謎の海棲モンスター 〜ファリーネ〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 43 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月20日〜05月30日
リプレイ公開日:2008年05月28日
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●オープニング
「魚のようで人のようなモンスターに、漁村が狙われたのですね」
パリの冒険者ギルドの受付嬢は依頼人の話しを聞きながらメモをとる。
そんなに数は多くないが、今までにもセイレーンやマーメイドに関する依頼はあった。それらを想像していた受付嬢だが、聞いているうちに疑問を感じるようになる。
「あの、そんなにおどろおどろしい姿だったのですか?」
「そりゃそうとも! 全身が鱗で覆われて、頭は魚みたいだぞ! 普通は嫌がるだろ!」
依頼人の答えに、受付嬢はわからなくなった。
行動の善し悪しは別にして、セイレーンもマーメイドも人間の姿を基本としている。どちらかといえば美しいと噂されているものだ。攻撃をされて恐ろしかったのなら理解出来るのだが。
「少しお待ち頂けますか?」
受付嬢はドレスタットからの最新情報に目を通す。海が目の前のドレスタットの方が、こういうモンスターには詳しいと考えたからだ。
「ギルマン?」
ある一文に受付嬢の目が留まる。
『ギルマン』という今まで見たことがないモンスターの出現について書かれてあった。
依頼人がいっていたように全身が鱗で覆われている人型のモンスターのようだ。頭は魚のようで、手足にはヒレや水掻きがあるらしい。
「お待たせしました。どうやらつい最近になって出没し始めたモンスターのようですね」
受付嬢は簡単な説明をする。
「そう、そいつだよ。漁に出る為の船を壊したり、陸にもあがって村人に殴りかかってきたりしやがる。集団に襲われて、重傷を負った奴もいるんだ。いくらか倒せば、警戒して来なくなると思うんだけどな‥‥」
依頼人の漁村はドーバー海峡沿岸近くにある。ドレスタットではなく、パリの冒険者ギルドへ依頼に来たのは、たまたま依頼人がパリ出身者だからだ。
「それじゃあ、よろしく頼むよ。俺の船で連れてゆくからよ」
依頼人は猟師ではなく、魚を買い付けて他の土地で売りさばく商人のようだ。それなりの大きさの帆船を所有していた。
「かしこまりました」
受付嬢は依頼書を書き上げるとさっそく掲示板に貼り付けた。
「あら、漁村が大変なのね」
貼られたばかりの依頼書を若い女性シフールが羽ばたきながら眺めていた。つい先日冒険者になったばかりのファリーネである。
レンジャーの彼女だが、得意の偵察が活用出来る依頼はないかと迷っていたのだ。
「たくさんギルマンっていうのがいるみたいね。突然、現れるみたいだし、これなら‥‥」
さっそくファリーネはカウンターに出向き、依頼参加の手続きをとるのであった。
●リプレイ本文
●出航のパリ
「ファリーネっていうの。みんな〜、よろしくね〜♪」
シフールのファリーネは帆船の甲板にある木箱の上に舞い降りて仲間に挨拶をする。
集合場所は帆船であり、ファリーネで乗り込む冒険者は最後であった。
「ボクはエラテリスって言うんだ。よろしくだよ☆」
ファリーネに駆け寄ったエラテリス・エトリゾーレ(ec4441)はニコニコと手を差し伸べて握手をする。
「ノルマンの騎士、ミラン・アレテューズと申します。よろしくお願いします」
ミラン・アレテューズ(ec0720)は無駄のない動きで挨拶をした。
「紫堂紅々乃です。ジャパンの出身なので、新種の水棲モンスターの情報は是非とも知っておきたいと思いました。ファリーネさん、よろしくお願いしますね」
