●リプレイ本文
●市場
「この前ドレスタットには行ったですけど〜、カニさんを食べるのを忘れてたのです〜。ゾフィー様に大感謝なのですよ〜♪」
頭の上にフェアリーのファル君の乗せてリア・エンデ(eb7706)は仲間とパリの市場に向かって歩いていた。二日目の昼間である。
「そうでしたわね。魚の料理にばかり目がいってしまって‥‥。でも大丈夫です。エフェリアさんと一緒に、昨日のうちにジョワーズ・パリ支店へ伺ってレシピを聞いて参りましたわ」
セシル・ディフィール(ea2113)がリアに答えた後で、エフェリア・シドリ(ec1862)と視線を合わせる。
「料理のこと、ディフィールさんと一緒にいろいろと聞きました。サラダも教えてもらいました。カニさん料理パーティ楽しみです」
エフェリアは子猫を抱えながらドンキーのプルルアウリークスの手綱を牽く。
「故郷のカニと種類は違うのでしょうが、馴染みのある食材です。レシピがあるのなら心強いですね。料理の手伝い、それに荷物持ちは任せて下さい!」
先頭を歩いていた長寿院文淳(eb0711)は愛馬二頭の手綱を握りながら笑顔で振り返った。
ユウ・サトウ(ec4250)は『カニの爪は俺に任せろ』とパーティ当日に現れる予定である。もう一人参加予定の冒険者は残念ながら用事があるようでキャンセルとなった。
「お久しぶりです。パーティの準備ですね」
市場では一行の到着を商人の娘ファニーが待っていた。買い物にシーナも来たがっていたが、残念ながらギルドの仕事が忙しいようである。
ファニーは父親を紹介し、買い物の案内を引き受けてくれた。
必要な食材はすべて揃う。預かってきた鍵でシーナの家に入って食材を仕舞っておく。
明日のパーティを楽しみにしながら、お別れする一行であった。
●カニパーティ
「ゾフィー先輩〜、お帰りなさいです〜☆」
三日目の昼過ぎ、休日のシーナはゾフィーを迎えに船着き場にまで来ていた。
「あら、ここまで来てくれたの? さては‥‥カニ目当てね」
ゾフィーにはシーナの考えは図星である。
「ここに置いておいとくぜ」
船乗りが船着き場に荷物を降ろす。ゾフィーが頼んだものである。旅行用のカバンの他に大きめの木箱があった。
「荷物をお持ちしましょう。これは‥‥たくさんありますね」
一緒に来ていた長寿院は驚く。大きめの木箱の中にはいっぱいのカニが入っていた。
「さっさぁ〜、せっかくなのでパーティにしたんですよ、先輩。いろいろ用意してあるのです♪」
「シーナの事だからそんなとこだと思ったわ」
シーナにあきれながらも、腰に手を当てるゾフィーは嬉しそうである。
三人で荷物を震電と雷電の二頭に分けて載せる。
「みんな待っているのです〜」
シーナが先頭で歩きだす。目指すはシーナの家、パーティの会場であった。
「花さんの迎えにいってきました」
エフェリアが川口花を連れてシーナの家を訪れる。
すでに長寿院、シーナ、ゾフィーは戻り、ほとんどの参加者の姿がある。
「エフェリアさん、よく気がついてくれたのです〜。‥‥わたし、カニのことでいっぱいで花さんの迷子のクセ、忘れていたのです‥‥」
シーナは反省するが、すぐに元気を取り戻す。
「みんなでお料理タイムです〜。花さんも、ファニーさんも一緒にするのですよ〜」
ファニーも来た所で、シーナはみんなを炊事場まで案内した。
カニはたくさんある。何種類かの料理を作ってみんなでつついて食べる事に決まった。
「は、はう〜。すごいのです〜大きいのです〜動いてるのですよ〜」
リアは目をまん丸にして生きたままのカニを見つめる。ふと、横を見ると騎士姿のフェアリー、ファル君が立ち向かおうとしていた。
「はう! ファル君近寄ったら駄目なのですよ〜。退治しなくてもいいのです〜」
あたふたとリアはファル君を掴んだ。その手を『シャキ〜ン!』とカニのハサミがかすめる。
「こっここここ、怖かったのです〜。今まで小さいのしか見たことなかったけど、大きいカニさんは凶暴なのです〜」
リアはダッシュでシーナの後ろに隠れる。
「とりあえず茹でましょうか」
セシルは何事もなかったかのように、メモしてきたレシピを見ながら料理を始めた。
