湖のニョロニョロ 〜シーナとゾフィー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月29日〜05月04日

リプレイ公開日:2008年05月05日

●オープニング

「あ、花さんなのです〜♪」
 パリの冒険者ギルド。シーナ嬢は今日も元気に受付の仕事をこなしていた。
 カウンターの前に座ったのは川口花。ジャパンから父親と共に母親を探しに来たのだが、いつの間にかパリに馴染んでいる十三歳の娘だ。
 実は身重だった母親は無事に見つかる。四ヶ月前、無事に出産はすんで花の弟が産まれていた。
「なんか花さん、少しやつれているような気がするのです‥‥」
「やっぱり、そう見えるのですね。あたしも菊太郎の面倒見ているですけど、あまりに元気が良すぎて‥‥」
 シーナは花を眺める。なんとなくだが、頬が痩けていた。
「そこで、おかあちゃんが気晴らしでどこか遊びにいっておいでといってくれたのですが‥‥、あたし一人で遊びに行くのもなんだし、かといっておとっつあん、おかあちゃん、おばあちゃんは忙しいし‥‥」
「せっかくだから遊ぶのがいいのですよ〜」
「ありがとう、シーナさん。そこで考えたんです。家族のみんな、疲れているんです。疲れている時はジャパンではウナギを食べるんです。おばあちゃんから聞いたんですけど、ノルマン王国でもウナギは捕れるとか。捌いたウナギに甘くしたお醤油タレを塗って焼き上げたのを『カバヤキ』っていいます。美味しいんですよ。ウナギ、捕れるとこ知りませんか?」
「ちょっと待っていて下さいです〜。ゾフィー先輩から聞いてきます☆」
 シーナは大急ぎでギルドの裏に入り、ゾフィー嬢に訊ねて戻ってくる。
「えっとですね。パリから歩いて一日の所にある小さな湖で釣れるみたいなんです〜。流れ込んでいる川にもいるようですし、きっとバッチリなのですよ☆」
「よかった♪ あの‥‥依頼を出して冒険者に案内と手伝いをしてもらうつもりなんですけど、シーナさんもついてきてくれませんか?」
「えっと‥‥、わたしつい最近長期の休暇をもらったばかりなのです〜。‥‥ちょっと待ってくださいね」
 シーナは再びギルドの裏に入り、五分程で花の座るカウンター前に戻る。
「依頼者のたっての頼みという理由で同行の許可をとってきたのです。今は忙しくないからいいらしいです。いつも同行できるとは思うなと上司に釘を刺されましたけど‥‥。とにかくシーナも一緒に行きますよ〜」
 笑顔のシーナに花も喜ぶ。
 花から詳しい話を聞いてシーナは依頼書を書き上げた。
「そういえば‥‥、誰かにギルドまで送ってきてもらったのですか?」
 シーナはふと花の迷子のクセを思いだす。
「いえ、一人できました。この前は三日かかりましたが、今回は二日で到着しました♪ すごいでしょ」
 花の答えにシーナは軽い眩暈を起こす。ギルドと花の実家までは歩いて一時間もかからない位置にあるからだ。
「‥‥帰り、送るのです。ギルドの中で待ってて欲しいのです」
「はい☆」
 シーナの言いつけ通り、花はギルドの隅の椅子に座って待つ。
 帰り道、花からカバヤキの話を詳しく訊ねる食いしん坊のシーナであった。

