ブランシュ鉱 〜シルヴァン〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 56 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月10日〜05月25日

リプレイ公開日:2008年05月17日

●オープニング

 パリ北西に位置するヴェルナー領は、ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーの領地である。
 その領内の森深い場所に、煙が立ち昇る村があった。
 村の名前は『タマハガネ』。
 鍛冶職人の村である。
 鍛冶といっても他と赴きが違う。ジャパン豊後の流れを汲む作刀鍛冶集団であった。
 村の中心となる人物の名はシルヴァン・ドラノエ。ドワーフである彼はジャパンでの刀鍛冶修行の後、ラルフの懇意により村を一つ与えられた。
 ジャパンでの修行後期に作られた何振りかの刀が帰国以前にノルマン王国へ輸入され、王宮内ですでに名声が高まっていたのだ。
 ジャパンから連れてきた刀吉と鍔九郎、そして新たに集められた鍛冶職人によって炎との格闘の日々が続くが、完成した刀剣は少ない。
 現在はブランシュ騎士団黒分隊に納めるシルヴァンエペの他に、別の武器を構想中であった。


 先日シルヴァンはルーアンに赴き、領主であるラルフとブランシュ鉱について相談した。
 貴重なブランの原材料となるブランシュ鉱。
 ヴェルナー領内に鉱床がないか調査した記録は残っている。しかし発見されず、それ以来ヴェルナー領内ではないとされていた。
 あらためてラルフ・ヴェルナーの名でヴェルナー領内に布令が出され、発見に懸賞金がかけられた。


「なかなか難しいな」
 領主ラルフはルーアンのヴェルナー城にいた。
 執務室でブランシュ鉱石に関する資料に目を通す。まだ大した日数は経っていないが、まったくといっていいほど情報がなかった。
 比較的調査がしやすいヴェルナー領の地で調査されていない土地などそうはない。もちろんモンスターの巣窟で調査が難しい場所も存在するのだが。
「文献調査班のフミッシュが面会を求めています」
「通せ」
 執務室秘書にラルフは許可を出す。
 すぐに文献調査班の女性調査員フミッシュが入室する。フミッシュは文献からブランシュ鉱を調査する班の一人だ。
「興味深い本を発見しました。失礼‥‥します」
 フミッシュは重そうに抱えてきた本を机の上に広げる。目的のページを捲り、ラルフに説明をする。
「この本は無名の薬草師がまとめたものです。良く言えば、ヴェルナー領とその周辺の植物について、いろいろな観点から書かれています。悪く言えば雑文であって、まとまりがない本と‥‥、いえ、すみません。本題はそんな話ではなく、ここの文章です」
 調査班の女性は途中の行を指さして読み始める。
「――青いアネモネの花が咲く岩場でわたしは腰掛ける。しばらく風に揺れて唄う花びらに心ふるわせるが、紫に染まる世界に夕刻を知って立ち上がった。ズボンを叩いて、ふと掌を眺めると、真っ黒な消し炭がこびりついてた。よく見れば岩は何かの衝撃で割れたばかりで、その断面は真っ黒だ。しかし――」
 調査班の女性は問題の文章を読んだ。
「消し炭のようなものが、もしやブランシュ鉱なのか?」
「この後の文章には『岩の上で焚き火をするな』と書いてあります。ですが、他にも岩に赤い部分があったとか、ブランシュ鉱が含まれる岩石らしき特徴も見受けられます」
 フミッシュの説明にラルフはしばし考えた。
「調査は必要だな。この場所は特定できるのか?」
「は、はい‥‥ラルフ様、あの、先に話しておくべきだったのですが‥‥あの‥‥」
「どうしたのだ? 何かまずい事でもあるのか?」
「実はこの場所はヴェルナー領ではないのです」
「ヴェルナー領ではない? ならどこだ」
「ヴェルナー領の北方にあるブロリア家の領地‥‥。ではなくて現在は領主が変わっていました。今はトーマ・アロワイヨー領で御座います」
 前のめり気味だったラルフは椅子に深く腰掛ける。
 かつてエリファス・ブロリア領と呼ばれた土地を攻め入ったのは他ならぬラルフであった。
「現在の領主トーマ・アロワイヨー殿とは知己がある。話しを通しておこう。この事はシルヴァンにも伝えねばならない。フミッシュ、許可が出たのならシルヴァンへの説明を頼もう。その時はタマハガネ村に向かってくれ」
「はい」
 ラルフにフミッシュは敬礼をした。
 数日後、手紙のやり取りによって領主トーマ・アロワイヨーからの領内調査の許可が出た。
 ラルフはフミッシュをタマハガネ村に派遣した。
 フミッシュはラルフからの手紙をシルヴァンに渡して口頭でも説明する。
 レミエラについては、まだ未知な部分も多くて様子見をしてもらいたいとある。
 ブランシュ鉱については、魔法武器製作以外にも利点があるので、是非に進めて欲しいとあった。
 話を聞いたシルヴァンは冒険者ギルドに依頼を出す事を決める。いつものように刀吉をパリに向かわせるのだった。

