トロルの森を通過せよ 〜アーレアン〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 3 C

参加人数:7人

サポート参加人数:8人

冒険期間:02月05日〜02月13日

リプレイ公開日:2008年02月13日

●オープニング

「ハンス、久しぶりだな」
「おお、やっと戻ってきたか!」
 冒険者ギルドのカウンターで冒険者とギルド員が再会を果たした。
 青年冒険者の名はアーレアン。青年受付係はハンス。
 二人は仕事上の知人だけではなく、すでに友人同士である。
 アーレアンはしばらく実姉のいる故郷に戻っていたが、聖夜祭が終わりってようやくパリへ戻ってきたのだ。
 その日の晩、アーレアンの故郷での話しを摘みにして、二人は酒場で飲み食いをした。
「ところで、ギルドの依頼に何か変化はあったのか?」
「いや、特別にはないぞ。日常の手伝いや、怪物退治、探索なんかてんこ盛りだ。それが良いことか悪いことは別にして活気はある」
「そうか。ちょっとは成長したんで、前より困難な依頼にチャレンジしたいと考えているんだが‥‥ま、明日にでも掲示板を眺めてみるよ」
「そういや‥‥」
 ハンスはカバンから一枚の依頼書を取りだす。
「この依頼、同じような内容で何度も出されているんだ。成功したり、失敗したり、流れたりする依頼でね。出発の日時以外同じのをまた貼りだすんだが、ちょっと読んでみてくれよ」
 ハンスからアーレアンは依頼書を受け取ると目を通した。
 依頼は補給物資を届ける内容だ。
 物資が積まれた荷馬車五両を、提供された馬車一両に乗って守らなくてはならない。
 山賊の類も気をつけなくてはならないが、問題は途中で通る森に住んでいる。
 もっとも注意すべきは巨人『トロル』であった。
 トロルが何組か住み着いていて、馬車や荷馬車の通過を邪魔をする。特に生肉を好み、積まれた食料だけではなくて人も喰うので厄介だ。
 最初の頃はよく冒険者達も依頼に入ってくれたのだが、トロルの特殊性を知ると後込みする者が多くなってしまった。怪我をしてもわずかな時間で回復してしまうのである。噂では火傷の場合のみ回復をしないといわれているが、試した者が少ないのか本当かどうかはわからなかった。少なくともハンスが調べた範囲ではそうらしい。
 補給物資は定期的に運ばなくてはならず、そして物資を届けた帰り道も森を通らなくてはならない。かなり危険な依頼であった。
「別に倒さなくてもいいんだよな。この内容だと」
「そうだ。とにかく物資を運びさえすれば問題はないはずだ」
 アーレアンはハンスが提示した依頼に入る事にする。翌日、冒険者ギルドで正式な手続きを行うのだった。

●今回の参加者

 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb5977 リディエール・アンティロープ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb9212 蓬仙 霞(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec0222 セルシウス・エルダー(23歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec0298 ユリア・サフィーナ(30歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ec0886 クルト・ベッケンバウアー(29歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec1850 リンカ・ティニーブルー(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

セシル・ディフィール(ea2113)/ リスティア・レノン(eb9226)/ 水之江 政清(eb9679)/ 王 冬華(ec1223)/ レミア・エルダー(ec1523)/ リフィカ・レーヴェンフルス(ec1752)/ 春日 龍樹(ec4355)/ ラムセス・ミンス(ec4491

