コウモリの洞窟 〜アーレアン〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 70 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月11日〜03月21日

リプレイ公開日:2008年03月18日

●オープニング

「どうかしたのか?」
 昼の冒険者ギルド。青年冒険者アーレアンはテーブルで泣いている女の子を見つけ、声をかける。
 しばらく泣き続ける女の子だったが、落ち着いた頃に事情を話し始めた。
 女の子の名はミオリ。
 普段は山奥の集落に住んでいた。
 集落から麓に下りるにはとても時間がかかり、長く不便を強いられて来たのだが、五ヶ月程前にトンネルが完成した。集落民が自然洞窟を掘り進めて開通させたのである。
 四年にも渡る掘削作業であったが、これまで四日もかかる麓から集落まで道のりを、わずか半日にまで短縮出来た。
 その時、集落はこれ以上ない喜びに包まれた。だが、一ヶ月程前に問題が起こる。
「大きなコウモリが‥‥、たくさん洞窟だったところに住むようになったの‥‥」
 落ち込んだ様子のミオリの話しは続く。
 トンネルに住み着いたラージバットは人を襲う。それだけでなく、ラージバットの近くに住むとたちの悪い病が流行るといわれていた。今は何もないが、将来が心配である。
 ミオリは父親と一緒に遠回りをして山を下り、冒険者ギルドへ依頼をしに来たのだ。
「そうなのか、大変だな。でもな、冒険者に任せれば大丈夫だぜ! 安心してな」
 アーレアンはミオリを元気づけるとカウンターへと向かった。そして青年ギルド員のハンスに訊ねる。
 ミオリの父親によって依頼が出されていた。
 アーレアンは一通り依頼書に目を通すとハンスに告げた。この依頼に参加すると。

●今回の参加者

 ea7900 諫早 似鳥(38歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea7929 ルイーゼ・コゥ(37歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb9226 リスティア・レノン(23歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

グリゴーリー・アブラメンコフ(ec3299

●リプレイ本文

●準備
 一日目の早朝、冒険者達は依頼人親子の荷馬車が置かれる空き地へと集まった。
「わたしどもでは、どうにもできず‥‥、どうかよろしくお願いします」
 依頼人のガイロンは娘のミオリと共にあらためて冒険者達にラージバット退治をお願いする。
「詳しい話は移動中に聞くとしてもさ――」
 諫早似鳥(ea7900)はラージバット退治に必要なものを揃える為に時間をもらった。欲しいものとはジギタリスの乾燥葉と、おびき寄せるエサとなる干し肉と干し魚だ。
「葉っぱは任せておきぃ〜。急いで買うてきまひょ」
 シフールのルイーゼ・コゥ(ea7929)は荷物をアーレアンに任せると張り切って空に消えた。
「買い物は僕が行きます。諫早さんはここで乾燥葉が届いたら煎じて下さいね」
 壬護蒼樹(ea8341)はセブンリーグブーツを履くと乾物を買い向かう。
「アーレアンさん、お久しぶりです。今回の敵はラージバットさんですか〜。やっぱり大きいのでしょうね〜」
「あ、リスティアさん。ハンスが本当にでかいっていってたよ。依頼書にあるみたいに翼を広げると一メートルはあるみたいだ。後で詳しく馬車の中でミオリちゃんとお父さんから聞いてみよう」
 リスティア・レノン(eb9226)とアーレアンは仲間の荷物などを荷馬車に積み込みながら話す。
 ルイーゼはすぐに乾燥葉を手に入れてきた。準備を整えておいた諫早似鳥はさっそく煎じ始める。
 煎じ終わる頃には壬護蒼樹も乾物を抱えて戻る。
 かかった費用はたいしたものではなく、それで退治ができるならとガイロンが費用を出した。
 用意が終わり、全員が荷馬車に乗り込んだ。
 一行がパリを出発したのは昼前であった。

