エテルネル村のお店 〜デュカス〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 97 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月20日〜06月30日

リプレイ公開日:2008年06月27日

●オープニング

 パリから離れた地にある真夜中のエテルネル村。
 家屋で休んでいた青年村長デュカスは、ベットから上半身を起きあがらせる。窓の戸の隙間から月光が差し込んでいた。
「計画より早いが、パリにお店を持とう‥‥」
 デュカスはかねてよりの考えに決断を下す。
 これまでエテルネル村や森で得られたものを荷馬車などで輸送して市場で売ってきた。だが村人の頑張りや、冒険者達のおかげで農作物を始めとする収穫物もかなり増えている。店舗があれば、ブタの飼育を通じて知り合ったアデラの畑の作物もより多く扱えるようになるはずである。
 翌朝、デュカスは一緒に住んでいる弟のフェルナールと青年ワンバに相談をする。そうすべき時期だと二人は賛成してくれた。
 数日後にあった集会でも、特に反対する村人はいなかった。
 それからしばらくデュカスは行商でパリを訪れる度に物件を探し回る。
 ようやく探しだした店舗は、古くはあるが石造りのしっかりとしたものだ。店舗部分とは別に倉庫として使える広めの部屋と、狭いながら地下室もある。
 具体的にどう運営するのか、デュカスは思案の末に決める。
 店舗の責任者は住み込みでワンバにやってもらう。商売においてワンバ以上の人材はエテルネル村にはいない。
 ワンバの補助として従業員一名を新たにパリで雇う。
 エテルネル村やパリ近郊にあるアデラの畑などから品物を運ぶのは村の女性クラーラともう一人若い村人から選ぶつもりだ。当然デュカスも手伝う。夏場に肉を運ぶ時はクラーラのアイスコフィンが頼りであった。
 フェルナールについては特に悩んだが、村に残って物作りに専念してもらう事にする。壊れたたくさんの馬車や荷馬車を修理したことにより、フェルナールはより本格的な技術を身につけていた。
 ある日、デュカスは冒険者ギルドを訪れて依頼を出す。
 店舗の掃除から始まって、開店初日までを冒険者に手伝ってもらう内容であった。

●今回の参加者

 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb9782 レシーア・アルティアス(28歳・♀・ジプシー・エルフ・ノルマン王国)
 ec0037 柊 冬霞(32歳・♀・クレリック・人間・ジャパン)
 ec4061 ガラフ・グゥー(63歳・♂・ウィザード・シフール・ノルマン王国)

