森の覇権 〜シレーヌ〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月12日〜03月22日

リプレイ公開日:2008年03月19日

●オープニング

 女性冒険者シレーヌ・ブルーニは冒険者ギルドにいた。
 新たな依頼がないか、出来れば多くの人々を幸せに導けるような依頼はないか、数日に一度の割合で訪れていたのだ。
「これは‥‥」
 シレーヌは二日前には貼られていなかった依頼書を見つける。
 パリから離れた森の奥にある町からの依頼である。
 森の奥に町があるとは奇妙だとシレーヌは感じた。あってもよいのだが、基本的に町というのは多くの流通によって自然発生的に出来上がる。交通の不便な森の奥では普通だと村がせいぜいだ。
 シレーヌは依頼書を読み進めるうちに、町になった訳を理解する。
 それは戦いであった。
 オーガ族が森に集結し、看過出来ない状態になっていた。共通の敵によって集落や村の人々が集まり、町が形成されたようだ。
 ゴブリンを始めとして、オーク、オーガなどが目撃されている。その他のもっと強いオーガ族もいるかも知れない。
 オーガ族の本拠地を叩く為、戦いに慣れた冒険者を募集する依頼であった。戦いには一部の町民で組織された自警団も参加するようだ。
「オーガ族にも生きるためにいろいろあるのだろう。だからといって人の住処を荒らしていい理由にはならない」
 シレーヌはカウンターに向かい、参加の手続きをとる。
(「戦いは避けられないはず‥‥。だが落としどころはないものか‥‥」)
 そんなことを考えながら、シレーヌは書類にペンを走らせるのだった。

●今回の参加者

 eb5588 カミーユ・ウルフィラス(25歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec4040 ユリア・ヴォアフルーラ(35歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ec4061 ガラフ・グゥー(63歳・♂・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ec4252 エレイン・アンフィニー(25歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ec4271 リディック・シュアロ(33歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ec4275 アマーリア・フォン・ヴルツ(20歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec4419 カモミール・トイルサム(28歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec4611 レイヴル・スクレリング(36歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

レラ(ec3983

●リプレイ本文

●会議
 二日目の夕方、冒険者九名は依頼を出した自警団の馬車に揺られ、森の奥にある町に到着する。
 森林に囲まれているだけあり、建物のほとんどが木造であったが、護りとなる町を取り囲む城塞部分は石造りである。
 高さもあり、シレーヌはかなりしっかりした印象を受けた。
 ただし一見しただけでもわかる隙もある。城塞壁で安心しているせいもあるのだろうが、見張りの数があまりに少なかった。
 道中でも自警団の若者が語っていたが、問題は森の中だ。生産や流通を含めて、町の中だけでは解決出来ない日常に不可欠な作業は森で行われる。そこに好戦的なオーガ族が徘徊しているとなれば危険この上ない。
 冒険者達には大きめの一軒家が用意されていた。睡眠をとる為の部屋とは別に、オーガ族との戦いの為の作戦会議場の役目もある。
 夜になり、自警団団員二十名が訪れる。冒険者九名と共に会議が開始された。

