バウトース結社への怒り 〜シレーヌ〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月07日〜02月14日

リプレイ公開日:2008年02月15日

●オープニング

 真夜中、家屋が炎をあげ、血の飛沫が壁に張りついては垂れ落ちる。
 悲鳴と怒号。鐘の音も混じる中をかける村人達。
 山賊の襲来であった。
「‥‥あの子が、なんで、あの子が‥‥」
 何とか山の中に逃げおうせた中年女性モリアは同じ言葉を繰り返す。
 生まれ住んだ村が山賊に襲われて燃えてゆくのは哀しいが、もっとショックな出来事があった。山賊に混じり自分の息子が襲ってきたのである。
 正しくいえば息子であったもの。モリアの息子は殺されてズゥンビにされ、山賊共の先兵にされたのだ。
 モリアは息子に襲われ、手にしていた鎌で切り裂いた。そして無我夢中で逃げだして今に至る。
 モリアの唇から血が幾筋も流れていた。殴られた訳ではない。あまりに強く噛みしめているうちに口の中が切れてしまったのだ。
 どうしたらいいのかわからないままモリアは歩を進める。後に気づく事だが、進んでいた方向にはパリへと繋がる道が存在していた。


「頼まれていたバウトース結社の事。外に出せる範囲で教えてもらってきた。確かに新興の悪魔崇拝者集団だが、我々が考えるところの悪魔崇拝者ではないな」
「父上、よくわからないのですが」
 女性冒険者シレーヌ・ブルーニは屋敷で父親であるガエタンからバウトース結社について話を聞いていた。ガエタンはブランシュ騎士団黒分隊所属の騎士である。
「バウトース結社は自らをデビルとする教義を持っているのだ。つまり本物のデビルとは関わりを持っていない。少なくとも現段階ではな」
「自分達がデビル? そう思い込もうとしているだけなのですか? 山賊が母体となっているようなのですが」
「結社の中心にウィザードが何名かいるようだ。そいつらが死体からアンデットを作れるらしい。それをもってデビルの技と言い張っているらしいが‥‥。本物のデビルを知っている者にとっては冗談にしか聞こえないが、一般の民衆からすれば説得力もあろう。脅威でもある。勢力を広げているようだが、叩くなら今のうちだな」
「わかりました。今日も冒険者ギルドに行ってみます。バウトース結社に関わる依頼が出されているかも知れないので」
「黒分隊は今、他の事案を任されていてな。もし関わる依頼がそうであるのなら、シレーヌ、頼んだよ」
「はい、父上。行ってまいります」
 シレーヌは椅子から立ち上がって礼をし、部屋を立ち去る。

 その頃、冒険者ギルドに一枚の依頼書が貼られた。
 村をバウトース結社に襲われたモリアが有り金を叩いて出した依頼であった。

●今回の参加者

 ec4061 ガラフ・グゥー(63歳・♂・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ec4271 リディック・シュアロ(33歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ec4275 アマーリア・フォン・ヴルツ(20歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec4296 ヒナ・ティアコネート(30歳・♀・僧兵・人間・インドゥーラ国)
 ec4516 天岳 虎叫(38歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

鳳 令明(eb3759

●リプレイ本文

●ギルド
「話せる範囲でいいから、襲った山賊について聞かせてもらえないだろうか?」
 場所は冒険者ギルド。リディック・シュアロ(ec4271)は依頼人であるモリアに訊ねる。
 すでに参加する冒険者は全員集まり、モリアと共にテーブルについていた。
「はい‥‥。逃げる途中で隠れながら山賊共の話しを耳にしたんです。二つのアジトがあるらしく‥‥。どちらも遠くだけど知っている土地で、さっきギルドの人に地図をもらって描き込んでおきました。これです」
 モリアが一番近くに座っていたシレーヌに丸めた地図を手渡す。シレーヌは地図を広げて確認した。
「ふむ。なるほどな。この前の盗品が集められていたアジトから一山越えたあたりかの」
 テーブルに座る小柄なシフールのガラフ・グゥー(ec4061)が地図を覗き込んだ。
「‥‥よければお暮らしになっていた村を襲った様子を教えてもらえますか?」
 アマーリア・フォン・ヴルツ(ec4275)はなるべくモリアの心を掻き乱さないように注意して質問をする。しかしどうしても触れなければならないのがズゥンビの事だ。ズゥンビの存在は依頼書に書かれてあり、そしてシレーヌからの情報が裏付けている。
「あの――」
 モリアはズゥンビの息子が村に現れ、自分が斬りつけた事を話す。依頼書には書かれていない、モリアにとって話したくはない事実である。
 アマーリアはモリアを慰めた。モリアの息子の魂が救われた事を強調して。
「酷いのですぅ!」
 ヒナ・ティアコネート(ec4296)は席を立ち上がった。怒りに握り拳を作り、今にも走ってアジトに向かいそうな勢いである。シレーヌが肩を掴んで座らせなければ、本当に走りだしていたかも知れない。
「以前の依頼で、バウトース結社に関わるどのような事があったのか、教えてもらえぬか?」
「そうですね。あれは――」
 仲間がモリアと話している間に、シレーヌは天岳虎叫(ec4516)に今までの簡単な経緯を伝える。
 もうすぐ昼という時間になり、冒険者達はモリアと別れの挨拶を交わしてギルドを後にした。
 引き続き夕方まで鳳令明がモリアと話し、何か特別な事がわかればギルドに置き手紙を残してくれるそうだ。
 シレーヌが用意した馬車に次々と仲間が乗り込む。御者は天岳とアマーリアが交代で務めてくれる事となる。
 仲間の馬達が繋げられた馬車はゆっくりと動き始めた。
 馬車はパリの城壁門を潜り抜け、敵地であるバウトース結社のアジトへ向かうのだった。

