●リプレイ本文
●出発
一日目の朝、集合場所にはいつもとは違い二両の馬車が停まっていた。
一両はタマハガネ村行き。もう一両は谷の絶壁での粘土採取である。
参加する冒険者は集まり、もうすぐ出発だ。
「はい、ベゾム。間違って落ちたら大怪我するから気をつけて」
「おお、これか。大丈夫だ。任せておけ」
壬護からベゾムを借りた春日龍樹(ec4355)はさっそく試しに乗ってみる。
「うおおおおっ‥‥」
「だからいったのに」
ベゾムに必死に掴まった春日龍樹が大空でグルグルと回る。それでもやがて普通に乗れるようになる。
「焼刃土用の土を採取はこっちでいいずら?」
「そうです。こちらにどうぞ」
ニセ・アンリィ(eb5734)は刀吉が御者台に座る馬車へと乗り込んだ。すでにクァイ・エーフォメンス(eb7692)が座っていた。
「よろしくお願いします」
「よろしく頼むずら」
ニセとクァイが挨拶をすると、春日龍樹も馬車に乗り込む。これで粘土採取組の冒険者は全員である。
「クァイ殿、ありがとうございました。あちらの馬車に運んでもらうことにします」
「いえ。村に着いたら他にもお渡ししたいものがあります」
刀吉が御者台に座り、馬車内のクァイに話しかける。時間からいって村に立ち寄る余裕はないので、クァイが持ってきた食材は村行きの馬車に載せられていた。刀吉によれば谷では食事を作っている暇はまずないというので全てである。
「それでは先に行かせてもらうよ」
村行きの馬車の御者が刀吉に一声かけて発車する。
ナオミ・ファラーノ(ea7372)、朧虚焔(eb2927)、アレックス・ミンツ(eb3781)、井伊文霞(ec1565)、ヴィルジール・オベール(ec2965)の五人が乗っていた。
粘土採取の馬車もゆっくりと発車する。
二両の馬車はそれぞれの目的地に向かって走り続けるのであった。
●村
二日目の夕方、村行きの馬車は無事にタマハガネ村へ到着する。
夜になり、シルヴァンと鍔九郎が酒を手に冒険者用の家屋を訪れた。
「前回刀作りを勉強させてもらった。今回も専念させてもらおう」
習作と兼ねている村人用の作刀はアレックスに任された。真剣にあたらねばならないとアレックスは気合いを入れる。
「わしは相槌を手伝わせてもらおうかの」
ヴィルジールは相槌役を願いでた。シルヴァンは快く許可をし、そして井伊文霞へ振り向く。
「わたくしでよろしいのなら」
井伊文霞にもシルヴァンは相槌役を任した。一番間近で鍛冶作業が観られる役目である。
「それでは刀吉さんの代役とはいきませんが、全体の仕事をお手伝いしたいと思います」
朧虚焔は足りない工程を手伝うつもりでいた。全体が把握出来れば一つ一つの作業の意味をより深く知る事が出来るからだ。
「刀の研磨と、いつものように小物類を作らせてもらうわ。しかしホント、この村の人たちはいい男揃いよねぇ。私ももう少し若くてあの人がいなかったら大喜びで嫁ぎに来たんだけど――」
ナオミの作業も決まると、話題は村の結婚話に及ぶ。
「独身の俺がいうのもなんなのだが――」
シルヴァンによると村人の多くはドワーフであり、約四分の一が人間である。ちなみにシルヴァンはドワーフで刀吉と鍔九郎は人間だ。
互いに協力しあい、種族間のいがみ合いは皆無といってよい。ただ男と女の間となると話しは別だ。
すでに連れ合いがいる者達は別にして、ドワーフの男性がかなり多かった。人間男性は個人個人に任せるとして、ドワーフ男性は頑張るのが空しい程相手がいない。
鍛冶の技能を持つ者をヴェルナー領内から集めて出来た村なのだから、仕方がない部分はあるのだが。
しばらくして話題がシルヴァンエペに移る。
「シルヴァンエペを仔細に検分させていただきました。さすがに黒分隊長に見込まれるだけのことはある見事な業物です。が、あれはあくまで習作。あれで習作なら真打はいかなるものなのでしょうか?」
「習作、ではないのだ。どれも全身全霊を込めて打った刀なのだよ。真打と影打に関しては、そう‥‥狙って出来るものではない。玉鋼の質、気候、技量など様々な要因がうまくまとまって授かるものなのだ。よりよいバランスで扱いやすい一振りを真打、もしくは影打と呼んでいる。本来の言葉の意味とは違うが、シルヴァンエペについてはそう受け取ってもらいたい」
朧虚焔にシルヴァンが答えた。
話題は多岐に渡ったが、明日からの作業に備えて深夜前に冒険者達は就寝した。
●絶壁での採取
五日目の朝、粘土採取組の四人は谷の上から崖を見下ろした。
昨晩に到着した時は暗くてよくわからなかったが、太陽の下で眺めると採取の危険さがよくわかる。