「それでは大まかな作戦を最初に話しておこう」
 仲間から選出された代表のリディック・シュアロ(ec4271)が席から立ち上がり、作戦を読み上げる。
 まずは準備の説明だ。
 小川近くでの見張りは継続する。町を取り囲む城塞壁からの見張りも、この戦いが終わるまでは自警団以外の町民に協力してもらう。
 見張りを除く自警団団員は武器の訓練と、町の周囲に罠を仕掛ける作業を義務づける。訓練についてはどの程度の実力か計る意味もあった。
 一部の者は冒険者と共にオーガ族の勢力配置の把握を行ってもらう。
 準備が整い次第、オーガ族の本拠地を複数回に分けて攻め入り、森から追いだすのが全体の流れだ。
「指揮は俺がやる。武器の訓練は‥‥レイヴルとシレーヌも手伝ってくれるか?」
 リディックがレイヴル・スクレリング(ec4611)とシレーヌを順に眺めた。二人とも同意を返事をする。
「肩の力抜いていこうぜ、よろしくな!」
「こちらこそ、よろしく」
 レイヴルが隣りに座るシレーヌに笑顔で挨拶をした。
「私も食事作りの合間にでも稽古に参加させてもらおうか。もちろん罠の方も」
 目と目があったユリア・ヴォアフルーラ(ec4040)とシレーヌが改めて握手をする。
「罠の仕掛けも自警団だけでなく、町の人にも教えておいた方がいいな」
「やり方は僕に任せてね」
 リディックの言葉に、カミーユ・ウルフィラス(eb5588)が立候補して罠作りの教官役が決まる。
「私は準備の間、煮炊きの手伝いや疲れている人を労わせてもらいますわ」
 エレイン・アンフィニー(ec4252)は裏方に回り、全体がうまく回るように配慮するつもりでいた。
「調理も訓練も、手伝えるものはすべてやってみるつもりです」
 アマーリア・フォン・ヴルツ(ec4275)は戦力の分散を一番危惧していた。それを防ぐ為には、まずは意志の疎通が必要である。方法に違いはあってもエレインと同じ考えだ。
「カモミールさん、何かあったのか?」
 シレーヌがカモミール・トイルサム(ec4419)の落ち着かない様子に興味を持つ。
「なるべく優しそうな団員を探しておこうかなって。盾に‥‥いや、あたしって後衛だから、やっぱり守ってもらうのがいいカモ、ってね。今回も大変そうだけど頑張ろうねぇ」
 カモミールはシレーヌに耳打ちし終わるとニヤリと笑う。
 リディックからさらに細かい作戦が言い渡された。
「そう、そうじゃった‥‥」
 自警団団員が浮き足立つのを見て、ガラフ・グゥー(ec4061)が一言付け加える。
「死者は打捨てられども、負傷者は仲間の足枷となると言うのは敵とて一緒じゃ。深手を負わせ救助に手勢を割かせた方がよいぞ」
 ガラフの真意は別にあったが、今はこの理由で説得する。自警団団員のほとんどは納得してくれた。
 会議は夜遅くまで続くのだった。

●準備
 三日間かけて準備は行われた。
 血気ばかり盛んで実力が伴っていない入ったばかりの自警団団員の一部に、最低限レベルの武器の扱いを叩き込む。
 総じて団員はそれなりに武器を扱える者が多かった。結果として訓練そのものより、結束を高める意味合いの方が大きくなる。
 作戦が開始されたのなら、自警団と冒険者が離れることによって町は手薄になる。
 オーガ族から不意打ちを食らっても持ちこたえられるように、一時的な罠が町の周囲に仕掛けられた。
 落とし穴である。
 原始的な罠であるが、そういうものに限って奥が深い。配置やカモフラージュの仕方などにノウハウが必要であった。
 冒険者が一部食材を提供した料理を全員で頂く。冒険者と団員がうち解けて話す光景も多々見られる。
 ただ、冒険者側が提示した先制攻撃を控えるようにする命令には反発する団員は少なくなかった。一応は納得する態度を見せていたが、戦場ではどう動くか分かったものではない。
 敵だと思っていたオーガに助けられたという逸話はいくつかある。町の人々も知ってはいたが、今一信じられていない。
「森で迷っていたら、町まで連れてきてくれたオーガがいたんだ」
「そうなのか。どんな奴だったんだ?」
 シレーヌはオーガに助けられたという子供と出会う。詳しく話を聞いたシレーヌは、詳細をガラフに伝える。
 ガラフは町に避難して暮らしている猟師と共にオーガ族の分布を調べていた。
 子供が出会ったという優しいオーガとの接触地点周辺に注意してみると、ガラフはシレーヌに答える。
 準備が終わり、六日目の朝、冒険者九名と自警団団員二十名は小川に作られた見張り台に向かう。到着したのは昼前であった。