●今回の参加者

 ea7372 ナオミ・ファラーノ(33歳・♀・ウィザード・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea9976 ユニバス・レイクス(31歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2927 朧 虚焔(40歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3781 アレックス・ミンツ(46歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec1565 井伊 文霞(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec2965 ヴィルジール・オベール(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ec4355 春日 龍樹(26歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

デュランダル・アウローラ(ea8820)/ 狩野 幽路(ec4309)/ ラムセス・ミンス(ec4491

●リプレイ本文

●囲炉裏
 急用で同行する事が出来なくなった一名を残し、冒険者達は刀吉が御者をする馬車に乗り込む。二日目の夕方にはタマハガネ村に到着した。
「一緒に向かわせて頂きますフミッシュと申します。よろしくお願いします」
 冒険者用の家屋にラルフ領主から派遣されたフミッシュが訪れて挨拶をする。その後、シルヴァン、刀吉、鍔九郎もやってきた。
 場は囲炉裏を囲んでの相談となる。
「無名の薬草師の本から情報を得たと聞いたけど。フミッシュさん、子孫の手掛かりとかあるのかしら?」
 訊ねるナオミ・ファラーノ(ea7372)にフミッシュは『いいえ』と答える。本はルーアン城の書庫から発見されたものだが、薬草師の素性を含む情報は何一つなかった。
「冒険者の方々で特に鉱物知識に長けているのは、ナオミさんとユニバスさんですね」
 鍔九郎がナオミとユニバス・レイクス(ea9976)を順に眺めた。
「偽物を掴まされぬ様に詳しくなっただけだ。武器を作る上で材料が想定の物と違うだけで思った物が作れんからな」
 囲炉裏から離れた土間の壁にユニバスは寄りかかりながら腕を組む。
「わたくしも少々なら知識がありますので、鉱石発見のお手伝いは出来るかと思いますわ」
 井伊文霞(ec1565)は正座をして、湯飲みを手にハーブティを頂く。
「とにかくそのブランシュ鉱を融かして作るブランなら、よりよい武器が作れるんだな?」
「そうだ。ブランそのものが魔力を帯びていて、打てばデビルに対抗しうる武器なる。もっとも高価なので鋼に混ぜて使う事になるが」
 どっしりとあぐらをかいた春日龍樹(ec4355)に隣りの刀吉が頷く。
「本が指し示すのはトーマ・アロワイヨー領と聞く。ごく最近領主が代わられたとか。となると、まだ領内のことを完全に把握されていないかもしれませんね」
 朧虚焔(eb2927)は心配事を口にする。盗掘も心配であった。
「許可を得たとはいえ、ラルフ殿のヴェルナー領とは違う領内に入る事となる。勝手が違うゆえ、あまり派手な事は慎むべきだろう」
 アレックス・ミンツ(eb3781)は今までの功績の報償として、すでにシルヴァンエペを受け取っていた。囲炉裏の炎に照らされた刃紋を眺める。
「お役に立つかわかりませんが、よろしければどうぞ」
「おお、これは助かる」
 クァイ・エーフォメンス(eb7692)はシルヴァンにいくつかのアイテムを進呈する。どれも鍛冶に関係するものだ。他にもパリで買いそろえた食材などを村に置いてゆくクァイである。
「とにかく、見つからなければ何も始まらない。どうか、よろしく頼む」
 シルヴァンが冒険者達にお願いしたところで相談はお開きの時間となった。