●サポート参加者

呀晄 紫紀(ec1369

●リプレイ本文

●店舗
「ここが旦那様の望まれたお店なのですね」
 柊冬霞(ec0037)はロバ・ボネールを連れてパリの街角で建物を眺めていた。
 パリから馬車で二日かかる所にエテルネル村はある。主にそこで穫れた物を売るのがこれから出来上がるお店の役目であった。
 少々古びているが、手入れをすれば見栄えもそれなりになりそうだ。冬霞はさっそく扉を開けて店内に入る。すでにデュカスとワンバの姿があった。
「やあ、冬霞。ここがうまくいけばエテルネル村も恰好がつく。今は村全体で共同生活をしている状態だけど、それぞれの家族が独立した上での生活に変わってゆけるはずなんだ。本格的な村への一歩なんだよ‥‥」
 説明するデュカスはとても嬉しそうで、冬霞も笑みが零れだした。
「手伝いにきたのだぁ〜♪」
 次に扉を潜ったのは玄間北斗(eb2905)だ。挨拶を終えるとさっそく店内を見て回る。フロアは広くてバックヤードとなる倉庫もあった。地下室に関しては店長ワンバの住居となる予定である。
「ほう〜。ここをお店にしなければならないのじゃな」
 ガラフ・グゥー(ec4061)がシフール専用の小さな扉から店内を訪れた。
 まだ商品を並べる棚や、客とのやり取りをするカウンターなどが設置されていない。それらを作るための木材は倉庫に積まれているが、他には何もないといってよかった。
「やっほー♪」
 レシーア・アルティアス(eb9782)は扉を開けて小さく手を振った。
「デュカス店主とワンバ店長ねぇ‥‥似合わないやね」
 二人に近づいたレシーアは顎に右拳をあてて、くすくすと笑う。
「そういわはんと。やってる間に板につくはずですわ〜。行商では訪れてはいやしたが、長いこと村での生活やったし。パリもいいもんですな」
 ワンバが笑いながら答える。
 初日のみだが呀晄も手伝いに駆けつけてくれる。冬霞がジャパン語の挨拶を通訳する。
 全員が集まったところで、これからの予定がデュカスから話された。
 まずはフロア内の掃除と建物外観の修理である。箒や水を汲む為の桶、雑巾など一通りの道具は揃っていた。
「旦那様、ちょっとよろしいですか? ワンバ様の事なのですが」
「ワンバの事?」
 冬霞とデュカスはフロアの壁に水をかけて縄を丸めたもので汚れを擦り落としながら話しを続けた。
 新たに雇う店の従業員についてだが、なるべくワンバと仲良くやっていけそうな女性がいいのではと冬霞は伝える。
「ワンバ様はまだ昔の事を引きずっているのかもしれませんが‥‥そろそろ自分の幸せを考えても良いと思います」
「そうだな。本人達次第だけど、なるべくそういう女性を選ぶようにするよ。面接は明後日にまとめてするつもりなんだ」
 デュカスに冬霞がコクリと頷く。
「さてと、あたしも壁磨きをやろうかねぇ」
 レシーアは呀晄と大きめのゴミをフロアから運びだすと丸めた縄を手にする。床は後から来るフェルナールが棚作りをして、どのみち汚してしまうから後回しだ。まずは壁を綺麗にした方が効率がよい。
(「二人にしておいてあげるかなぁ」)
 イタズラ心が疼くレシーアであったが、デュカスと冬霞の邪魔はせずに向かい側の壁に取りかかった。単純作業なので呀晄も手振り身振りでわかってくれる。伝わらない時だけ、冬霞に通訳してもらえばよい。
 濡らした壁をゴシゴシと擦るが、なかなか落ちない個所もある。
「これだけ酷いと‥‥」
 レシーアはナイフを取りだした。こびりついてとれない個所は削り取る他なかった。
 外観の修理についてはガラフと玄間が頑張っていた。
「こりゃ、腐りかけておるのぉ〜」
 ガラフは空を飛んで壊れた個所を探しだす。看板の設置部分など木製の支えがグラグラでとても怪しい。
「おぬし、なんとかなるかの?」
「大丈夫なのだ。これぐらいなら何とかなるのだぁ〜」
 ガラフが見つけた個所を玄間が確認した。さっそく玄間は戦場工作で鍛えた腕を活かして修理を始める。
 高い場所だと動きにも何かと不自由がある。忍者の玄間とて、わざわざ梯子を上り下りするのは大変だ。玄間の作業をガラフは飛んで運ぶ事によって手伝った。
 清掃と修理の作業は二日目の夕方までかかった。

●地下室
「さて、片づけましょうか」
 冬霞は階段を降り、地下室の掃除を始めた。ちらかってはいないが、蜘蛛の巣や埃などでかなり汚れている。
 地下室といっても天井近くの窓からは日光が入るように工夫されていた。長い棒を使って戸を開ける。
 地下室の奥には井戸があった。
 冬霞は思いだす。地下室へと繋がる階段上部は新しい作りであった。もしかすると昔は隠し部屋で、入り口部分も偽装されていたのかも知れない。
 これから長くワンバが暮らす部屋となる。出来るだけ快適にしてあげようと冬霞はがんばった。
(「ジャパンの漬物や総菜があれば特徴になるかも知れませんね」)
 冬霞は掃除をしながら店に出せる料理がないかを考える。
 地下室の掃除はデュカスも手伝ってくれるのであった。