●作戦
 二日目の宵の口、冒険者達は野営の準備を終えて保存食で腹を満たしていた。
 馬車で半日程走ればバウトース結社のアジトである。
「アジトまでは乗って行かず、よい場所を見つけて隠しておくが安全。敵に発見されてはそれこそ大事でありますゆえ」
 天岳は食べ終えて、落ち木をくべた。
「アジトの場所がわかっていてよかったです。敵の数なのですが、モリア婦人の話しからすると十名から十五名辺りと思われます。問題はズゥンビ‥‥。すでに死体が用意されていたり、こちらが倒した山賊をズゥンビとして復活されたら、想定以上の敵の数となりますので」
 アマーリアは考えていた問題を伝える。ズゥンビについては他の仲間も気にしていた。
「ズゥンビを作っちゃう魔法使いを先に倒しちゃうのがいいのですよ〜」
 ヒナの意見に仲間は同意した。
「敵を誘いだしては、叩く。戻って来ない仲間を不審に思った連中がさらにアジトから出てくる。単独行動をしないってのが前提だが、こうすればアジトの人数はかなり減るはずだ。悪魔崇拝の結社とはいえ、元は山賊。野郎が多いだろうから、ここは女が囮役の適任だろう」
 リディックが作戦の概要を話すとヒナが手を挙げながら立ち上がる。
「ヒナが囮やります〜。せくしーばでぃを使えば、山賊を誘い出すなんて簡単なことなのです♪」
 暖かくなる指輪のおかげで常に薄着でいられるヒナは確かに適任である。
「ヒナ、大丈夫か? わたしがやった方がいいのでは?」
「あ〜、この技はシレーヌちゃんにはまだ無理なのです。ヒナの魅力に抵抗できる男の人は特殊な趣味の人だけなのですよ」
 ヒナはシレーヌにエッヘンと胸を張った。
「わしは高い樹木の上に待機をし、仲間の行動によって臨機応変に行動するとしようかのぉ」
 ガラフは保存食を食べ終わると天岳の懐に入る。焚き火のおかげで今は寒くはないが、少しでも体力の温存をする為である。
「見極めは大切。ご老体の役割も貴重なお勤め。よろしく頼みましたぞ」
 天岳は懐のガラフに声をかけた。
 アジトが近いので見張りを決める。一行はテントや馬車の中で睡眠をとるのだった。

●準備
 三日目の朝、冒険者一行は集落を見つけて馬車を預ける事にした。
 お礼を支払おうとするものの、タダで構わないといってくれるが、それには裏がある。
 はっきりと集落民はいわなかったが、バウトース結社のアジトから命をとらない代わりに搾取されているようだ。一行がアジトを狙っているのを勘づいた様子もある。
 アジトが壊滅されれば、搾取から開放される。
 逆に冒険者達が倒されれば馬車と馬は集落の所有物になる。
 どちらであっても一応は集落の得だ。
 一行は集落に哀れみを感じこそすれ、怒りは沸かなかった。こうまでしないと生きていけない状況に追い込んだのは山賊を母体とするバウトース結社である。
 こんな哀しい集落を増やさない為にもがんばろうと一行は奮起する。
 もっとも集落民の中に結社へ取り入ろうとして情報を流す者もいるかも知れない。その点に関しては注意が必要であった。
 何があっても今日、明日、明後日はアジトに近づかないようにと一行は集落民に注意を促した。戦いに巻き込まれて死にたくはないだろうと。
 集落から離れ、一行はアジトに近づく。
 森が拓けると小さな湖の畔に木造の建物が現れる。
 バウトース結社のアジトである。
 一行は集落民に教えてもらった高台を野営地とした。焚き火をしても灯りや煙がアジトから見えない、一歩踏み込むと茂みの深い場所である。
 作戦の決行は明朝。
 見張りを決めると、早めに就寝して体力を万全にする冒険者達であった。

