多くの人のため 〜シルヴァン〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 56 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:04月12日〜04月27日
リプレイ公開日:2008年04月20日
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●オープニング
パリ北西に位置するヴェルナー領は、ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーの領地である。
その領内の森深い場所に、煙が立ち昇る村があった。
村の名前は『タマハガネ』。
鍛冶職人の村である。
鍛冶といっても他と赴きが違う。ジャパン豊後の流れを汲む作刀専門の鍛冶集団であった。
村の中心となる人物の名はシルヴァン・ドラノエ。ドワーフである彼はジャパンでの刀鍛冶修行の後、ラルフの懇意により村を一つ与えられた。
ジャパンでの修行後期に作られた何振りかの刀が帰国以前にノルマン王国へ輸入され、王宮内ですでに名声が高まっていたのだ。
ジャパンから連れてきた刀吉と鍔九郎、そして新たに集められた鍛冶職人によって炎との格闘の日々が続くが、完成した刀剣は少ない。
そのほとんどがブランシュ騎士団黒分隊に納められる。中でも真打はラルフ黒分隊長の元に、影打はエフォール副長の元にあった。
「やはり、もっと数が必要なのか‥‥」
シルヴァンは住処で腕を組み、囲炉裏の前で考え込んだ。
夜は更け、どこからか梟の鳴き声が届くがシルヴァンの耳には入らなかった。
考えていたのはやはり刀剣の事だ。
作刀出来るシルヴァンエペの数は極端に少ない。
高位のデビルと戦う機会があるブランシュ騎士団黒分隊なら、やはり特化したシルヴァンエペが必要だろう。
すべての兵士にシルヴァンエペを持たせなくてもよいが、それでもデビルの危険は迫っている。通常の武器ではデビルには歯が立たず、せめて対抗出来るものを持たせたい。
ハニエルの護符の加護は、良い出来の玉鋼にしか使わないとシルヴァンは決めていた。こればかりはシルヴァンにとって譲れない一線であった。
護符がなくても、銀か、もしくはブランを用いれば、特殊な魔術の技能を持たない鍛冶師でもデビルに対抗出来る武器を打つ事は出来る。
「普通の銀は柔らかい。ブランが手に入ればいいのだが‥‥」
シルヴァンの悩みはそこにあった。
ブランシュ鉱を用いて魔法の炎で融かされて作られたブランはとても高価だ。ブランだけで武器のすべてを作るのは現実的ではないので、ある一定量を鋼に融かして使うつもりではいるのだが。
翌日、シルヴァンは刀吉と鍔九郎に考えを打ち明ける。
二人とも同じような事を前から考えていた。賛成をしてくれたが、やはりブランの入手方法が問題である。案はいくつか出されるが、決定的なものはない。
今の所ブランシュ鉱はヴェルナー領内で発見されてはいなかった。
シルヴァンはラルフ領主に相談する事にした。
巷の噂では、偽物のデビルスレイヤー武器がヴェルナー領内に横行し、ラルフ領主の命によって回収しているようだ。
今ならば話は通りやすいはずである。
刀吉がいつものように依頼を出す為に馬車に乗ってタマハガネ村を出発する。
シルヴァンは冒険者の手伝いが入ったと同時期に、ラルフ領主のいるルーアンに向かうつもりでいた。
●リプレイ本文
●相談
二日目の夕方、森深くにあるタマハガネ村に冒険者達が馬車で到着した。
無理はよくないと御者の刀吉にいわれ、クァイ・エーフォメンス(eb7692)も一緒である。
日が暮れて冒険者用の家屋にシルヴァンと刀吉、鍔九郎が訪れる。いつもの事だが、今回は少々事情が違っていた。
鍔九郎によれば、セーヌ川沿いにあるヴェルナー領の中心地、ルーアンまでシルヴァンのお供をしてもらいたいのだという。
自ら名乗りでてくれたおかげで、ナオミ・ファラーノ(ea7372)、朧虚焔(eb2927)、井伊文霞(ec1565)の同行が決まった。
ユニバス・レイクス(ea9976)、アレックス・ミンツ(eb3781)、ニセ・アンリィ(eb5734)、クァイ、春日龍樹(ec4355)の五名は村に残って鍛冶仕事に勤しむ事になる。