●棚作り
 三日目の夕方、エテルネル村からの馬車が二両到着する。
 開店までにはまだ間があるので、日持ちのする品物が運ばれてきたのだ。同乗してフェルナールも手伝いに訪れる。
 四日目から棚やテーブル作りは急ピッチに続けられた。玄間やワンバも手伝って順調である。
 目処がついてきた頃、玄間から提案がされた。宣伝に関してだ。
「開店直後の印象がその後の客足に大きく影響してくると思うのだ。色々と宣伝活動が出来たらって思うから、考えてみてほしいのだ」
 玄間の意見を受けいれて、離れた場所に置く地図入り看板を作ることが決まる。配布する形の宣伝については今の人数では手間がかかりすぎるので取り止めになった。
 店に掲げる看板も新たな物が必要だ。その際に必要なのは店の名前である。
「どうせならみんなに幸せを分け与えるような名前にしたら良いのだぁ〜♪」
 玄間の意見は『四葉のクローバー』である。
「私は北斗様の案が良いと思います。四葉のクローバーのようにささやかでも幸せを感じてもらえれば」
 冬霞は玄間の案に賛成する。
「今回の店の事、どうやら村にとっての希望の兆しのようじゃからのぅ〜。ならばじゃが――」
 ガラフは『雨上りの虹』という名前を押した。
「店名ねぇ‥スフレヴィエとか〜ど〜よ?」
 レシーアはワンバの首元に顔を近づけて『スフレヴィエ』と囁いた。ワンバは天井につくかと思うほど飛び上がる。
 悩むのに日数はかけられず、選ぶのはデュカスに任される。
「四葉のクローバーにしよう。正式名称は『エテルネル村出張販売店・四つ葉のクローバー』。通称『四つ葉クローバー店』だ」
 異議をいう者はなく、この名に決定した。
 こうなれば看板のマークデザインは決まっていた。四つ葉のクローバーである。一個所の葉がハートを示すピンク色にされる事となった。

●市場
 五日目の空いた時間にガラフはパリの市場にいた。
 品物を並べてガラフが売り子をしているのには訳がある。これまでの常連から意見を聞くためだ。
 玄間が作った地図入り看板の横で、ガラフは客の対応をする。
「あら、いつもここで開いている人と違うのね」
「今日は頼まれたんじゃよ。どれが所望かのぉ〜」
 ガラフはやって来る客が何を一番欲しているのかを訊ねた。
「こちらで何度か買わせてもらった野鳥肉、とても美味しかったけど、これから夏の季節だし‥‥。しばらくは買えなくなるのかしらね。残念だわ」
 買い物に来るのは主婦が多く、食品に関する意見が多かった。
「ちゃんと伝えておくからのぉ。それとお店ができるんじゃよ。目印はこの四つ葉のクローバーじゃ」
 ガラフは説明しながら地図入りの看板を指さすのだった。

●面接
「それでは後日ご連絡しますので」
 デュカスはフロア作業の邪魔にならないように、倉庫の片隅で従業員の面接を行っていた。ワンバと玄間も一緒である。
「今の人、ちょっと怪しいのだぁ。今は猫を被っていたけど、真面目さが少し足りないと思うのだ」
 玄間は対人鑑識で得た印象をデュカスとワンバに伝えた。
 デュカスは玄間の意見を聞き、そしてワンバの様子にも気にかける。
 ワンバはいい加減そうに見えるが、芯はしっかりとしている。
 デュカスが知っているワンバの好みは色っぽい女性だが、本当は違うような気がしていた。ワンバの亡くなった恋人をデュカスも知っている。デュカスの滅びた故郷の村の女性で、とても大人しい印象が残っていた。
 全部で五人を面接し、選んだのはデュカスが考えるワンバの好みの女性である。もちろん真面目に仕事をくれそうな事が第一条件であった。
 協力してくれた玄間にデュカスは感謝した。

●飾り
「これ使ってねぇ〜」
 レシーアは冬霞にカッティングボードを貸すとフロアに戻る。冬霞はジャパン風の塩漬け野菜を作るようである。
 フロアには商品を並べる棚が設置され、カウンターも出来上がっている。汚れていた床もみんなで磨いてとても綺麗になっていた。
 一度外に出たレシーアは出来上がった看板を眺めた。四つ葉のクローバーのデザインがとても映えている。アイデアと仕上げは玄間、デザインはガラフである。
「やっぱり、ここはあれをモチーフにした方がよさそうだねぇ〜」
 レシーアはロープを編み込んで吊し飾りを作り始めた。編み目が四つ葉のクローバーになるようにしてゆく。結構難しい作業であったが、理容で髪の毛を編む要領に似ていた。
 見られたくない場所には毛布を吊してカーテン代わりにする。
「華やかさや活気がつくのはこれからだろ〜ねぇ」
 空いた時間、レシーアは冬霞と一緒に出来上がりつつあるフロア内を眺める。
「もっと、もっとよくなります。旦那様の夢ですもの‥‥」
「あ〜あ、当てつけられちゃったわぁ」
 冬霞とレシーアは声をあげて笑った。
 二度目の馬車搬送で新鮮な食品類も運ばれる。郊外にあるアデラの農地も回って野菜が集められ、品揃えもまずまずである。
 アイスコフィンが使えるクラーラのおかげで、肉も新鮮さが保たれたまま村から運ばれた。
「結構大変じゃな。しかし急がんとのぉ〜」
 カウンターではガラフが値札作りに精をだす。
 その中に馬車と荷馬車の絵付き貼り紙が含まれていた。フロアに展示する訳にはいかないので、店内の貼り紙による販売である。実物は倉庫にあり、興味がある客には閉店後に観てもらうつもりであった。
 これから先の宣伝を見越してガラフはかなり熱の入った馬車と荷馬車の絵を描いておいた。