●今回の参加者

 ea2113 セシル・ディフィール(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb3600 明王院 月与(20歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●出発
「それではノックするのですよ〜♪」
 シーナは軽く拳で戸を叩く。
 パリの朝早い時間。シーナ、セシル・ディフィール(ea2113)、エフェリア・シドリ(ec1862)は一軒の家の前に立っていた。依頼人である川口家の実家である。
「あら、お迎えに来てくれたのね。助かるわ。花〜、みんな来てくれたわよ〜」
 花の母親川口リサが玄関に現れた。
「みなさんよろしくお願いしますね」
 家の外に現れた花は挨拶をする。
 花はすぐに荷物を載せたロバを連れてきて出発となった。
「なんとなく、お疲れの様子でしたね‥‥」
 セシルが口の端に右の人差し指を当てて呟く。薄くはあるがリサの目の下にクマがあるように見えたからだ。
「ニョロニョロのカバヤキを食べれば元気イッパイなのです☆」
 元気なシーナの答えにセシルは苦笑いするが、外れていないとも思った。懐かしい味は結構人の心をリフレッシュするものだ。
 ちなみにシーナは依頼請負の後に花から話しを聞いてから、ウナギの事をニョロニョロと呼んでいた。
「花さんのドンキーさん、なんて名前なのですか? 私のドンキーさんはプルルアウリークスさんと言うのです」
「タメゴローっていいます。いい名前でしょ」
 エフェリアと花は二人ともロバの手綱を引いて歩く。
「あ、いましたよ〜♪」
 しばらくしてパリの城塞門が望めるようになると、シーナが手を振る。残る二人の参加者を見つけたからだ。
「カバヤキと聞いていろいろ用意してきたんだよ。せっかくだしね」
 明王院月与(eb3600)の蒙古馬・金剛のたてがみを撫でる。背中にはどっさりと荷物が載せられていた。
「オイラ、水の中は得意だからよ‥‥。ウナギがどこにいるかぐらいすぐにわかると思うんだ‥‥。コウダユウとりっちーもよろしくな」
 葉っぱをクチバシにくわえた黄桜喜八(eb5347)が挨拶をする。隣りには狩猟犬のコウダユウと、その背中に乗るフェアリーのりっちーがいた。
 全員が揃ったところで元気よくパリの外へ足を踏みだす。
 目指すはウナギのいる湖であった。

