バウトース結社壊滅 〜シレーヌ〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 55 C

参加人数:6人

サポート参加人数:5人

冒険期間:02月21日〜03月02日

リプレイ公開日:2008年02月29日

●オープニング

 女性冒険者シレーヌは見上げる。
 冒険者ギルドの掲示板に貼られた真新しい依頼書を。
 先程まで依頼人の女性モリアと一緒に相談し、それを正式に依頼としてまとめたものだ。
 バウトース結社とは山賊が母体となって出来た悪魔崇拝者集団である。自らがデビルであるという、本来の悪魔崇拝者の定義とは違う教義を掲げた団体だ。
 名ばかりの悪魔崇拝者であるが、民衆にとっては脅威であるのは間違いない。
 モリアは暮らしていた村をバウトース結社に襲われた。これ以上の哀しみを増やさない為にバウトース結社を壊滅して欲しいと依頼を出し、冒険者達はそれに応えてアジトの一つを叩きつぶした。
 今貼られたばかりの依頼は残されたバウトース結社最後のアジトを叩く内容であった。
 モリアの情報と、すでに官憲に引き渡した信者から吐きださせた情報で、最後のアジトの場所は判明している。
 山賊が母体になっているだけあって、やはりアジトは山の奥にある。今回は降り積もった雪のせいで全ての道のりを馬車で移動するのは無理なようだ。
 アジト近くには緩やかな川が流れていて、それを信者共は移動に利用しているらしい。
 アジトに潜伏する人数も大体はわかっていた。十五名前後が生粋の結社関係者、十名程が無理矢理に近隣から労働力として集められた人達のようだ。信者のうち、ズゥンビを作れるウィザードは四人と吐かせた信者はいっていた。
「ここで叩いておかなければ、被害が広がる‥‥」
 シレーヌはカウンターに出向き、依頼の手続きを行うのであった。

●今回の参加者

 ec4061 ガラフ・グゥー(63歳・♂・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ec4252 エレイン・アンフィニー(25歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ec4271 リディック・シュアロ(33歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ec4275 アマーリア・フォン・ヴルツ(20歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec4296 ヒナ・ティアコネート(30歳・♀・僧兵・人間・インドゥーラ国)
 ec4419 カモミール・トイルサム(28歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

水葉 さくら(ea5480)/ レア・クラウス(eb8226)/ 水之江 政清(eb9679)/ イリューシャ・グリフ(ec1876)/ レラ(ec3983

●リプレイ本文

●相談
「じゃあな。行って来るぜ」
 御者のリディック・シュアロ(ec4271)は見送りのレラに一声かけると、馬車を発車させた。
 馬車は徐々に加速してゆき、門を潜ってパリを飛びだす。
「初めまして。エレインとお呼び下さいませ」
「こちらこそ、シレーヌ・ブルーニといいます。シレーヌと呼んで下さい」
 馬車内ではエレイン・アンフィニー(ec4252)が仲間に挨拶をしていた。シレーヌも笑顔で答える。仲間は一人でも多い方が心強い。
「先の機転、よかったぞ。今回も頼りにしておる。ところで、作戦の細かい部分を摺り合わせておこうかのお」
 ガラフ・グゥー(ec4061)はシレーヌに声をかけたあとで、仲間に話し合いを持ちかけた。依頼遂行にあたっての食い違う部分の修正が行われてゆく。
「アジト近くの集落で情報収集ですね。ちょっとだけ滞在して集落の人と仲良くなった方がいいと思うのです〜」
 ヒナ・ティアコネート(ec4296)がニコニコと提案する。
「私も同じことを考えていました。集落では情報収集をしましょう」
 アマーリア・フォン・ヴルツ(ec4275)もヒナに賛同した。他の仲間も同じ考えが多く、半日の滞在が決まる。
「雪の登山が問題だな」
 シレーヌの呟きに仲間は頷く。特にガラフには考えがあるようだ。
「今回は‥結構、大変カモね‥」
 カモミール・トイルサム(ec4419)は情報収集が苦手なので、あえて意見を出さなかった。
「ちょっと待ってくれ」
 ある程度話しが進むと、シレーヌは馬車内から御者台へと移る。
「わたしの分は話してきた。交代しよう」
「そうか。しばらく頼んだ」
 シレーヌはリディックから手綱を受け取り、御者を務めるのであった。

