【北海の悪夢】広き海に帆を張りて

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 18 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:06月06日〜06月18日

リプレイ公開日:2008年06月13日

●オープニング

 貴重な品が手に入る場所があったとして、欲する者が近くにいるのならば幸せである。
 だが往々にして離れている場合が多いのは、少々の人生を歩んだ者なら誰でも知っている。
 だからこそ、人は運ぶ。
 だからこそ、商売というものが成り立つ。
 広域商人『カーゴ一家』の若き女将『エリス・カーゴ(ez0015)』はノルマン王国のみならず、様々な土地を訪れて色々な品物を運んできた。
 主に海路であるが、客の要望があるのならば険しき山もいとわない。そんな彼女であるが、ここ最近市場に現れたばかりの、ある品に注目していた。
 レミエラである。
 天使の御業か、悪魔の誘惑かわからない代物だが、便利であるのは確かだ。
 便利な品ならば欲する者は必ずいる。ただし、近くにいるとは限らない。
 久しぶりにエリスは冒険者ギルドの出入り口をくぐった。奥の個室につかつかと入る。担当の男性ギルド員が急いで現れると、エリスは矢継ぎ早に事情を話し始めた。
「出たのよ、海坊主が。えっと、ウエイプスっていうのがここらの言い方だったかな? とにかく海から真っ黒なツンツルテンの巨人が現れたから、ウインドスラッシュで切り刻んでやろうとしたのよね。そしたら止め指す前に逃げちゃうのよ? そんなのないわよね? そう思うでしょ?」
「はっ、はあ‥‥」
「部下にはあたしが怖いから逃げたって笑われるし、散々だったわ」
「確かに‥‥、あの、机に足を乗せるのはおやめ頂けると‥‥」
 エリスは男性ギルド員の視線を辿るように俯く。椅子に座っていたはずだが、なぜか今は立ち上がって右足を机の上に乗せていた。
「あら、失礼いたしました。おほほっ」
 椅子の上にエリスは膝を揃えて座りなおす。
「冒険者ギルドなら承知でしょうけど、どこで手に入れたのかレミエラを使って悪さをするモンスターも現れだしたわ。ある冒険者真っ青の猟師が山で仕留めたモンスターから集めたレミエラをパリの事務所の方に持ってきたの。存在が確認されたばかりだっていうのに、たくさんあってね。それでちょっと部下に宣伝させたら注文が殺到! あ、冒険者ギルドもそういうレミエラ、集めていたっけ?」
 エリスに男性ギルド員が『はい』と答える。
「残念だけど、手持ちのレミエラはギルドには譲れないわ。品物が足りないぐらいだし。という訳で話しは戻すけど、今度帆船で回る航路にもウエイプスの出現個所が含まれるのよ。同業者の話だと、あたしが目撃した一匹だけじゃなさそうなの。少しぐらい襲ってきたって負ける気はしないのだけど、海だから潜られちゃうと簡単に逃げられてしまうのよね。だからお願いしたいのよ。一緒にウエイプスを一気に倒してくれそうな冒険者を」
「わかりました。そのような冒険者を募集致します」
「あ、今の言い方だと勘違いされるかな? 早くにウエイプスを発見してくれるとか、帆船の安全を確保してくれるとか、そういう能力に優れた冒険者も大歓迎よ」
「承知しました。日数はどの程度で?」
「それがね。いろいろな港に立ち寄って十二日程なんだけど、終着地はドレスタットにしたいのよ。つまり、パリには戻らない予定ね。報告はあたしがシフール便で送るから許可してもらえない?」
「構いませんが、どうしてそのような事を?」
「向こうの土地でもレミエラを集めてくれるように頼んであるの。少し時間がかかりそうなので滞在しようと思ってね。でも、なるべく早い時期にドレスタットの冒険者ギルドでパリ行き護衛の依頼を出すつもりよ。戻りたい方はそれに参加してもらえればいいと思うわ」
 エリスの話しを聞きながら、男性ギルド員は依頼書を完成させる。
「それではよろしくね♪」
 エリスは機嫌良く、冒険者ギルドを立ち去るのであった。