●コウモリの習性
「集落で会おうね〜」
 遠ざかる荷馬車からミオリが手を振る。
 二日目の昼頃、冒険者達は山の麓に辿り着いていた。
 依頼人親子が乗る荷馬車は旧道を使って集落に向かう。冒険者達は麓にある出入り口からトンネルへ入り、ラージバットを倒しながら集落を目指す事となる。
「聞き込みしてみようぜ」
 アーレアンが先頭になって歩きだした。向かうは麓の集落だ。聞き込みを行う事にしたのには理由がある。
 コウモリのエサは何かという諫早似鳥の質問に、ルイーゼが夜になると洞窟を抜けだして捕食するのが普通だと答えたからだ。
 案の定、ラージバットの被害で麓の集落民も困っていた。何でも昆虫が異常発生して、それをラージバット共は食べているらしい。
 一度退治したところで、再びトンネル内にラージバットが集まっては元も子もない。冒険者達はエサとなる異常発生した昆虫退治を始めた。
 沼地近くの枯れ木が密集する区域に昆虫が大量発生していた。
「ここと、ここを――」
 リスティアが引火してはいけない場所に、レジストファイヤーを付与する。
「いくぜ!」
 アーレアンがファイヤーボムを昆虫の群れ中心に放つ。巨大な炎の球が昆虫を包み込む。
「こんだけ密集していたら効くはずやでぇ」
 続けてルイーゼが輝くライトニングサンダーボルトを宙に走らせた。
「これで‥‥」
 そしてリスティアのアイスブリザードが吹雪を巻き起こす。
「小さいのは面倒だね。そっちをやってくれ、小紋太」
「うわ、背中に入った!」
 わずかに残った昆虫を諫早似鳥と犬の小紋太、壬護蒼樹が退治してゆく。
 その日の夕方、冒険者達はトンネルには入らずに外でトンネル出入り口周辺を監視した。
 真っ暗になろうとした頃、出入り口からたくさんのラージバットが飛びだしてきた。斜面の何カ所からもラージバットが現れる。群れが赤と黒の空に羽ばたいていた。
 出入り口以外にもトンネルに繋がっている穴があるらしい。元々は自然洞窟であったので不思議ではなかった。
 捕食していた昆虫がいなくなって、今頃ラージバットは闇をさまよっているはず。そんな事を冒険者達は野営をしながら話した。
 問題は明日夜からのラージバットの群れの行動だ。昆虫がいなければ、今度は別の食べ物にありつこうとするはずだ。その中には人も含まれるかも知れない。
 冒険者達は明日に備えて早めに就寝するのだった。