「ところで、前より刀の習作をしてもらっているが、ここらで一般の兵士や衛兵用の魔力を帯びた武器製作を考えているのだ。ラルフ殿に会いに行くのも、その為の準備に他ならないのだが」
「シルヴァンエペと同等の業物でしょうか?」
シルヴァンは井伊文霞に訊ねられると違うと答えた。
「そこまでを想定すると生産性に問題が出るはず。特化した力はないが、魔力を帯び、デビルに攻撃を加えられる仕上がりを考えている」
シルヴァンの言葉に朧虚焔が瞑っていた目を開く。
「生産性と引き替えに、品質の劣化を招いてしまった刀工は過去にいくらでもいます。シルヴァンエペで築かれたジャパンとノルマンの鍛冶技術をどこまで注ぎ込めるか‥‥。そこが重要なのでは?」
「冒険者のおかげでよい方向に村は動いている。今ならば大丈夫と判断をしたのだ。粗悪品を作るつもりはない。鋼をよく叩き上げ、二種の硬さを持つ被せの構造は必ず持たせたい。護符は使わず、魔力を帯びさせる手段を検討している。ブランを混ぜるか、他の方法がないものか、それをラルフ殿のところへ相談にいくのだよ」
囲炉裏越しに朧虚焔とシルヴァンは話す。
「刀以外のものでもよい。刃がついているものを前提にして、現状に適ったよい武器はないだろうか?」
シルヴァンが冒険者達に意見を求めた。
「参考になるかわかりませんが――」
クァイは馬で運んできた武器のいくつか持ってきた。破魔弓と魔剣ストームレイン、そして縄ひょうだ。
「友人の乱や元から聞きましたが、デビルは空を飛ぶものが多いようです」
クァイは意見を付け加える。
「主に兵士が持ち、少量の鉱物でも出来て、使い易い代物。空を飛ぶ敵ならリーチもあった方がいい――」
ナオミは思いついた条件を並べてゆく。
「槍がいいずらよ〜。試しに銀も使って試作してみたいずら〜」
ニセがお酒を頂きながら、陽気に声をあげる。
「槍? そう、槍がいいわね。春日さん、ジャパンにはナギナタという武器があるそうね」
ナオミはどっしりと座る春日龍樹に振り向く。
「ナギナタか。あれは相手にすると苦労するな。言い換えれば、よい武器といえるな」
春日龍樹はうんうんと頷きながら語る。
「ナギナタで良かろう。扱いやすく、威力もあるはず」
ユニバスは呟くように自らの意見を伝えた。一人だけ土間に立ち、壁に寄りかかって囲炉裏の側にはいない。いろいろとあるらしく、寝るのも一人空き家で寝るという。今は話し合いがあるというので、仲間の元を訪れていた。
「槍を使う俺だが、習作の刀を昇華させたい。だが、最後に決まった意見には従うつもりだ」
アレックスは日本刀を推薦する。
「以前、銀製の槍を作製したことがあります。穂先の心材のみを鋼とし、残りを純銀製にして強さを補強しました。柄の部分には銀糸を巻き、デビルの打撃に耐えられるようにした覚えがあります。しかし、これまでの実績からいって作刀し慣れた日本刀型を押します」
朧虚焔の語った、特に『銀糸』の部分にシルヴァンは耳を傾けた。
槍か、それに類する武器の意見が多く出たが、それぞれの試作品を験した上で結論を出す事となる。
村に残る者達で意見のある者は、仕事の合間に試作品を作り上げる。シルヴァンと共にルーアンに向かう者は、帰って来てから試作を手がける約束となった。
●ルーアン
三日目の朝早く、シルヴァンと冒険者三名を乗せた馬車は村を発車した。
御者は村人一名が行い、刀吉と鍔九郎は村に残る事となる。
旅は順調に進み、四日目の昼過ぎにはルーアンの城塞門を潜った。一晩の宿をとり、翌日の午前中にヴェルナー城へと向かう。
通された部屋にはラルフの姿があった。
「昨日にルーアンへ着いたのなら、城へ泊まればよかろうに。久しぶりだな。シルヴァン」
「もったいないお言葉。次からはそうさせて頂きます。ラルフ殿」
ラルフとシルヴァンは挨拶を交わす。
「護衛と助言の為、冒険者についてきてもらったのです」
シルヴァンは冒険者三名を紹介する。
「ラルフ分隊長、ご無沙汰しております。秘密結社シューペルブの暴動騒ぎの件以来ですね」
「あの時は助かった。そうか、今はシルヴァンを助けてくれているのか」
朧虚焔とラルフは既知の仲である。
「井伊文霞と申しますわ。弟がお世話になっています」
「弟? 井伊‥‥。あの赤い鎧の方のご姉弟なのか。偽物のデビルスレイヤーの一件ではとても助かっている」