●今回の参加者

 ea1628 三笠 明信(28歳・♂・パラディン・ジャイアント・ジャパン)
 ea3000 ジェイラン・マルフィー(26歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea5297 利賀桐 まくる(20歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea7929 ルイーゼ・コゥ(37歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb9226 リスティア・レノン(23歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec0128 マグナス・ダイモス(29歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ec3299 グリゴーリー・アブラメンコフ(38歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ロシア王国)

●サポート参加者

ルミリア・ザナックス(ea5298)/ 諫早 似鳥(ea7900)/ ポーレット・モラン(ea9589)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ リーナ・メイアル(eb3667)/ 雨竜沼 たき(eb5454)/ ソーンツァ・ニエーバ(eb5626

●リプレイ本文

●出航
 一日目となる六日の朝、ルミリアとソーンツァ、アニエスに見送られて『ヴォワ・ラクテ号』がパリの船着き場を出航した。エリス率いるカーゴ一家の主力帆船である。
 カーゴ一家は他にも帆船を所有しているが、ヴォワ・ラクテ号は特にエリスのお気に入りだ。他の帆船はご多分に漏れず男の船乗りばかりだが、ヴォワ・ラクテ号はエリスに合わせて半数が女性であった。もっとも誰もが男顔負けの豪快な者達ばかりであったが。
「ちゃんとついて来てるだな‥‥」
 河童の黄桜喜八(eb5347)は船縁から揺らぐセーヌの水面を覗く。水神亀甲竜・オヤジとケルピー・タダシの影がうっすらと窺えた。甲板にあげても構わないのだが、なるべく二体には海中の様子を探ってもらうつもりである。
 河童とはいえ全ての海棲動物を知っている訳ではない。まだ知らない海坊主ことウエイプスに興味を持っていた黄桜喜八であった。
(「エリスさんの依頼を受ける事ができるなんて‥」)
 リスティア・レノン(eb9226)はマストの見張り台を見上げた。監視している二人のうち片方はエリスである。
 垂れるロープを使ってあっという間にエリスが甲板にまで降りてくる。
「水のウィザード、リスティア・レノンと申します。よろしくお願いいたしますね」
「あたしは風と雷ね。頼りにしてるわよ」
 のほほんと挨拶するリスティアの背中を軽く叩いてエリスが笑った。何かと魔法について指南を受けたいと考えるリスティアだが、エリスは忙しそうである。