●各個撃破
 三日目の朝、冒険者達はトンネルに入る。
「対悪魔戦も経験したし、炎剣付与があれば前衛は助かるだろね」
 諫早似鳥はトンネル内の見取り図を眺めながらアーレアンに話しかける。アーレアンは可能な限りの荷物持ちと、たいまつを持つ照明係をしていた。
 狭い空間でのファイヤーボムは危険だ。仲間に指摘され、大きく広がる空間に出るまでは出番がないアーレアンであった。
「俺、新しい魔法とか全然、考えていなかったんだ‥‥。今回は間に合わないけど‥‥やっぱり諫早さんの言うとおりバーニングソードあたりがいいのかなぁ」
「そうですね。すでに攻撃呪文はこと足りている訳なのですから、味方の戦士の援護などを考えれば、バーニングソードを覚えてみるといいと思います」
 アーレアンが隣りを歩いていたリスティアに相談する。壬護蒼樹も二人の会話を聞いていた。
「新しい魔法、いいですね。期待していますよ」
 壬護蒼樹が垂れる前髪の隙間から片目を見せながらアーレアンに話しかけた。壬護蒼樹もアーレアンが新しい魔法を覚えないのか気になっていたのだ。
「見つけたでぇ。約九十メートル先にでっかいコウモリ六匹やぁ〜」
 ルイーゼがブレスセンサーで探知した敵の存在を仲間に知らせる。
「実際の地形がどうなっているか、確かめてくるかね」
 諫早似鳥が偵察に向かい、すぐに戻ってきた。まだまだ狭いので近接戦闘に頼るしかないようだ。
 狭いといってもナ・ギナータが振り回せる程度の広さはある。壬護蒼樹は仲間の盾になるように一番前に立つ。
 補助魔法を付与し、諫早似鳥の遠隔攻撃で戦いは始まった。
「うおおおっ!」
 壬護蒼樹はナ・ギナータ振るい、先端の速度を生かしてラージバットを叩き落としてゆく。
 半端な広さはラージバットにとっても動きづらいようだ。落ちたラージバットの翼を犬の小紋太がクナイで切り裂き、羽ばたけないようにする。
 こうなればラージバットは大した敵ではない。
 遠隔武器に塗られてある毒でラージバットは弱って動きが鈍る。
 アーレアンは持ってきたスコップで急ぎ穴を掘った。たいまつはすでに壁に空けた穴に差し込んである。
 諫早似鳥とリスティアが牙に注意してラージバットを掘られた穴に落としてゆく。その際に出来るだけ遠隔武器の回収を忘れなかった。
 ラージバットを索敵しては叩くのを繰り返して、冒険者達は奥に進んだ。
「この辺でええかぁ〜」
 ちょうどよいと思われるトンネルの天井にルイーゼが乾物をぶら下げた。明日の戦いに備えての仕掛けだ。
 冒険者達はわざと引き返す。
 ラージバットを残らず全滅させなくてはならないが、日数には比較的余裕がある。強行して撃ち洩らすより余裕を持って行動した方がよい。
 夕方になると麓のトンネル出入り口付近で野営の準備をし、日が昇るとトンネルに入ってラージバットを叩きつぶした。
 四日目からは乾物による罠を仕掛けたので、とても戦いやすくなる。
 徐々に罠を仕掛ける場所を奥にしてゆく。もらったたいまつでは足りず、仕方なくランタンも使用した。
 五日目までは同じ行動を繰り返す冒険者達であった。

