物資搬送護衛 〜生き残りのデュカス〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月02日〜01月07日
リプレイ公開日:2007年01月10日
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●オープニング
「いやーめでたい。めでたい時にはこれに限りますな」
青年ワンバにデュカスは酒を注がれる。真夜中、珍しく住まいで酒を飲むワンバにデュカスはつき合わされていた。
「いや、ぼくはもう‥‥」
なみなみと注がれたカップの酒に、顔の真っ赤なデュカスは困惑した。
「せっかくの聖夜祭や。パッといきまひょ」
ワンバは手酌で注いではカップを一気に空ける。
「ほんとは外に連れだして飲まそうと思いましたが、ここなら酔いつぶれても平気ですし‥‥。いろいろと情報を得るには酒は慣れておかないといけませんで。例えば復讐相手の盗賊『コズミ』なんかのもね」
とろけていたワンバの顔が真面目になった。
「ワンバ‥‥」
デュカスはワンバの心遣いに感謝しようとする。
「なんてね〜いつもいってる酒場のねえちゃん誘ったら見事フラれましてね。もう二度とあの酒場いかれへん。しもたわー。そんな事ならカウンターの色っぽい方に声かけといたらよかったわ〜」
再びワンバがおちゃらけ全開に戻ると、デュカスは顔を引きつらせながら食べ物を口にした。
二人の席は続いたが、ワンバはそれ以上酒を勧める真似はしなかった。ワンバの一線の引き方で二人はうまくいっていた。そうでなければ年齢、性格、趣向も違うのだからとっくに仲が悪くなっているはずである。
「うなされるの、なくなった訳じゃあありませんが、少なくなりましたな」
「そうみたい。夢見るの少なくなったせいじゃないかな」
「そりゃよかった。それなら集団で寝ても、まあ平気でしょうな。なら、いい話ししましょか?」
「なんです?」
「フラれた時、市街を散歩してたら冒険者ギルドがありましてね。立ち寄ってみたんでさあ。そしたらある地方に物資を届ける一団の護衛が大々的に募集されてましたわ。どうやら盗賊や野盗を警戒しているらしい」
「もしかしてコズミが?」
「いやいや、世の中そんなに都合よくはないと思いますで。襲われたとしてもコズミでない可能性がはるかに高い。ただそういう募集に集まる連中でしたら、盗賊の情報も持っているかも知れへん。狙い目はそこや。そして襲われたなら盗賊や野盗のやり口を知る事ができるって寸法や。一石二鳥作戦どないです? 参加してみたら?」
デュカスはワンバに頷くのであった。
翌日、デュカスは冒険者ギルドに立ち寄った。ワンバのいう通り大規模な物資輸送の護衛依頼が貼られていた。
デュカスは受付の所に足を運ぶのであった。
●リプレイ本文
●一抹の不安
護衛依頼の初日、デュカスは集合地点となるパリの中心から外れた空き地に赴いた。物資輸送用の6頭立て馬車が8両、その他5両の計13両が並ぶ様子は圧巻だ。
デュカスは1から4まである護衛隊の内の3番隊に配置されていた。大きく3と書かれた馬車前を遠くから眺めると、すでに一緒に行動する仲間の姿がある。近づいて挨拶を交わすと今いる者達でひとまずのこれからを決める事になった。
「私達の3番隊は魔法使いが多いですね。睡眠時間が欲しいので早めか朝方の時間の見張りが良いですね」
アヴリル・ロシュタイン(eb9475)は背筋を伸ばして礼儀正しい。
「そうですね。昼間の休み方にも関わりますし、夜の見張りは隊の持ち回りがよいでしょうか。アヴリルさんの意見を、ぼくでよければ後で他の隊に伝えておきます」
デュカスは頷いた。
「休む際は馬車の中で休ませて頂こうかと思っておりますが、皆さんはどうするおつもりですか?」
