三賢人の遺産 〜サッカノの手稿〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:7 G 32 C
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月28日〜01月03日
リプレイ公開日:2007年01月04日
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●オープニング
暗闇にいくつもの灯火が浮かび上がっていた。室内の祭壇にある無数とも思える蜜蝋燭が、すきま風に揺らされると世界が揺れる。
「我らの主よ。闇の導きを願い申す」
跪く数十人の徒の中から現れた一人が巻かれた羊皮紙を広げた。何本かの蜜蝋燭が消えると、インクに浸されたペンが宙に浮く。ポタリと落ちたインクが羊皮紙に染みを広げる。間を置いてペンは流れるように羊皮紙の上で踊り、文字を記していった。
ペンが石の床に落ちて転がる。
窓が開いて、冷たい風が室内に吹き込んだ。多くの徒がまとっていたローブがふわりと波を打つ。
デビルが去ったのである。
悪魔崇拝の集まり、『ラヴェリテ教団』の儀式は終わった。
悪魔崇拝者達はテーブルに羊皮紙を置き、その文字を読み解いた。
「まさかあの紙が?」
ラヴェリテ教団の若き指導者『エドガ・アーレンス』は過去を振り返る。サッカノの手稿と呼ばれる古びた本が古き森の鍾乳洞からパリの教会に運ばれた一件である。いくつかの経路が取られ、結果、サッカノの手稿はパリに届いてしまった。エドガは経路の一つを任された一団に潜り込んで奪取に成功したのだが、手に入れたのは偽物だった。
幸運だったのは手稿に挟まっていた一枚の傷んだ羊皮紙である。たった今記された羊皮紙にはその重要性が説明されていた。
サッカノの手稿と一緒に古き羊皮紙が三枚保管されていた。その内の二枚は重要性に気がつかれないままであったが、サッカノの手稿と同じく無事パリの教会に届けられた。だが一枚だけはエドガの手の内にある。
「あんな汚い紙が‥‥まさか重要な物であったとは」
エドガは片手で顔を覆い、高笑いをする。口の端をつりあげたその姿はまるでデビルのようだ。
三枚の羊皮紙はサッカノの手稿に秘して記された内容を浮かび上がらせる暗号の鍵になる物であった。サッカノ司教には慕う三人の司祭、言い伝えでは三賢人と呼ばれる者達がいたという。三枚の羊皮紙は三賢人の象徴でもあるらしい。
「親しき友アルメよ。こちらに」
エドガは一人の悪魔崇拝者を呼ぶと、腰から抜いたナイフを肩口目がけて振り下ろした。天井にも届く勢いで血が吹きだして辺りを赤く染める。エドガの姿も例外ではなかった。
「今日は気分がいい。昨日の失敗、自らの命をもって償うだけにしてやろう」
エドガは椅子に座ると冷静な表情になり、深く考え込むのだった。
朝早い時間、冒険者ギルドの個室には三人の司祭の姿があった。受付の女性は依頼の概要が書かれた羊皮紙を受け取って目を通す。
「口頭でも説明させて頂きます。冒険者には我々三人の護衛として取引現場にいって欲しいのです」
一番背の高い司祭が説明を始めた。
「一週間程前、一通の手紙がパリの教会に届けられました。サッカノの手稿に添えられていた一枚の羊皮紙を返したいという内容です。前に教会が冒険者ギルドに頼みましたサッカノの手稿輸送の件、覚えていらっしゃるでしょうか? 依頼を我ら三人が受け持ったのなら、手稿に添えられていた三枚の羊皮紙もちゃんと搬送されるように頼んだのですが‥‥。教会の中でも重要性に気がついていない者が多いのです。実際、軽く扱われてしまい、一枚が外部に流出してしまった‥‥」
背の高い司祭が首を横に振ると、他の二人は後悔を示すように瞼を閉じる。