●集落
 二日目の昼、馬車は山麓の集落へ辿り着く。
「これは‥‥」
 シレーヌは集落の状況に驚いた。働き手の男はおらず、女子供老人しかいない。
「こりゃ、なんというか」
 リディックも言葉がないようだ。
「馬車を預かってもらいたいのですが。それと――」
 アマーリアは集落の女性と交渉し、馬車を預かってもらう。一晩の宿も頼んで受け入れてもらう。
「わしは藁を馬に履かせたりの用意をするつもりじゃ」
 ガラフは愛馬を山に連れてゆくつもりである。その為の準備を始めた。
「私は馬達のお世話をしておきます」
 アマーリアはガラフと共に馬小屋へと向かった。
「みんなに頼みがあるのだが――」
 シレーヌは残る仲間に声をかけた。夕方までのわずかな時間だが、集落の人達を手伝ってあげたいと。その後で詳しい話を聞けばいいのではと切りだした。
「ま、それもいいカモね」
 カモミールはなんだかんだいいながら、さっそくレビテーションで飛んで高い場所で作業をしていたお年寄りを手伝う。
「シレーヌちゃん、よい考えなのですよ〜」
 ヒナははりきって働いている子供達の所へ駆けてゆく。
「水を用意しましょう」
 エレインは家々の近くにクリエイトウォーターで綺麗な水を湧きださせて、ウォーターコントロールで水瓶に移動させた。近くに川があるにしろ、水運びは重労働である。
「いいって。気にすんな」
 リディックは女性がやっていた荷物運びを代わってあげる。
 シレーヌは斧を手にし、薪割りをした。
 日が暮れて全員が小屋に集まる。集落の代表として老翁と、夫を連れて行かれた女性がやって来た。
 冒険者達に代表者二人は様々な情報を教えてくれた。
 アジトで働かされている十名は全員この集落の男である。集落の者がたまたま遠くで見かけた時、男達の様子がおかしかった。朦朧としながら作業をしていたらしい。
 服従させる為に卑劣な毒が使われているのではと女性は考えていた。
 信者の装備は集落になかったが、連れて行かれた男達が着ていたような服は四着貸してくれる。作戦の為にもう一着、集落の女が着ているような服も貸してもらった。
 集落民の協力に感謝し、冒険者達は明日に備えて早めに寝る。外では雪が降り始めていた。

●山へ
 三日目の朝、冒険者達はちらほらと雪降る中を徒歩で山へと出発した。
 荷物を運ぶ為にガラフの愛馬も連れてゆく。藁を編んだものを履かせたりと準備は万端だ。
 シレーヌが手綱を持って馬を牽いた。ガラフは荷物の中に入り、毛布にくるまって体力を温存する。時折、偵察をしては荷物へ戻り、暖まるのを繰り返した。
 一行の先頭はリディックに任された。雪道は険しく、いつもより多くの休憩がとられる。アジト近くに着いたのは予定より遅れて、四日目の夕方頃であった。
「女装とまでは考えていなかったんだが、しょうがねえな」
 リディックが急いで女装し、単身アジトへと向かう。
 当初エレインが向かう作戦だったのだが、うら若き女性がいけば無用の混乱を招くかも知れず、中止となった。少々のお触りでは済みそうにもなかったからである。
 余程の物好きでない限り、女装姿のリディックを好む者はいないはずだ。そういう化粧をシレーヌが施したせいもあるのだが。
 リディックはエレインから預かった酒をうまく使って、集落の男達との面会を求めた。外での警備をしていた信者二人は、上に内緒で面会を許してくれる。
 リディックはアジト内に入り、集落の男達との接触に成功する。適当な一人に抱きついて耳元で囁く。助ける為に演技をしてくれと。
 他の集落の男達も芝居にのってくれた。警備の者が目を離した隙に話しを進める。
 服従の為に毒が使われているのは本当のようだ。出された食事を食べてしばらく経つと変な気分に陥ってしまうらしい。
 リディックは仲間から預かった分も含めて保存食を置いてゆく。次に出される食事は食べずに保存食で腹を満たしてくれと言い残した。
 保存食をたくさん持ってきたのは、毒の使い方が想定の範囲内だったからだ。食事に毒を混ぜるのが一番簡単だと仲間と話し合ったのが役に立つ。
 長くは居られず、リディックはアジトから追いだされる。信者共にばれないように仲間の野営地へと戻るのであった。