●リプレイ本文

●集合
 一日目の朝、アーレアンはパリを守る城壁近くにやって来た。参加する補給物資輸送隊の出発地点だからである。
「なんか、久しぶりの冒険者もいるぞ。って、俺が久しぶりなんだから当たり前か」
 アーレアンは知った顔を見つけて駆け寄る。
「アレーアンさん、お久しぶりです‥‥」
「壬護さん、元気していた?」
 前髪で見えなかったがアーレアンの前に立った壬護蒼樹(ea8341)の瞳は潤んでいた。久しぶりの再会に少々感極まっているようだ。
「アーレアンさん‥久しぶりだな、今回は宜しく」
「おー、セルシウスさんがいる。またがんばろうぜ」
 セルシウス・エルダー(ec0222)はアーレアンを見てほっとする。妹のレミアから依頼の失敗から立ち直ったとは聞いていたが、自分の目で確かめるまでは不安だったからだ。
「最初の御者は僕が。そろそろ出発のようだね」
 蓬仙霞(eb9212)は荷馬車の列が騒がしいのを見て馬車の御者台へとあがる。冒険者達の馬はすでに繋がれてあった。
「では私は最後の荷馬車に乗せてもらうことにします。馬車は先頭をお願いします」
 リディエール・アンティロープ(eb5977)は仲間に一声かけて、最後尾となる荷馬車に向かった。一番後ろでの後方監視をリディエールは買ってでたのである。
「あたいは中頃の荷馬車の荷台で監視させてもらうよ。こいつで援護をするつもりだ」
 リンカ・ティニーブルー(ec1850)は弓を軽く掲げる。矢に関しては輸送隊から支給されると先程連絡があった。後は火を点けられるように工夫をするつもりのリンカである。
「私達は先頭の馬車で注意することにしましょう。いろいろとお話も聞きたいと思いますわ」
 ユリア・サフィーナ(ec0298)は静かに馬車の扉を開けて乗り込んだ。他の冒険者達も次々と乗車する。
「はじめましてだね。よろしくお願いするよ」
「こっちこそ、よろしく頼むね」
 馬車の中で挨拶するクルト・ベッケンバウアー(ec0886)とアーレアンは握手をする。クルトは帽子を深く被り、耳を隠していた。余計なトラブルを呼び込まない為である。
「蒼樹おじさん、普段からそんなに食べているの? 太るよ」
「それで普通なんだけど‥‥」
 壬護は見送りに来たラムセスに家の鍵を渡し、家に用意してある大鍋のシチューを食べていいと伝えたのだ。弟の龍樹に見つかると全部食べられてしまうと警告してから壬護は馬車に乗り込んだ。
 準備が終えて間もなく輸送隊は出発する。先頭となる冒険者の馬車から動き始めた。
「行ってらっしゃい。いい旅になるはずだよー」
 ラムセスは占いの結果を見送りの挨拶代わりにする。
「気をつけてな蒼兄、留守は任せてくれ」
 壬護とラムセスの内緒話も知らぬまま、龍樹も馬車を見送った。
「アーレアン君、また今度一緒に冒険へ行こう。セラ、気を付けてな」
「お兄ちゃんもアーレアンさんも、気をつけてね! 行ってらっしゃい!!」
 リフィカとレミアは馬車の窓から顔を出すアーレアンとセルシウスに手を振る。
 馬車と荷馬車は連なってパリの城壁門を潜り抜けてゆく。
 向かうはノルマン兵士達の拠点。辿り着くにはトロルが徘徊する森を通過しなければならなかった。

 一日目には大した出来事は起こらずに順調であった。
 途中の休憩時に依頼人の商人とも話し、細かい護衛に関しての相談を行う。
 馬車の中ではアーレアンとセルシウスが戦ったズゥンビオーガの事が話題となる。失敗した依頼であったが、今思いだすと貴重な経験であった。
「あの森が‥‥」
 夕方、ユリアは前方の小窓から外を眺めて呟く。問題のトロルが徘徊する森が佇んでいた。
 輸送隊は森に入る前に停車する。今日の所は森に入らずに手前での野営となる。
「ほいよ。具は不格好だが、けっこういけるんだぜ」
「それはいいな。仲間の分ももらえるかい?」
 クルトは輸送隊の食事係から湯気の立つスープの皿を受け取った。
 平地とはいえ、とても寒いので温かい食事はとても助かる。これから始まる夜間の見張りに備えなければならないからだ。
 見張りはすでに班分けされていた。
 一班、クルト、アーレアン、セルシウス。
 二班、霞、リンカ。
 三班、壬護、ユリア、リディエール。
 二班に関しては徹夜に強いセルシウスと壬護が交代で補助に入る予定である。
 底冷えする長い夜は何事もなく過ぎ去る。
 やがて二日目の太陽が地平から昇り始め、輸送隊は出発の準備を始めるのだった。

