冒険者と海
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 7 C
参加人数:4人
サポート参加人数:6人
冒険期間:04月21日〜05月01日
リプレイ公開日:2008年05月01日
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●オープニング
パリのとある雑貨店で十周年記念としてくじ引き大会が催された。
様々な品が用意されていたが特賞は帆船乗船割り符であった。
セーヌ川を下り、はるかドーバー海峡沿いの漁村での宿泊旅行だ。
普段の行いがよいのか、それとも特別な運を持っているのか、特賞を引いたのはすべて冒険者である。
ある朝に冒険者達は帆船へと乗り込み、旅に出かけた。
予定通りに二日目の夕方にはセーヌ河口へ辿り着き、翌日の三日目には目的の漁村へと到着する。
「ええ、それでは困ります! 約束が、面目が丸つぶれです‥‥」
「そりゃ、なんとかしたいのはやまやまなんだけどな‥‥」
雑貨店の女性店員一人が旅には同行していた。女性店員が話していたのはこれから泊まる宿の主人だ。
宿の主人は漁師でもある。漁村にはこれといって楽しめるものはない。それでもこの場所が旅の行き先に選ばれたのは美味しい魚料理が食べられるからだ。
ところが、村の沖合ではソードフィッシュと呼ばれる頭部に長い角が生えた一メートル前後の魚が回遊しているのだという。
「元々気性の荒い魚なんだが、今いるのは特にたちが悪いんだ。すでに仲間の船が三隻程、角で穴を空けられて沈められた。怪我をした奴もいる。おかげで他の魚も捕りにもいけやしない。当分、漁は取り止めと村の衆と決めたんだよ」
「旅の目玉であった『豪華お魚料理ドンドンパフパフ♪』はどうなるんです?」
「それはだな‥‥」
女性店員の問いに宿の主人は黙り込んでしまう。
それまでの二人の声は大きく、冒険者達が休んでいた部屋にも筒抜けであった。
冒険者達は思い立つ。せっかくここまで来たのに魚料理が食べられないのは惜しいと。
さっそく全員で宿の主人と女性店員に話しを持ちかける。報酬額も決まり、ここに突然のソードフィッシュ退治が始まるのだった。
●リプレイ本文
●海岸
突然どこかへ消えてしまった一人を除いた冒険者三名は、宿屋の主人と共にソードフィッシュ退治に向かった。
雑貨店の女性店員ララナは船には乗らないが、船着き場まで同行する。
「キレイだね☆」
エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)は何度観ても美しい海の情景に感嘆を言葉にする。
天高く輝く太陽。キラキラと輝く水面。空を滑空しながら鳴くカモメ。
とても獰猛なソードフィッシュが回遊している海とは思えなかった。
「さてと‥‥、危なくなったら逃げるからな。この船を沈める訳にはいかねえんだ」
猟師でもある宿屋の主人は漁船出航の準備をする。
「手伝いますか」
リーマ・アベツ(ec4801)を始めとして、冒険者達もロープを引っ張ったりして手伝った。
「いってらっしゃ〜い。お気をつけて〜」
ララナが見守る中、宿屋の主人と冒険者達を乗せた漁船は帆を張って出航する。
(「ここは落ち着かなければ‥‥」)
セリアス・ラフィーリング(ec4811)は潮風を受けながら深呼吸をした。奇しくも旅先で初めての依頼請負となったからだ。心の準備がまだ整っていない。
『アンタ、ドウスル?』
『銛を貸してくれ。突いて捕まえるつもりだ』
宿屋の主人とセリアスはイギリス語で会話する。セリアスはイギリス語しか話せなかった。海峡を隔てているが、イギリスと近い土地なのでかろうじて片言で宿屋の主人も話せた。簡単な意志疎通だけならなんとかなる。
ノルマンはゲルマン語が基本の国だ。
「まだ危険ではありません」
リーマはバイブレーションセンサーで近くにソードフィッシュの群れがいないのを確認する。ゴールドフレークを取りだすと細かく砕いて宿屋の主人が用意した撒き餌に混ぜておく。一日では終わりそうもなく、一度には使わずに小分けにして残しておいた。
「これでいいね。海に落ちたら大変だもの」
エラテリスはローブの結び目を引っ張って確かめる。自分の身体とマストを繋げのだ。やるかどうかはそれぞれの判断として仲間にも薦めておく。