まずは鍋に湯を沸かして塩を入れる。
考えていたより多くの塩を入れ、それから下処理をしたカニを入れてゆく。茹で上がればそのまま食べてもよいし、サラダ用の素材にもなる。
「練習してきました。ドレッシング作ります」
エフェリアはさっそくサラダ作りである。レモンなどを用意し、いろいろと混ぜ合わせた。
その他もジョワーズのコック長から聞いてきたカニ料理などが作られてゆく。
「力仕事は任せて下さい」
真水に入れておとなしくしたカニを長寿院は包丁で捌いてゆく。
「硬い爪なんかは、俺が係を引き受けるぜ!」
ユウは用意されてあったハンマーを手に殻割りを手伝った。まずは長寿院が捌いた生のカニの爪からである。
さすがにスマッシュを使う程ではなかったが、カニの爪の部分は硬かった。結構体力を使いながらも文句をいわず、よく洗った岩の上でユウはハンマーを振り下ろした。
「これぐらいならハサミでも平気です」
花は器用にハサミや包丁を使って足の部分の殻を切ってゆく。シーナ、ファニー、リアも手伝った。
「はう〜〜、ぜんぜん切れないのです〜 私には難易度が高すぎるのです〜」
リアはがんばるが、なかなか切れない。そこでセシルの手伝いとして茹で加減を見る。
「わわわ〜、カニさん赤くなっちゃったのです〜」
「ええ、もうそろそろいいですかね」
リアとセシルは次々とカニを茹であげてゆく。
「サトウさん、ありがとうです」
「まだまだあるからな。必要ならいってくれ!」
エフェリアはユウに茹でた爪の部分の殻を割ってもらい、セシル、リアと一緒に身を取りだす。サラダ用である。特にリアがフェアリーと一緒に頑張っていた。
「おしょうゆ、ちょっとだけ入れてあります」
切った野菜とカニの身、そしてドレッシングも用意されてサラダの出来上がりである。
大体の料理の前準備が終わったので、冷める前に食事が始まる。つまりはパーティの始まりであった。
「はう〜エフェリアちゃんが作ったサラダ、美味しいのです〜」
リアはサラダを一番に食べ始める。モグモグとほっぺたを膨らませて頂く。他のカニも殻に割れ目が入っていて、リアにも何とかなりそうである。
「まだ温かくて美味しいわ。あ、卵も入っていますわ。ほら!」
セシルは隣りに座っていた長寿院に皿を少し動かして見せる。カニの甲羅の中に綺麗な卵が詰まっていた。
「わたしが開けたのにも入ってます。これはよかった」
長寿院はセシルに微笑み、そして茹でガニを楽しむ。
「あら、いい匂い‥‥」
セシルはシーナが持ってきた網に注目する。
「焼きカニなのですよ〜。花さんと長寿院さんからジャパンではこうして食べると聞いて、甲羅の部分にカニミィーソーを入れて焼いてみたんです♪ 焼いた身も美味しそうなのです〜☆」
みんなの皿に分けられて、さっそく口に運ばれる。
「海の香りがします。花さん、ありがとうございます」
「いえいえ。気に入ってもらって、よかったですわ」
エフェリアと花は一緒にカニ味噌をスプーンですくって食べた。
エフェリアは海を思いだす。ふと気がついて、子猫のスピネットにお裾分けである。
ドンキーのプルルアウリークスには、後で別のよい食事をあげようと考えるエフェリアであった。
「お酒が呑みたくなります」
長寿院がしみじみと言葉にする。
「まったくだ」
ユウも頷く。そしてカニを食べまくる。カニの量はたくさんあり、気にしないでも良さそうである。
「忘れていました。ジャパンのお酒ではありませんが、これを」
セシルは自費で用意したワインとジュースをテーブルまで運んだ。みんなのカップに注がれてあらためて乾杯をする。
「ふふふっ、私も用意してきたものがあるのですよ〜♪」
リアが一度家の外に出てから戻ってくる。持ってきたのは雪を押し固めた氷である。
「朝、遠くから来た馬車の屋根に積もっていた雪をもらってきたのです〜。きれいなとこだけを集めるのけっこう大変だったのです〜」
リアとファル君は胸を張るが、他のみんなは何がすごいのかわからない。
「これを使うのです〜」
リアは綺麗な桶を持ってきて氷水を作る。そして焼きガニ用の生の身を浸した。少し待つと身が花のように広がる。
