●リプレイ本文
●おさんぽ
「コリルはんのおばあはんちへGOや!」
「ごぉー!♪」
中丹(eb5231)が馬のうま丹の手綱を引いて歩き始めると、ちびブラ団の四人が拳をあげてついてゆく。
パリの城壁門を潜り抜けると視界が広がった。ここから道沿い歩いてゆけばコリルの祖母がいる村に辿り着けるはずである。
荷物は余裕があるルネ・クライン(ec4004)が手綱を引く愛馬レンヌの背に載せられていた。シルヴィア・ベルルスコーニ(ea6480)の保存食も一緒だ。
「アニエスちゃん、どうかしたの?」
何かを払うように頭を振っているアニエス・グラン・クリュ(eb2949)を、コリルは不思議に感じた。
「何でもありません。お弁当が楽しみですね」
「うん♪」
アニエスが手綱を引いている愛馬テオトコスの背にはコリルの母親が作ったお弁当が仕舞われていた。愛犬のペテロも混じり、みんなと一緒にぽてぽて歩いていると気分が軽くなる。
「いいなあ‥‥」
クヌットが見上げるのは壬護蒼樹(ea8341)の肩に乗るベリムートだ。
「次はクヌットさんですね」
「やったあ♪」
壬護蒼樹の言葉にクヌットが大喜びする。
「ん?」
壬護蒼樹が振り返ると、服の裾をアウストが引っ張っていた。
「ちゃんと順番にやりますから、待っててね」
「うん。待ってるね〜」
アウストも壬護蒼樹の肩の上に乗りたいようだ。男の子に大人気であった。
「春って暖かいし色んなお花が咲いていて、お出かけには絶好の季節よね♪」
「春らしくいい陽気だなぁ。‥‥あの花はジャパンでは見たことないけどなんだろ?」
ルネと壬護蒼樹が道ばたに咲く花に目を奪われる。
(「なるほどなあ」)
ニコラ・ル・ヴァン(ec4540)はルネの隣りでふんふんと花の名前について聞いていた。壬護蒼樹の肩に乗るクヌットが物知りでびっくりである。
「摘んできたわ。男の子もつけてね」
道のりの少し先を飛んでいたシルヴィアが戻る。女性には髪に、男性には胸元に薄紅色の花を差した。
「♪〜♪♪」
思わず出たニコラの鼻歌に合わせて、みんなで歌い始める。
太陽が真上に昇った頃、草むらでお弁当の時間となった。
そよ風が青々とした草花を撫でて波をつくる。
(「たくさんあるから平気ね」)
ルネは、壬護蒼樹がお弁当を食べている姿に一度は出した保存食を仕舞う。コリルが前もって参加する冒険者をギルドで調べたのだろう。お弁当の量は充分にあった。
野菜などが挟まれたパンを口に頬張る。容器に入れてきたミルクを飲み、焼き菓子も用意されていた。
「ふう〜」
コリルが草の上に寝ころび、仲間達もマネをする。しばらくお昼寝したい気分になったようだが、ちびブラ団は勢いよく起きあがった。
「さあみんな行くで〜。重たいもんあったら、背負うたるからいうんやで」
「は〜い♪」
中丹のかけ声で再び一行は歩き始める。夕方頃、村に到着し、コリルの祖母の家に無事辿り着いた。
「よく来たね。コリル。半年ぶりかねぇ」
「おばあちゃん、お泊まりに来たよ〜。お友だちも一緒だよ」
コリルが祖母のノーリアに抱きついて話す。コリルの父親からのシフール便で、友だちと冒険者が一緒なのは既に知らされていた。
挨拶を交わすと、冒険者とちびブラ団はノーリアの家に招き入れられる。
「さすがはコリルはんのおばあはんや。まったく動じた気配がないんや」
ノルマンでは珍しい河童である中丹は、いつものように挨拶をしたのだが、ノーリアはニコニコとした顔を変えずにうんうんと頷いたのだ。
運んできた小さめの木箱が馬から降ろされて家の中に運ばれる。
アニエスが中身を訊ねると、ノーリアは箱の蓋を開けて見せた。衣類もあったが、陶器や金属製の道具類が多く入っていた。つまりは日常品である。
ノーリアは一軒家で一人暮らしをしていた。コリルの祖父は何年か前に亡くなっている。
コリルによれば、父親が何度も一緒に暮らそうとノーリアを説得したが、失敗に終わっているらしい。