●トロル
「この音は!」
 森の道を列をなして輸送隊は進んでいた。その最中、真っ先に異変に気づいたのはリンカである。次第に音と地響きは大きくなり、誰もが知る事となる。
「あれがそうなのか」
 御者をしながら霞が振り向く。
 トロルが荷馬車の列に駆け寄ろうとしていた。幸いなことにトロルの歩みは遅い。輸送隊と並んで走っていたものの、距離があるので近づいた頃には最後尾にすら届かないであろう。
「リンカさん、試してみましょう」
 最後尾にいたリディエールがベゾムで空を飛んでリンカのいる荷馬車へと移動する。
「これでどうだ!」
 リンカが先端の燃える火矢を放ち、トロルに命中させる。
 時間をずらしてリディエールがウォーターボムを放つ。周囲の枯れ草などに燃え移らないようにする為だ。
 遠ざかるトロルは焼けた矢傷の傷みにその場で暴れだす。視力のいい二人はしばらくトロルの様子を観察した。どうやら火傷だと簡単に治らないのは本当のようだ。
 完全にトロルは見えなくなり、平穏が訪れる。輸送隊は昼前に一つ目の湿地帯を素通りした。
 暮れなずむ頃、二つ目の湿地帯で輸送隊は停まる。これ以上進んでも今日中に森は抜けられない為、この場で野営をする事に決められたのだ。
「この依頼が終わってもここを通る人間はいるだろうからね。出来ればトロルを倒しておきたいところだ」
 霞がスープをスプーンで口に運ぶ。真っ暗になる前に冒険者仲間で食事の時間である。
「トロルか‥‥何匹出るかが要注意だね。さっき見て回ったけど、この湿地帯周辺にはトロルの足跡痕跡はなかったよ」
 クルトはスープに浸したパンをかじる。
「火傷で倒れるのなら、三体程度まではいっぺんに相手にできるでしょう」
 リディエールが出した意見に仲間も同意する。
「バーニングソードの付与、頼むよ」
 セルシウスはリンカからスクロールを借りたクルトに向けて少しだけ剣を持ち上げてアピールする。
「湿地なら森も火事にはなりにくいですよね。アーレアンさん、ボクがトロルに傷を負わせたらファイヤーボムを撃ち込んでもらえますか?」
「わかった。任せてくれ!」
 壬護の頼みにアーレアンは自分の胸を叩くがむせてしまう。仲間から笑い声があがる。
「ここならファイヤーボムを使っても安心ですね」
 ユリアはすでに馬車の中でアーレアンに頼んであった。森を火事にしないように注意してファイヤーボムを使う事を。
「ここは行きの山場だな。戦いやすいとはいえ、気を引き締めていこう」
 リンカは立ち上がる。ちょうど太陽が地平に沈む瞬間であった。

 二日目から三日目にかけての夜間にトロルの襲撃はなかった。
 次にトロルが現れたのは森が終わる直前の昼頃であった。
 二体のトロルが輸送隊を追いかけてくる。戦うか迷った冒険者達であったが、輸送を優先させた。
 戦うのならば物資を荷馬車に載せていない帰りの方がよい。テリトリーの森を離れてトロルが追いかけてくるとは考えにくい。もし追いかけて来たのなら火事の心配をせずに戦える。それならば倒すのは簡単だ。
 リンカはバーニングソードがかかった矢を放つ。
 見事、先頭のトロルの右目に当たる。矢が刺さって立ち止まったトロルにもう一体がぶつかって転げた。二体とも姿が見えなくなる。
 そうこうする間に輸送隊は森を抜け、草原に出るのであった。

●拠点の砦
 輸送隊は夕方に目的地である砦に辿り着いた。
 兵士達に歓迎されながら、ひとまず必要な物資が降ろされてゆく。どうやら慢性的に品不足らしい。
 砦では兵士達もいて見張る必要はなかった。砦の一室が冒険者達に用意され、誰もが久しぶりのベットでの睡眠をとる。
 翌日の四日目は残る物資を兵士達が降ろす作業の為、冒険者達は待ちの時間となった。
 冒険者達は身体を休めながら作戦を練り直す。少しでも森の脅威が少なくなるようにトロルを倒す作戦である。
 火傷で回復しない以外に冒険者側に有利なのは輸送隊に比べてトロルの足が遅い事と、湿地帯の存在であった。

●帰り道
 五日目の昼に輸送隊は砦を後にした。
 トロルの徘徊する森の手前で野営をするので、遅い時間の出発でも余裕があったのだ。
 荷馬車には行きの物資代わりに怪我や病気をした兵士数人と、砦近くで採集された薬草類が乗せられている。幌が荷馬車一両にかけられて、その中で兵士達は安静にしていた。特別に緊急を要する者はいなかった。
 輸送隊全体では貨物がなくなり、行きより動きも軽快である。
 順調に進み、予定通り森の前での野営となる。
 夜間に襲撃は起こらなかった。
 ただ、森の奥から獣の雄叫びが聞こえた。それがトロルの叫びなのかまではわからなかったが、帰りの一行の心を威圧したのは確かであった。