ヴェルナー領を騒がしている偽物の武器の発見に井伊文霞の弟が活躍していた。
「わたくしが優れた騎士になると見込んだ少女が、これを卿へ、と」
ナオミがシルヴァンエペと共に手紙をラルフに手渡した。手紙を読んだラルフはシルヴァンエペをナオミへと返す。
「わたしも、よく知った少女だ。しかしこのシルヴァンエペは受け取れない。大丈夫だと、そして押し花と気持ちは受け取ったと伝えておくれ」
ラルフは優しい顔でナオミに語った後、全員を卓に座らせる。
まずはシルヴァンが構想を話し、魔法武器作製に際する支援を願った。
「領地内での偽物武器の横行、さぞ大変な事と――」
井伊文霞はさりげなく、魔法武器の必要性を説く。
「ブランシュ鉱を魔力を帯びたブランに生成する技は持ち合わせていますわ。希少な材料による作刀は今後のノルマンの平和を支える職人にとっても貴重な体験となる筈。‥お願い、出来ませんか?」
「もっともなのだが、陛下からお譲りいただいたブランはかなり少ない。そしてブランシュ鉱はヴェルナー領内では採掘されていないのが現状」
ナオミにラルフは淡々と答える。シルヴァンは黙って聞いていた。
「まだ確定した事はいえないのだが、エチゴヤが武器に能力を付与する新しい技術を手に入れたとの情報がある。具体的な事は調査中だ」
「何でしょう? 今まで聞いたことがありませんね」
ラルフに朧虚焔が訊ねる。
「なんでも『レミエラ』と呼ばれるもののようだ。どのようなものなのかまだ見当もつかない。ブランによる魔法武器製作の方が堅実ではある。今一度、領内の地質調査を行おう」
「それはとてもありがたい。よろしくお願いします。ラルフ殿」
ラルフにシルヴァンは感謝する。
「しかしレミエラとは一体‥‥」
シルヴァンが呟く。
しばらくレミエラが何かについて話し合うが、結論は出なかった。
面会の後、シルヴァン一行はそのままルーアンを後にする。
「パリを出発なされたのが誕生日であったと刀吉から聞いた。これまでも今回の事も、とても助かっている」
「私は今後も協力するつもりですわ。ブランについてが気がかりですけど」
揺れる馬車の中でシルヴァンの言葉にナオミは笑顔で答える。
「是非、この地でブランシュ鉱が見つかればよいのですが――」
井伊文霞は窓から見える草原と森を眺めた。北東部に山岳部はあるものの、総じて平地が多いヴェルナー領だ。
「ラルフ分隊長は信頼できるお方だ。さて、戻ったのなら手の足りないところを手伝いますか」
朧虚焔は体力温存する為、しばらくの注意を井伊文霞に任せる。交代で務める事となった。
六日目の夕方、無事シルヴァン一行は森深いタマハガネ村に到着した。
●タマハガネ村
「トンテンカンずらよ〜♪」
ニセは鍛冶作業の合間に槍の穂先作りをしていた。相槌を春日龍樹が行い、鋼を鍛えてゆく。鍔九郎が用意してくれた銀も使用した。
「結構難しいずらな」
「そうなのか。たしかに銀は柔らかいからな」
休憩中、ニセに春日龍樹は雑談をする。
「鋼と銀を混ぜた鋼の二重構造にしようとしているずら。それに刀を短くしたような穂先を考えているずらよ」
「ナギナタはそんな感じだ。まんま、ナギナタじゃなくてもいいしな。ナイフや小刀なら良いが、大きな刃物となるといろいろと難しいか」
試作品はかなりの数に昇る。
鍛冶の手伝いは砂鉄運びを行った。
春日龍樹は愛馬に荷車を牽かせる。
「よし、春菜いいぞ、大変だろうがお前も頑張ってくれ!」
春日龍樹も荷車の後ろから押す。狐の椛には周囲の注意を頼んであった。
「どうすればいいずらか‥‥銀が鋼にうまく混ざらないずらよ〜」
特に考えてこなかったニセは、相槌をしてくれる春日龍樹を手伝いをする。一緒に荷車を後ろから押すのだった。
熱気籠もるタタラ製鉄の建物内にユニバスはいた。
砂鉄と炭が築炉へ交互に入れられ、真っ赤なノロが流れてゆく。
「あんたすごいな」
職人の一人が水の入ったカップを手渡す。ユニバスは黙って受け取った。
ノロの輝きを観察して、築炉の内部を想像しながら行うのがタタラ製鉄だ。ユニバスの判断は、監督する鍔九郎とほとんど同じであった。
今回のタタラ製鉄はクァイの持ってきてくれた周囲の温度変化がなくなるプラウリメーのロウソクが役に立った。蜂蜜と塩で作られた飲み物も重宝された。