柊冬霞(ec0037)は全員の顔を眺めた。
「寝床は馬車の中でいいのだわ」
ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)はお見送りのアレーナと一緒に馬車へ手荷物を載せながら話す。シフールは普段から身軽の方がなにかと都合がいいからだ。
「ぼくはとにかく前衛を努めます」
ジョネル・ジョルジョーネ(eb9602)は胸を張る。
「なら、わしは前衛の後ろで距離を置いて戦うのがいいかのう。呪文の射程が長くもあるからそれでいいじゃろう」
イヴァン・ロゾコフ(eb9788)は御者の座る場所で足を組んでいた。
「――我らが心一つにするなら、近づく悪漢は何もせずとも体引き裂かれ――」
出発の前に護衛に関わるすべての者が集められていた。木箱の上で演説を行っているのは、今回の物資搬送の責任者、チョビ髭のフー護衛隊長である。酔っぱらっているせいか、顔は既に真っ赤で手足も泳ぎ、よろめいていた。
「あんな口だけ野郎に任せるなんて村の長もどうかしている」
デュカスの隣りで呟く青年がいた。これから物資を運ぶ村からやってきた1番隊の者である。
「3番隊のデュカスといいます。今の話、詳しく教えてくれませんか?」
デュカスの問いに1番隊のカローは答えてくれた。フーは上に取り入るのがうまいが実務はお粗末な奴なのだという。昨今の混乱から備蓄をさらに強化するのはよいが、何故重要な任務にフーを選んだのかとカローは不満たらたらだ。
「何かあればお力を貸しますので」
「こちらこそ。お互いに助け合いましょう」
長いだけの演説が終わった後でデュカスとカローはそれぞれの馬車へと戻るのだった。
「ムージョさん、どうかご壮健で!」
動きだした3番隊の馬車に向かってアレーナがヴァンアーブルに手を振る。演説のおかげで予定からかなり遅れての出発であった。
もう一人、3番隊には来るはずだったのだが、何かしらの理由で無理だったようだ。デュカスは遠ざかるパリの街並みを鞘に収まる剣を握りながら見つめていた。
道幅からいって馬車二列になるのは無理であった。仕方なく馬車の隊列は長く続いていた。所々に雪が積もっているが、進行に問題はない。
1番隊の馬車を先頭に護衛隊長他お付きの者が乗る馬車が続く。そして物資輸送用馬車が4両の後で、2番隊の馬車、3番隊の馬車、そして再び物資輸送用馬車が4両、最後に4番隊だ。
1番隊の馬車はこれから向かう村の者から選ばれた護衛隊である。2番隊は風体が悪い者達に溢れていた。噂によれば護衛隊長補佐が無理矢理参加をねじ込んだという。3番隊は冒険者ギルドから集められた護衛隊だ。4番隊は女性ばかりの護衛隊だが、デュカスが聞いた話しによればかなり有名な傭兵集団なのだそうだ。
パリを出発してから3時間が過ぎるともう日が暮れだす。そろそろ野営の準備をしなければならないが、予定をこなす為にもうしばらくは走り続けるのだろう。
アヴリルは目を覚ますと、暗くなった外を馬車から眺める。
「考えすぎかも知れませんが‥‥盗賊の仲間が護衛に紛れ込んでいるかも知れませんので。ご注意をお願いしますね」
アヴリルの言葉に全員が頷いた。出来る限り夜起きていられるように、アヴリルは先に休んでいたのだ。もちろん他の冒険者も見張りは行うが、アヴリルには別の行動をデュカスは願っていた。アヴリルは2番隊監視の専門である。
デュカスが全部の隊に挨拶をしにいった所、2番隊の全員は酒をかっくらって寝ていた。その前には隠れて貨物の中身を調べていたのも見かけている。デュカスは脳裏から2番隊と盗賊との繋がりを拭い去る事が出来なかった。
夜遅くになって馬車の進行は停まる。