「輸送を頼んだ中にある貴族の護衛団がありました。護衛団に悪魔崇拝者が潜り込んでいたようなのです。奴は偽物のサッカノの手稿と一枚の羊皮紙を盗んで消えました。教会は元々囮として使うつもりだったので、大事と考えませんでした。一週間前に送られてきた手紙の内容にも関心を示してません。しかし悪い予感がするのです。我々三人で何とかしようと依頼に参った次第です」
背の高い司祭は膝の上で拳を握った。
「まず、罠でしょう」
細身の司祭が呟く。
「それでも行かなくてはならないのです。そこに三賢人の羊皮紙がある限り」
筋肉質の司祭が低い声で話すと瞳を開けた。
「どうか、よろしくお願いします。三賢人の羊皮紙を探す手がかりは、この罠に誘われるしかないのです」
三人の司祭は受付の女性に深くお願いをするのだった。
●リプレイ本文
●術中
揺れる馬車内をランタンが照らしていた。誰かが戸を開けて外を眺める。凍える風と一緒に雪が吹き込む。遮る吹雪のせいで外を窺うのは無理であった。
パリを出立して二日目、約束の場所に向かう冒険者達は先の見えない展開に苛立ちを感じていた。あまりの吹雪で乗ってきた馬を麓の集落に預けたせいもある。
当座の作戦は馬車で行ける所まで辿り着き、降りて進む段取りであった。クレア・エルスハイマー(ea2884)が乗るペガサスフォルセティだけは同行する。低空を飛べばついてこれる点と、万が一の時に連絡役として必要だからである。
今はベイン・ヴァル(ea1987)とキサラ・ブレンファード(ea5796)がセブンリーグブーツで斥候を行っていた。キサラは防寒服を途中の集落で用意済みである。
ペガサスに乗るクレア・エルスハイマー(ea2884)はスクロールを使い、馬車内に連絡を行う。今の所不審な発見はないようだ。
「そろそろ斥候の交代だ。準備をしておこう」
「わたしはたまに立ち止まって辺りをよく警戒します」
ディグニス・ヘリオドール(eb0828)とノア・キャラット(ea4340)は声をかけ合う。
フランシア・ド・フルール(ea3047)は黙り込んでいる三人の司祭を眺める。そして昨日を振り返る為に瞳を閉じた。
「精霊さんの力を借りて冒険しているノア・キャラットと申します。よろしく、お願いします」
「よろしくお願いしますわ。何だか危険な気がひしひしとしますが、無事にやり遂げないといけませんわ」
ノアの挨拶にクレアが返す横では、他の冒険者が司祭達と向かい合っていた。
「手紙を拝見したい。相手の意図を見て取れるかもしれない」
ナノック・リバーシブル(eb3979)は背の高い司祭アゼマから送られてきた手紙を受け取る。フランシアも隣で文面に目を通す。
簡単な前置きに続き、『古き羊皮紙を返したい』とある。渡す者として司祭達の名前が書かれてもあった。その他には渡す地点までの地図が記されている。
ナノックとキサラが司祭達に疑問をぶつけた。
「申し訳ありませんが教会であっても古き羊皮紙の閲覧はご遠慮願いたい。それから――」
細身の司祭ボルデが三賢人との繋がりを明かす。司祭達は三賢人それぞれの末裔の者だという。
「それがキミ達を突き動かす理由か?」
キサラが訊ねると司祭達は一斉に頷いた。
「どうか我々三人揃って連れて行って頂きたい。一族の使命なのです。サッカノの手稿を読み解くのは」
司祭達は深く冒険者達に願った。
フランシアもいくつかの疑問と想像を司祭達にぶつけてみるが、大した答えはもらえない。ただ、司祭達の会話から洩れ聞こえた言葉『原罪』が心に残る。
瞼を開けたフランシアはサッカノ司教には娘がいた事を思いだす。しかし多く事実は過去という闇の中に埋もれたままであった。
馬車が停まって扉が開く。御者の交代の時間かと思われたが、これ以上馬車で進むのは無理なようだ。