●道中
「大丈夫みたいだね」
 明王院が空を見上げると二羽の鷹が大きく弧を描いていた。ペットの玄牙とセシルのイグニィである。
 多くの人が行き交う賑やかな道であったが、途中からは逸れて湖に向かわなくてはならない。注意はしておくべきだ。明王院は吊っている刀の鞘を握って確かめる。
「よい天気ですね」
 セシルも周囲に注意を払っていた。愛犬のウェルにも出発時に言い聞かせてある。もしもの時の為にいつでも魔法を唱えられるように準備を怠らない。
「ここでお昼にするのですよ〜」
 道から少し離れた草原の中に一本の木が生えていた。その木陰での昼食だ。
「いろいろおいしそうなもの、持ってきました」
 エフェリアが団子や桜餅、蕎麦を並べた。みんなで少しずつ頂くことにする。セシルは後でシーナがまた欲しがるのを見越して、今は自分の団子を仕舞っておく。
「まだ水の匂いはしないんだな‥‥」
 黄桜は食事をしながら、脳裏に浮かぶ湖に焦がれていた。
「はい。花さんも食べてね。シュクレ堂のパンだよ。お菓子もあるよ」
「ありがとう。月与さん」
 明王院からパンをもらい、花がうれしそうに目を細める。
「シーナさん、伝言があります」
 エフェリアは友人から預かってきた言葉をシーナに伝えた。
(「シーナさんが見張るっていってたけど、やっぱり注意しておくべきね」)
 セシルはちらりと花を横目で眺める。
 花の方向音痴は度を超えている。パリは城塞に囲まれていて比較的安全だが、ここは違う。迷子になれば命の心配がある。
 昼食の時間も終わり、一行は再び歩き始めた。
 空がほんのりと赤く染まりかけた頃、丘を越えると湖が視界に広がった。
「安全を確かめなくてはな。行ってくるぞ‥‥」
 そう言い残して黄桜は道を駆けた。まだかなりの距離があったが、一人でずんずんと進んでゆく。
 背中のバックを外し、持っていた携帯品も走りながら放り投げる。それを懸命に狩猟犬のコウダユウがくわえて拾ってゆく。
「念入りに調査はするのオイラの仕事だ!」
 黄桜は走る勢いのまま、ドボ〜ンと湖に飛び込んだ。
 湖面に出来た波紋の上をフェアリーのりっちーが不思議そうに飛び回る。
「もう入ったのですか!」
 湖に到着したシーナは荷物の番をするコウダユウを見て驚いた。
「仕事熱心なのです」
 花はニコニコと笑う。
「余程、泳ぎたかったのですね」
 セシルが腕を組んで湖面を眺める。
「河童の黄桜さん、すばやいのです」
 エフェリアは身を乗りだして湖面を覗き込もうとする。
「きっとウナギのたくさんいる場所を探してくれてるんだよ。‥‥だと思うんだけど」
 明王院はちょっとだけ自分の考えに疑いを持った。
 かなりの時間、黄桜は浮かんでこない。その間に一行は野営の準備を終える。
 ようやくあがってきた黄桜の表情は誰の目にもサッパリしているように映った。
「き、気のせいだろ」
 みんなに突っ込まれた黄桜は明後日の方向を見ながら呟いた。
 焚き火を囲みながら、黄桜が水中の状況を話す。
 一番深い場所は湖面から二十メートル程。湖の底には岩がたくさんあって、濁っている場所はほとんどない。流れ込む川の少し上流に水遊びが出来そうな浅い場所がある。
 肝心のウナギだが岩を叩くと何匹か飛びだしてきたという。ちゃんとやれば、たくさん捕れそうである。
「それなんです?」
「ウナギ用の罠だ‥‥。ジャパンでは竹使ったりするんだけどな‥‥」
 シーナが黄桜に訊ねる。黄桜は筒状の罠を作っていた。
「こんなのが道具の中にあったから使ってみるね」
 明王院も魚用の罠をバックの中から取りだす。
「私はより簡単な罠でも作りましょうか」
 セシルは釣り針と糸をたくさん用意する。流されないように何かに結んでおくつもりだ。
 すでに真っ暗なので、罠を仕掛けるのも明日にする。
 ウナギ捕りを楽しみにしながら、早い時間に眠る一行であった。

●釣りと罠
「ウナギ‥‥」
「ニョロニョロ‥‥」
「にょろにょろさん‥‥」
「むしろ、にゅるにゅる‥‥」
 花、シーナ、エフェリア、セシルは湖畔にある大きな岩の上に並んで座り、釣り竿を持って糸を湖に垂らしていた。
「また違いましたね」
 セシルが竿をあげて小魚を釣り上げた。肝心のウナギが掛からない。
「スーさんの分も釣るのです」
 主人の気持ちも知らずにエフェリアの子猫があくびをかく。
「釣れないのです‥‥。ふぁ〜〜」
 シーナもつられてあくびをした。
「あくびはうつるって‥‥はうっ」
 花が片手で口を押さえる。
 とにかく四人は釣り竿を垂らし続けた。

 黄桜と明王院は他の仲間と少し離れた湖畔にいた。
「作った罠、仕掛けて来たぞ‥‥」
「よかった。明日が楽しみだね。喜八お兄ちゃん」
 湖面から顔を出す黄桜に、陸上の明王院が話しかける。
「オイラは、こいつでウナギを突いてくる‥‥」
 黄桜は陸に置いてあった河伯の槍を明王院から受け取った。
「あたいはね。せっかくだから捕れたあとの準備をしようと思うの。がんばってね」
 明王院が手を振り、黄桜は再び湖の底へ戻ってゆく。
(「いたぞ‥‥」)
 黄桜は水中を陸の上よりも自由に泳ぐ。泥に穴が空いているのを確認すると。岩を持ち上げて近くの岩にぶち当てた。
 震動でウナギが穴から飛びだす。そこをすかさず槍を投げて泥の地面にウナギを縫いつける。見事一匹目を捕まえて、腰に取り付けた網に入れておく。殺さないようにちゃんと尻尾付近を狙っていた。
 黄桜の漁は始まったばかりであった。

