●リプレイ本文
●合流
一日目の朝、何かしらの事情で来られなかった一人を除いて、冒険者達は馬車でパリを出発した。
一晩の野営を経て、二日目の道中でヴェルナー領内に入る。
夕方、厳重な警戒がなされている小さな集落に到着する。ここが輸送隊との待ち合わせであった。
「よし、よくがんばってくれたな。後で干し草をあげるからな」
御者をしていたリディック・シュアロ(ec4271)は馬車を停めると、飛び降りて馬達に声をかける。
集落の空き地にはかがり火がいくつも灯る。既に辺りは暗く、夜が訪れようとしていた。
「代表者はどなたかな?」
一人の兵士が冒険者達の馬車に近づいてきた。
「何ですかな。わしがお聞きしますかのう」
ここは年長者ということになり、ガラフ・グゥー(ec4061)が兵士と対面する。
兵士はここまで輸送隊を警護してきたヴェルナー領の部隊長であった。輸送隊の護衛を冒険者達へ引き継ぐ為に来たのである。
部隊は明日から他の地域に出向くのだとという。
「今晩だけですが仲良くやりましょう。カモミール・トイルサム、16歳です。よろしくお願いしますね」
「よ、よろしく頼むね」
うさ耳姿のカモミール・トイルサム(ec4419)が隊長に近づいて挨拶をする。
(「う‥‥、痛い、痛いわ‥‥」)
実年齢を知っている仲間の視線がグサグサとカモミールに突き刺さる。初日の挨拶の時は聞き流してくれたようだが、二度目となると違うようだ。
ついに耐えきれなくなったカモミールは遁走した。
「あなたたちの為に用意したものです。どうぞご自由に」
隊長は薪が用意されている一角を示して立ち去った。
さっそく冒険者達は焚き火を点けて暖をとる。太陽が沈むとまだまだ寒い時期である。
テントを張り、野営の準備が整う。
「では、一曲、弾かせて頂きます」
レザード・リグラス(eb1171)がちょうどよい岩の上に座るとリュートを奏で始めた。
ゆっくりとした調べが周囲に流れる。
薪の近くにはワインも用意されていた。とても気が利く隊長である。
「夜の見張りの組と順番はどうだったかのう」
ガラフが見張りについての再確認をする。予めここまでの道のりの間に決めてあった。
「シレーヌさんは、ヴェルナー領は初めてですか?」
「中心都市であるルーアンにはセーヌを下って、何度かはいったことがあります」
ルースアン・テイルストン(ec4179)は隣りに座るシレーヌとワインを頂きながらお喋りをする。
輸送隊と共に行動する明日からが依頼の本番である。よく休んでおかないと明日からの護衛に支障が出るとシレーヌがいい、ルースアンは笑顔で頷いた。
「あんなにたくさんだなんて。ものすごい数でした」
エレイン・アンフィニー(ec4252)は仲間が囲む焚き火の元に戻って話し始める。デビルスレイヤーの偽物武器を荷馬車の所に行って観てきたのだ。
荷馬車四両の荷台は大きく丈夫な布で覆われていたが、かなり大きく膨らんでいた。山を形作っているのはすべて回収した武器らしい。
エレインは待機していた御者から回収した一本の剣を見せてもらったが、とてもよい出来に感じられた。
偽物武器がどうして大量に流通してしまったかの経緯についても御者は教えてくれる。ヴェルナー領と仲の悪いセーヌ川を境にして存在するフレデリック領が策略したという説が有力らしい。
幌の用意は無理だと御者がいっていたのをエレインはリディックに伝える。
シレーヌは今回の輸送を狙っていると考えられる盗賊について話す。内容は主に父親から聞いたものだ。
奪い取って他の領地で売るか、もしくは盗賊の規模拡大に利用するつもりのようだ。ここで初めてシレーヌがブランシュ騎士団黒分隊隊員の娘なのを知る冒険者もいた。
「俺はどうしようか。明日はリディック殿と御者を代わるつもりでいたのだが」
天岳虎叫(ec4516)は薪を焚き火にくべながらリディックに視線をやる。