「さて、ここら辺からが危険水域だ。ソードフィッシュは泳ぐの速いからな。突然現れる事もあるぞ」
宿屋の主人の言葉で緊張が走った。
エラテリスはリーマに撒き餌の役目を頼まれた。釣り糸を垂らすのはそれが終わってからだ。
(「小さな魚ばかり‥‥」)
時折、リーマがバイブレーションセンサーを使って海中を探る。
セリアスは銛を手に目を瞑っていた。オーラエリベイションとレミエラ付きのレザーアーマーの特性を使い、感覚を鋭くさせて注意をする。
宿屋の主人は帆と舵を操っていた。
「いました! あちらの方角、深さ四十メートルぐらい」
リーマが指を差した方向にエラテリスが撒き餌を少しずつ撒く。漁船はなるべく一直線にゆっくりと移動した。
五分程経つと何匹ものソードフィッシュが海面で跳びはねる。すかさずリーマはグラビティーキャノンを詠唱し、ソードフィッシュへ叩き込んだ。
大量の波飛沫があがり、霧のようになって降ってくる。
衝撃を受けたソードフィッシュは海面に漂うように弱々しく泳いだ。
一撃で当たるのは一匹から多くて三匹。リーマは魔力の続く限り、グラビティーキャノンを再詠唱する。
リーマはもしもの狂化を防ぐ為、なるべくソードフィッシュの角を見ないように努めた。
『ありがとうよ!』
セリアスがイギリス語で感謝の言葉を叫び、弱ったソードフィッシュに銛を撃ち込んでゆく。
「たくさん釣るぞ☆」
エラテリスも勢いよく釣り糸を垂れる。
魔力を使い切ったセリアスが操船を代わり、宿屋の主人が甲板にあげられたソードフィッシュの角の部分を鋸で切り取る。こうすればまず危険はなくなるからだ。
「たくさん釣れるね。あ!」
エラテリスは勢いよく竿を引きあげていたが、ポッキリと折れてしまう。いくら弱っている状態とはいえ、無理が禁物なのがよくわかった。予備の竿を取りだし、今度からは慎重に行う。船縁まで寄せると、宿屋の主人がたも網で掬ってくれる。
エラテリスが海中を目標とするなら、セリアスは海面まで浮き上がるソードフィッシュを狙っていた。
(「これはけっこう大変だ」)
ソードフィッシュは重たく、すぐ腕に疲労が溜まる。それでもセリアスは銛で刺しては引きあげてゆく。
時間の猶予はなかった。魚が逃げるまでが勝負である。
全部で五匹を甲板に揚げたところで、ソードフィッシュの魚影はなくなったかのように思えた。
「危ない!」
リーマが咄嗟に舵を動かす。
ソードフィッシュらしき一匹の魚影が漁船に向かって突進しているのに気づいたからだ。船底から接触音が響く。全員で確認するが穴は空いていなかった。
ソードフィッシュの角は船底を掠っただけのようだ。全員がほっと胸を撫で下ろした。
ヒヤリとした出来事はあったが、初めてのソードフィッシュ退治は順調に終わった。
「これ、美味しそうですね〜」
「そうだろ。凶暴なだけじゃないんだよ」
ララナの感嘆に宿屋の主人が答える。
その日の晩、捕られたソードフィッシュが料理されて宿の料理となった。たっぷりのバターで焼かれたソードフィッシュの切り身が皿に並ぶ。
「いただ‥‥あ、ごめんなさいね」
ララナは刺そうとしていたフォークを止める。ここは捕ってきた冒険者達が最初に口にするべきである。
それぞれにお祈りをし、食事が始まった。
「美味しいねえ☆」
エラテリスは口一杯に頬張る。喉に通した後でニコリと微笑んだ。鍋で煮込む料理をエラテリスは考えていたが、ここは漁村でもあるし、任せる事にした。
「結構いけます。帰りにはお土産にもらってゆきましょう」
リーマもソードフィッシュ料理を口に運んだ。計らずともパリで船旅を見送ってくれたリアナ、磯城弥、マロースの心配が当たっていた。
宿屋の主人もいっていたが、ドーバー海峡付近は最近奇妙な出来事が多いという。津波の被害を受けた地域もあるらしい。幸いにこの漁村は大した被害を受けていないようだが、もしかするとソードフィッシュが暴れだした原因と繋がるのかも知れない。
『これが定番料理なのか。なかなかいけるものだな』
セリアスもソードフィッシュ料理を食べてゆく。発泡酒もかなりのものだ。
(「宿屋の主人によれば、群れが二つあるらしい。群れにつき十匹程度。今日は一つ群れのうちの五匹を捕ったことになるのか」)
