだった。
●服探し
クリミナがミラの身体のサイズを丁寧に計る。その間、十野間空と執事は個室から出されたのは言うまでもない。
計り終わり、サイズをメモしたものを仲間全員に手渡す。そして冒険者達はパリの街に飛びだしていった。
店などで既製の服を探しだして取り置きしてもらい、明日ミラや執事を連れて改めて本人に確かめてもらう段取りであった。
オーダーメイドの服の注文は三日目から始めても充分に間に合う。まずは既製の服、十着を集めなければならない。
ひとまずミラは執事と共にクリミナの店に向かった。
「よいお店ですね」
ミラはいくつかサンプルとして置かれている服を執事と共に眺めた。残念ながら仕立て直しをしたとしても無理な寸法のようだ。デザインも年齢が高めの女性用である。
時間もあるので予定より早めだがオーダーメイドの服注文をする事にした。たくさんのデザイン画が置かれ、用意出来る生地が並べられる。
「こちらの華やかな色を使うといいかも知れませんわ。若い女性なら極普通ですわよ」
「‥‥そ、そうですか?」
会話するクリミナとミラの隣りには執事が待機していた。訊ねられると的確なアドバイスをしてくれる。出来るだけミラの考えを尊重する為だ。計七着の注文が行われる。
既製服の仕立て直しも約束し、残る時間はクリミナの知り合いの靴屋や彫金師の元に向かう。そこでなるべく汎用性の高いデザインの品を買い求めるミラであった。
「こんにちは、エチゴヤさん」
「こんにちはお嬢さん」
エチゴヤを訪れたエフェリアはエチゴヤの親父に挨拶をする。そして訊ねた。『エチゴヤさん印の衣類、どこで仕立てたものでしょうか?』と。
エチゴヤの親父は笑った後で、企業秘密だと人差し指を揺らして答える。
きょとんとした瞳で見上げるエフェリア。子猫のスーさんを抱いたまま、奥に入ろうとするが親父にガシッと頭を掴まれ、一回転させられる。ススッと親父に背中を押され、さようなら〜と手を振られた。エフェリアはエチゴヤを追いだされてしまった。
続いてエフェリアが向かったのはヨーストの所である。仕事をしながら教会などで演劇をしている青年だ。
「貴族の服かい? 舞台映えするようにハデには作ってあるけど、近くで見ると大したもんじゃないんだよ」
エフェリアが舞台用の衣装を譲ってもらえないかと相談するが、ヨーストによれば見かけだけのものらしい。少し落ち込むエフェリアであったが、舞台衣装を作っている劇団員を紹介してくれるのだった。
「実はお願いがありまして――」
十野間空は川口花の実家を訪ねていた。
話しを聞いてくれたのは花と母親のリサだ。着物一式を融通してもらいたいと頼んだのである。
「譲るのは構わないけど、二ヶ月ではどうにもね‥‥」
リサは隣りの部屋で眠る赤子の菊太郎を眺める。産まれて大して日は経ってなく、まだまだ手がかかる。着物の裁縫に関して川口家で知るのはリサのみだ。直しを二ヶ月で完成を約束するには不安があったのだ。
今回の話しは無かった事にする。それが一番いいと十野間空は考えた。
エフェリアも訪れる。そして事情を聞いて納得した。この間のお礼だといってハーブワインを花に手渡す。
「赤ちゃん、かわいいです」
「元気に育って欲しいものです」
エフェリアと十野間空はすやすやと寝ている菊太郎を眺めてから立ち去るのであった。
「ツィーネお姉ちゃんが逗留してた時に、品の良い御洋服を沢山ご用意されたと伺いました」
チサトとリンカは一緒にパリにあるハインツ邸を訪れていた。
少年貴族ハインツに相談していたのはツィーネが着なかった服の事である。冒険者のツィーネは動きが制限される貴族の服を嫌ったらしい。
チサトとリンカは事情をハインツに話した。
「そうですか。お困りの方がいらっしゃるなら、お譲りしましょう。ただほとんど残っていないのです。確か四着は残っていたはず」