●山
 三日目の朝方、フミッシュと冒険者達は刀吉が御者をする馬車でタマハガネ村を出発した。夕方には領地の狭間にある関所を通過する。
 四日目の昼頃、馬車は山の麓に停まった。
「それではよい話しを待っているぞ」
 馬車や馬の番をする為に刀吉は麓に残る。フミッシュと冒険者達の登山が始まる。
「こりゃ、結構険しいぞ」
 春日龍樹が岩に手を掛け、足をかける。
 薬草師の本の表現にあった通り、岩場がとても多い山だ。
「この周辺が目的地です。なぜこの辺かというと、アネモネの咲いている分布から決めてみたのですが‥‥、広くて済みませんです」
 かなり登った所でフミッシュは冒険者達に説明をする。
「気にすることはないわ。早速探しましょう」
 下を向くフミッシュにナオミが優しい声をかける。
 冒険者達は二組に分かれた。
 ユニバス、クァイ、アレックス、フミッシュの一班。ナオミ、朧虚焔、井伊文霞、春日龍樹の二班である。
 その日によって集合場所を取り決めて、別の方向に探した。
 木や草花が生える場所は大してなく、地面が剥きだしの部分が多い。岩影を照らす為、冒険者達は昼間でもランタンを手にして探すのであった。

「青いアネモネの花が咲く岩場でわたしは腰掛ける。しばらく風に揺れて唄う花びらに心ふるわせるが、紫に染まる世界に夕刻を知って立ち上がった‥‥」
 一班のアレックスはフミッシュから教えてもらった本の文章を思いだしながら探す。この季節にアネモネが咲いているようで、ちょうど目印になると考えたのだ。
「角のある岩に赤い筋があるなら、まずブランシュ鉱が含まれた岩石だ。割って確かめろ」
 ユニバスは休憩の時、自分が知る知識を仲間に伝える。
「どこでしょう‥‥? ブランシュ鉱‥‥」
 クァイはフライングブルームで低空を飛びながら岩場を探す。あまり高く飛ばないのは目立たない為の用心だ。
「う〜ん。アネモネの分布、変わったのかなあ? それとも何かと大げさに書く人だったのかな‥‥。作者の薬草師」
 フミッシュは本の内容を抜粋した羊皮紙を手に首を傾げる。本にはアネモネが咲いている記述があるのに、滅多に見かけないのを疑問に感じるのだった。

「もし、この領地でブランシュ鉱なんて高価な物がでたら、領主はともかく他のうるさがたが黙っていないだろうな」
 二班の春日龍樹は休憩中に仲間へと話題を振る。
「そうでしょうね。それにしても、人里離れているとはいえ、山に登ってから猟師の一人にも出会わないとはどういうことでしょう」
 朧虚焔は愛犬バオに膝枕しながら疑問を語る。
「集落があって訪ねてみましたが、廃墟となって誰もいませんでしたわ。物とかはそのまま置かれていて、まるで集落の人達全員が散歩に出たまま、帰らなくなった‥‥そんな感じでしたの」
 井伊文霞は護衛をするつもりでいたので周囲に気を配っていた。朧虚焔と同じように妙な雰囲気を感じ取っていたのだ。
「誰もいないのは好都合だけど‥‥」
 ナオミは山の景色を見渡した。誰かに会っても鉱床探しについては内緒にしようと仲間に話していたナオミである。
「なかなかうまくはいかないものだな。椛、変な所があったら教えてくれよ」
 春日龍樹は狐の椛の背中を撫でる。
「何にせよ、領主のアロワイヨー殿には調査の結果を手紙で送っておこう」
「それがいいわ」
 春日龍樹の考えにナオミが賛成した。