「御者か‥‥。乗ってきた馬車にまとまっているより、荷馬車に乗り込んだ方がよさそうだな」
「なら、荷馬車の御者を俺がやろう」
リディックと天岳虎叫の相談は広がる。
今回の依頼は討伐ではなく、輸送隊の護衛である。襲われたとして必ずしも敵を倒す必要はない。無事に貨物を届ける事こそが優先される。
その為には分かれて荷馬車にも乗り込んだ方がよいと結論が出る。
「レザードさん、演奏してくれてるじゃない。じゃぁ、歌わなきゃね!」
いつの間にか焚き火の近くに座っていたカモミールが『ぼえ〜♪』と歌い始める。
「カモミールさん、そ、そうだ。これ――」
歌声に慌てたシレーヌがカモミールにワインをすすめる。カモミールが喜んで呑み始めると、仲間達はほっと胸を撫で下ろす。
荷馬車に仲間が乗り込む件をガラフが御者達に交渉しに行く。
見張りを残して、早いうちに就寝する冒険者達であった。
●輸送
三日目、武器回収の拠点となる町を目指して輸送隊は出発した。
「もうすぐ森の中じゃな。注意せんといかんな」
シフールのガラフは輸送隊の進行方向上空を飛んで警戒をする。見通しの悪い場所に盗賊が潜んでいる可能性が高いからだ。
「カモミール、何かいっているようだがどうかしたのか。緊張でもして‥‥いなさそうだな」
「石‥‥なんてよい響きの言葉‥‥うふっ。リディックも一度、石になってみない?」
リディックが御者をする馬車は輸送隊全体が把握出来るように最後部の殿を務めていた。御者台の横にはカモミールが座る。
「よい天気なのはいい事だが、敵はどう来るのだろうか。‥‥別働隊は注意しておかなければな」
天岳虎叫は一番先頭の荷馬車の御者を務めていた。いざという時には戦えるように本職の御者が隣りに座っている。
「何か怪しい音が聞こえたら、離れていてもテレパシーでお知らせします。ご心配なく」
「とっても助かります。何らかの方法で敵は姿を消しているかも知れない。音を消すのは容易ではないと思う」
先頭から二番目の荷馬車には二人の御者の他にレザードが荷台で待機する。シレーヌが愛馬を馬車から切り離して同行していた。
「アイスコフィンを足止めに使いましょう。問題は詠唱時間ですわね。タイミングを量らないといけませんわ」
三番目の荷馬車の荷台に乗るのはエレインだ。いつでもアイスコフィンを唱えられるように緊張感を保っていた。
「布が被されているのなら、幌がなくても容易く崩されたりはしないでしょう。シェアラ、頼みましたよ」
四番目の荷馬車の荷台に座るルースアンは青空を見上げる。隼のシェアラを仲間のガラフとは別の方向に飛ばして警戒させていた。
三日目は何事もなく、野営時も特別な事は起こらなかった。
四日目も順調な道のりである。
事が起きたのは五日目、今回の道のりで一番深い森の中であった。
●上からの襲撃
一瞬辺りが真っ暗になり、激しい地響きが鳴って土煙が沸き上がる。
起伏の激しい森の崖近くで巨大な岩が落ちてきた。
幸いに怪しい音を聞きつけたレザードのおかげで輸送隊は停まって被害はない。しかし前方の道のかなりの部分が塞がれてしまった。
「盗賊の襲撃じゃ!」
ブレスセンサーを使い、さらに崖上を確認にいったガラフが叫んだ。
茂った草むらの中から次々と盗賊が崖の斜面に飛びだす。ガラフはライトニングサンダーボルトで狙うが盗賊の数は多く、すべてを倒す事は無理であった。
「岩の除去を仲間とやってくれ!」
リディックが御者の一人に向かって叫ぶ。怯えてはいたものの、御者八名は巨大な岩を動かそうと動き始める。
「ひゃっひゃっふぁ〜〜!!」
奇声をあげながら駆け下りてくる盗賊共を冒険者達は見上げた。
「キミがいつも何気なく踏んでいる‥‥石に変わってお仕置きよ!」
カモミールは嬉々としてストーンを放った。石化した盗賊がゴロゴロと転がり落ちてくる。