夜になると、ちびブラ団は一つのベットに並び、すやすやと眠るのだった。
●お手伝い
「ほいっと」
二日目の朝、壬護蒼樹は斧を手に庭で薪割りをする。
(「お世話になるだけじゃ心苦しいし。それに最近太ってきた感じがするから、ちょうどいいや」)
壬護蒼樹にもいろいろと考えがあるらしい。
「これ、切っておけばいいかしら?」
「ええ、頼みますわ」
シルヴィアもノーリアの食事作りの手伝いをする。
「これ、塩漬けにされたお魚なんです。使って下さいな」
「おーこれは、珍しいものを。夕食に使いましょうかね」
ルネが新巻鮭をノーリアに渡すと喜ばれる。そしてシルヴィアと一緒に食事の手伝いをするルネだ。
「おばあちゃん、洗濯物干したよ〜」
「おう、ありがとね。そちらのお兄さんもありがとうねぇ」
ニコラと一緒にちびブラ団が洗濯をし終わる。言葉の勉強も兼ねて唄いながら楽しく洗濯は行われた。
「いえ、まだあればいって下さいね」
ニコラは腕まくりしていた袖を元に戻す。
「かっぱぱぱっ。いい音や。アニエスはんも頑張っているんや」
中丹は小川から運んできた水で瓶を一杯に満たすと、天井を見上げる。トンテンカンと屋根から音が聞こえた。アニエスが屋根の修理をしている音だ。
午前の早い時間に手伝いは終わり、まずは近くの森の探検となった。
つまりは探検という名の山菜採りと花摘みである。
「ペテロ、お願いね」
森の中には野生動物がいるかも知れず、アニエスは愛犬に警戒を頼んだ。
「わあ‥‥」
シルヴィアが森の道案内をして辿り着く。
色とりどりの花が咲き乱れる拓けた場所だ。陽が差し込み、周囲の森とのコントラストと相まって輝いているようだった。
「ここ、さっき見つけたの。とってもキレイ〜」
シルヴィアが蝶々と一緒に舞って踊り始める。
アニエスは咲いている中から、大きな花びらを持つ黄色い花を摘んだ。そしてひよこのハンカチーフと聖書を使って押し花にすべく挟んでおく。
「コリルちゃん、摘もうか?」
ルネはコリルと一緒に花を摘む。
誰か好きな子がいるのかとルネはコリルに聞いてみるが、はぐらかされる。たんに子供だからか、それとも自分の立ち位置をわかっているからなのか、それは内緒のままだ。
「いつ私には本当の春が来るのかな‥‥」
ルネは青い空を見上げた。ゆっくりと動く白い雲が誰かの顔に見える。
「お花、綺麗ですね」
声が聞こえてルネが振り向くと、ニコラの姿がある。ルネの顔が一気に真っ赤になるのをコリルは目の当たりにした。
「もしかして‥‥ずっとそこにいたの?」
「ええ、比較的この近くに。えっ? ええ!」
突然ルネにニコラは追いかけられる。
「大した事は聞いていません〜」
「うそよ。うそつき〜」
ルネとニコラが木々の隙間を縫うように走る姿をコリルは笑顔で眺めていた。
追いかけっこが終わり、息が整うとニコラは歌を唄い始める。
「♪ 暖かな南の風が その鼻先をくすぐれば
怒りんぼのオーガーも歌いだす
さあ歌おう みんなで歌おう
きらめく春に 喜びを込めて ♪」
ニコラは唄をメロディーに乗せた。竪琴の弦を弾き、祈りを込めて。
「う〜ん、参ったなぁ」
中丹は日向ぼっこをしながら寝ころんでいた。ポテッと膨らんだお腹の上にはウサギのうさ丹が乗っている。悩みはどうやらうさ丹のことらしい。
「春はいいな。ジャパンとは遠く離れてはいるけど、同じ大地なんだなぁ」
壬護蒼樹は小鳥のさえずりに耳を傾けた。
しばらくして山菜採りを始める。
どんなものが食べられるかはノーリアから聞いて作られたルネのイラスト付き野草一覧がある。
ルネはとても恐縮していたが、ちゃんとどんな植物かは判断出来た。よく似ている食べられない野草は、後でノーリアが弾いてくれるのでなんの心配もない。
もってきたカゴはすぐに一杯になる。
朝に作られたお弁当を食べ終わると、アニエスが持ってきた木刀で剣術のお稽古時間となる。