 八日目まで山の中を駆けめぐったものの、ブランシュ鉱は発見できずに終わる。
 進展があったのは九日目であった。

●盗掘
 九日目、わずかに咲いているアネモネを辿り、アレックスは人影を発見する。怪しい風体に一旦仲間の元に戻る。
 フライングブルームに乗ったクァイが散らばった仲間を集める。アレックスが人影を見かけた周辺の捜索が開始された。
「いたぞ」
 厳つい男をユニバスが発見する。後を追ってみると集落が視界に入る。
 フミッシュと冒険者達は高い峰へと移動し、集落を見下ろす形で観察をした。
「何か掘っているのは確かよね‥‥」
 ナオミは集落の中心にある大きな穴に着目する。
 二人組で棒を担ぎ、土を外へと担ぎ出していた。今まで運んだものなのか、集落の回りには土の山が出来ている。
「昔は‥‥、アネモネが咲いていたのかも?」
 フミッシュは集落の周囲に目をやった。アネモネらしき青い草花の群生が窺える。
 集落の中は殺風景で見る影もないが、穴が掘られていないとすれば見晴らしがよさそうな場所である。薬草師が書いたイメージと近い世界が広がっていた。
「狭いですが、小舟ぐらいは浮かべられそうな川を見つけましたわ」
 井伊文霞が指さす方向には川が流れている。フミッシュから借りた地図で確認すると、下流の方向はヴェルナー領のようだ。もしかするとセーヌ川に繋がっているのかも知れない。
「ラムセスに占いを頼んでみたら、『かなり遠いけどあるみたいデス』っていってたな‥‥」
 春日龍樹はパリ出発時に見送りに来た義理の弟を思いだす。頭を撫でてやると、とても嬉しそうにしていたのが脳裏に過ぎる。
「バオ、この中の人達以外に誰か来たら、後をつけられないようにして戻ってきて知らせて下さい。頼みましたよ」
 朧虚焔は周囲の警戒に愛犬を放つ。
「近づいて岩を見てみない事には始まらん」
 ユニバスが呟く。
「そうね‥‥」
 ナオミが考え込む。
「私が夜陰に紛れて、フライングブルームで岩を拾ってきます。結構な重さでも飛べますので」
 クァイの意見が仲間でやり取りされ、それでいこうと決まった。クァイの荷物を一時的に仲間に持ってもらい、寝袋を何重かにしてロープでフライングブルームと繋ぐ。
 夜を待って回収は決行された。
 もしもの囮として朧虚焔と井伊文霞が集落近くまで下りて待機する。ブランシュ鉱があるのかどうか確かめなくてはならない。
(「今だ」)
 春日龍樹がクァイに手を振る。見張りが穴から離れたのを知らせたのである。
(「急がないと」)
 クァイがフライングブルームで浮かび上がり、集落の中心部である大穴に向かう。素速く降りる。岩というより大きめの石を、持てる最大限まで寝袋に詰めていった。
 周囲が暗くてもランタンを灯す訳にはいかない。すべては勘である。
 頃合いを考え、クァイはゆっくりと空に上昇する。
 仲間のいる高台まで辿り着くと、さらに集落から離れてゆく。見張りや囮の待機をしていた仲間も同時に退却する。
 約三時間、フミッシュと冒険者達は、星明かりを頼りに真夜中の山中を集落から離れる事に費やした。

●ブラン
 安全と思われる場所で、ランタンを灯すとさっそく確認の作業を開始した。
 ユニバスがハンマーを振り下ろす。
「期待出来るかもしれん」
 割れた石の断面を見てユニバスが呟いた。全員で丁寧に消し炭のようなブランシュ鉱と思われるモノを集める。
「緊張してきたわ‥‥」
 ナオミは深呼吸する。目の間にあるのは、滅多な事では手に入らないブランシュ鉱かも知れなかった。
 ヒートハンドを唱え、灼熱の手を用意する。すぐさまモノを融かし始めた。手応えを感じたナオミはそのまま作業を続行した。
 やがて真っ白な金属が冷え固まる。指の先に乗るほど少ない量であったが、まさにこれこそがブランであった。
「これは‥‥大発見です。しかし、あの集落は盗掘者のようですね‥‥」
 フミッシュは精製されたブランの一欠片をラルフに見せる為のサンプルとして、ナオミから受け取るのだった。

●そして
 十日目の夕方、冒険者達は誰の目にも触れられないように山の麓にまで下りる。そして刀吉に手に入れたブランを見せた。
 驚きの声をあげる刀吉であったが、同時に不安な表情を浮かべた。留守番の間に何度か道行く人に声をかけられていた。車輪が壊れて立ち往生しているとか誤魔化していたが、とてもしつこかったという。
 この周辺に人は住んでいない。唯一、ブランシュ鉱盗掘の集落を除いて。
 もうすぐ日が暮れる時間だが、一行は出発を決意する。
 行けるところまで走ってから野営の準備を行う。刀吉が集めて馬車に積んでいた枯れ木で焚き火をした。
 春日龍樹はナオミと共に、この地の領主であるトーマ・アロワイヨーに手紙を書いた。手紙は翌日の通りすがりの町でシフール便として出される事となる。料金は刀吉が出してくれた。
 フミッシュも一足先にラルフ宛てに報告の手紙を出すのだった。