「用意、用意と」
 明王院は自分が持ってきた道具と花の道具をキレイに洗い直していた。
 もう一つ行っていたのが炭作りである。
 掘った穴底で枝木の焚き火をする。火が点いたままの上に木材を置いて、さらに枝木で焚き火をした。頃合いを見て上から土を被せて密封させる。
「こうすれば出来るかも知れないって聞いたんだけど‥‥」
 明王院はあまり自信がなかった。

「花さん、引いているのですよ〜」
「は、はい!」
 シーナにいわれて花が釣り竿をあげると、細長く黒い生き物が宙に舞う。
 日が暮れだしてようやくウナギが釣れ始める。
「スーさん、わたしやりました。にょろにょろさんです」
 エフェリアも釣り上げて子猫に見せる。
「どうやら、夕方からが釣れる時間帯のようですね」
 セシルは釣り上げたウナギを見ながら呟いた。
「そっちじゃないです〜!」
 シーナが網の中にウナギを入れようとするが、手がすべって辺りをグルグルと駆け回る。
 完全に日が暮れるまで四人は釣り糸を垂らし続けた。
 帰り際、昨晩にセシルが作った罠をみんなで垂らしておく。
 すぐ近くの野営地に戻ると、黄桜と明王院はすでに戻っていた。
「たくさん捕ったぞ‥‥」
 黄桜は桶に入れられた六匹のウナギを指さす。
 花によれば、少しは泥を吐かせたほうがいいらしい。明日の夕方まで、丸一日待つことに決められる。
 釣ったウナギ五匹も桶に入れられた。
 おまけで釣れた魚のワタをとって遠火で焼いて夕食の足しにする。
「ニョロニョロなのです‥‥」
 その日の番、シーナは夢の中でウナギと格闘する夢を見た。

●水遊び
 三日目、ウナギ釣りは夕方からにして全員で川に向かって水遊びをすることにした。
「スーさん、流されないで下さい」
 小石が転がる川の浅い部分をびしょ濡れエフェリアは子猫を抱えて歩く。
 流れてきた葉っぱに子猫が飛びついたのをエフェリアは助けた。川原にあがると持ってきた服に着替える。
「穴に住んでるって聞きましたけど‥‥」
 シーナは川の中に顔をつけてウナギを探す。
「こういうのもいいですね」
 セシルは岩場に座りながら川面に足を入れてパシャパシャする。朝に罠を引きあげるとちゃんとウナギがかかっていた。黄桜と明王院の罠にもたくさんがかかっていて大漁であった。
「炭も出来ていたし、タレが問題かな。ゴハン炊くの忘れないようにしないと」
 明王院は川面のきらめきを見ながら考える。ノルマンの枠を越えた本格的なカバヤキゴハンを作ろうとする明王院である。米は花が持ってきていた。
「は、花さん、そっちはダメなのです〜」
「えっ?」
 川面から顔を出したシーナが遠くに行こうとしていた花を呼び止める。シーナはウナギ探しを諦めて、花に付き添うことにした。
 夕方になると、シーナ、エフェリア、セシル、花は湖で釣りを始める。
 明王院は投網を試みた。黄桜は素潜りのウナギ捕りだ。
 早めに切り上げると、全員で調理を始める。
 泥を吐かせたウナギを板に釘で打ちつけて捌く。
 黄桜によればジャパンではいろいろな裁き方があるようだ。血はよく抜き、太いウナギだったので蒸してから焼く事にした。
 花と明王院が懸命にタレを作る。醤油、蜂蜜、酒などを混ぜ、コクを出すためにウナギの頭や骨を焼いたものを入れたりもする。
 エプロン姿の明王院は張り切って陣頭指揮をとる。
 シーナはゴハンを鍋で炊いていた。途中で蓋を開けようとして花に叱られるシーナである。
 セシルはウナギに串を刺し、蒸す作業を引き受けていた。
 黄桜は蒸されたウナギをタレにつけて焼く作業をする。網の上でパタパタと仰ぐと、炭に脂が垂れて食欲をそそる音と香ばしい匂いが漂った。
「頂きます〜♪」
 調理が終わり、それぞれにお祈りをしてから食事が始まる。
 一人一人の手にあるのは深い皿にタレいっぱいのご飯の上にウナギのカバヤキがのせられたものだ。
「おいしい‥‥ジャパンと変わりません。早く食べさせたいな」
 花は持ってきた箸で頂く。
「モグモグモグモグモグッ――――」
 シーナは全部食べ終わるまで無言であった。
「スーさん、ゆっくり食べるのです」
 エフェリアはガツガツと食べる子猫に声をかける。そういいながら結構エフェリアも食欲旺盛であった。ほっぺたにご飯粒がつけながらカバヤキを口に運ぶ。
「エスカルゴとは違う美味しさがありますね。いい香り‥‥、まるでお肉のようなこってりとした脂の旨味」
 セシルは口を押さえながら瞳を大きく開いた。これならばゾフィー嬢も食べられるかも知れないと考える。
「これ、なんとかお土産にしたいな‥‥」
 とっても美味しく頂いた後、明王院は花に相談をした。さすがに冒険者ギルドの全員に振る舞うのには無理があった。ゾフィーの分については約束をとりつける。
「うめえな‥‥。固いパン生地で包んでもうまそうだな‥‥」
 黄桜は一気に食べ終えて、二杯目をよそりに立ち上がった。
「泳ぎじゃ負けないけど、食べ物ではシーナには負けるだよ‥‥」
「ん? どうかしたんです?」
 先に二杯目をよそっているシーナを見て、黄桜は頭の皿を指先でかいた。