斥候も合流して一行は新たな作戦を確認する。ペガサスも限界が近いので置いてゆく事となる。戻ってくるまでは御者二人が面倒を見てくれるそうだ。
斥候を二人先行させて、冒険者達は司祭達を囲むように列を組んだ。
斥候役以外の時はディグニスが列の先頭に立つ。装甲が厚いので先制攻撃を食らっても耐えられるはずだからだ。フランシアは染料と灰を混ぜた水袋を腰につけ、いつでも司祭達に聖壁を張れるように心がける。水が凍らないように袋は服の中にしまい込んだ。
残りの距離は通常の歩きで二時間程かかる。司祭の二人は体力がなさそうである。吹雪も考慮に入れると四時間はかかるはずだ。
横殴りの雪が容赦なく叩きつける。大木や崖などの風が避けられる場所で休憩しては雪を踏みしめて歩く。
斥候役をかってでたベインは白い世界の彼方で何かを見つける。目的の場所である谷底近くの巨石を視界に捉えたのだった。
警戒を怠らず、一行は巨石に近づいた。
「何か居ます。気をつけてください!」
ノアが能力で雪の向こう側にいる人影を知り、仲間に伝えた。ナノックが持つ石の中の蝶も弱いながら羽ばたく。デビルの反応である。
完全に近づく前にディグニスは六芒星による結界を張る。ダウジング・ペンデュラムによれば古き羊皮紙は巨石近くにあるらしい。ナノックも結界を張っていた。
クレア、ベイン、フランシア、キサラ、ナノックはいつでも襲撃に対応できるよう、考えていた準備を行って司祭達を護衛する。ノアはわざと離れていつでも魔法を撃てる準備を行っていた。
巨石に近づくと全員が虚を突かれる。その場に立っていたのは10歳程度の女の子一人であった。
女の子は痛んだ書物を差しだす。偽物のサッカノの手稿である。慎重に受け取った司祭ボルデは頁をめくる。目的の古き羊皮紙が挟まれていた。
「失礼」
フランシアが古き羊皮紙の端をナイフの先端で軽く差す。変化がないのを確認する為だ。
「こちらは念の為、手元に置かない方がよろしいと思うが?」
司祭が頷くのを待ってディグニスは偽のサッカノの手稿を谷底に放り投げた。フランシアは保護の為に聖壁を作りだす。
「罪の重さを知らないはずはないのに」
女の子が言い捨てると巨石の裏に消える。ナノックは急いで女の子を追うが、既に姿はなかった。女の子がデビルであった可能性は低いが、どこかに待機していたのは確かだった。
「やはり手紙の主は知っているのだな」
筋肉質の司祭ベルヌが呟く。二人の司祭は黙り込んでいた。
一行は巨石から離れるとこれからを話し合う。吹雪は止みそうもなく、すでに夜が訪れようとしていた。雪穴を堀り一晩を過ごそうと決めたとき、空から白き翼が舞い降りる。クレアのペガサスだ。
「これは‥‥」
ペガサスの前足には血がこびり付いていた。悪い予感を感じた一行は、馬車が停まる場所まで戻る事にした。
下山を強行して溜まった疲れは、惨状を目にした時に一気に噴きだす。御者二人は殺されていた。馬も死骸となり、雪の上に埋もれかかる。
「敵に頭のいい奴がいる。雪山を選んだのは孤立させる為だ。移動手段を奪われた我々が敵が現れた時にとれる行動は迎え撃つしか残っていない」
ナノックは全員の顔を眺めながら話すのだった。
●消耗戦
三日目の朝が訪れると、一行は麓の集落を目指す。
空は雲で覆われていたが吹雪は止んでいた。問題は降り積もった雪である。場所によっては雪をかき分けながら進みざるを得ない。
休憩中、クレアにペガサスで救援を呼ばせる案も出たが、今の状態では連絡が伝わっても集落側で出来る事は少ない。それより戦力が減る方が問題であった。
昼を過ぎた頃、空が晴れて日差しが地上に注がれる。
斥候の任にあったベインは轟く音を耳にして周囲を見回した。一瞬、雪崩かとペインは考えたが違っていた。
音の正体は敵であった。
オーガの群れの他にデビルらしき姿もちらほらと見受けられる。