●本戦
 六日目の朝、冒険者達はトンネルに入った。四度目の突入だが、今日の戦いはこれまでと意味が違った。
 最深部となるトンネルの中央部分まで足を伸ばし、一気に叩く作戦である。
 依頼人の親子によれば、ゆうに二十メートルは天井に余裕があるらしい。横幅もあるようだ。うまくやれば魔法で一気に殲滅出来る可能性があった。
 途中で遭遇するラージバットはほとんどない。いてもさまよっている一匹程度で、壬護蒼樹と諫早似鳥によって簡単に倒された。
 浅くてもいいのでアーレアンは穴を掘ってラージバットの死骸を埋める。ラージバットを倒したら、すぐにでもトンネルが使えるようにと。
 冒険者達は数時間歩き、ついに大量のラージバットが住み着く『巣』と呼ぶべき大きく広がった洞窟内に辿り着く。
 大きな岩の後ろに隠れながら冒険者達は様子を窺う。
「ここですか。よく見えませんけど天井でしょうか? ‥‥おちてきたらいやですねー‥」
 リスティアは呟く。
「一気に行くよ」
 諫早似鳥は毒をあらためて武器に塗り直す。
(「僕が後ろのみんなを護ろう‥‥。コウモリを倒すより、そっちを優先しないと」)
 壬護蒼樹は念の為、レジストマジックを付与した上で戦うつもりであった。
「ふっかふか♪ もっふもふ〜♪ おっと‥‥そろそろ、戦いやなぁ。わんこさん、助かりましたでぇ〜」
 犬の小紋太にお礼をいって、ルイーゼは魔法が唱えやすい位置に移動した。
「それじゃあ‥‥」
 アーレアンはファイヤーボムを唱え始める。狙うは洞窟内部の中央。
 ファイヤーボムの範囲に入れば、洞窟の壁面にも衝撃を与えてしまう。トンネルの一部である洞窟部分が崩れてしまったら大変であった。
「ラ〜〜ジッ、バットおぉぉぉぉぉっ!!!!」
 壬護蒼樹はアーレアンのファイヤーボムが発動する直前に大声を出した。
 大食いの特技が果たして肺活量に影響があったのかはわからないが、とにかく声は響いた。そのおかげで、壁面に留まっていたたくさんのラージバットが一斉に飛び立つ。
 ファイヤーボムが膨れあがり、ラージバットの群れが巻き込まれる。
「ウチの攻撃は洞窟を傷つけんから便利やでぇ!」
 ルイーゼはライトニングサンダーボルトを放つ。雷の直線上にいたラージバットは、すべて地面へと落ちてゆく。地面にラージバットが敷かれた道が出来上がる。
「任せて下さいね!」
 続いてリスティアは迫り来るラージバットの群れに向けて、アイスブリザードを巻き起こした。ダメージを与えるだけでなく、吹雪の勢いでラージバットの大部分を後退させて時間を稼ぐ。
「もう、一発!」
 アーレアンが二度目のファイヤーボムを放った。
 ここからは混戦となり、壬護蒼樹が前に立ってナギナータを振るう。
 ゆらゆらと、まだ生き残っているラージバットに向けて諫早似鳥が遠隔武器を放つ。
 犬の小紋太は地面でまだ暴れているラージバットを仕留めていた。
 役目を終えたアーレアンはたいまつを手に、仲間の戦いを見守る。
 ルイーゼはまだ勢いのあるラージバットを探しては、ライトニングサンダーボルトを撃ち込んでゆく。
 リスティアは仲間の位置を確かめてアイスブリザードを起こした。叩くというよりラージバットの襲来を遅らせるのを目的にする。
 戦いそのものは短い時間で終わったが、全員がへとへとに疲れてしまう。
 灯火の残りも考えると長居は出来ない。とにかく全員が集落側の出入り口に向かって歩いた。
 緩やかであっても坂道は疲れた身体につらいものがあった。休憩をしながら進み、集落側の出入り口から出たのは夕暮れ時になる。
「みなさん、ご無事で」
 依頼人のガイロンが出入り口から出てきた冒険者達に駆け寄る。ミオリも一緒だ。
 他の集落民も徐々に集まり始めた。
「倒したでぇ。全部のはずやわ」
 ルイーゼが冒険者を代表して報告すると、集落民達が歓喜の声をあげた。
 集落に招かれて、冒険者達はもてなしを受ける。
 諫早似鳥は定期的に麓で昆虫が大量発生していないか、注意すべきだと集落の長に伝えておく。長くトンネルが使えるかどうかは集落民の心がけ次第だ。
 七日目、八日目は集落の人達によってトンネル内に残っているラージバットの死骸処理が行われた。外に運ばれて次々と焼かれてゆく。
 その間、冒険者達はゆっくりと集落で静養するのだった。

●帰り道
 九日目の昼頃、冒険者達は荷馬車に乗ってパリへの帰路につく。おみやげとして全員が森で採取されたソルフの実をもらう。
 御者台に取り付けられたたいまつで照らしながら、ゆっくりと荷馬車はトンネル内を下る。暗く、先がよくわからないので人の歩く程度の速さである。
 それでも険しい山道を通らず、半日で麓と山の中の集落を繋げてくれるトンネルは素晴らしいものであった。
 次の冬に備えて出入り口が雪に埋まらない工夫をすると、ミオリが集落の計画を教えてくれた。アーレアンはうんうんと笑顔で頷く。
 夕方には麓へ到着する。途中に一匹もラージバットは残っていなかった。
 一晩の野営を経て、十日目の夕方に荷馬車はパリへ到着した。
「ありがとう〜。お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう〜」
 荷馬車のミオリが冒険者達に感謝して手を振っていた。
 冒険者達は荷馬車が消えるまで見送った。そして報告をする為に冒険者ギルドの入り口を潜るのであった。