 四日目は生きたままパリに持ち帰る分のウナギを捕る。
 骨の揚げて作ったお菓子も作り、カバヤキと合わせて帰りの食料とする。
 そして五日目の朝、一行は湖の畔を後にした。

●パリ
 一行は先に花を家へと送り届ける。
 花の父親である源造からお礼として指輪をもらう。最近物騒だから気を付けてといわれて。
「あら、シーナ。戻ったのね」
「先輩、これは美味しいですよ〜」
 ゾフィーの家にシーナと冒険者達は立ち寄った。カバヤキにまでなったものをお土産として渡す。
「ご飯はシーナが炊いてあげるのです〜。オジャマしますです〜♪」
 シーナは花にもらったお米を手にゾフィーの家に入る。もう一度食べるつもりなのが見え見えのシーナであった。
 ギルドへの報告もあるので、冒険者達は先においとまする。
「たくさん絵も描きました。楽しかったです」
 ロバの手綱を引きながらエフェリアは感想を呟いた。子猫は荷物と一緒にロバの背中で寝ている。
「思いっきり泳げ‥‥いや、湖と川の調査は有意義だったぞ‥‥」
 黄桜は湖畔の岩場に焼いた石を入れてお風呂にしたのを思いだす。ポールボの石を入れて温泉気分であった。
「お土産でカバヤキもらっちゃった。誰と食べようかな?」
 愛馬を連れながら明王院もご機嫌である。思い通りの料理を作れたことがなによりであった。
「シーナさん、カバヤキに夢中で最後はお団子のこと忘れてましたね。エスカルゴとは違い、カバヤキをのせたゴハンならゾフィーさんもきっと喜んで‥‥」
 言いかけてセシルは立ち止まり、もう見えなくなったゾフィーの家の方角を振り返る。仲間も足を止めた。
「シーナさん、ウナギの骨のお菓子を持ってましたよね。それにタレの容器の中にも‥‥ウナギの頭が入っていたような‥‥」
 セシルの言葉にみんなハッとする。
 果たしてゾフィーがウナギの頭に驚くのか否か、知り得るのはシーナのみであった。