 十二日目の昼頃、一行はタマハガネ村に戻った。冒険者用の家屋にやって来たシルヴァンと鍔九郎に調査結果が報告される。
「そうか。これが‥‥」
 ブランを受け取ったシルヴァンは目を凝らした。少ない量とはいえ、正真正銘のブランである。ひとつまみで金貨百枚に相当するといわれる代物だ。
「見つかったのはよいのですが盗掘者がいました」
 朧虚焔が懸念していた心配が現実となってしまった。加えて山の周辺に特に危険なモンスターがいなかったことを報告する。
「あの集落の人達は何者なのかしら? 廃墟になってしまった集落の人達が移動して掘っているとも考えられますが‥‥」
 井伊文霞は廃墟の不思議さを思いだす。それと近づけなかった為に鉱脈がどのように広がっているのかを調べられなかったのを後悔する。もっとも敵らしき者がいたのだから、仕方がないことである。
「領主が国に内緒で秘密裏に掘らせているはずはないな。それならば他の領主に調査の許可を出すわけがない。かといってブランするにはナオミのようなヒートハンドを扱える者が必要。組織だった背後が見え隠れするのは考えすぎか」
 アレックスは帰り道でしてきた考察を述べた。
「組織ですか‥‥」
 クァイはふと前に依頼で関わった組織『オリソートフ』を思いだす。フレデリック領を中心にして存在し、何かとラルフに抵抗する勢力である。フレデリック領はセーヌ川を境にしてヴェルナー領に隣接する領地だ。
「トーマ様も大変ね」
 ナオミのいう大変とはブランシュ鉱発見の意味だけはなかった。領主トーマ・アロワイヨーは現在独身のはずである。恋人の噂はあるが、まだ結婚にまでは至っていない。今回の事でこれから裕福な領地になる可能性が高くなる。今まで以上に他の女性も黙っていないだろう。
「何にせよ、アロワイヨー殿とは一度会って話してみたいものだ」
 春日龍樹は自分のお腹をポンと叩くと高笑いをした。
「後は領主同士の仕事だろう。俺の手からは離れた。礼をくれるというなら、いつになっても構わんから、このブランシュ鉱で俺に武器を必ず打たせろ」
 鍔九郎から追加の謝礼金を受け取ろうとした時、ユニバスはシルヴァンを見て告げる。
「すべてをブランで作った武器があるとすれば、それは伝説の武器の類だ。そんな機会は俺でも一生のうちにあるかどうかすらわからない。それにまず一般の兵士達用の魔法武器が先決。ただ、将来的には玉鋼かブランの混入した鋼で唯一の武器を打たせてあげたいとも考えている。しかし誰も彼もとはいかない。技術だけの問題ではないぞ。タマハガネ村の設備を使う以上、この点だけは守ってもらわなくてはならん」
 シルヴァンは答えるとユニバスに近づく。謝礼金を渡そうとしていた鍔九郎からシルヴァンが袋を受け取り、直接ユニバスに手渡した。
「悪いようにはせん。ユニバスさんだけでなく、手伝ってくれている冒険者のみなさん全員には感謝している」
 シルヴァンは強く頷きながら考えを伝えるのだった。

 十四日目の朝、冒険者達は刀吉の馬車でパリへの帰路についた。
 フミッシュは別の馬車でルーアンに出発する。
 十五日目の夕方には無事にパリへ到着した。


●六段階貢献度評価
ナオミ エペ進呈済
ユニバス 2 3 計5
朧 エペ進呈済
アレックス 今回エペ進呈
クァイ 次次次回エペ進呈予定
井伊 エペ進呈済
ヴィルジール エペ進呈済
春日 次次回エペ進呈予定

アレックスには今回一振り進呈されます。
次回は今回参加されなかった方への進呈が決まっています。予定の方が次回参加されなかった場合、繰り上げで渡す形になります。続いて、春日、クァイの順になります。