ベインは呼子笛を吹き、仲間に襲来を知らせた。耳にした冒険者達は一斉に戦闘体勢に入る。
フランシアは司祭達を護りやすい場所に誘導する。そしてホーリーフィールドの展開のタイミングを見計らう。気になる空間へ色水を弾くのも忘れない。
キサラはデビルの力も考え、小さな動物などにも気を配りながら刀を構えた。知らぬ者が近づくのであれば即斬するつもりだ。
斥候が戻って間もなく戦闘が始まる。
「雑魚が群れても所詮雑魚なんだよ!」
ディグニスは大声をあげて敵の注意を引く。オーガの攻撃をデッドオアアライブで受けつつ、スマッシュを乗せた刀を振り下ろす。オーガは弱いが数が尋常ではなかった。すべてを避けきる事は無理だと判断した上での戦い方だ。
ナノックは常に司祭達を視界の隅に置くように戦う。目を離した隙に入れ替わられる危険もある。いざという時の合い言葉は決めてあるが、それはあくまで失敗を広げない策だ。そんな状況は避けなければならない。
ベインは主にデビルを狙って両断してゆく。魔剣ならば倒すのが容易いからだ。手応えからいっても大したデビル達ではないが後ろに上級が控えている場合もある。気を抜かずに敵を斬り伏せてゆく。
「キサラ、あなたの後方に敵!」
クレアはペガサスを駆りながら地上へ攻撃を行うが、時々空に昇って周囲を見回した。
「ありがとうな!」
宙を滑るキサラの刀はオーガをまるでチーズのように斬り裂いてゆく。一太刀で2匹が雪に沈むのも珍しくはない。
「大気に宿りし精霊たちよ、炎と成りて我に力を与えよ! 爆炎となり隠れし敵を蹴散らせ!」
前衛が踏み止まる間近でノアはファイヤーボムを放つ。
紅蓮の球形が膨れあがり、周囲を取り込んでゆく。雪が瞬時に溶けて蒸気が広がる。地面が剥きだしになり、体毛に点いた火を消そうとオーガが転がる。クレアのファイヤーボムも重なり、敵は総崩れとなった。
冒険者達は一気に攻め入る。ノアは他にも支援を行うつもりでいたが、その必要はなさそうだった。
わずかに残った敵が撤退してゆく。蒸気が冷気で固まってキラキラと落ちてくる。ダイヤモンドダストが舞う中で一行は全員の無事を確認するのだった。
その夜は凍りかかった小川のすぐ近くの洞穴で一晩を過ごす事となった。川岸には流木がたくさん落ちていて焚き火には事欠かなかった。
「以前、悪魔に対抗するために悪魔に身を落とした者達が残した写本を巡る争いに係わった事があるが‥‥」
ベインが周囲の冒険者達に話を切りだした。
「かの手稿は、彼奴等にとって如何なる意味を持つのでしょうか。其を守ることが彼奴等の企みを挫くことに繋がるのであれば、主のお導きに従いましょう」
フランシアは両手で祈りを捧げる。
「何だか危険な気がひしひしとしますが、無事にやり遂げないといけませんわ。これ以上、デビルをこちらに来させるわけには参りませんからね」
クレアは薪をくべながら呟いた。
司祭達はすでに眠りについていた。よほど疲れたのであろう。
キサラは洞窟の入り口に座り、監視しながら刀の手入れに余念がなかった。
ノアは能力やスクロールを使って警戒を怠らない。気が抜けない状態は現在も続いている。疲れたら誰かに代わってもらうがそれまではがんばるつもりであった。
ディグニスはとにかく体を休め、明日に備えるのだった。
●策謀
四日目、夕刻までには麓の集落に辿り着けるはずだった。クレアにはペガサスで一足先に麓まで使いに行ってもらう。元々ベインが有事の際にパリの教会まで何かしらの方法で助けを手配するように助言していた。さすがにパリの教会までは遠く、そこで集落に頼むよう変更したのだ。
森の一帯に入ると雰囲気が変わる。誰かに監視されているような、まとわりつく意識を誰もが感じていた。しかしデビルの反応は見受けられない。