紫堂紅々乃(ec0052)は木箱の上に座るファリーネを見上げた。
突然ファリーネの周囲が暗くなる。
「ラムセス・ミンスといいますデス」
紅々乃とは逆にラムセス・ミンス(ec4491)の身体はとても大きかった。見上げたファリーネは、思わず後ろに倒れそうになる。
「リーマ・アベツです。それにしても、今まで出てこなかったモンスターが出てくるなんて」
リーマ・アベツ(ec4801)はギルマンについて考えを述べた。より強いモンスターに住んでいた海域を追いだされたのではないかと。
「集まったようだな。ギルマン退治、頼んだよ。では出航するぞ!」
依頼人が出航の指示を出すと、船乗り達によってマストに帆が張られる。風を受けて帆が膨らみ、帆船はパリ船着き場を出航した。
冒険者達はアイデアを持ち寄って大まかな作戦を練った。四時間ほどで終わり、各自自由な時間となる。
連れてきたペットの世話や、釣り糸をセーヌ川に垂らしたりして帆船での移動の時間を過ごす。
「あたしシフールなのに、あんまり遠くに出かけたことないの。だから思い切って冒険者になってみたんだ」
ファリーネは仲間達と様々なお喋りをした。
船旅は順調で二日目の夕方にはセーヌ河口を通過し、海へと出た。
三日目の夕方、帆船は漁村の小さな港に入港するのだった。
●漁村
冒険者達は依頼人に連れられて漁村の民家に泊まった。
帆船は八日目の朝には戻るので、その間にギルマン退治を頼むといって依頼人は立ち去る。
「そうなんや。奴ら、何の恨みがあってか知らんが、砂浜にあがっては見境いなしに襲ってきよる」
冒険者達は食事を頂きながら、民家の老婆の話しに耳を傾ける。ギルマンは漁村の海岸付近によく現れるようだ。
すでに日は暮れているので、漁村の人々への聞き込みは明日からになる。
「見張りをするデス!」
ラムセスは民家の方から海岸が見渡せる見張り台を教えてもらう。
「あたしも手伝うわ〜」
ファリーネも夜の見張りを手伝う事となる。
他の仲間は明日に備えて眠る事となった。昼間の見張りは紅々乃とミランがしてくれるそうだ。
亀のアロン、犬のバルトを傍らにしてラムセスは見張り台に座った。
「それじゃあ、六時間後に起こしてね〜」
ファリーネは見張り台の隅で寝袋に潜り込む。
それからラムセスは星明かりの元で海岸を見つめ続ける。
「船で昼寝したのデス‥‥でも、なんだかねむねむデス‥‥」
さざ波の調べは睡魔をおびき寄せるものだ。ラムセスがこっくりと首をもたげると、繋いであった亀のアロンに腕を引っ張られて目を覚ます。
アロンはどうやら泳ぎたいようで、放っておくと海に向かう。
時間が来てラムセスはファリーネと交代して睡眠をとる。
ファリーネの監視時間が終わる頃には、四日目の太陽は昇り始めていた。
「すみませーん。ギルマンについてお聞きしたいのですが」
紅々乃は見張り以外の時間に漁村を回ってギルマンについて聞き込みをした。襲われた村人や、時間帯に共通点はないかを重点にして聞いてゆく。
紅々乃はグリーンワードで周囲に生える草木にも聞いてみた。陸の奥にギルマンは足を踏み入れていないらしい。せいぜい海岸から二百メートルぐらいのところまでである。
「この鐘の音‥‥。大変です!」
いくつかの情報を得た紅々乃は交代の為、見張り台へと駆けだすのだった。
「この辺でお魚みたいなモンスターがでるんだね」
エラテリスは海岸の近くを見回りしていた。遠くに仲間がいるはずの見張り台がうかがえる。
海岸は一部が砂浜であり、小さな舟が置かれている。大きめの漁船は木造で足場が組まれた船着き場にあった。
エラテリスは釣り人を見つけると話しかける。海面から高い船着き場ならギルマンが現れてもあがるのに時間がかかるので、すぐに逃げれば大丈夫だという。