●戦い
 襲撃の時間帯はいろいろと考えられたが、一度目の襲撃は夕方に決められた。
 調べによるとオーガ族の本拠地は何カ所かに分かれてあった。とはいっても、とても近くて一個所と判断しても良さそうである。
 小川周辺にたむろするオーガ族六匹と交戦する。最初に会話を持ちかけたが、問答無用で襲いかかってきたからだ。この中に友好的なオーガはいなかった。
 エレインのウォーターコントロールによって混乱したオーガ族は敵ではなかった。計画通りに怪我だけを負わせてわざと逃がす。
 ガラフが逃げるオーガ族を空から追跡する。数時間後、これによって敵本拠地の位置がはっきりとわかった。
(「あれはもしや‥‥」)
 ガラフは帰りの途中で左目が傷で塞がっているオーガをみかける。その他の特徴もシレーヌがいっていた子供を助けたオーガにそっくりである。
 判断に迷ったガラフだが仲間の元に戻るのを優先し、本拠地の場所と隻眼のオーガの目撃を伝えた。
「あれ、そうじゃない?」
 本拠地へ辿り着く前にたまたま空に浮かび上がったカモミールが、迫り来るオーガ族の集団を発見する。
 直ちに臨戦態勢が整えられ、一気に戦いへ突入してゆく。
「頼んだぞ!」
「任せてくれ!」
 シレーヌとリディックが剣を振るい、敵の武器と火花を散らした。団員達も二人に続いて続いて剣や槍を手に戦いを挑む。
 敵の数はほとんど味方と同数である。木々が生える狭い空間での戦いであった。
「今のうちに!」
「お待ち下さいませ!」
 レイヴルがゴブリンの攻撃を盾で受け止めている間に、エレインがアイスコフィンを唱える。唱え終わると瞬く間にゴブリンが凍りついていった。
「この森から退きなさい!」
 アマーリアがペアで迫り来るホブゴブリン一匹の攻撃を盾で受け止める。すぐ後方でユリアが魔法を詠唱していた。
「留まれ!」
 ユリアの詠唱はコアギュレイトであり、一匹のホブゴブリンを動けなくする。すかさず片割れのホブゴブリンの鎚攻撃を剣で受け止めた。
「どう見ても獰猛だね」
 動けなくなったホブゴブリンにカミーユがディストロイを唱えて衝撃を与える。アマーリアが盾ではなく、ダガーを構えてホブゴブリンにさらなる傷を負わせる。だが止めは刺さなかった。
 アマーリアとカミーユはすぐにユリアが戦うホブゴブリンへ目標を移した。
「よ〜し! 石に代わってお仕置きカモね!!」
 カモミールが再びレビテーションで空中に浮かんだ。慎重に詠唱し、眼下のオークに向かってストーンをかける。オークが石となって大喜びするが、棍棒が飛んできてあたふたするカモミールだ。
「隻眼のオーガと会ってみるつもりじゃ。よいかのお?」
 ガラフはリディックにライトニングサンダーボルトで加勢しながら訊ねる。
「交渉が出来るならそれに越したことはねぇぜ。任せた!」
 リディックに託されたガラフは、愛馬、愛犬と共に戦線を離れて森の奥に消えていった。
 約三十分程の交戦の後、オーガ族は退いた。
 怪我こそ負ったものの、味方に死者はいない。アマーリアとエレインによって治療がされる。
 すでに日が暮れようとしていたが、半端な場所の為にさらに移動をした。途中での戦闘のせいで一度目の襲撃は夕方から翌日の朝方に変更される。
 交代で睡眠をとり、一同は戦いに備えた。

 その頃、ガラフは隻眼のオーガとの接触に成功する。思っていた通りに隻眼のオーガは人に敵対心を持っていなかった。
 手振り身振りによる会話が試みられたが、なかなか意志は通じ合わない。
 身振り手振りといっても考えと経験自体に大きな隔たりがあるので、お互いに伝わりにくかった。
 それでもあきらめずに、ガラフは隻眼のオーガとその仲間との交渉を続けるのだった。

