メルシアの好きなもの 〜ちびブラ団〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月30日〜06月04日

リプレイ公開日:2008年06月06日

●オープニング

「あ、メルシア、俺のベットでねているぞ」
「あら本当ね。‥‥メルシア、もうすぐね。きっと」
 夜、ランタンが照らすベットのど真ん中で、すやすやと眠るメス猫メルシアを少年ベリムートと母親は眺める。
 メルシアのお腹はかなり大きかった。
 メルシアの前にも飼っていたことがあり、母親は猫についてそれなりに詳しい。大体二ヶ月ぐらいで猫は出産するので、もうすぐである。
「はやいんだね。猫は」
「そうよ。それに猫の出産は人が手を貸さなくても平気よ。だから安心していいわよ、ベリムート」
 母親がおやすみの挨拶をして部屋を出てゆく。ベリムートは寝ているメルシアを退けようと一度は手を触れるが止めた。
 ベットはメルシアに譲り、掛け布団を床に敷いて、その上で眠るベリムートであった。


「お父ちゃん、冒険者ギルドに依頼をだしたの?」
「ああ、バムハットの頼みでね。パリに品物を運んでもらいたいんだとさ。馬車は用意するので、冒険者に取りに行ってもらうのさ」
 翌日、ベリムートは父親が冒険者ギルドに依頼を出したことを知る。
 バムハットとは山に住んでいるベリムートの父親の友人だ。去年の秋頃、ベリムートはバムハットのキノコ狩りを冒険者と一緒に手伝ったことがある。
「バムハットおじさんだとすると、あの鳥肉の薫製したのもある?」
「よくわかったな、ベリムート。運ぶ品物のほとんどは鳥のスモーク肉なんだ。そういえば、昔バムハットが土産に置いていったことがあったな」
「そのスモーク肉、俺は食べられなくてもいいからさ。少し買ってくれないかな? メルシアの好物なんだ。食べさせてあげたいんだよ」
 ベリムートはバムハットからもらった鳥のスモーク肉をメルシアがあっという間に食べたのを覚えていた。
 これから子猫を産んで、さらに育てなくてはならないメルシアに少しでも体力をつけてあげたいとベリムートは訴える。
「そうか。子猫を産むメルシアのためか‥‥。わかった。必ず譲ってもらうから安心しろ」
 父親の言葉にベリムートはやったーと両手を挙げた。
「そうだ。冒険者と一緒なら安心だし、いつもの友だちと一緒にバムハットのところに行ってきなさい。子供好きのバムハットも喜ぶしな。ただし、良い子にするんだぞ」
 思わぬ父親の提案にベリムートはさらに大喜びする。


 翌日、ベリムートはちびブラ団仲間のコリル、クヌット、アウストにも伝えた。三人の親達の許しも無事もらえる。
 依頼書には子供達の同行も付け加えられるのだった。

●今回の参加者

 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 ec4004 ルネ・クライン(26歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec4491 ラムセス・ミンス(18歳・♂・ジプシー・ジャイアント・エジプト)
 ec4540 ニコラ・ル・ヴァン(32歳・♂・バード・人間・フランク王国)
 ec5012 ロペス・クロスト(27歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