「やっぱり陸にあがりやすい砂浜からがおおいんだね。もしモンスターを見つけたらボク達に教えてね」
「なんかちっこいけど、平気なのか? ぼうず」
「大丈夫、み〜んなやっつけてもう来ないようにしておくよ☆」
エラテリスは自信いっぱいに宣言して釣り人の元から立ち去った。
「今のところ、ギルマンはいなかったわ。怪しい兆候もなしよ」
「そうか。助かる、ファリーネ殿」
見張り台でファリーネとミランは会話をする。
ミランは見張りをしながら漁村から借りた地図を広げる。
仲間からの報告も含めて徐々にギルマンの出没した場所を明確にしてゆく。その他の場所も警戒するが、ギルマンが海から現れる以上、出没個所は限られるはずだ。
「私が先程村人に聞いた話によれば、素手と、銛を手にしている場合の二つの状況があるようです。考えてみたのですが、砂浜からだと銛を持ち、よじ登らなくてはならない船着き場などでは素手なのではないでしょうか?」
ミランの意見をファリーネはコクコクと頷きながら聞く。
「だとすると、相手にするなら素手のほうがすごく楽よね」
「その通りです。戦うのなら船着き場にギルマンをおびき寄せた方がいい。ですが、まだその方法は見つかっていません」
ミランとファリーネが考えていると紅々乃が現れる。見張りを交代する為だ。
「そういえば、活魚を運んでいたところを襲われた証言が二件ありました」
紅々乃が二人から話しを聞いて思いだす。
「海の中ならお魚、いくらでも泳いでそうだけど、なんでだろ〜?」
「お腹が空いたのなら食べる。眠くなったら休む。ギルマンはそんな感じなのでは? たまたま目の前にあった魚に興味を示したのでは」
ファリーネとミランは紅々乃の情報から推測するのだった。
「これをみててくださいデス」
ラムセスは世話になっている民家の老婆に暦を見せながら占いを始めた。
何かの異変かどうかをラムセスは探る。結果は異変ではあるが、どうも何者かの手によるものと出る。天変地異の類ではなさそうだ。
それからラムセスは老婆に過去、ギルマンのようなモンスターの目撃がなかったかを訊ねた。昔話や伝承も含めて。
残念ながらマーメイドやセイレーンの目撃例はあったものの、ギルマンはなかった。
ラムセスは昼食を美味しく頂くと、床に敷かれた特別の寝床へ横になる。
夜の見張りに備えて、すやすやと昼寝をするラムセスであった。
「さて、この辺りで」
リーマは小舟を借りて沖に出ていた。
さっそくバイブレーションセンサーで海中を探る。
群れをなす小魚。それを追う大きめの魚など、海上からは見えない様々な世界が広がっている。
「ここではなさそう」
リーマは位置を変えて試してみたが、ギルマンらしき震動は見つけられない。一度海岸に戻り、仲間と相談をする。
連携する意味も含め、リーマは船着き場近くの沖を中心に探ることにした。
現在、漁民にかけあってたくさんの撒き餌を船着き場付近に撒いてもらっている。魚によってギルマンを船着き場に引き寄せる作戦だ。
魔力を回復させる為に陸に上がって六時間の睡眠をとりながらだが、リーマは海中を探り続ける。
長くギルマンを探す日々が続く。事態に変化が起きたのは七日目の夕暮れ時であった。
●ギルマン
「いました!」
リーマは人ほどの大きさの群れが海中にいるのを震動によって知る。
(「グラビティーキャノンで狙っても海水が飛び散るだけし‥‥」)
急いで船着き場に向かって櫂を漕ぐリーマだが、海中を泳ぐギルマンの方が圧倒的に速かった。
「あ、ファリーネ!」
夕焼け空の中で空中巡回していたファリーネを発見し、リーマは両手をあげて振る。
「ギルマンを発見しました。船着き場に向かっているのが十体いるはず!」
「わかったわ。みんなに伝えるね〜」
