舞踏会の罠 〜アロワイヨー〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月02日〜06月09日
リプレイ公開日:2008年06月09日
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●オープニング
パリから北西、ヴェルナー領の北方に小さなトーマ・アロワイヨー領はあった。
トーマ・アロワイヨー領主となった青年アロワイヨーにはまつりごとの他にもう一つ悩みがある。
パリ近郊の森の集落で出会った娘ミラのことである。
ミラは冒険者達のおかげで無事にアロワイヨー家の親戚であるバヴェット家の養女になれた。これで家柄について文句をいう者は少なくなるはずだ。
バヴェット家の屋敷はトーマ・アロワイヨー領内ではなく、別の領内にある。ミラが移り住むとアロワイヨーと離ればなれになってしまう。そこで別荘宅がトーマ・アロワイヨー領内に用意される事となった。
バヴェット夫人は昔からアロワイヨーの事を気に入っている。二人の結婚が決まるまで、当分の間別荘宅でミラと過ごすつもりのようである。
トーマ・アロワイヨー領は復興の直中であった。
隣領のヴェルナー領からの支援を受けて立ち直りかけてはいるものの、まだまだ時間がかかる。一般の領民だけでなく、領主であるトーマ・アロワイヨーも同じ考えを持っていた。
そこに降って湧いたようなブランシュ鉱の発見である。鉱床は何者かに盗掘されており、アロワイヨー領主の許可を得た上で、ラルフ領主が派遣した冒険者が解決に向かっている。
まだ結果は出ていないが、トーマ・アロワイヨー領内でブランシュ鉱が採掘出来るのは紛れもない事実だ。
しかし、すでに問題が起きつつある。報告を受けたアロワイヨー以外にも、一部の貴族に情報が洩れていた。
ブランシュ鉱は魔法金属ブランの元になる。
ブランの価値は金の比ではなく、とてつもない富を生むものであった。
「なんだか、すごいわねぇ〜。アロちゃん、モテモテだわね」
バヴェット夫人は城の執務室でアロワイヨーに話しかける。
「茶化さないで下さい。バヴェット夫人」
アロワイヨーの声は聞こえるが姿は見えない。贈り物の山で机に座っているはずのアロワイヨーがすっぽりと隠れていた。
バヴェット夫人は大きめの箱をポイと投げ捨てて、アロワイヨーの顔を見つける。
「乱暴に扱わないで下さいね。わたしがいないうちに届けられたものです。全部、送り返しますので」
アロワイヨーは深くため息をついた。
ブランシュ鉱の鉱床が噂となり、今までよりもアロワイヨーのご機嫌をうかがう貴族が増えていた。
男は領内でのより高い地位を、女はアロワイヨーの妻の座を狙っているようだ。
「そういえば、アロちゃん。この間、女性を城の寝室に連れ込んでいたわよね? ミラに見つからなかったからよかったけど」
「あれは、既成事実を作ろうとした女性に忍び込まれたんです! まったく‥‥世も末だ」
アロワイヨーは頭を抱える。
「冗談はおいといて、困った状況ではあるわね‥‥」
面白がっている部分もなきにしもあらずのバヴェット夫人だが、アロワイヨーと養女に迎えたミラの事は心配である。
「そういえば、特別な舞踏会があるそうね?」
「ええ、何でも古くからの土地の伝統に関わる舞踏会のようで。こればかりはわたしも出席しなければなりません。ミラの服が間に合ってよかったです」
「婚約‥‥の発表はまだしたくないのよね? アロちゃんは?」
「ミラにはすまないのですが、もう少し領内が豊かになってからと考えています」
「殿方は変なところにこだわるのよね‥‥。ま、そういうのなら仕方ないのだけど、舞踏会を利用して企む輩もいるかも知れなくてよ?」