谷底から吹き上げる冷たい強風。限りなく垂直に近い絶壁。
「こういう土です。この下辺りは常に日陰で適度に湿っています。小石は取り除くので少しぐらい混じっていても構いません」
「わかったずら。触らせて欲しいずら」
刀吉からニセは採取する土のサンプルを見せてもらう。
「これでいいだろ」
春日龍樹は大木にロープの片側を縛り付けて、反対側を谷へ垂らした。
木にはもう一本ロープが縛り付けられている。こちらの反対側には桶が取り付けられていた。
谷の上に刀吉を残し、残る三人は通り回りをして底に下りる。
「ニセさん、きつくないですか?」
「大丈夫ずら。ばっちりずらよ」
クァイはニセを吊す用意をする。板を用意してブランコを作り、ニセに座ってもらう。その上でブランコにニセをロープで固定してゆく。
春日龍樹がベゾム、クァイがフライングブルームに跨る。ブランコに乗ったニセを吊してゆっくりと上昇してゆく。
谷の上から下降しなかったのは二本の空飛ぶ箒とも地面から三十メートルしか上昇出来ないからだ。絶壁は五十メートルあるので、もし谷から下りたのなら急落下は必至である。
刀吉によれば谷底から二十メートルから二十五メートル程の高さに粘土はあるので高度は間に合うはずだ。
「よいしょずら‥‥」
ニセは吊り下げられながら上昇する。もしもの為用の谷の上から垂らされたロープを掴みながら。
「クァイ殿、ゆっくりと、ゆっくりとだ‥‥」
「はい。そっと、そっと」
春日龍樹とクァイは強い風の中でも同じ速度で上昇を続ける。吊り下げられたニセから指示が出て微妙に調節する。
「あったずら!」
ニセの言葉に春日龍樹とクァイは絶壁へと近づく。指針のない空中に留まるのは難しいので絶壁に身体の側面を預ける。落石は怖いが、この際我慢比べである。
ニセの声が谷の上にいる刀吉にも聞こえ、ロープに繋がれた桶が下りてきた。桶の中にニセは採取した粘土を詰める。ある程度の重さになると刀吉が桶を引き揚げてゆく。
ちょうど箒の魔法が切れる一時間を目処に作業は行われた。休憩を三十分とっては作業再開を繰り返す。
足場は作りたくても無理な状況だ。脆い絶壁で高さもある。
粘土採取は七日目まで続けられた。
●タマハガネ村
「さて習作とはいえ、役立つ刀を作ろうぞ」
昨日まで砂鉄運びを手伝っていたアレックスは、六日目から村人用の刀を打つ作業に移った。
一度行った作業なので滞る事なく順調に進む。相槌は村人の一人が手伝ってくれる。
たまにナオミが作業を覗きに来た。どのような拵えにしたいのかなどの他に研ぎがいつ出来るのかを知りたかった為だ。
「よし‥‥」
十日目の朝、銘を刻み、アレックスの刀が出来上がる。すぐに研ぎがナオミに任された。
「こちらの剣と違って、サムライソードは刃の波を見せるのよね‥‥」
ナオミは刀吉の研ぎ作業を思いだしながら、砥石に刀を滑らせる。出来上がると、灯りに照らして刃文を確かめた。
刃文は焼き入れの際にほとんどが決まる。それでもよりよい刃文を研ぎで浮かび上がらせる為に砥師は全力を傾けるものだ。
小物も用意して刀として完成させてゆく。
(「‥‥あなた、頑張って戦うのよ」)
ナオミは刀に精一杯の祈りを込めるのであった。
●シルヴァンエペ
火床ではシルヴァンが中心となり、ヴィルジールと井伊文霞が作業を手伝っていた。相槌をし、シルヴァンが支える玉鋼を叩いてゆく。
手順は前回に作刀したときと変わらない。ただし、シルヴァンの指示する一つ一つの作業の精度が高い。ヴィルジールと井伊文霞は手伝いながらシルヴァンの技術を身体に叩き込む。
「そんなに調子がよいとはめでたいのぉう」
休憩中、ヴィルジールはシルヴァンから今打っている刀に手応えを感じていると聞かされる。井伊文霞も興味津々に聞いていた。
「真打‥‥または裏打と呼ばれる業物でしょうか?」
「いや、二人ともまだ気が早いぞ。最後の最後まで、こういうものはわからないものだからな。しかしこの玉鋼は冒険者のみなさんが手伝って出来たもの。是非によい仕上がりにしたいものだ」
井伊文霞にシルヴァンは答える。
「もし業物とするならば、誰のものになるのか決まっておるのじゃろうか?」
ヴィルジールはすでに刀の形になっている作りかけのシルヴァンエペを見つめる。
「かなり以前からの約束として業物が打てた場合、今回は黒分隊ではなく、橙分隊のフィルマン副隊長に譲る事が決まっている。大分待たせてしまったのだが。‥‥いかん、俺まで出来た気分になってしまった。気を引き締めなければな」