簡素な食事は終わり、3番隊は馬車の近くで焚き火を囲んでいた。イヴァンは眠る時、寒いので毛布を仲間から借りる。
近くで2番隊も焚き火を囲んでいるが、酒はやっていないようだ。剣を抜いて手入れをしている者もいた。
「仕切るつもりはないのですが、盗賊が来襲した場合の行動を教えて頂けますか?」
デュカスが一人一人を見つめながら話す。
「皆様が大きな怪我などなさらぬ様、リカバーを使っていきますね。もし余裕があるようでしたらコアギュレイトで直接援護も可能です」
柊は両手をつきだして焚き火で暖まる。
「貨物の荷台の中で待ち伏せをして、高速詠唱とスリープで襲撃者をばったばったと眠らせてしまうのだわ」
ヴァンアーブルは頷きながら答える。
「私は前衛に立って敵の混乱を誘うような回避重視の戦い方で、他の方の援護をしたいと思います」
アヴリルは同じ前衛であるデュカスとジョネルを順に見つめた。コズミの事でデュカスが無茶するかも知れない。そうならない様にアヴリルは守りたいと思っていた。
「任せて下さい」
ジョネルは自らの胸を叩く。
「ライトニングサンダーボルトで黒こげじゃ」
イヴァンはにやりと笑う。
「みんないろいろ考えているのですね。それはそうと、隊での見張りとは別に今夜、やっておきたい事があるのですが手伝ってくれますでしょうか?」
デュカスは詳細を告げる。返事の言葉はまちまちであったが、全員が手伝ってくれるのが決まった。夜も更けてきた頃、行動は開始されたのだった。
●来襲
翌日になり、馬車の一群は目的の村を再び目指していた。
デュカスは夜のうちに1番隊と4番隊まで出向いて協力を求めた。アヴリルのおかげで2番隊が画策している証拠を手に入れたのである。朝方、2番隊の一人が野営地を離れて誰かと連絡をとっていたのである。盗賊とは限らないが、何者かと密通しているのは確かだ。
まずはフー護衛隊長と護衛副隊長に余計な事をさせない為に酔い潰す作戦を4番隊の何名かが行う。女性ながら4番隊は浴びるように酒を呑んでもびくともしない剛の者達だ。チョビ髭抜いてやるとかいって豪快に承諾してくれた。今頃、フーは真っ昼間だというのに爆睡している頃だろう。
1番隊には本来の護衛をより強くお願いした。冒険者の3番隊は少しの間だが、2番隊にかかりっきりとなる。4番隊もメンバー数人は手が離せないかも知れない。
「来ましたのだわ」
空を飛んでいたヴァンアーブルが森に隠れる一団を発見して報告する。そのまま2番隊の馬車の屋根に乗って聞き耳を立てた。ヴァンアーブルが両手を振る。奴らの会話が盗賊を示すなら使われる合図だ。
ジョネルが馬車を飛び移って2番隊の御者の背中に取り入る。2番隊の馬車が隊列から外れた。3番隊の馬車から下りたイヴァンとデュカスが、夜の内に取りつけておいた閂に板を通す。
3番隊につけられていた鐘をアヴリルが鳴らした。賊の襲来した合図であった。
「この野郎!」
気がついた2番隊の一人が窓から剣でデュカスを狙っていた。
併走していた3番隊の馬車から柊がコアギュレイトで敵の動きを止める。デュカスは柊に礼の視線を送った。
2番隊の馬車が中の裏切り者達を閉じこめたまま、森の奥に消えていった。
2番隊の馬車が木にでも衝突したのであろう音が響く。それを合図にするかのように盗賊が来襲する。
デュカスとイヴァンは貨物の馬車に乗り込む。
盗賊は馬から貨物の馬車に飛び乗ろうとしていた。
デュカス、アヴリル、ジョネルは剣技を持って盗賊達を振り払う。柊はいつでも補助できるように前衛につかず離れずにいた。
ジョネルが正面から盗賊に立ち向かってゆく。アヴリルは敵を引き離すように足場を選んで立ち回った。
ヴァンアーブルは次々と盗賊を眠らせる。当然、支えのない盗賊は揺れる貨物の馬車からずり落ちてゆく。