●宣伝
「エテルネル村のお店『四つ葉クローバー店」が開店するのだぁ〜♪」
 玄間はまるごとたぬき姿でパリの町を練り歩き、地図入り看板を競合しないお店に置かせてもらった。
 貼り紙より手間はかかるものの、丈夫で長持ちする。長期を見据えた上での看板の選択である。
 犬の五行、馬の駒にも看板を背負ってもらって少しでも宣伝効果を狙った。
 頑張る玄間だが、近所づきあいもあって食料店に隣接する場所では置かせてくれない店舗も多かった。そういう場合は笑顔ですぐに引き下がる玄間である。
 その代わり置いてくれた店舗には野鳥肉のローストを後で届ける約束をする。デュカスの許可は取ってあった。評判が口コミで広がるのを期待してだ。
 肉といえばブタが一番なのだが、まだ出荷の時期ではなかった。それに予約している人が優先だとデュカスもいっていた。
 玄間の宣伝作業は最後まで続く。
 十日目は四つ葉クローバー店の開店初日であるが、仲間もたくさんいるので宣伝に最後まで力を入れた玄間であった。

●賑わい
 十日目の開店初日。
 四つ葉クローバー店は賑わっていた。
 お店という形態に不慣れな部分もあって手際の悪い部分もあるが総じて順調である。
「おおきに〜。またよろしゅう」
「ありがとうございます」
 ワンバと新しく入った女性従業員ノノはカウンター近くで会計をしていた。その姿を観て冬霞が微笑んだ。
「ワンバ様、うれしそうですし、とてもよかったと思います」
「そうだね。あ、これは俺が持つよ」
 デュカスと冬霞は裏の倉庫から食材の補充を行った。特に野鳥肉の棚がすぐ空になる。パリ近郊でも獲れるはずだが求められているのだろう。これに関してはクラーラに感謝しなければならない。
 ジャパン出身者も来店していて冬霞はほっとする。ノルマンにも塩漬け野菜の料理はあるが、どちらにも受け入れられそうな発酵具合にしておいた。
「結構忙しいわねぇ‥‥」
 レシーアは品物の整理など裏方に近い仕事を受け持つ。
 あたしが売り子をやると、別のお店になってしまうとはレシーアの弁である。補充をしているデュカスと冬霞をレシーアは手伝った。
「順調なスタートでよかったわね。デュカス」
 レシーアはデュカスを肘で小突く。
「ふむふむ‥お客人はお目が高いのぅ。この蜜蝋の質はかなり良いぞ。香りも良く、火の持ちも良い――」
 ガラフは店の一角で商品の説明を行った。売れ筋商品は補充さえしっかりしておけば問題はない。重要なのは売れにくい品物のアピールだ。
 蜜蝋燭には四つ葉のクローバーの刻印がある。将来、信頼の証となればとてもいいとガラフは考えていた。
「このハーブとあのハーブをこの分量で混ぜるとな、これこれと言う効能のハーブ茶になるんじゃ」
 ガラフが商品の説明をしていると、客の一人が貼り紙を見て馬車に興味を示した。普段なら閉店まで待ってもらうのだが、今日は人がたくさんいる。まだ村に戻っていなかったフェルナールが客を倉庫まで連れて行ってゆく。
 忙しい一日は終わって閉店となる。玄間も戻り、簡単なお祝いの会が開かれた。
「兄さん、馬車一両売れたんだ。これで馬が増やせるよ」
 フェルナールとデュカスがお互いの肩を叩き合って喜び合う。
「少ないけど、受け取って欲しいんだ」
 デュカスはよくやってくれたお礼にと追加報酬を冒険者達に渡した。
 お祝いの会が終わり、デュカスは冒険者達を見送るのだった。