●川
 五日目の朝、冒険者達はアジトを出発した小舟を狙っていた。
(「これでいいですね」)
 枯れ草に隠れながらエレインはウォーターコントロールを使う。そして小舟を岸に寄せる。
「なんだ? お前は!」
「んと♪ 倒れてもらうのです〜」
 揺れる小舟に飛び乗ったヒナは信者の腹に一撃を喰らわせた。シレーヌもヒナに加勢して信者一人を捕まえる。
「こっちへ来るんじゃ」
 ガラフは櫂を漕いでいた集落の男を導いて陸に避難させる。
「退きやがれ!」
 信者の一人は小舟から飛び降りて逃げだした。浅い川から岸へと上がり、進路を塞ぐアマーリアを怒鳴りつける。
「止まった方がご自身の為ですよ」
 アマーリアの言葉も聞かずに信者は突進を続けた。何かにぶつかって跳ね返されて、ようやく信者は気がつく。ホーリーフィールドが張られていたのだ。
「喰らいやがれ!」
 リディックが起きあがろうとした信者をスタンで気絶させた。
 冒険者達は集落の男一人の身柄確保と、信者二人を捕まえる事に成功する。服を脱がせ、二人分の信者の装備を冒険者達は手に入れた。
「運がよければまた会えるカモね〜」
 尋問した後でカモミールは信者二人をストーンで石にする。連れ回す訳にもいかないからだ。目立たない場所に放置しておく。
 助けだした集落の男によれば、明日の昼に戻る予定だったらしい。それまでは、まず怪しまれないだろうとシレーヌは考える。
 冒険者達は明日の六日目朝をアジトへ仕掛ける時と決めた。