●本拠地
「ただちに降伏して、この森を立ち去れ!」
 七日目の早朝、リディックは本拠地突入前に声を張り上げた。言葉の意味はわからなくても、何となく意味が伝わると考えたからだ。
 オーガ族の返事はリディック目がけて投げられた槍であった。レイヴルが盾で軌道を逸らし、槍は地面へと突き刺さる。
「仕方がないな‥‥」
 リディックは突入を指示する。
 団員が用意してきた弓で矢が放たれる。敵の出鼻をくじいたところで、味方は一斉に攻め込んだ。
 前衛のレイヴル、シレーヌ、ユリアは真っ先に突入する。自警団も続いた。
「持ってきてくれて、ありがとうな。レラ」
 リディックは一歩退いた所で追儺豆を投げつけて仲間の支援をする。そして敵の動きを観察した上で手薄な個所に参戦する。
 カミーユ、エレイン、カモミールは得意の魔法で仲間の補助をして動きを止めてゆく。
 アマーリアは被害を予想し、後陣に衛生所を用意した。味方の布陣を抜けてくるオーガ族もいる。そういう敵とアマーリアは対峙して衛生所を守った。
 戦いは激しい。全滅をさせるにはオーガ族の数は多く、すべてを怪我で済ませる余裕はない。まずは味方に死者を出さない事を優先させる。
 一度退いて治療をし、陣形を整えた後で二度目の突入が行われる。
 夕方に差しかかり、辺りは赤く染まり始める。
 その時、ガラフが戻ってきた。
 冒険者達の活躍のおかげで、本拠地の半分は陥落済みである。
「今頃、オーガ族の親玉と隻眼のオーガ達が交渉しているはずじゃ。しばらく時間をくれんもんか?」
 ガラフの提案に冒険者と自警団は本拠地から引き揚げて待機をする。
 時は過ぎ、日が暮れて宵の口となった。
 一匹のオーガが冒険者と自警団の陣に近づいてくる。両腕にはガラフからもらった食料が抱えられていた。
 食料をある程度分けてもらえるのなら、この森を去るとガラフと隻眼のオーガは約束をしたのだ。抱えている食料は象徴である。どうやら隻眼のオーガと親玉との交渉もうまくいったらしい。
 緊張状態は続いたが、ひとまず戦いは集結した。
 星明かりを頼りにガラフが町へと連絡に向かう。
 町を深夜に出発し、翌日の八日目の昼、馬の背に載せられた食料が運ばれてきた。冒険者達は隻眼のオーガと仲間に食料を託す。
 オーガ族がちゃんと森から離れるかどうかの確認を自警団に任せ、冒険者達は町へと戻るのであった。

●そして
 九日目の朝、冒険者達はお礼として回復の薬をもらい、パリへの帰路についた。
 レイヴルは帰りの分の保存食を町で買い求めて、急いで馬車に飛び乗る。
「取りあえず笑っとこうか‥‥。わ〜っはっは、ヴィクトリー!」
 馬車に置かれてあったワインを嗜みながら、カモミールはご機嫌であった。
 朝に町へ戻ってきた団員によれば、オーガ族は本拠地を引き払ったという。人家のない森の奥に行ってくれるのを冒険者達は願う。
「この辺りが落としどころじゃねぇかな。シレーヌ、どう思う?」
 リディックは馬車の窓から森を眺めながら呟いた。
「そうだな。一緒に住めない以上、これが一番よい結果だろう」
 シレーヌが深く椅子に座り込む。
「やっぱり自然は弱肉強食だね。ま、オーガ族には食料も渡したし、お元気でというところかな」
 カミーユは垂れた前髪を片手であげながらワインを頂いた。
「あれで当分、町は静かになるだろう」
 ユリアは右腕で壁に頬杖をつく。
「あの隻眼のオーガ。またどこかで会うこともあるじゃろうか‥‥」
 ガラフは馬車の後部で愛犬と共にくつろいでいた。
「新巻鮭とかを渡せませんでしたが‥‥あの隻眼のオーガとは友好の兆しを感じました」
 エレインはニコリとシレーヌに微笑む。
「私達が本拠地に向かっているとき、何匹かオーガ族が町にやってきたそうですが、罠のおかげで逃げ帰ったそうです」
 アマーリアは学んだ事があると心の中で呟き、十字架のネックレスを握りしめる。
「よかったよかった! めでたしめでたし!! わ〜っはははははははは!」
 十日目の夕方にパリへ到着するまでカモミールはご機嫌であった。正確にいえば到着してからもご機嫌であったのだが。
 ギルドで報告をし、冒険者達は笑顔で別れるのであった。