リーマは下りてきたファリーネに状況を伝えた。ファリーネは一目散に漁村に飛んでゆく。
リーマも早く戻れるように急いで漕いだ。
「ぎるまんさん、あらわれたのデスね」
「そうなの!」
見張り台にいたラムセスにファリーネがギルマン襲来を伝える。
ラムセスと見張りを交代したミランは世話になっている民家に戻ったばかりである。エラテリスと紅々乃は、まだ漁村内を回っているはずだ。
「ミランさんにはバルトでおしえるデス。ファリーネさんは、エラテリスさんと紅々乃さんをお願いしますデス。ボクは船着き場にむかうのデス」
「うん。じゃ急いで探すね〜」
ファリーネは高く空に舞った。
ラムセスは犬のバルトを民家に向かわせ、亀のアロンと共に船着き場へ走る。
息を切らせて辿り着くとアロンを海中に飛び込ませた。
「あ!」
ラムセスは目撃する。水掻きのある鱗に覆われた手が、船着き場の床にかけられたのを。
ラムセスはレミエラで拡張されたサンレーザーを唱えた。
船着き場に姿を現したギルマン一体がサンレーザーの衝撃で海に落ちる。しかし次々とギルマンがよじ登ってきた。
「間に合った!」
ミランが長槍を手に駆け寄り、ラムセスの前に立つ。襲ってくるギルマンに一撃を喰らわせて、敵の動きを牽制する。
「うわわわぁ!」
「きゃあああああっ!」
遠くから叫び声をミランとラムセスは耳にする。
「そこで浮き上がって!」
ファリーネの叫びにベゾムに操っていた紅々乃が呼応した。ベゾムに二人乗りしていた紅々乃とエラテリスはギリギリのところで無事に着地する。
「み、みなさん、いきます! 光よ! 我が身に纏いてこの場を照らせ!」
紅々乃は気を取り直し、さっそく仲間と前もって約束した魔法を唱えた。ダズリングアーマーで強力な光に包まれる。
他の冒険者達は紅々乃を背にして見ないように努めた。
「美味しいわよ〜」
ファリーネはお魚を空から撒いて、ギルマンを撹乱する。
「よーし! こっちだよ」
エラテリスは身をひるがえし、襲いかかるギルマンにナックルを食い込ませる。さらに下駄キックですねを蹴り飛ばした。
ミランは可能な限り、ギルマンの足を切り裂く。手合わせした感触では大した強さはないが、なにぶん数が多い。敵の動きが鈍くなれば、それだけ多人数と戦うリスクを回避できるからだ。
ラムセスと紅々乃はサンレーザーでギルマンの顔を狙う。運良く目に当たれば、完全に敵の視力を奪える。
さらに紅々乃はアイスコフィンで動ける敵の数を減らしてゆく。
「ここからです!」
船着き場にあがったリーマはグラビティーキャノンを唱える。放たれた黒い帯状のものがギルマンを貫いた。奇声をあげたギルマン共は混乱の為か右往左往する。
海に逃げようとした一体をミランが長槍で仕留める。これで船着き場にあがった全部のギルマンが退治された。
「もういないみたいデス」
戻ってきた亀のアロンの様子から、ラムセスは海中にはギルマンを居ないことを確信する。
戦いが終わった頃には日が暮れていた。エラテリスのライトの輝きを頼りにして、冒険者達は民家に戻るのだった。
●そして
ギルマンが退治され、漁民の人々は冒険者達に感謝する。せめてものお礼といって全員に網がプレゼントされる。
七日目、冒険者達はゆっくりとした時間を過ごす。
釣りをしたり、魚介料理を食べたい者は腹一杯に頂いた。
八日目の朝、たくさんの魚を詰め込んだ依頼人の帆船に乗って冒険者達は帰路につく。
途中帆船はいくつかの港に立ち寄る。
十日目の夕方、帆船は無事パリの船着き場に入港する。
リーマがあらかじめ状況をまとめてくれたので、ギルドでの報告はすこぶる簡単に終わる。
「とても有意義だったわ。漁村の人達にも感謝されたし。みんなまたね〜」
そういってファリーネは冒険者ギルドを飛び去った。