●アジト
「どうした? 帰りが早いじゃないか?」
 六日目の朝。アジトの外を警備していた信者二人が、戻って来た信者仲間二人に声をかける。戻って来た信者二人とも深く兜を被っていた。
「いやなに‥‥途中で脱走しようとしていた、こいつらを見つけてな。途中で引き返してきたのさ」
「そりゃお手柄だな。どうやって逃げだしたんだ? ‥‥お前、声が変だぞ」
「いや何、風邪ひいちまってよ」
「まあ、寒いもんな」
 戻って来た信者二人は、ロープで両手を縛った四人を連れていた。警備の信者が俯いていた一人の顔を上げさせる。
「お、女?」
 警備の信者に大してニヤリと笑ったのはカモミールであった。
「戦う美少女カモミール! 心は永遠の16歳‥。名声と恋人募集中!」
 カモミールがすでにかけてあったレビテーションで空中に浮かんだ。結んであったロープは見かけだけですぐにほどけていた。
 突然の事に驚いた警備の二人を全員で一気に倒す。
 信者のフリをしていたのはリディックとシレーヌだ。
 脱走した労働者のフリをしていたのはカモミール、アマーリア、エレイン、ヒナである。ガラフはシレーヌの背中に隠れていた。
 冒険者達はアジトの侵入口から、一気に突入を計った。
 ガラフがブレスセンサーによって信者共の配置を把握する。
 冒険者達は廊下を突き進む。
 まずは集落の男達を助けだし、それから武器庫へと向かう。幸いな事に武器庫を見張っていたのは一人だけであった。
 比較的簡単に集落の男達用の武器が手に入る。
 冒険者達は一般の信者共を集落の男達に任せて、ウィザード四人を倒す事にした。バウトース結社の首領もウィザードの一人である。
「外じゃ! ウィザードの幹部連中は、勘づいて川から逃げようとしておるようじゃ!」
 ガラフは窓から外へ先に飛びだすと、小舟を狙ってライトニングサンダーボルトを放つ。一艘ずつ丁寧に沈めてゆき、逃げ道を潰してゆく。
 ガラフはウィザード共へのサイレンスを試みるが、張られたホーリーフィールドで阻害されてしまう。
「あれは!」
 アジトの出入り口から飛びだした冒険者達はおぞましい光景を目にした。
 雪の中に埋められていた森の動物の死体がズゥンビとして次々と蘇る様子を。
 猪や狼、熊もいる。
 凍っているせいか動きはいつものズゥンビのように鈍い。しかしその姿はとてもズゥンビらしからぬ、まるで生きているようであった。
 前衛は武器を手に前へと飛びだす。後衛も魔法の射程距離を考えて陣形を整える。
「突撃なのです!」
 ヒナはズゥンビを狙うつもりはなかった。だがあまりのズゥンビの数に相手をしない訳にはいかなかった。
「邪魔なんだよ! 蹴散らすぜ!」
 リディックはシレーヌと一緒になり、ズゥンビの群れの中央を狙う。突破出来ればよし。引きつけて仲間の援護になれば、それもよしである。
「悪いのはあの者達なのはわかっています‥‥」
 アマーリアはホーリーフィールドを張った上で、ピュアリファイでズゥンビを清めてゆく。
「あうんの呼吸で行くと‥いいカモね!」
 カモミールはストーンで次々とズゥンビを石化していった。
「ここで凍ったら、春までは動けませんわ!」
 エレインはアイスコフィンでズゥンビを凍らせる。
 突破口が開き、前衛の三人はウィザードの元へと突っ込んだ。大きく振りかぶって一撃を喰らわせてホーリーフィールドを消滅させる。
 ガラフがウィザード共に向かってサイレンスを唱えた。魔法を唱えられなくなったウィザードなど、冒険者達の敵ではなかった。
 首領を残して一気に倒しきる。
「お前達、待て! 欲しいものがあ‥れ‥ば‥‥」
 首領はカモミールのストーンによって石にされる。
「取り敢えず笑っとくといいカモね! わーっはっはっは、ヴィクトリー!」
 カモミールが石になった首領をポンポンと叩きながら高笑いをする。
 集落の男達が信者を倒し終わったと報告しに外へと現れる。
 バウトース結社が壊滅した瞬間であった。

●そして
 治療を終えた冒険者達はアジトの中を調べた。
 武器庫にはいくつかの宝物がある。帰り道を考えれば、すべてを運びだす事は適わなかった。それに元々は周辺の村や集落から強奪されたものだ。
 冒険者達は集落の男達の同意の得た上で指輪を人数分もらう。いくらかの換金しやすい貴金属も少しだけもらった。
 使える小舟はアジトを攻撃する前に奪った一艘のみである。
 三人の集落の男に石となった首領を小舟で運ぶのを任せた。川を下っていけば集落はすぐのはずだ。
 冒険者達とその他の集落の男達は一緒に自らの足で下山した。麓の集落へ到着したのは八日目の夕方であった。
 戻ってきた男達の姿に、集落の者達は涙を流して喜んだ。

 九日目の朝、冒険者達は預けてあった馬車を返してもらい、パリへの帰路につく。
 捕まえた首領と一部生き残った信者共を運ぶ為に、集落の荷馬車も途中まで同行した。大きな町が見える場所で、集落の荷馬車とは別れる事となった。
 馬車がパリに到着したのは十日目の夕方である。
 冒険者達はモリアと会い、ギルドの報告の前にすべての出来事を話す。一緒に貴金属を換金できる店へ出かけ、モリアも人数に入れて分配する。
 シレーヌは自分がもらった指輪をモリアに渡そうするが、これから必要になるはずだと優しく断られた。
「これでバウトース結社はすべて終わりました‥‥。でも、また気にかかる依頼があれば参加してみようと思います」
 ギルドへの報告が終わると、シレーヌはそう言い残して立ち去った。