●おびき寄せ
「ふぁ〜、‥‥ん?」
 四日目の朝、アジトの見張りの一人が足下に転がってきた小石に気がつく。見張りは相棒に声をかけて周囲を探し始めた。
「うっふ〜ん♪ こっちこっち〜」
 枯れた茂みの中から何かが現れた。両腕を挙げ身体をくねらせる、やけに薄着の女性である。
 なんて格好でこの寒空にいるのだと見張りが思った瞬間、女性が全速力で逃げていった。
「待て! そこの女!」
 見張りは相棒と共に女性を追いかけ始めるのだった。

(「来たようじゃ‥‥」)
 ガラフは木の上に隠れて様子を見守っていた。ヒナを追いかけているのはアジトの見張りをしていた二人である。
 高台までの地形は複雑で空を飛ばない限り辿り着くのには時間がかかる。しかし叫べばアジトに届きそうな直線距離であった。
 ガラフはサイレンスを唱え、見張りの二人の音を一時的に奪った。
 曲がった道の手前で待ち伏せていた天岳は、逃げてきたヒナとすれ違うと、目前に現れた見張り達に向かってソードボンバーを放った。まずは先制の一撃が見張り達に浴びせられる。
「刀が当たらずとも、どうだ? この威力」
 天岳は呟く。
「こいつらか!」
 リディックは茂みから飛びだし、大きく振りかぶって一人の見張りに剣を叩き込む。
「いくですよ〜」
 ヒナは逃げるのを止めて反転し、拳をもう一人見張りの腹にめり込ませた。くの字に折れ曲がった見張りはよろける。
「わたしはリディックに加勢を!」
「では、こちらを!」
 ホーリーフィールドで待機していたシレーヌとアマーリアも参戦し、圧倒的優位のままに戦いが終わる。
「装備からいってもこの二人はウィザードではなさそうです」
 アマーリアが倒された二人を確認する。ウィザードはまだアジトにいるようだ。
「もう一度、行ってきますね〜」
 ヒナは元気よくアジトに向かって走ってゆく。そしてしばらく経った後、新たな二人を連れて戻ってきた。
 冒険者達はさらに二人を仕留める。これで倒した数は計四人だ。
「そろそろ敵も勘づいている頃であろう。もう囮は困難だと考えられる」
 天岳はアジトの方角に振り返った。
「ちょっとだけ待って欲しい」
 敵の隙を狙うべくこのままアジトへ突入をしようした仲間をシレーヌが止める。
「なるほどじゃ。嬢ちゃん、考えたのぉ」
 ガラフは天岳の胸元に収まりながらシレーヌの行動に呟くのだった。

●アジトへ
「どうしたっていうんだ。敵か?」
 アジトの門近くでは元山賊のバウトース結社信者が集まっていた。仲間が四人いなくなっている事実に気がついたのである。
「あれを見ろ。一人戻ってくるぞ」
 森を指さす一人の信者。見慣れた鎧をつける見張りをしていた仲間が門に近づいてきた。
「他の三人を知っているか?」
 戻ってきた見張りに近寄ろうとした時、信者三人はまばゆい輝きに襲われる。
 雷の打たれたような痺れが三人の信者を襲った。戻ってきた見張りは兜を脱ぎ捨てて、すれ違ってゆく。
「女‥‥? 違う、仲間の見張りじゃな‥‥」
 呟きながら信者の一人が地面に膝をつける。
 兜を脱いだ女性は門を閉めようとする信者を素速く抜いた剣で斬りつけた。
「今だ!」
 女性は森に向かって叫んだ。