クレアが帰り、戦力も元に戻る。おかげで村から新たな馬車を出してくれる手はずが整った。少しながら村人も向かってくれるそうだ。
時が経ち、ベイン、ノア、クレアが殆ど同時に敵の襲来を訴えた。森の木々を縫って敵が雪崩れ込んでくる。
昨日と違うのは敵は大勢の人だった。手には武器を持ち、男だけでなく女の姿もある。様子からいって悪魔崇拝者の可能性が高かった。
冒険者達は司祭達を誘導して戦闘の開始とする。
木の幹が邪魔ではあったが、それ以外は昨日と同じであった。数は多いが敵の強さも大して変わらない。斥候をしていたキサラによれば、潜伏しやすそうな場所に敵の姿はなく、罠も見当たらなかった。
襲いかかる敵に立ち向かう冒険者達は奇妙な錯覚に陥る。昨日とまったく同じ展開だ。いや、数は多いのに昨日より楽に感じられていた。
「注意をして下さい!」
ノアが叫ぶ。昨日の襲撃は今日の為の捨て石だったのではないかとノアは考えた。昨日の襲撃でこちらの手の内を調べて弱点を探しだし、今日に備えた可能性が高い。
「だめです!」
司祭アゼマがフランシアの側を離れてゆく。向かう先には少女の姿があった。巨石近くで姿を消したあの少女だ。
フランシアは残り二人の司祭の側から離れられなかった。声を聞きつけたディグニスが駆け寄ろうとする。
少女の横にいた若き指導者エドガが司祭アゼマの肩口に向けてナイフを振り下ろした。血飛沫が舞い、白い世界に赤い斑点が現れる。
ディグニスの振るった刀をすり抜けると、少女とエドガは敵の群れに紛れて消えた。
甲高い音の合図が響くと敵が退却を始める。
「しっかりするんだ!」
ディグニスは司祭アゼマを抱き抱える。
「我々‥にとっての原罪なので‥‥す」
司祭アゼマは息をひきとった。
二人の司祭が近づいて祈りを捧げる。警戒を続けながらも、冒険者達も集まってきた。
「皆様はなぜ我々が古き羊皮紙に執着するか理解出来ないかも知れません。わかっては頂けないかも知れませんが、お話ししましょう」
司祭ベルヌが涙しながら語り始める。
「手稿の一件で大司教に許されはしたもの、数年の後、サッカノ司教は亡くなられます。三賢人はデビルからサッカノ司教を守りきれなかった。サッカノ司教は罪深い業を背負ってしまったのです。サッカノを救えなかった。そして‥‥サッカノ司教の娘を救えなかった事。大惨事を招いた事こそが我々一族にとっての原罪とされています。全ては贖罪なのです」
司祭ボルデが司祭ベルヌの肩を抱いた。
「まだ我ら二人が残っています。必ず!‥‥」
司祭ボルデは決心を言葉にした。
ラヴェリテ教団の若き指導者エドガは晴れた空を見上げていた。
「あと一人、減らしておきたかったが、まあ‥‥いいだろう」
エドガは少女に話しかける。古き羊皮紙も教会の者に渡せた。どのみち謎を解いてもらわなければ何事も始まらない。ただ、過去の出来事を知った上で動く者が三人もいればリスクが大きい。一人殺せれば後が楽になるはずだ。
「我らが入り込む隙が欲しかった。主もお喜びになるであろう」
エドガは深く帽子を被り、外套の中に少女を誘う。そして教団が用意した馬車に乗り込むのだった。
●パリ
冒険者達と二人の司祭は麓の集落に辿り着いた。
司祭は教会まで願いを認めた便りを送る。御者二人と司祭アゼマの遺体を運んでもらう為だ。
二日をかけてパリに戻った冒険者達はあらためて二人の司祭に感謝される。亡くなった司祭アゼマを悔やむが、彼は覚悟を持って行動したのである。未練はないだろうと二人の司祭は口にした。
二人の司祭は冒険者達に一つの約束をする。古き羊皮紙の謎を解いたなら必ず教えようと。出発の際に古き羊皮紙は見せられないといった言葉を謝罪し、二人の司祭は立ち去った。
後に三人の遺体はパリまで運ばれて葬式が執り行われる。冒険者達には二人の司祭からわずかながらのお礼が送られたのであった。