 とりあえずフォーノリッヂで知った事をエリスに伝えておいた。ウエイプスに激しく船を揺らされる未来をリスティアは観たのだ。
「エリスはん、レミエラ運んどるって聞いたんやけど、どないな効果のもんなんや?」
 シフールのルイーゼ・コゥ(ea7929)は船縁へと舞い降りて座る。
「いろいろなものがあるらしいわ。一見役に立たないレミエラでも、まだ未知の使い道があるかもと押さえておきたい人がいるのよ。後でとんでもない価値のレミエラに化けるかも知れないってね」
 エリスは風向きを確認しながらルイーゼに答える。するとルイーゼは見せて欲しいと頼んだ。貴重な品なので見張りをつけていいのなら構わないと許可が出る。ルイーゼはさっそく船底の倉庫へと向かった。
 ジェイラン・マルフィー(ea3000)と利賀桐まくる(ea5297)は帆船の最後部で遠ざかるパリの街を眺めていた。教会の鐘の音がわずかに聞こえてくる。
「いずれはおいらも隊商や船を持ってカーゴ一家を超えるような商人になって見せるじゃん。それにはまず学ばないといけないじゃん」
「うん‥‥そう‥だね」
「だから、寄航先につくたび仕入れや販売の手伝いをしながら勉強するじゃん。商人道に終わりなしって感じだぜ」
「素敵‥よ。じぇいらんくん」
 帆船がどこにも寄らなくても海に出るまで二日かかる。途中でルーアンにも寄港するようなので、時間には余裕があった。少しの間は二人だけにしてあげた冒険者仲間と船乗り達である。
「マルフィーの旦那にウォーターダイブをかけてもらうのは決めてある。それに荷物袋は甲板に吊しておくつもりだ」
 グリゴーリー・アブラメンコフ(ec3299)は戦いになった時の自分の行動を仲間に伝えておいた。まずは三笠明信(ea1628)とマグナス・ダイモス(ec0128)に、次には甲板にいる仲間達も話しかけた。
「どっちも元気だぞ。オイラも泳ぎたい気分だ‥」
「そりゃいい。頼りにしているぞ」
 黄桜喜八と同じようにグリゴーリーも水面を覗き込む。ペット二匹とも気持ちよさそうに泳いでいた。
「ウエイプス退治、頼んだからね」
 エリスは船内に戻る途中で三笠明信とマグナスとすれ違い、声をかけてから階段を降りてゆく。
「無益な殺生は出来る限り、慎みたいのですが」
 マグナスは隣りで風に当たる三笠明信に話しかける。
「ウエイプスが何故、こんな所に出てきたのか自体が謎ですしね」
 三笠明信は腕を組んで遠くの空を眺めた。
 二日目の昼頃、ヴォワ・ラクテ号はルーアンに寄港する。レミエラ以外にも荷物の積み降ろしをし、翌日の三日目朝に出航した。
 昼過ぎにはセーヌ河口を通過し、そのままドーバー海峡を航海する。夕方には小さな港に寄ってわずかな積み込みの後で一晩を過ごす。
 四日目の朝には出航し、夕方に海辺の町の船着き場へと入港した。ジェイランはエリスの動きに注目し、何かとメモをとる。
 冒険者達は穏やかな海の状況に緊張感が途切れそうになるのを堪えていた。
 最初の事が起きたのは五日目の朝と昼の合間であった。