「無駄な事はおやめなさい!」
エレインは降りてくる盗賊にアイスコフィンを唱え、放つ。氷付けになった盗賊が地面に叩きつけられる。
(「大丈夫です。どうか落ち着いて下さい。みなさんが守ってくれますから」)
レザードはスリープで盗賊の一人を眠らせる。一旦退いてテレパシーを使い、馬達をなだめた。
魔法の遠距離攻撃を潜り抜けてきた盗賊が次々と地面に着地する。武器を振り上げて一斉に襲いかかってくる。
「リディックは隊列の後方、天岳は前方、わたしは中央を!」
剣を抜いたシレーヌが叫んだ。直後、斧を手に襲いかかる盗賊と刃を交わらせる。
「みなさん、上から弓矢で狙っているものがいます! 気をつけて!」
ルースアンは崖上で弓を手にする盗賊を確認した。素速くサイコキネシスを唱え、飛んでくる矢の軌道を変えて仲間を守る。
「近寄るな!」
天岳虎叫は荷馬車に駆け寄ろうとする盗賊達に向かって大きく剣を振った。
ソードボンバーが放たれ、衝撃にバランスを崩した盗賊共が地面に転がる。そこをエレインがアイスコフィンで盗賊を凍らせた。
「まだか!」
リディックは剣で戦いながら横目で確認する。御者達が倒木を使って懸命に岩を退かそうとしていた。
「中央が薄くなっておる! シレーヌ嬢ちゃんが!」
ガラフからの情報に、馬達のなだめが終わったレザードが向かう。シレーヌを襲おうとしている盗賊をスリープで眠らせて時間稼ぎを行った。
「通れます! 隙間が出来ました!」
岩を退けた御者達が叫んだ。それをガラフが仲間達に知らせた。
御者達が荷馬車や馬車に乗り込んで発車させる。巨石と斜面の間をゆっくりと通り抜けてゆく。
冒険者達は輸送隊の進行方向に退きながら戦い、時間稼ぎをする。
ルースアンは荷馬車にあったロープをサイコキネシスで動かし、盗賊共の足下をすくって転ばせる。
「喰らうんじゃ!」
敵がまとまったところで、ガラフのライトニングサンダーボルトが空気を切り裂く。盗賊共が身体を痺れさせる。
その隙に冒険者達は徐行する馬車に駆け込んだ。
戦いの最中であったが、ガラフは既にブレスセンサーで進行方向を確認していた。前方方向に盗賊はいない。
「わ〜はっっはっは! ビクトリ〜!!」
だんだんと小さくなってゆく盗賊共に向かってカモミールは勝利のポーズをとる。石化した盗賊を観賞出来なかったのが心残りであったのだが。
脱出を優先した為、捕らえた盗賊はいない。
輸送隊は全速力で森を駆ける。盗賊は追って来ず、三時間後には森を抜けた。
何人かの怪我は冒険者達の薬で回復される。掠り傷程度の者はエレインによって手当てがされた。
森の脱出を優先した為に少々の遠回りとなる。それでも時間には余裕があった。
六日目の夕方、目的の町に輸送隊は辿り着いた。
●そして
町では宿が用意されていた。滞在中、冒険者達はゆっくりとして疲れをとる。
食事も美味しく、結構贅沢な気分を味わう。特に豚肉の固まりを使った料理はとても豪快であった。
集められた武器類は一度融かして作り直されると聞かされる。いわくがついた武器は不吉だというのが理由らしい。
追加の報酬が武器の受け取り責任者から冒険者に支払われる。
八日目の朝に冒険者達は町を出発する。十日目の暮れなずむ頃にはパリの冒険者ギルドに到着した。
「父上からの依頼、やり通してくれてありがとう。娘のわたしからお礼をいわせてもらいます。せっかく集めた武器が盗賊の手に渡ったら大変なところでした」
シレーヌは冒険者一人一人に感謝する。そして次があるのなら、もう少し難しい依頼に参加するのを伝えた。
「嬢ちゃん、何かあったらわしは冒険者ギルドによくいるからのお」
ガラフは目を細めてシレーヌに頷く。
「一人で出来ない事でも、仲間がいれば達成できる。そう、いつも教えられている気がする‥‥」
シレーヌは最後まで冒険者ギルドに残って仲間を見送るのだった。