三日間の長い炎との戦いの後、鋼の大きな塊が取りだされる。
職人によって叩き割られて質によって選り分けられてゆく。
「これをもらってゆく」
「待て」
鍔九郎がユニバスを呼び止めた。
「これでナギナタを作る。それだけだ」
「それは上質の玉鋼の部分。使うにはシルヴァン様の許可がいる」
「そうか。問題を起こすつもりはない。なら使える鋼の中で一番良いものが欲しい」
「わかった。少し待て」
鍔九郎は自らが大鍛冶で調整した鋼を持ってくる。
「ところによっては玉鋼と同等の扱いを受ける鋼だ。これを使え」
鍔九郎から鋼を受け取る。
ユニバスは空いた時間に火床でナギナタの穂先を打った。長く使えるように頑丈さを第一にして。
「これだけあっても、出来る玉鋼はわずか。鋼とはとても大切なものだな」
アレックスは村人達と一緒に砂鉄掘りの作業を手伝っていた。
池の水が抜かれ、底に溜まった砂鉄をスコップで掘って桶で運ぶ。岩の上や藁の敷物の上に湿った砂鉄を広げる。
天日で乾かすと砂鉄を集めて荷車に積んだ。村までは村人達や春日龍樹が馬などの力を借りて運んでくれた。
時間を見つけてアレックスは作刀する。すでに何回かこなしており、勝手もわかってきた。
(「試作品にしてみるか。この刀は」)
アレックスはあえてシルヴァンエペと同じ姿の刀を打ち上げる。
もし潤沢に魔力を発する素材が手に入るなら、タマハガネ村の場合、刀が一番よいのはあきらかだ。
慣れてきた冒険者達が集まる今ならば、かなりの数をこなせるのではとアレックスは考えていた。
「ここに降ろしておきます」
クァイはフライングブルームで空を飛び、炭を袋で吊して運んでいた。炭焼き小屋は離れた森の奥にあり、村までの道が険しい。
砂鉄は見かけに比べて重たいが、炭はそれほどでもなかった。ゆっくりと飛んで村に運んでも、地上の運送よりはるかに楽である。
クァイは仲間の補助に徹した。
木工の技術で道具類を直し、持ち込んだ食材を使って料理も行う。
六日目の夜、ルーアンから戻ってきた仲間と一緒に鍋を囲んだ。
「こんな形になってしまいましたが」
クァイは団子作りにも挑戦していた。
米粉はジャパンからの輸入品である。不格好ながら味はちゃんとした団子である。囲炉裏で焼いて食べるとなお一層美味しい。
クァイはシルヴァン、刀吉、鍔九郎の元に団子を届けに行くのだった。
●験し
パリへの帰り路の前日、試作の武器が験された。
持ち寄られたのはアレックスの刀、ニセの銀を混ぜたナギナタ、ユニバスの質実なナギナタだ。
他の者達は自分の意見に合う品が出されたので支持する側に回った。縄ひょうに関しては、今回見送られる。
村人に防御の剣術を教えていた春日龍樹が木棒で立てた藁束相手に験す事となる。
アレックスの刀は反りといい、刃の鋭さ、刀身の柔軟さも申し分もない。問題は魔力を発する材料が確保出来るかどうかだ。
ニセの銀を混ぜたナギナタは長槍、短槍どちらにも変えられる。
ナオミが作った柄は短槍用だ。見事、藁束を真っ二つにしたが、やはり耐久性に不安が残る。ニセのナギナタの利点は、今すぐにも作り始められる事だ。
ユニバスのナギナタは飾り気もなく実用本位であった。突くも斬るも問題はない。
今回が初めての参加の為、日本刀の被せの技法は用いられていなかったが、ユニバスならばすぐに覚えるはずだ。
シルヴァンは一晩の時間をもらう。
翌日十四日の朝、冒険者達が馬車へ乗る前に考えが伝えられる。
武器の基本形態はナギナタに決定された。
銀は用いず、日本刀で培った技術で穂先を作りあげる。そして銀糸を使って柄の部分にも工夫を凝らす。長さは短槍程度に抑える。
肝心のどうやって魔力を持たせるかについては次への持ち越しとなる。
レミエラについては詳しい事がわかれば、ラルフが連絡してくれる約束となっていた。
追加の報酬が冒険者達に手渡される。
刀吉の御者する馬車で冒険者達はパリへと帰っていた。
●六段階貢献度評価
ナオミ エペ進呈済
ユニバス 2 計2
朧 エペ進呈済
アレックス 次回エペ進呈予定
ニセ・アンリィ 次次回エペ進呈予定
クァイ 3 3 計6 次次次次回エペ進呈予定
井伊 今回エペ進呈
春日 次次次回エペ進呈予定
井伊には今回一振り進呈されます。
次回はアレックスへの進呈が決まっています。続いて、ニセ、春日、クァイの順になります。