エレイン・アンフィニー(ec4252

●リプレイ本文

●集合
 一日目の朝、ベリムート家の庭には馬車が停まっていた。
 ベリムートは自分の部屋にアニエス・グラン・クリュ(eb2949)と一緒に入る。
「よかったな。メルシア」
 ベリムートはやさしく猫のメルシアを持ち上げて、藁が敷かれた木箱に寝かす。頭を撫でるとメルシアがニャーと鳴いた。
「アニエスちゃん、ありがとー」
 ベリムートはアニエスにお礼をいう。薄暗い方が産みやすいだろうと木箱を持ってきてくれたのはアニエスであった。
「あの‥‥ベリムートさんにお願いがあるんです。今まで危険な目に遭いましたよね。コリルさんがデビルに誘拐されましたし」
「うん」
「エフォール副長の絵の時もそうです。あれはご婦人に迷惑をかけないようにナイショで描いてもらう必要もあったんです」
「そうだったんだ」
「つまり――」
 アニエスは黒分隊の上部の人と関わりがあるのが悪い人に知られると、危険な目に遭う可能性があるとベリムートを諭す。
「なのでラルフ様のお話は人前ではナイショで。『ブランシュを目指す女の子』が、安全なんです」
「わかったよ〜」
 どこまで本気かわからないが、アニエスの説得にベリムートが納得してくれた。
 その頃、庭ではちびブラ団の三人が他の冒険者の訪れを待っていた。
「あ、中丹さんだ」
 クヌットが道の遠くに中丹(eb5231)を発見する。
 中丹は馬のうま丹の手綱を持ち、足取り軽くスキップをしていた。後ろからついてくるライトニングバニーのうさ丹はリズムに合わせてピリッピリッと電撃を発する。
「中丹でおま。いつものようによろしゅうしてや」
 挨拶をした中丹はさっそくうさ丹を馬車の中に乗せておく。
「あのキノコを採った山みたいよ」
「そうみたいやな。夏には夏の美味いもんがあるはずや〜。楽しみやで」
 アウストに答えた中丹の頭の中には美味しそうなもので一杯である。
「毒キノコ、気をつけてね」
 コリルに指摘された中丹はしばらく天を見上げてからカパパパッと笑う。聞かなかった事にし、別の話題を振った。
「山に川があったか覚えていないんや。どうやったやろ?」
「小さな川はあったよ」
 中丹はアウストから川の事を聞いた。小屋の近くに生活の水を得るために小川があるという。記憶に残らなくても不思議ではないくらいに細いものであったようだ。
「ちびブラ団の皆お久しぶりデス〜」
 遠くのようで、近くのようで、巨体がズドドドと近づいてきた。ラムセス・ミンス(ec4491)は両手を広げたまま、ちびブラ団の前で立ち止まる。
(「あ、危なかったデス‥‥!」)
 ちびブラ団をハグしようとしたのを思いとどまってラムセスはホッとする。懐に卵を入れていたのを思いだしたのだ。
「あのね〜」
 コリルがラムセスにメルシアのおめでたを教えてくれた。
「僕もおか〜さんになるデス〜。卵からははじめてデス」
 ラムセスは卵を懐から取りだす。
「亀のアルト君もよろしくな。犬はバルト君だっけ?」
「バルト君は迷子になっちゃうわんこさんだっておじさんに教えてもらったデス。だからお留守番デス」
 しょんぼり気味のラムセスをちびブラ団の三人がポンポンと軽く叩いて慰める。
「確かこっちだったと思うけど‥‥。あそこにいるの、みんなじゃない?」
「助かった〜。ルネさんありがとう」
 ルネ・クライン(ec4004)とニコラ・ル・ヴァン(ec4540)はベリムートの家を見つけて駆け寄った。
 張り切って日の出と共に棲家から出かけたニコラであるが、道に迷ってしまったのだ。偶然に会った仲間のルネのおかげで無事に辿り着く。
(「ルネさんにいいところ見せたかったけど、これじゃあ、逆だな‥‥」)
 ちょっと落ち込んでいるニコラの側に見送りのエレインが近づく。
「ニコラさん、ルネをよろしくお願いします」
 ルネに聞こえないように、エレインはニコラに耳打ちする。
「は、はい。任せてください」
 恥ずかしそうに答えたニコラの姿が可愛らしく、エレインはくすっと笑った。
「メルシアってベリムートの猫なのね。もうすぐ赤ちゃんが産まれるって聞いたわ」
 ルネは庭にアニエスと一緒に現れたベリムートに声をかける。両手を膝に当て、上半身を大きく曲げて。
「うん♪ 取りに行く鳥のスモーク肉だけど、メルシアの好物なんだ。手に入れてくれるって父ちゃんも約束してくれたんだよ」
「よかったね。お産に立ち会っていい?」
 ルネは帰りにもベリムート家に立ち寄る事にする。仲間もそのつもりのようである。
 準備が終わり、ベリムート夫妻とエレインに見送られて馬車は発車した。残念ながら一人の冒険者は来られなかったようだ。
 最初はアニエスが御者をし、しばらくしてルネと交代する。
「一人で手綱を握ってるのって結構寂しいですよ」
 アニエスは御者台のルネの横に座るのをニコラに勧めた。ニコラはルネの横に座ると唄い始める。

「♪メルシアの待つ あったかいおうちへ
 おいしい薫製もって いざ進め〜♪
 とりゃ〜♪ とりゃ〜♪」

 ニコラに続き、冒険者仲間もちびブラ団も唄い始める。
 山の小屋までの旅路は、とても楽しい時間であった。
 夕方に小屋へ到着すると、バムハットが待っていた。豪快な笑いと共に冒険者達とちびブラ団を迎えるのであった。

●薫製
 二日目の朝、一行はバムハットの誘いによってしばらく滞在する事が決まる。
 パリに運ぶ鳥のスモーク肉は木箱に詰められて用意されていたが、自家用の薫製作業をバムハットは続けていた。
 せっかくなので、みんなで手伝うのであった。