ノルドという剣術のようだ。ブランシュ騎士団ではかなり使われているらしい。
「そろそろ戻りましょう‥‥あれ? な、ない!?」
稽古が終わり、身支度を始めたアニエスは指輪がない事に気がつく。銀のネックレスに通してぶら下げていたローズリングがどこにもなかった。
アニエスの血の気が引いて、顔が青ざめる。みんなに頼んで周囲を探すがなかなか見つからない。
「ペテロも探してね〜」
コリルがいった言葉にアニエスは思いつく。オーラテレパスを使って愛犬ペテロに指輪探しを頼んだ。
アニエスは自分の指を嗅がせると、みんなと一緒にペテロの後ろをついてゆく。青かった空はだんだんと赤く染まり始めた。
しばらくすると、ペテロが吠え、みんなで囲む。
花が咲き乱れる場所にローズリングは落ちていた。
「ありがとう、ペテロ。みんなもありがとう」
アニエスはペテロの首に抱きついて頭を撫でてあげる。
ノーリアの家へと戻ると、さっそく鮭入りの山菜鍋が作られた。
「この芽とかおいしいね」
「本当だ。苦みがもっとあるかと思ったけど。鮭もとってもおいしいですよ」
ルネとニコラが山菜の談義しながら食べ進める。
壬護蒼樹はさすがに食欲を満たす程は食べられなかったが、充分に頂いた。どうやらコリルがノーリアに頼んだようなのだ。優しさに、ちょっとホロリときた壬護蒼樹であった。
「美味しいわよ」
シルヴィアは愛犬コロネに山菜鍋のお裾分けである。
「ええ、グリフォンに乗って――」
アニエスはノーリアとお喋りをする。ギュスターヴの隊と一緒に戦った事を語った。心配するといけないので、ちびブラ団が危ない目に遭った出来事は伏せておく。
「あそこなら充分に泳げそうやな」
中丹は鍋を食べながら、水汲みで向かった小川を思いだす。
今の季節、河童の中丹なら平気だが、まだちびブラ団には冷たくて無理だ。でも夏頃はちょうど良さそうだと考え、中丹はノーリアに聞いてみる。
夏場にはよく子供達が泳いでいるとノーリアは答えた。
夕食の時間が終わり、暖炉の前にみんな集まる。
マークを描いた木片を裏返しにして、組みを当てっこをする。三組み当てれば抜けてよいルールである。
「一抜けだぜ」
クヌットが右手を挙げる。
「やったあ〜」
コリルが二番目に抜けた。
「これで‥‥合いました!」
アニエスが三番目だ。
「カッパパパッ」
四番目で中丹がクチバシをキラ〜ンとさせる。
「よかった〜。ほっ」
五番目に抜けたのは、立つと天井に頭がつきそうな壬護蒼樹であった。
「やっと合った」
ベリムートが抜けてクヌットと手を叩き合う。
「こんなもんね」
シルヴィアが七番目に抜けて天井をぐるりと舞う。
「ついてないなあ〜」
アウストは八番目にやっと抜けて、ちびブラ団同士で喜び合う。
「おや、これでいいのかね」
ノーリアも抜けて、最後に残ったのはルネとニコラであった。
「これよ!」
ルネが二枚目を捲った。外れである。
「先に失礼しますー」
自然に答えがわかり、ニコラが抜けてルネの最下位が決まる。
「‥‥‥‥まさか、負けるなんて」
罰ゲームとしてルネはまるごとウサギさんを着て現れた。ガクッと頭を垂れる。
「とってもかわいいよ〜。ね、おばあちゃん」
「そうですよ。とってもかわいらしいわ」
コリルとノーリアが、ルネに近づいた。
「ね? あたしにも着させて」
コリルがルネにねだり、まるごとウサギさんを着させてもらった。他のちびブラ団も着たがった。なぜかニコラも着てみて、みんなの笑いを誘う。
ノーリアの家では、楽しい笑い声が夜遅くまで続くのであった。
●パリへ
楽しい時間はあっという間に過ぎ去る。
五日目の朝が訪れ、帰りの時間となった。
「賑やかでとても楽しかったよ。これは、お土産。また夏にでも遊びに来ておくれ」
ノーリアが全員にプレゼントしたのは山小人の小石である。泳ぎがうまくなるといわれているものだ。
「さようなら〜」
ノーリアが見送る中、冒険者とちびブラ団はパリへの帰路につくのだった。