「昔に聞いたことがあって、やって見ようと思ったのです〜。うまく入ったのですよ〜」
リアは醤油とレホールをすったものを用意する。つまりはわさび醤油である。
「こりゃうまい。酒にもいけるぜ!」
ユウが喜んで食べまくる。
リアも大きな口を開けてパクっと頂く。
「さて、みなさんが満腹にならないうちに、お披露目と行きましょうか。ファニーさん」
「はい。みなさん、びっくりしますよ」
セシルとファニーは一緒に炊事場までいって戻ってくる。二人が持ってきたのは厚い板にのせられた焼けた平石と鍋であった。
「これ? もしかしてバター?」
「さすが、ゾフィーさん。その通りです」
鍋の中を覗いて香りを嗅いだゾフィーにファニーが頷く。鍋は融けたバターで満たされていた。
「ジョワーズのコック長さんに教えてもらったんです。融けたバターでカニの身に熱を入れて頂くと、とっても美味しいんですって」
セシルは笑顔で説明するが、ぶっつけ本番である。どうなるか自分自身でもわかっていない。
「美味しいです〜♪」
食いしん坊のシーナが真っ先に頂いて実験台となる。思ったより、脂っこくないらしい。
「わたしが作ってあげますね。はい、どうぞ♪」
ファニーがバターでカニの身に熱を通し、ゾフィーの皿に置いた。恐る恐るゾフィーは口にする。
「ほんと、とってもいけるわね」
ゾフィーの笑顔を見てファニーは満足げだ。かつてお姉さまとゾフィーを追いかけていたのがファニーである。本当にゾフィーを諦めたのかはとっても怪しい雰囲気であった。
みんなのお腹もいっぱいになり、お喋りの時間となる。
「そうなの。なんだか海賊の集団が出たらしいし、津波で被害があった海岸線の町や村もあったわ」
「ドーバー付近でそんな事があったのてすか‥‥」
セシルに聞かれて、ゾフィーが調査についてを話す。ゾフィーの横にはニコニコとしたファニーの姿がある。
「ギルド員というのも大変なのですね」
耳を傾けていた長寿院がゾフィーを労う。
「そうなのです〜。この間もドレスタットに資料を届けにいってきたりしてるのです。特にドーバー海峡は今、なんだか不気味な状況なのですよ〜」
シーナも長寿院に答えて会話に参加した。
「こんな感じです。どうでしょうか?」
「エフェリアさん、とってもうまいですよ」
エフェリアが料理を思いだして絵を描いて花に見せる。
「もう‥‥、食べられねぇ‥‥」
ユウは椅子の背に大きく寄りかかっていた。腹一杯に食べて満足げのようだ。
「それでは、一曲やりましょうか」
長寿院が竪琴を取りだした。
「はう〜、私も唄うのですよ〜」
ファル君とカニの殻で遊んでいたリアが長寿院に近づいて相談を始める。
「踊ってもいいですか?」
エフェリアが曲の相談をする長寿院とリアに話しかけた。
「ええ、ならば楽しい曲にしましょう。とびっきりのやつを」
「そうなのです〜♪ エフェリアちゃん、楽しくやるのですよ〜♪」
エフェリアに長寿院とリアが頷く。
エフェリアはさっそく用意してきた服装に着替える。フリルとレースのスカートが目立つパリキュアスーツとノルマン製のカンザシである。
長寿院は竪琴は止めて、リュートを奏でた。それに合わせてリアが即興で唄う。音楽に優れた長寿院とリアだから出来る技である。
楽しそうにエフェリアが舞うように踊り、ファニーが合わせる。
花はシーナ、ゾフィー、ユウ、セシルと一緒に拍手で盛り上げた。
フェアリーのファル君が飛び回り、二つの雪玉が転がる。
エフェリアの回りでは、子猫のスピネットが楽しそうに跳ねる。
玄関近くにいる鷹のイグニィも、一度だけだが偶然テンポに合うように大きく鳴いた。
楽しいパーティは夜遅くまで続く。
やがて終わりの時間となる。ゾフィーが楽しませてくれたお礼として、買ってきたお土産を冒険者達に配った。
(「レウリーさんの事は、今日は止めておきますか」)
セシルはファニーの楽しそうな表情にゾフィーへの質問を飲み込んだ。
「楽しかったのです〜♪ みんなありがとうなのです〜♪」
シーナが帰ってゆく冒険者達に手を振る。
最後にゾフィーが自宅へと戻り、パーティは完全に終了となった。