バヴェット夫人はアロワイヨーに注意を促す。アロワイヨーやミラが断れないような罠が仕掛けられるかも知れない。有り体にいえば、二人を引き裂く策略である。
「領主という立場ゆえに他の女性と踊らないわけにはいかないでしょうけど。かといってミラをほっとくのも問題だわ。こっちも事前の策を用意しとかないといけないわね‥‥」
バヴェット夫人とアロワイヨーは相談し、パリの冒険者に手伝ってもらう事にした。
一緒に舞踏会へ出席してもらい、アロワイヨーとミラを守ってもらう依頼だ。こういう場合、外部の者に頼む方がしがらみもなくてよい。
さっそくアロワイヨーは執事に依頼を出すように連絡をとらせるのであった。
●リプレイ本文
●トーマ・アロワイヨー領
パリを出発した冒険者達は二日目の夕方、アロワイヨーの城に到着する。
「来て下さったのですね」
冒険者達が通された城の部屋にはミラの姿があった。貴族の言葉遣いも立ち振る舞いも大分身についてきたようだ。
「お久しぶりですわ。まあ、こちらあの時の一着ですよね。素敵! 選んだ甲斐があったわね」
ミシェル・サラン(ec2332)はミラに挨拶をすると全身を眺める。普段着用のものだが、よく出来た品で若いミラを演出している。
「舞踏会があって大変だって聞いたよ。どんな感じなのかな?」
「それが‥‥」
明王院月与(eb3600)は舞踏会の詳しい話を聞こうしたが、ミラもあまり知らなかった。
「ガラフ・グゥーじゃ。城に入る前、城下の町を上空から眺めてみたが、旗のようなモノが多くの建物の入り口にかけられておった。あれも舞踏会の伝統にまつわるものなのかのぉ」
シフールのガラフ・グゥー(ec4061)は棚の上に座り、みんなと視線の高さを合わせた。
「舞踏会、参加者でいきます。ジャマする人、いるのですね」
エフェリア・シドリ(ec1862)は子猫のスピネットを抱えていた。
足音が聞こえてスピネットが耳を小刻みに動かす。間もなくドアが開いて、アロワイヨーとバヴェット夫人が現れた。
「助かります。舞踏会は明後日になります」
アロワイヨーが伝統について話し始める。
トーマ・アロワイヨー領は国教であるジーザス教白教義を基本としているが、昔からの風習が融合している部分があった。
その一部が出入り口に下げられる旗であり、また舞踏会である。
かつて6月に祭りが行われていた。今では形を変えていくつかの要素が舞踏会に採り入れられている。一言でいえば男女の求愛についてだ。
一組の特徴的なカップが用意され、一緒に呑んだ男女は互いに愛を受け入れた事になる。
あくまでお遊びであるが、実際に結婚した男女も多い。さらに領主相手となると話が変わってくる。
受け入れた場合は噂になるのは必定で、破ったとなると信用出来ない領主という評価が下ってしまう。領民と貴族、両方にだ。
受け入れなくても問題はある。隠れて行われたのならともかく、領主に求愛できるのは舞踏会という目立つ場だ。断られた場合、当人のみでなく一族の恥になりかねない。
よって普通ならば、そんな危険を冒す真似はしないのだが、ブランシュ鉱の発見によって妙な状況にある。焦った貴族の令嬢が一か八かの賭けに出る可能性は高かった。
「ふむふむ‥‥やはりのぅ〜。他にも婚姻に繋がりそうな仕来りはないのかの?」
ガラフは予見しており、さらに訊ねる。他には貴族同士の繋がりの確認などであって婚姻を示す風習はないとバヴェット夫人は答えてくれた。
この地の出身者ではないバヴェット夫人だが、長く貴族の当主をしているだけあってよく知っている。
「冒険者以外の肩書きがあったほうよいのですか?」
「今後もアロちゃんとミラと会いたいのなら止めておいた方がいいわ。城に何度か来たことがあるのなら、顔を覚えられていてもおかしくないし。アロちゃんの友人で、バヴェット家の客人として出席すれば表だって文句をいう者はいないはずだわ」