ハインツは侍女に服を四着持ってこさせた。よい生地によい仕立て。さすがの品である。ミラの体格より大きめのようだが、これなら仕立て直しでなんとか出来る範囲であろう。
「もし宜しければ、贔屓の仕立て屋さんを紹介して頂けませんか?」
チサトはさらに仕立屋について訊ねる。ハインツは紹介状つきで懇意の店を教えてくれるのだった。
「今度はあそこね」
ミシェルはメモを手に空から仕立屋の看板を見つけると急降下する。
店の中に入り、サンプルとして置いてある服を確認した。執事がいっていたように貴族の服を扱う店では出来合のものはほとんど置いていない。せいぜい職人の腕を示すサンプルが置いてある程度である。
既製品が置いてある店だと今度は貴族が着るには物足りない品ばかりだ。もう少し中間の店があると思っていたミシェルは当てが外れる。
しかしミシェルは何店か回るうちに貴族の店に置かれているサンプルに注目する。仕立て直しをすればミラが着られそうなものもあったからだ。
「突然ですが失礼いたします。わたくしミシェルと申します。さる貴族の令嬢のドレスを探していますの。早急に必要なのですが、こちらのサンプルをお譲り頂く訳には参りませんでしょうか?」
ミシェルは失礼がないように店の主人に訊ねた。譲るのが可能であるなら取り置きを頼んだ。明日、必ず本人を連れてくると約束をして。
執事からもらっていたいくらかの手付けを支払ってミシェルは店を出る。
「まだまだ足りないし‥‥。パリにあるお店、全部回るぐらいの覚悟じゃないと」
ミシェルは再び空に舞い上がる。道に沿って上空を飛び、次の店を探すのであった。
「つ、疲れたのです〜。目がぐるぐるです〜」
リアも一日中パリをかけずり回り、服探しに没頭していた。
貴族の服となると普通には売っていない事を痛感する。既製の服の中からそれらしいのを選ぼうと考えていたリアであったが、はっきりいってない。まったくない。全然ない。
「はう‥‥これは‥‥」
夕方に入った最後と決めたお店で、リアはまばゆいドレスと遭遇した。
誰が見てもゴージャスである。店員に訊ねてみると、エチゴヤの福袋購入者から買い取ったものらしい。極々希に流れてくる逸品のドレスとリアは偶然にも出会ったようだ。リアの運の良さ、恐るべしである。
「あ、あ、の、です〜。あの服、取っておいて下さいです〜」
すかさず取り置きを頼んだリアであった。
●食事会
一日目の晩、ジョワーズ・パリ支店でのお食事会が始まった。
「ここの料理は味に一本筋が通ってて、かつ華やかさもあるのですよ〜」
リアはさっそくプレ・サレの肉料理をぱくりと頂く。
「みなさん、ごゆっくりと♪」
知り合いの冒険者がフェアリーと共に食事を個室に運んできた。他にも知り合いが何名か働いている。
ミラは驚きつつ、感謝する。
「アロワイヨーさん、あいかわらずですか?」
エフェリアが訊ねるとミラは笑顔で頷く。二人はうまくいっているとエフェリアは思った。
「よかったらアロワイヨーとの馴れ初め、聞かせてもらえる?」
ミシェルはミラがどうして領主の恋人になったのか気になっていた。恥ずかしそうにミラは話す。森に集落が作られ、そこに移動した事。丸太小屋の事などいろいろと。
十野間空は黙って聞きながらある人の事に想いをはせていた。
「こちらの衣装‥とても可愛らしいんですよ。ミラお姉ちゃんも、試着させて貰いますか?」
チサトの提案でミラはジョワーズのフリフリの服を着る事となる。
「はう〜、ウエイトレス姿もすごく可愛いのです〜」
リアは目を丸くする。ファル君がミラの周囲を飛び回った。
「そうそう、既製の服は集まりそうでしょうか? いくつかはわたくしのお店で手直しさせて頂きますので」
クリミナの一言で冒険者達は取り置きした服について報告をする。