突然現れた盗賊の馬車が狭い道幅なのに貨物の馬車と併走する。大量の盗賊が貨物の馬車に移ろうとしていた。
「借ります!」
「待って!」
デュカスにアヴリルは待ったをかけるが聞きはしなかった。3番隊の馬車を牽く内の一頭はアヴリルの馬である。デュカスはアヴリルの馬の金具を外す。そして馬を駆り、盗賊の馬車に近づいた。
デュカスは貨物の馬車に移ろうとする盗賊を払う。しかしあまりの人数に手を焼く。
弓を構える二人の盗賊がデュカスを狙う。
デュカスが覚悟を決めたその時、空気を震わす轟音と同時に雷が盗賊が乗る馬車を襲う。盗賊の馬車は道沿いの大木にぶつかって大破する。盗賊達も風に吹かれた藁のように転げ落ちていった。
アヴリルがイヴァンの盾となり、魔法詠唱の時間を稼いだ。二人のおかげでデュカスは命拾いをしたのだった。
「えーあっと、イタタタッ。アタマがガンガンする。護衛副隊長? どこ行った! 副隊長!」
目覚めたフー護衛隊長は馬車の中で叫ぶ。一緒にいたはずの護衛副隊長の姿はなく、三名のお付きの者が寝ているだけだ。いたはずの4番隊の色っぽい女性達は消えている。
フー護衛隊長は頭を抱えながら外に出ると見覚えのある風景が広がる。既に物資搬送の一団は目的の村に到着していた。
●そして
三日目は物資を降ろす作業に費やされた。
最初、フー護衛隊長はいなくなった2番隊が犠牲になったおかげで盗賊を撃退出来たと勘違いして涙する。だが護衛副隊長が逃げた事と盗賊の繋がりを指摘されて、やっと真実を受け入れた。
四日目の朝になり、一団はパリを目指した。荷物は何もなく、襲われる可能性は皆無である。
1番隊のカローと4番隊の女性リーダーによれば、デュカスの探す仇である盗賊『コズミ』は実体のない集団だという。いくつかの盗賊団同士が共闘する場合のみに使われる合い言葉のようなものらしい。ただ、その名もコズミと呼ばれる人物が中心になっているのは確かなのだそうだ。
「あんたの顔‥‥どこかで見たような」
コズミの一派と戦った事のある4番隊の女性リーダーがデュカスの顔をまじまじと眺めた。部下にいつもそういう男の口説き方をしているのかとからかわれる女性リーダーであった。
5日目、広い馬車の荷台にデュカスは座っていた。道沿いには12月の厄災によって破壊されたのか、放置されたままの家も見かける。
「残念でしたね」
デュカスを真ん中にアヴリルと柊が座る。
「コズミではなかったのは残念です」
アヴリルのはっきりとした口調には心配のかげりも混じっていた。
「少しコズミについてお話してもらえますか?」
柊が訊ねるとデュカスは過去を話す。約一年前、生まれ育った村がコズミという盗賊集団に襲われて全滅の憂き目にあう。たまたま難を逃れたデュカスは、助けたワンバという青年と一緒にパリに辿り着いた。殺された両親と弟の復讐を誓い、現在は修行と同時にコズミを追っていると告げた。
「辛い思いをしましたね‥‥デュカス様の心の傷は私の魔法で直して差し上げる事は出来ません」
柊は少しうつむき気味だ。
「それに憎しみの為に復讐する事が良い事だとも思いませんが、私はデュカス様が良い道を選ぶ事が出来る様祈っております」
「無茶をしない様にしてください。前にもいいましたが復讐だけに囚われず己を大事にしてください」
柊とアヴリルの言葉はデュカスの心に染みる。
「デュカス!」
前方の馬車にいるイヴァンが放り投げたワインの容器をデュカスは受け取る。
「あのチョビ髭隊長が礼としてワインを分けています。土産にも一本あるみたいです」
ジョネルが叫んだ。
「渡すのだわ」
柊とアヴリルには飛んできたヴァンアーブルがワインの容器を渡してくれる。乾杯をかけ声にして全員がワインを口にする。パリはもうすぐであった。