「わかりました。アロワイヨーさんとミラさんの近くにいるようにして守るのです」
エフェリアはバヴェット夫人を見上げてコクリと頷いた。
「あたいもそうするつもりだよ。主にアロワイヨーさんにつくようにする。合図はいくつか決めておかないとね」
月与はパリから買ってきたシュクレ堂のお菓子を取りだした。エフェリアがテレパシーを使うようだが、その他にも伝達手段はあった方がよい。エフェリアがテレパシーを使えない状況も考えられるからだ。
「合図はとてもいいわね。わたくしは給仕をして空中から監視するわ。運んだ飲み物の種類とか、鼻を触った場合とか、いろいろと決めておかないとね」
ミシェルは部屋のテーブルにあったペンを持ち、羊皮紙を広げる。
バヴェット夫人の意見を聞きながら合図が決められてゆく。それが終わるとガラフは作法について訊ねた。
「わしはミラ嬢ちゃん、いやこの城にいる間はミラお嬢様と呼ぶようにするかの。とにかくミラお嬢様専属の執事として振る舞うつもりじゃ。知識としてどうするべきか教えられるはずじゃて。してはならぬ事を教えて欲しいのじゃ」
ガラフの願いに答えて、バヴェット夫人は後で厚い本を貸してくれる。領地名は変わっているが、この地方について書かれたものだ。ミラは基本の貴族作法を大体覚えている。問題は土地それぞれの特色に合わせた応用がきくかどうかだ。
各所の根回しと行動にそった服が用意される。
舞踏会は四日目の夜であった。
●化粧室
広い城の庭にはいつもより多くのかがり火が焚かれていた。
トーマ・アロワイヨー領内の貴族のみならず、遠方からの来客もある。庭の一部にはたくさんの馬車も停まっていた。
送った招待状の数はこれまでと変わらないはずだが、古くから城で仕える者が知る限り、復興戦争後で最大の来客となる。
「これでいいわ」
月与は化粧室でミラの髪型を決めるてあげる。舞踏会に相応しい艶やかなドレス姿であった。
「踊りもちゃんと練習してきたのだけど、ちょっとドキドキ」
化粧室にはよく知る者しかいないので、ミラはくだけた感じで喋る。
「こう言う場は飲まれたら負けなんだって。ミラお姉ちゃんは綺麗だし、自信を持って。誰が何を言おうと、アロワイヨーさんはミラお姉ちゃんの支えがあるから真っ直ぐに前を向いて、領民の事を思って御仕事が出来るんだから」
「うん」
月与の言葉にミラは優しく首を縦に振る。
「スーさんは部屋に置いてきました。用意は大丈夫です」
化粧室を訪れたエフェリアは真っ白なドレス姿である。月与もお揃いの姿だ。さすがに戦闘装備での舞踏会出席は無理であった。
しばらくしてアロワイヨーが化粧室を訪れる。続いてガラフとバヴェット夫人も現れた。
「こういう事態になっていなければ、結婚式はまだだとしても発表の意味を込めて、ミラに求愛のカップを渡そうと考えていたんだ。でも今無理にやると、とてつもない反感を買ってしまう‥‥。我慢して欲しい」
アロワイヨーは頭を掻きながらミラに説明する。一度は唇を開くミラであったが、何も語らずに頷いた。
「お待たせしたわ。バヴェット夫人に頼まれて持ってきたの」
給仕姿のミシェルがトレイを持って化粧室を訪れる。
「ありがとう、ミシェルさん。アロちゃん、はい」
バヴェット夫人はミシェルからトレイを受け取った。そのままアロワイヨーに持たせると、トレイに載せられてあったワインを二つのカップに注いだ。
アロワイヨーはトレイの上に乗るカップを見つめるが、ミラを視線を移す。
「多くの人の前とはいかないけど‥‥、受け取ってもらえるかな?」
アロワイヨーが片手でトレイを支え、片方のカップをミラに差しだす。ミラはアロワイヨーの手に自らの手を重ねるように受け取った。