全部で十四着が取り置きされていた。全部が使えるとは限らないが、十着は何とか用意できそうだ。
食事を囲んだ楽しい席は夜遅くまで続くのだった。
●二日目
十野間空から借りた馬を馬車に加え、ミラと執事はパリを疾走した。リア、ミシェルはそれぞれの取り置きなどをした店に待機して二人を待つ。
エフェリアは既製の服を受け取ると、ドンキーに乗せて教えてもらった劇団員の所へ向かう。子猫のスーさんも一緒である。
十野間空も愛馬で買い取った既製の服を仕立屋の所に運んだ。真っ先に運んだ先はクリミナの店だ。
チサトはハインツから譲ってもらった服を持って紹介してもらった仕立屋に出向く。明日にオーダーメイドの服を注文しにくる挨拶も兼ねてである。
普段着として着るものも含めて、冒険者が探してくれた十四着は全部ミラによって買い取られ、仕立て直しに出されるのであった。
●オーダーメイド
三日目からは服飾のお店を回り、注文が続く。
「そうですね‥城の中で着る事を考えるともう少し華やかでないと暗い印象を与えてしまいますよ。どうしてもパーティなどは、城内の薄明かりの元で行われがちですからね」
十野間空は経験からいくつかのアドバイスを行う。ミラがどうしても地味な色を選びがちだったからだ。
「アロワイヨー様にどんな服を着た自分を見せたいか考えるときっといいと思うのですよ〜。自分が気に入らない服は絶対似合わないのです〜」
リアは次々と布地をミラの身体にあててゆく。ミラは目の前の従業員が持つ大きめの手鏡を覗き込む。
「‥領主様の婚約‥結婚と言うのは領民にとっての希望になります。だからこそ、みんなの目に留まって‥明るい希望を思わせる色合いの物を選ぶ方が良いと、私は思います」
チサトもミラの近くでどんな服にするか参加する。
「ミラさんなら明るい色、似合うと思います。この絵、とてもいいです」
エフェリアは子猫のスーさんを抱えながらデザイン画を眺めていた。いくつか気に入ったものを選びだす。
そして自分なりに考えた新しいデザインを描いた。見せるとミラも気に入り、エフェリアデザインのドレスが一着作られる事となる。とてもすっきりとしたデザインのドレスである。
「このお店は清楚なイメージの服が得意よ。次のところは派手なのが得意みたい」
ミシェルは調べてきた情報をミラに伝える。そして間違いがないように、それぞれの店でミラの採寸をしてもらう。二度手間、三度手間のようだが、お店独自のノウハウもある。ちゃんとした服を作ってもらうには時間をたっぷり使うべきだと考えたのだ。
「この布地よさそうだわ」
クリミナは新しい色の生地を見つける。注文された服にはこの色の方が良さそうだと、ミラと相談をし、手に入れてもらうのだった。
●最終日
三日目から五日目にかけては注文に費やされた。
五日目の夕方、冒険者達は仕立て直された十四着を集めてミラに手渡す。
「これでなんとかなります。ありがとう、みなさん」
ミラは涙ぐみながら、冒険者達に感謝をする。そして既製のものながら冒険者達に服のプレゼントを渡した。
「私からはこれを」
十野間空からミラにバックルが渡される。
「着物は無理のようでしたが、いつか使う機会もあるはずです」
チサトからはかんざしがミラに手渡された。
「ミラ様、お幸せになのです〜」
リアは両手でミラと握手する。
「どんな服を着ていても、ミラさんは十分素敵です」
エフェリアは子猫のスーさんと一緒にミラへさよならをする。
「ご注文の品、仕上げておきますわ」
クリミナは優しい笑顔でミラを見つめた。
しばらく経ったら注文した服を取りにパリに戻ってくるとミラは約束した。その時はアロワイヨーも一緒だと付け加え、馬車に乗り込む。
ミラと執事が乗った馬車は船着き場へ向かって走りだす。帰る先はトーマ・アロワイヨー領であった。