シルヴァンが笑う。ヴィルジールと井伊文霞も声をあげて笑うのだった。
●道具
「なるほど。では私はそちらに」
朧虚焔は鍔九郎との相談を終えて、火床へと向かった。そして選定された玉鋼をシルヴァンに鑑定してもらう。
どれも品質に問題はないようだ。
朧虚焔は仲間の作業を一通り観て安心をし、炭焼きを手伝う。
タタラ製鉄もそうであったが、炭焼き作業もまた炎との戦いである。
鍛える作業もやはり炎。刀とは炎から生まれるものなのだと、朧虚焔はあらためて実感した。
その他の時間で朧虚焔が行ったのは、仲間専用の鎚などの道具作りである。使い慣れた物がある者は別にして、村に置いておける道具があれば何かと楽だ。冒険者専用の火床となる小屋も作る予定があると鍔九郎はいっていた。
●研ぎ
十日目の夕方、粘土採取組の馬車がタマハガネ村に到着する。
「大変でしたわね。暖かい料理が出来ていますよ」
井伊文霞は四人を迎える。
家屋に入ってすぐに食事が始まる。冒険者八人と刀吉、鍔九郎で鍋をつついた。
村の女性が作ってくれた鍋料理はクァイが用意してくれた食材で作られたものだ。まだまだ寒く、冷えた身体に鍋は最高であった。
「今夜、焼き入れをするといっておったのう。是非最高の出来になってもらいたいものじゃ」
ヴィルジールは椀から汁を啜る。井伊文霞と一緒に手伝っていた刀身の焼き入れが、今夜シルヴァンの手によって行われる。
集中が必要なので、今回の冒険者の見学は見送られた。
深夜を過ぎた日が昇る前、シルヴァンはハニエルの護符を使って焼き入れを行う。
会心の手応えにシルヴァンは勇む心を抑えながら荒研ぎをした。さらに焼き戻しをし、銘が彫られる。
今回の研ぎは刀吉に任される。こちらは見学が許される。
いくつもの砥石を換えて丁寧に作業が行われる。特にナオミが真剣な眼差しで工程を追う。
研ぎといっても、砥石だけでなく油や焼き入れた硬い棒なども使われる。その一つ一つを刀吉は淀みなくこなしていった。
拵えはナオミに任される。アレックスの打った刀の拵えはすでに出来上がっている。
(「ここはしっかりと‥‥」)
ナオミは柄の部分にしっかりと紐を巻き付けてゆく。連日、夜遅くまで作業を続けられた。
●そして
ニセは鍔九郎に焼刃土の作り方を教えてもらい、試してみた。
井伊文霞に頼んで作ってもらった包丁を、自分で配合した焼刃土を塗って焼き入れをする。
確かに焼刃土の塗り方によって焼き入れの具合が変わった。これを利用するからこそ、油ではなく水で焼き入れをしても見事な仕上がりになるのだとニセは日本刀作りに感心する。
出来た包丁は村の女性達に渡された。
春日龍樹は砂鉄運びなどを手伝う。合間に刀吉に野太刀等も打つ予定があるのかを聞いた。野太刀かどうかは別にして他の武器の製作については考えているらしい。これも玉鋼の生産が増えたおかげだと刀吉も喜んでいた。
クァイは鍛冶の合間に、シルヴァンへ様々な品物を見せた。アンデッドスレイヤーの刀など珍しい物もある。そしてすべてを進呈すると告げた。
シルヴァンは必要にしている方に譲ってあげてくれといい、玉鋼のみを快く受け取った。
十三日目の夕方、出来上がった刀の試し切りが行われた。
誰もが興味あるらしく、冒険者全員が庭に集まる。順に出来上がった刀が試される。
アレックスの打った刀は、藁束を見事に真っ二つにした。村人に渡されて感謝される。
続いて今回進呈されたシルヴァンエペをヴィルジール自身が振り下ろす。
「うむ!」
その手応えにヴィルジールは満足そうに唸り声をあげた。真価はデビルと対した時にわかるはずだ。
続いてシルヴァン会心の作であるシルヴァンエペを朧虚焔が試す。確かに通常のシルヴァンエペよりバランスがとれ、扱いやすく感じられる。
夕日にかざし、しばらく刃の文様を朧虚焔は眺め続けた。
十四日目の朝、クァイが御者をして冒険者達はパリの帰路につく。
もちろん刀吉も同行する。
パリに着いたら刀吉は王宮の詰め所に出向き、面識のある黒分隊のエフォール副長に会心のシルヴァンエペを渡すつもりであった。エフォール副長から橙分隊のフィルマン副分隊長に贈られる段取りになっている。
十五日目の夕方、一行を乗せた馬車は無事にパリへと到着した。
●六段階貢献度評価
ナオミ エペ進呈済
朧 エペ進呈済
アレックス 2、2、1、2 計7
ニセ 2、2、3 計7
クァイ 3 計3
井伊 次回エペ進呈予定
ヴィルジール 今回エペ進呈
春日 1、2、3 計6
ヴィルジールには今回一振り進呈されます。
次回は井伊への進呈が決まっています。続いて、アレックス、ニセ、春日の順になります。