アロワイヨーは残ったカップを手に取る。
二人でカップのワインに口をつけるのを、冒険者達とバヴェット夫人は見届けた。
「さて独身の方々は男性と女性、別々の扉から会場に入らなければならないようじゃ。先に行って待っていようかのぉ」
ガラフは軽やかに化粧室から飛び去ってゆく。
「あたしもアロワイヨーさんを待っているね」
元気よく月与も化粧室を出る。
「わたしはミラさんと一緒に行きます。守ります」
エフェリアはテクテクとミラの斜め後ろに立つ。
「わたくしもミラさんと一緒に入りましょう。一族ですものね」
バヴェット夫人は扇子で自らを仰ぐ。
「あら、見とれちゃってたわ。戻ってフォローしますね」
ミシェルは急いで給仕室に戻ってゆく。
全員が舞踏会会場のある広間へと向かうのだった。
●舞踏会
「すごいのです」
会場に入ったエフェリアは、ミラ、バヴェット夫人と共に扉を通り抜けると、光景に目を見張った。
夜だというのに蝋燭が灯されてとても明るかった。天井からぶら下がる銀製のシャンデリアは特に眩い。
「それではバヴェット夫人、ミラお嬢様をよろしくお願いできますかのぉ」
待っていたガラフがミラに近づいた。
まずは周囲への挨拶だが、バヴェット夫人の紹介で順調に進んだ。早くにアロワイヨー達と合流したいが、ここは我慢のしどころである。
(「悪巧みをしているのです」)
エフェリアはこそこそと話している貴族の令嬢達に近づいた。子供だと油断をしているせいか、エフェリアがいても令嬢達は悪口を止めなかった。
殆どがミラへのやっかみである。アロワイヨーの恋人なのは、ばれていた。難しい言葉ばかりですべてを理解出来ないエフェリアだが、嫉妬が込められているのはわかった。
(「ミラさんが危ないのです」)
テレパシーでエフェリアはミシェルに応援を頼んだ。
「飲み物はいかがですか?」
「そちらに置いてくださる?」
ミシェルが空を飛んで飲み物を運んでくると令嬢達は一時的にお喋りを止める。ミシェルはいわれた通りにテーブルへ飲み物を並べた。
(「行動を起こす前に‥‥」)
ミシェルは一度飛び去った後で戻り、シャンデリアに隠れる。予め凍らせておいた胡桃の欠片を取りだすと、令嬢達の背中と服の間目がけて落とす。
「きゃああああっ!」
一人の令嬢に続き二人、三人と叫んだ。目の前にあったテーブルがひっくり返され、令嬢達のドレスを汚される。
「早く着替えた方がいいのです」
エフェリアが令嬢達の注意を引く。その間にミシェルは姿を消した。
その頃、アロワイヨーの方でも問題が起きていた。以前からしつこいマルピス爵につかまったのである。連れてきた娘をアロワイヨーと踊らせようと躍起になっていた。それだけならよいが、どうも求愛のカップに発展しそうな勢いである。
「あっ、ごめんなさい」
月与はわざとマルピス爵の娘にぶつかる。持っていた飲み物を零そうとしたが、さっと出た手に受け止められてしまった。
「大丈夫でしょうか?」
カップを受け止めたのはぶつかった相手でもあるマルピス爵の娘『カネース』だ。
カネースは笑顔で月与を立たせてくれる。思わぬ優しさに月与は戸惑った。
「あ、あの‥‥、ドレスの後ろにほつれた部分が。他の人に見付かったら恥ずかしいから今の内に‥‥」
小声で月与はカネースに伝える。父親のマルピス爵の許可を得てカネースは月与と共に一時会場を出た。カネースの侍女達もついてくる。
結果としてアロワイヨーは解放された。
「ミラ」
「アロワイヨー様」
ようやくアロワイヨーとミラは会場で出逢い、音楽に合わせて踊る。
ダイエットしてもへこまないお腹のアロワイヨーだが、踊りは達者であった。陰に隠れて練習したのが窺える。
ミラも懸命にがんばっているが、アロワイヨーもまた立派な領主になるべく努力をしていた。