●ウエイプス
 海面の真っ黒な球形を発見したのは空中からヴォワ・ラクテ号の周囲を偵察していたルイーゼであった。
 赤く光る目を見てようやく巨大なそれがウエイプスの頭だと気がつく。ウエイプスは海に潜る。ルイーゼは大急ぎで船に戻り、状況を伝えた。
 ジェイランが仲間にウォーターウォークかウォーターダイブを付与してゆく。冒険者達は戦いに備えた。
 間もなく船の前方二十メートルの海面に再びウエイプスが姿を現した。巨体のせいでまるで間近にいるような錯覚に多くの者が陥ってしまう。
 エリスが指示を出して、衝突を避ける為に船の進路を変える。
 ウィザードのリスティアはウエイプスが魔法を唱えようとしているのに気がつく。すかさず自らも魔法を唱え始めた。
 偶然にもウエイプスとリスティアが唱えたのはアイスブリザードであった。ウエイプスの吹雪が船に届く前にリスティアの魔法が放たれる。
 激しい雪と風が巻き起こるが、結果として互いに消失した。その間に海中で待機していた水神亀甲竜がウエイプスに体当たりを敢行する。
 マグナスは甲板上のリスティアとエリスの護りとして待機していた。必ずしもウエイプスが一体とは限らないからだ。隙を見て襲われる可能性もある。
 三笠明信も様子を窺っていた。ウエイプスはデビルではなさそうである。
 揺れる甲板の上、エリスがウインドスラッシュを放つ。水神亀甲竜の攻撃と相まってウエイプスはバランスを崩し、水飛沫をあげながら海に倒れ込む。
 まくるはジェイランにかけてもらったウォーターウォークを活かし、疾走の術で海上を走る。ちょうどよい位置に陣取り、足を止めて弓を構える。矢が放たれ、ウエイプスの片目に突き刺さった。
 ウエイプスは手足をばたつかせて海へ潜る。
 海中では黄桜喜八と大ガマの術で出現したガマの助がウエイプスに攻撃を仕掛けた。水神亀甲竜も二度目の体当たりを敢行する。ケルピーも泳ぐ速さを活かして蹴りを喰らわせた。
 グリゴーリーが海中の水神亀甲竜の背中を足場にする。剣を大きく振りかぶってウエイプスに一撃を喰らわせた。
 ウエイプスは藻掻くと一目散に逃げだす。その速さは十二メートル程の巨体に似合わずに異常なもので、ケルピーがようやく追いつける程のものだ。
 ウエイプスは深く沈んでゆく。ケルピーに掴まって追いかけた黄桜喜八であったが、途中で諦めて引き返す。
 エリスは戻ってきた冒険者達に感謝するが、悔しさも滲ませる。この海域をもう一度通らなければならないので、その時こそよろしくと冒険者達に頼んだ。矢については補充するので遠慮なく使って欲しいとまくるに笑顔で伝える。
 三笠明信とマグナスはエリスに訊ねられると退治とは違って撃退する考えを言葉にした。
 エリスはウエイプス退治について、依頼書にはっきりと明記されていたはずだと返事をする。冒険者それぞれに立場はあるだろうが、依頼人エリスとしての意向を今一度宣言した。『ウエイプスが襲ってきた場合、その場で退治するのが今回の依頼』だと。
 船乗り仲間の噂として、ドレスタットでデビルに関していくつか依頼が出されたのもエリスは把握している。北海の様子がおかしい事もだ。かといってカーゴ一家出来る事は少なく、強いていうのならウエイプス退治もその一部といってよい。
 大規模なデビルの暗躍を阻止するのは、広域商人の仕事ではなく、国や領主の仕事だとエリスは話した。
 ジェイランは船がウエイプスに近づいた時、テレパシーで会話を試みた事を話す。それなりの知能はあるようだが、かなりの悪意が窺えた。説得に応じる様子はなかった。
 ちょうど良い機会だと、ルイーゼは輸送しているレミエラについて報告する。物と融合させるにはかなりの時間が必要であり、大雑把な調査であるのを断った上で結論をいう。少なくても今回運ぶレミエラの中に、モンスターを引き寄せるようなものは存在しなかったと。
 その後の航海は順調に続く。六日目の夕方に大きな港町に寄港した。
 取引の都合上、丸一日の余裕があるので、冒険者達は船乗りの一部と町に繰りだす。その時にウエイプスの噂を聞いた。三体同時に見かけられたのが最大のようだ。もう一つ、満月となる十五日の深夜になると海が荒れる噂も耳にする。
 八日目から九日目にかけては小さな港に立ち寄っては移動するのが続く。
 十日目はウエイプスと戦った海域を通り過ぎる事となる。奇しくも、その日は噂の十五日であった。