「長く持たせるには低い温度で薫製しなけりゃいかん。冬がいいんだが、山の夜の気温ならまだなんとかなる。時期が過ぎたら別のやり方に変えるがな」
 時々豪快に笑いながら、バムハットは作業方法を説明する。
 聞き終わるとそれぞれに作業を開始した。
「細かく細かく‥‥」
 アニエス、アウスト、クヌットは道具で木材を刻んで小さなチップにしていた。薫製に使われるのはリンゴの木である。
 朝早く起きた中丹が、遠方から運ばれてあったリンゴの木を薪割りしてくれていた。おかげでとても削りやすい。
 丸太を輪切りをした椅子に、切り株のテーブルの上で作業を行う。場所は木漏れ日が落ちる小屋の近くだ。
「シャシムおじ様はどうなさっているのですか?」
 アニエスが訊ねたシャシムとはバムハットの親戚である。たくさんの動物皮を寒さに震える人達へタダで分けたことがある人物だ。
「一ヶ月くらい前にはいたんだがな。運んでもらうスモーク肉の殆どは奴が獲ったもんだぞ。そういや、滞在中パリにまでいっていたな。この山じゃ危険なモンスターは滅多におらんが、シャシムの普段生活している所は結構いてな。最近はガラスの塊をモンスターが持ってるようになったらしくて、どんなモノなのか調べたんだと。ものすごくたくさんもっておったぞ。レミエラとかいってたな」
 アニエスはバムハットの話しを聞きながら汗を一筋たらす。どうやらシャシムはモンスターの徘徊する山で暮らしているようだ。しかもバッタバッタと倒しているらしい。
 テーブルから近くの場所では塩水に漬ける作業が行われていた。
 まずはルネとニコラが鳥肉を薫製しやすい形に包丁を切る。
「あ、あの‥‥この恰好は‥‥」
「いいのよ。とっても似合っているわ」
 ルネはニコラを自分と同じふりふりエプロン姿にさせていた。たまたまラムセスが持っていたのをニコラにもつけさせたのだ。可愛すぎて恥ずかしいので道連れにしたのである。
 ベリムートとコリルは二人が仕上げたお肉を木枠の上に並べてゆく。
 その頃、近くの小川には中丹とラムセスが水運びの為に桶を担いで訪れていた。
「カエルがおるんや‥‥」
 中丹は小川でまるまると太ったカエルを発見する。
 小川には食べられそうな大きさの川魚はいそうにもない。だが、カエルのもも肉は結構美味しいと噂で聞いていた。ノルマンのある地方ではごちそうの類にもなっている。
「中丹さん、いくデス」
「そっ、そうやな」
 ラムセスに声をかけられて中丹はハッとする。魚の薫製の代わりにカエルのもも肉をと一瞬考えたが、仲間やちびブラ団が嫌がるかも知れず止めておくのだった。
 ラムセスと中丹が汲んできた水は口の広い瓶に入れられる。
「ぐるぐるデス」
 バムハットが塩を入れると、ラムセスは長い棒でかき回す。さらにハーブの葉やワインも投入される。
 漬ける為の塩水が用意されると、鳥肉が並べられた木枠を順に沈めていった。重ねてゆき、最後には木板で瓶の口に蓋がされる。動かないように石も乗せられた。
 昨日のうちにバムハットが沈めておいた別の鳥肉が塩水から引きあげられる。汲まれた小川の水で塩抜きがされ、日陰に干された。虫がつかないようにと網がかけられる。
 昼間の作業はここまでで、後は夜に残された。
 遠くにいかない約束をしてちびブラ団と冒険者達は遊びの時間となる。一番はしゃいでいたのはラムセスのようだ。
 ニコラは竪琴を弾き、のんびりとしながらも周囲に注意を向けていた。
 ルネは花飾りをコリルと作り、ニコラの頭の上に乗せる。
 アニエスはオーラテレパスで馬車を運んでくれた馬達に話しかけた。帰りは重くなるのでがんばってねと。美味しそうな草のある場所に馬達を繋ぎ、犬のマルコに番をさせる。それからちびブラ団と遊び始める。
「見つけたんやで〜〜♪」
 中丹が山の奥からカゴを抱えて戻って来る。
「あ、野苺だ」
 クヌットがカゴを覗き込んだ。
 小川で冷やしておいて、みんなで仲良く野苺を頂く。
 夕食には鳥のスモーク肉と薫製チーズがテーブルに並ぶ。さらに温かいスープとパンが用意された。
 あっという間に平らげるが、まだ今日の仕事は残っていた。本番の薫製である。
 簡易の屋根がある野外で作業は行われる。
 干された鳥肉が並ぶ木枠を薫製の箱に入れられた。リンゴの木のチップに火が点けられて燻す作業が始まる。
 温度を上げず、煙だけを鳥肉にあててゆく。
「おとうさんと一緒の時はよくお魚を干して燻してたデス。時々薫製のお肉も分けてくれたデス。美味しかったデス〜」
「そうなんだ〜。あたしもスモークのお肉大好きだよ〜。とってもいい感じ〜」
 ラムセスとコリルは薫製談義に花を咲かす。
 ニコラが唄い始めて、みんなも声を合わせた。