「行きはこの辺りで襲われたんだよな」
 六日目の朝、森に入ったばかりのところでアーレアンは呟く。確かにリンカが右目を射ったトロルはこの辺で遭遇していた。
 冒険者達はより気を引き締める。それぞれの方法でトロルの出没を警戒した。
「トロルが前方の道で狙っています!」
 ベゾムで空から警戒していた壬護がトロル三体を発見し、馬車の仲間に報告する。すぐに他の場所にいる仲間にも知らされた。
「この先に細いですが、もう一本湿地帯に繋がる道はあります」
 商人が地図を取りだして冒険者達に教える。分かれ道に差しかかり、輸送隊は細い道を進路とした。そしてベゾムに乗る壬護は元々のルートで待ち伏せているトロル三体を地帯まで誘導する役目を受け持つ。
「あの辺りなのか‥‥」
 先頭の馬車を走らせる御者のセルシウスが騒がしい方角を見て呟く。きっと壬護を追いかけているトロル共の叫び声に違いない。
 仲間は戦いの準備を行っていた。湿地帯に出たらすぐに戦えるようにと。
 進行方向が拓け、湿地帯に輸送隊は入る。
 冒険者達は飛び降りた。武器を持つ者は構え、魔法を操る者はいつでも唱えられるように姿勢をとる。
 木々の隙間からベゾムで空飛ぶ壬護が現れた。すぐに棍棒を振り回しながら追いかけてくるトロル三体も目視出来るようになった。
「まずはこれで抑えよう」
「わかった!」
 リンカとクルトは炎を付与した矢を何本か放つ。その後は油を付けて燃やした矢を使った。残る魔力は仲間の武器への付与の為にとっておいた。
「壬護さん、こっちだ!」
 叫ぶアーレアンの元に壬護は降りる。そしてアーレアンは唱えた。
 三体のトロルを巻き込んで、ファイヤーボムが炸裂する。
「これを!」
 リディエールはウォーターボムをリンカとクルトが狙っているのとは別のトロルにぶつける。衝撃でトロルはよろめく。
「行くぞ!」
 セルシウスは炎を付与された剣を手にトロルへと立ち向かう。まずは敵の動きを止める為に手や足を狙った。
「くっ!」
 霞はトロルの棍棒とすれ違い様に炎がまとう刀を振り下ろした。髪を掠めたが棍棒は霞に当たらない。トロルの脇腹に刀が斜めに食い込んだ。即座に抜き、霞は攻撃を続ける。
「止まりなさい!」
 ユリアはホーリーフィールドを張って安全地帯を作り上げる。そして荷馬車に近づこうとしたトロルに向かってコアギュレイトを放つ。時間稼ぎをしている間に壬護がナギナータを手にやって来た。
「うおおおっ!」
 壬護がナギナータを振り降ろし、トロルの胸に深く傷をつける。そこにアーレアンがファイヤーボムを撃ち込んだ。
 トロルは苦しみながら吠えた。
 まずはセルシウスが戦うトロルにクルト、リンカ、リディエールが参戦して倒しきる。続いては壬護が対峙していたトロル、最後は霞が相手をしていたトロルを狙う。
 冒険者達はトロル三体を倒しきるのだった。

●そして
 トロル三体との戦いで冒険者達も少々の手傷を負ったものの、商人がくれた回復の薬で事なきを得る。
 一体のトロルが指輪を持っており、冒険者達は一つずつ分け合う。どうやらトロルはお守りがわりにしていたようだ。
 湿地帯に泊まった深夜、新たな二体のトロールが現れた。
 発見した一班が仲間に知らせてすぐに倒し終わる。今度は怪我もなかった。全員がトロル退治に慣れたようだ。役割分担がはっきりしたおかげでもあるだろう。
 翌日の七日目の夕方、輸送隊は無事に森を脱出する。さらに一晩の野営を経て八日目の夕方にはパリに到着した。
「久しぶりの依頼だったけど、うまくいってよかったよ」
 アーレアンはギルドでの報告を終えると笑顔で仲間に話しかけた。
「また依頼であったらよろしく頼むね」
 しばらく冒険者達はギルドで雑談してから解散するのだった。