その後、誘いがあってアロワイヨーは別の女性とも踊る。こればかりは公務の一つであり、誰も文句はいえない。ただカップの求愛だけは阻止すべく、冒険者達は注意を怠らなかった。
「アロワイヨー様、ご機嫌麗しゅう」
侍女達を引き連れた令嬢オリアがアロワイヨーに声をかけてくる。アロワイヨーと既成事実を作ろうとした女性だ。公にできないので不問にされた経緯がある。
(「カップを用意してる!」)
戻ってきた月与は侍女の一人が求愛のカップ二つを用意しているのを知った。すかさずテーブルに用意されていたシュクレ堂のお菓子を摘む。最大級の緊急事態を示す行動だ。
「おトイレ、どこです?」
エフェリアは令嬢に近づこうとしたが、侍女の一人にジャマをされる。案内するといわれ、そのまま会場の外へ連れて行かれる。
「飲み物はいかがでしょうか?」
「間に合ってますわ」
ミシェルが飲み物を勧めてもオリアは意に介さない。わざとミシェルはぶつかろうとするが、これも侍女に阻止されてしまう。
(「バヴェット夫人は、ああっ‥‥」)
月与はバヴェット夫人を探したが、がっくりと肩を落とす。オリアの侍女らしき者と一緒に遠くのテーブルで肉料理を食べていた。
オリア一行は自分達の行動が妨害されるのをわかっているようだ。それゆえの対策としてたくさんの侍女を引き連れているらしい。
(「はっ!」)
いつの間にか月与は侍女達に囲まれた。鉄壁の布陣である。舞踏会の場で乱暴な真似は出来ず、まさに八方塞がりだ。
「そのブローチ、もしかして一部にブランが使われているのではないかのぉ」
空中から舞い降りたガラフが少々強引ながらオリアに声をかける。アロワイヨーがすかさずガラフを紹介し、オリアは無視出来なくなった。
「もう、広まっているゆえ内緒にしても仕方ないので話すとするかのぅ。この領地でブランシュ鉱が見つかったのは事実のようじゃ。凄い話とは思わんか?」
「ええ、とてもよいお話ですわ。これでアロワイヨー領も豊かになるきっかけができましたもの。ところでアロワイヨー様‥‥」
「その通りなのじゃ、良く知っておられる。そもそもじゃが――」
ガラフは隙を作らず、延々と喋る。最初は黙って聞いていたオリアだが、徐々に顔が真っ赤に染まってゆく。
「アロワイヨー様‥‥」
小声でミラに呼ばれ、アロワイヨーがその場を離れる。
ガラフは喋り続けたままだ。
アロワイヨーがいない事に気づくと、オリアはさすがに探し始める。しかし再発見した時はもう遅かった。
舞踏会が終わったのだ。求愛のカップについても、行動する意味がなくなる瞬間であった。
●そして
六日目の朝、アロワイヨーとミラ、バヴェット夫人は冒険者達を見送った。感謝とお土産としてレミエラが渡される。
「女性を待たせてはいけないと思うわ。もう充分よ。どこから見ても立派な領主なんだから」
馬車の窓から投げかけられたミシェルの一言に、アロワイヨーはとても困った顔をしてからミラを眺める。ミラは口を手で押さえて笑っていた。
「カップの求愛は本当はいいものなのです。古くていいものなので、次はしあわせにつながるといいのです」
「その通りだよ。エフェリアさん」
エフェリアにアロワイヨーが頷いた。
「あと三時間くらいは余裕で話せたんじゃが。若いもんは堪えがないのぉ〜」
「また、わたしにも詳しく聞かせて下さい」
ガラフとアロワイヨーは握手をする。
「ミラお姉ちゃん、アロワイヨーお兄ちゃん、仲良くしてね。バヴェット夫人、健康に気をつけてね」
月与が手を振った。アロワイヨーとミラ、バヴェット夫人が手を振り返す。
馬車が動きだし、冒険者達はトーマ・アロワイヨー領を後にする。ルーアンで帆船に乗り換えて七日目の夕方、無事パリに戻るのであった。