セリアスは食べながら考える。今のペースでいけば、帰りの帆船に乗る八日目の昼頃までには余裕がある。ただ、ソードフィッシュ以外の料理『豪華お魚料理ドンドンパフパフ♪』を食べるには六日目一杯までに退治する必要があった。一日ぐらいは余裕をみないと漁村の猟師達が別の魚を獲る時間がないからだ。
お腹一杯に食べた冒険者達は、楽しい夢を見ながら眠るのであった。
●強敵
ソードフィッシュ退治は順調に進んだ。
リーマの作戦が功を奏し、弱った所を狙い、次々と甲板に揚げられていった。
六日目の夕方までに十八匹のソードフィッシュが捕まえられる。
問題は凶暴ですばしっこい親玉ソードフィッシュ一匹が残っていることだ。身体も他のものより一回り大きく、傷だらけの身体が歴戦を物語っている。この親玉によって沈められた船も多いらしい。
七日目朝、冒険者達は漁村の者達の声援を受けて漁船で出航した。
あまりの日差しの強さにエラテリスが全員へレジストサンズヒ−トをかける。波に揺られながら待つが、なかなか親玉ソードフィッシュは現れなかった。
「ギリギリわかる深さ‥‥。百メートル程の深さでこの漁船を窺っているような動きをしています」
日が暮れ始めた頃、リーマのバイブレーションセンサーによって海中の親玉ソードフィッシュが確認された。
「あがってこないね」
エラテリスによって撒き餌が撒かれるが、海面にあがってくる様子は見受けられない。どうやら親玉ソードフィッシュの狙いは、この漁船のようだ。
セリアスは銛を手に体勢をとる。
「一気にこちらへ上昇中!」
「わかった!」
リーマの叫びに宿屋の主人が反応する。帆を傾けて、一気に漁船の速度をあげた。
親玉が角を天に向けて水飛沫と共に海面から跳びだす。
すかさずセリアスは銛を投げるが、外れた。
瞬間に意を決したセリアスが漁船を飛び降りて親玉ソードフィッシュに抱きついた。
海中に潜っては、浮き上がるを繰り返す。だんだんと親玉ソードフィッシュの動きは弱まってくるが、セリアスにも限界が近づいてくる。
「残り、もう一匹いるぞ!」
宿屋の主人が叫んだ。親玉の他にソードフィッシュの魚影が一つ海中スレスレにあった。撒き餌に引きつけられたようだ。
「よーし。こいつはボクに任せて」
エラテリスは仲間と反対の位置で釣り糸を垂らした。
セリアスが頃合いだと考え、親玉から離れた。
(「だめ‥‥」)
リーマはタイミングを計り、グラビティーキャノンを放つが親玉ソードフィッシュには当たらない。詠唱時間の終わりと、親玉が海面上に飛びだす瞬間が合わないのだ。
宿屋の主人が泳ぐセリアスに新たな銛を近くの海面に放り投げる。泳いで拾ったセリアスは心を落ち着かせて待ち続けた。
漁船を狙ってソードフィッシュが跳びだした瞬間、セリアスが銛で突き刺す。
『今だ!』
セリアスは柄を持って叫んだ。すかさずリーマが詠唱し、ついにグラビティーキャノンが親玉に命中する。
重くはあったが、弱々しい親玉ソードフィッシュを引きあげるのは、それほどの危険はなかった。
「よくやったぞ」
宿屋の主人がエラテリスを褒める。他の者達が親玉ソードフィッシュにかかりっきりの間に、エラテリスはまったく弱っていないソードフィッシュと釣り竿一本で格闘していたのだ。
海中を縦横無尽に動くソードフィッシュをばらさずに、完全に弱らせていた。
最後のソードフィッシュを、たも網で甲板にあげ、依頼は終了するのだった。
●帰り
八日目の昼、帰りの帆船に乗る直前であったが、宿屋で豪勢な食事が用意される。『豪華お魚料理ドンドンパフパフ♪』である。
「こんなにたくさんあるんだね☆」
エラテリスはたくさんの皿にフォークを突き立てる。
「用意して頂いてありがとう」
リーマも一口ずつ食べておく。
『こんなにも豊かなのだな。この辺の海は』
セリアスも出来る限り頂いた。
朝早く、宿屋の主人が捕りに行った魚だ。鮭、シタビラメ、アジ、スズキ、アンコウなどお魚づくしの料理である。
焼き魚、ソテーから始まり、鍋料理も振る舞われる。残念ながらゆっくりと食べる時間はなかった。
宿屋の主人はソードフィッシュを始めとする魚を詰めた箱を冒険者達に持たせる。帰りの帆船のコックに料理してもらい食べるようにと。
「急いでください〜!」
どこかに行っていた冒険者も戻り、ララナを先頭にして大急ぎで帰りの帆船へと全員で乗り込んだ。
十日目夕方、帆船は無事パリの船着き場に帰港した。