「♪おいしくなれよ
 僕らの希望の薫製よ♪」

 ちびブラ団の四人は深夜になる前に眠くなった。アニエスがつき合い、一緒に小屋へ戻る。
 四人を毛布に寝かすと、アニエスは手を合わせる。フェアリーのニュクスもマネをする。
 そしてセーラ神に祈った。想い人の無事を願って。

「しばらくここで聴かせてね‥‥」
 切り株に座って竪琴を奏でていたニコラの側にルネが座る。
 星空の下で聴く竪琴は特に美しく感じられる。
「ずっと、遊ばずに見張りをしていたでしょ。がんばりすぎよ」
「好きでやってましたので‥‥。それに守りたかったっていうか‥‥」
 演奏の合間にルネがニコラに訊ねる。ニコラは顔を真っ赤にすると再び竪琴を奏でた。
 しばらく山には竪琴の調べが流れるのであった。

●帰り道、そして
 あっという間に時は過ぎ去る。
 五日目の朝、スモーク肉の箱を積んだ馬車は帰り道を駆けだした。手を振るバムハットにみんなが手を振り返す。
「いろいろと試したんやけど‥‥、ま、これをメルシアはんの土産にしとこーか」
 中丹は馬車に揺られながら薫製チーズを取りだす。食事の時、食べずに残しておいたものだ。
 ニコラはベリムートとメルシアについて話す。
「男はね、大事な女の子を守るために生きるんだよ。君はメルシアのナイトになって彼女を大切にしてあげないとダメだからね」
「わかったよ〜。でもさ、ニコラは誰のナイトなのさ」
 ニコラはベリムートに聞き返されてしまう。ルネをちらっと見てそのまま言葉を詰まらせてしまう。
 夕方にパリへ到着した馬車は、まず市場へ立ち寄る。
 スモーク肉の入ったたくさんの木箱を全員で下ろしてゆく。
「あの――」
 アニエスは木箱を受け取った商人にスモーク肉を買いたいと頼んだ。快く商人は多めに分けてくれる。バムハットにいえば買うといってもタダでくれただろうが、それでは悪いと考えたアニエスの優しさである。母と一緒に食べるつもりであった。
 市場の後、馬車でベリムート家を訪れる。
「母ちゃん、これ父ちゃんがくれた革袋と交換したスモーク肉。メルシアは?」
 家に駆け込んだベリムートは母親に訊ねる。
 母親によればメルシアの出産はもうすぐのようである。全員でベリムートの部屋を忍び足で歩く。
 大きめの木箱の中にメルシアは横たわっていた。
 ついに出産が始まり、全員が固唾を呑む。
 ニコラはメルシアを驚かさないように廊下で竪琴を手にして静かに唄う。
 羊膜がメルシアによって破られると、中からちび猫が現れる。
 全部で二匹が産まれた。どちらもメルシアによく似たブチ猫である。息もちゃんとしているようで心配はなかった。
 静かに部屋を出て、庭に到着してからちびブラ団の四人は喜びの声をあげた。
「これ、メルシアはんにあげてな。とってもうまいけどとっておいたんや」
 中丹はベリムートに薫製チーズを渡す。
「子猫、かわいがってあげてね♪」
 ルネは屈んでベリムートに声をかける。
「メルシアを労ってあげてください」
 アニエスはベリムートと握手をする。
「おかあさん、たいへんデス。がんばってほしいデス」
 ラムセスはちびブラ団の荷物を馬車から降ろしてあげる。
 ニコラはもう一度唄う。
「いのちがここに
 生まれ落ちる奇跡を 喜びを みなでわかちあおう
 すべてのはじまりは ここから
 願わくは 穏やかな明日を 暖かな未来を
 この旋律に乗せて 見守る者たちの想いが 母のぬくもりが
 君の元へ届きますように
 We Wish Your Happy Life. 」
 産まれてた子猫の事を思いながら詩は唄われた。

 馬車はベリムートの父親が返すので、冒険者達は徒歩でギルドを訪れる。
 報告のついでにバムハットがくれた役に立ちそうもないレミエラをギルド員に渡すと、別の品と交換してくれる。
 最後に別れの挨拶をし、解散する冒険者であった。