「突入じゃ!」
 ガラフは高度を保ちながらアジトに突進する。先程のまばゆい輝きはガラフが放ったライトニングサンダーボルトである。
 見たところ門近くにウィザードらしき信者はいなかった。ガラフはブレスセンサーを使って離れた位置にいる敵を探し始める。
「閉めさせるものか!」
 シレーヌは一人で敵の猛撃を捌くが限界があった。もうすぐ門が閉められようとした時、二つの影が隙間をすり抜けて来る。
「後は任せな!」
 シレーヌに放たれた信者の一撃をリディックが剣で受け止める。
「うおおおっ!」
 火花を散らせながら、リディックは対峙する信者を退かせた。
「シレーヌちゃんの敵はヒナの敵ですよ〜!」
 もう一人のすり抜けてきた仲間はヒナであった。拳を信者達を見舞いながら、ヒナは門を再び開放する。
「あちらのようです」
 開放された門を潜り、アマーリアと天岳はアジトの庭に侵入する。目指すは天空に向かって一瞬現れた雷光の真下だ。
 ガラフが放った合図に間違いなかった。ウィザード発見の報せである。
「うっ‥‥」
「これは‥‥」
 ごく普通の嗅覚を持つアマーリアと天岳にもわかる程はっきりとした腐臭が漂う場所に差しかかる。
「腐った熊のズゥンビ‥‥!」
 建物の入り口から現れた熊ズゥンビにアマーリアと天岳は身構えた。
 アマーリアは近づく熊ズゥンビの動きを計りながら、タイミングよくピュアリファイを唱える。
 浄化の攻撃に熊ズゥンビは苦しみもだえる。
 天岳のソードボンバーも放たれ、熊ズゥンビの右腕が千切れ飛ぶ。
 咆哮をあげる熊ズゥンビ。一呼吸後に天岳の刀による一撃で熊ズゥンビの左足は斬り落とされた。
「浄化を!」
 アマーリアの止めのピュアリファイで熊ズゥンビは動かなくなった。
「あっちに二人、逃げたんじゃ!」
 ガラフが現れて建物の入り口に突入する。アマーリアと天岳はガラフを追いかけた。
 長い廊下を進み、ついに何者かの姿を捉える。しかし狼ズゥンビが現れて立ち往生してしまう。こんな事が出来るのは、まず間違いなくウィザードであった。
 襲いかかってくる狼ズゥンビと戦いながら、わずかに悩んだ三人であったが、すぐに解決方法が見つかる。
 敵を挟んだ反対側から仲間がやってきてくれたのである。
 アマーリアが浄化で狼ズゥンビに止めを刺し、天岳はウィザード達に突っ込んだ。
 反対側からはヒナ、シレーヌ、リディックがウィザード達を狙う。
「何なのだ! 貴様等‥‥‥‥」
 ガラフがサイレンスを唱え、ウィザード二人から音を奪った。こうなれば倒すのは簡単である。
 残る信者共を倒すのに大した時間はかからなかった。一人を残して他はすべて倒しきる。
「おー、来てくれたか。だが大丈夫のようじゃ」
 ガラフは愛犬のトチローの頭を撫でる。怪我をした仲間もいたが、倒した敵が持っていた回復薬で済む程度であった。

●そして
 四日目から五日目の昼頃まで一行はアジトで過ごす。
 もし偵察などで信者が出かけていたのなら問題だからだ。それに生きて捕らえた信者の尋問と、アジト内の捜索の為である。
 モリアからも聞いたが、より詳しいもう一つのアジトの場所や人数についてを尋問で知る。
 価値のありそうな物品を持って一行はアジトを立ち去った。
 一部を馬車を預けた集落に渡し、六日目の朝にパリへと出発する。
 七日目の暮れなずむ頃にパリへと到着した。
 捕らえた信者は官憲に引き渡し、一行は冒険者ギルドを訪れる。
「どうでしたか?」
 ギルドでは依頼人であるモリアが待っていた。結果が気になって仕方がなかったようだ。
 冒険者達はギルドへの報告の前にアジトを叩きつぶしてきた事を話す。そして持ち帰った物品をモリアに手渡した。焼かれた村の再建などの新たな生活の為に使って欲しいと。
「‥‥ちょっと待っていて下さいね」
 モリアはギルドを飛びだして一時間後に戻ってきた。
「換金が簡単なものがありましたので、これだけ用意出来ました。どうぞ、お持ちになって下さい」
 モリアは冒険者一人一人にお金を渡す。
 受け取れないという冒険者もいたが、これは正当な報酬だとモリアはいった。
「残りのお金で次の依頼を出したいと思います。どうか‥‥出来れば、どうか‥‥」
 気丈に振る舞っていたモリアだったが最後に泣き崩れる。冒険者達は顔を見合わせて頷く。
 もうしばらくモリアと話しをする冒険者達であった。