●三つの黒き敵
 十日目にヴォワ・ラクテ号が襲われた状況は五日目と似ていた。ただし襲ってきたのは同時に三体であった。
「話し合いは無理ですか‥‥」
 船に覆い被さるように海中から現れたウエイプスAとマグナスが対峙する。傾く船縁に足を引っ掛け、ウエイプスAの脇腹に大きく振りかぶってファキールズホーンを食い込ませた。呻き声をあげてウエイプスAは一旦船から退く。
 大きく揺れる甲板でウィザード三名は体勢を立て直した。
「まくるちゃんの為にも負けられないじゃん!」
 ジェイランはスクロールを片手にライトニングサンダーボルトを唱える。
「今度こそ!」
 リスティアはマストに背中を預けながらアイスブリザードを放った。
「斬! 斬、ざぁ〜ん!」
 エリスは自らが使える最大限のウインドスラッシュを放つ。
 魔法詠唱途中でウエイプスAは攻撃を受けて怯んだ。第二段、第三段と順に放たれる三名の魔法攻撃はウエイプスAの体力を奪ってゆく。
 朦朧としたウエイプスAが海中に逃げようとした瞬間、エリスのウインドスラッシュがウエイプスAの額に深い傷を刻み込んだ。
 ウエイプスAは力無く海面に浮かび上がり、最後には微動だにしなくなる。
「どうしても帆船を狙うのですか。あなたの背後にデビルは――」
 三笠明信はウォーターウォークで海面に立ち、ウエイプスBの攻撃を受け流していた。
 魔法が切れる寸前、三笠明信は船へと戻る。護衛に回り、ウィザード三名にウエイプスBを任せた。
「こっち‥‥だよ‥」
 まくるはウォーターウォークで海上を移動し、ウエイプスBを翻弄しながら時折矢を放った。
 その間に再準備を整えたウィザード三名はウエイプスAと同じく、Bにも連続した魔法攻撃を行う。結果、一気に仕留められる。
 同時刻、ヴォワ・ラクテ号から離れた位置でも戦いが繰り広げられていた。
 グリゴーリーと黄桜喜八が海中で、ルイーゼは空中からウエイプスCと激しいやり取りを交わす。
「海の長と戦うのは気がひけるのやけど‥‥堪忍どすえ」
 ウエイプスCは自分の右腕から声が聞こえて驚きの雄叫びをあげる。ルイーゼが使ったヴェントリラキュイであった。
 ルイーゼはレミエラで攻撃範囲を拡張したライトニングサンダーボルトを真下に放つ。
 衝撃に耐えられずにウエイプスCが潜ると、今度は黄桜喜八とグリゴーリー、そしてペット等が待ちかまえていた。
 前の戦いと同じ失敗を繰り返さない為にロープをウエイプスCの足に絡ませてある。完全に泳ぎを封じた訳ではないが、逃げ足は遅くなったはずだ。
(「オヤジ、がんばってくれよ‥‥」)
 黄桜喜八はガマの助と共にウエイプスCを撹乱する。ケルピーのタダシも速度を活かして、ウエイプスCを蹴っては離れるを繰り返した。ウエイプスCの体力を奪ってゆく。
 水神亀甲竜のオヤジは体当たりでウエイプスCと戦った。
 魔的の身体は体当たりに有利で、なおかつ水系魔法がまったく効かないオヤジは、ウエイプスの天敵といえる。
 オヤジの背中を時々借りているのがグリゴーリーであった。すでにウォーターダイブは切れていたが、水泳は得意で肺活量にも自信がある。河童の黄桜喜八ほどではないにしろ、海中は得意なグリゴーリーだ。
 オヤジの背中を足場にして、グリゴーリーは力一杯にクリーチャースレイヤーをウエイプスCに叩き込んだ。
 瀕死のウエイプスCが海底まで潜ろうとする。
 黄桜喜八が言い聞かせたタダシにグリゴーリーは掴まった。タダシは急速潜行する。
 追いついたグリゴーリーは不安定な体勢ながら一撃をウエイプスCに決めた。黄桜喜八も追いつき、槍でウエイプスCの喉元を突き刺した。
 ウエイプスCの身体から力がなくなり、ゆっくりと海面へと浮かび上がった。完全に仕留めたのである。
 グリゴーリーと黄桜喜八が海面から顔を出すとルイーゼが近づく。もう二体のウエイプスが倒された事を伝えてくれた。
 全員が船に戻り、傷ついた冒険者達は薬で治療を行う。
 グリゴーリーはウォーターダイブのお礼だといってジェイランにソルフの実を渡す。ジェイランは一つ使っていたので相殺される。
 ウエイプスの死体は調べられたが、何らかの意味を示す物などは見つからなかった。
 その日の夜、海が荒れて、冒険者達は噂を思いだした。
 翌日の十一日目、津波によって破壊された海岸線を発見する。
 ヴォワ・ラクテ号が航行する場所は北海といってよい海域である。悪い予感が船に乗り込んでいる全員の脳裏を過ぎるが、今は為す術はなかった。

●ドレスタット
 十二日目になり、ヴォワ・ラクテ号は無事ドレスタットに入港した。
「なんだかんだあったけど、ウエイプスを倒してくれて助かったよ」
 ドレスタットの船着き場でエリスは冒険者達に感謝する。追加の謝礼と、冒険者ギルドで交換してきたレミエラを一人ずつ手渡した。
「パリに戻りながらの依頼は、そんなに間を空けずにドレスタットのギルドに出すつもりよ。よかったらお願いね」
 エリスは手を振るとヴォワ・ラクテ号に戻る。
 冒険者達はドレスタットの町へと姿を消したのだった。