恨みのギルマンキング 〜ファリーネ〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 6 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月30日〜07月10日

リプレイ公開日:2008年07月08日

●オープニング

 海底で暴れる人型のモンスターが一体。
 人型といっても魚のような上半身で、下半身がかろうじて人に似ていた。
 その様子を迷惑そうに、しかし手を出せずに下っ端モンスターが遠巻きから眺める。
 モンスターの種族はギルマンであった。
 暴れているのはギルマンキング。眺めているのはギルマンかギルマンリーダーである。
 キングは目に付いた泳いでいる魚を手づかみすると、ガブリと食らいつく。骨だけになった魚をポイッと投げ捨てる。
 キングは海の馬・ヒポカンプスを冒険者達に取り返された事を思いだして、ご立腹であった。部下のギルマン共が倒されたのは気にもせずに。
 一体だけで逃げ延びた後、海岸から去る冒険者達を目撃したのも怒りを増大させた要員の一つである。その際、乗り込んだ帆船のマークをキングは覚えていた。
 丸にカモメの羽根が描かれたマークだ。意味がわからなくても形だけは覚えている。
 キングは海底の砂地に持っている銛でマークを描いて、下っ端ギルマン共に手振り身振りで覚え込ませた。このマークを見つけたら知らせるようにと。
 キングは、あの方の為にもなんとしても人間達の生活を掻き乱してやりたいと考える。あの方とはギルマンではないが、とても頼れる存在である。
 あの方とはデビルであったが、キングを始めとするギルマンの一集団全員が具体的な姿を知らない。ギルマン共に自覚はなかったが、魅了されていたのだ。
 以前から人に不満を持っていたが、より敵意をむき出しにするギルマン共であった。


 ある日の冒険者ギルド。
 女性シフールレンジャーのファリーネは依頼書が貼られた掲示板を眺めていた。
「あの依頼者さんのだ‥‥」
 ファリーネはギルマン退治に二度程参加した事がある。どれも帆船を所有する同じ商人の依頼である。
 目の前にある貼り紙も同じ依頼人だ。
 依頼書によれば、つい最近、帆船での輸送途中でギルマンの集団に襲われたらしい。海流に乗れたおかげでなんとか逃げおおせたものの、これからに不安が残る。そこで帆船護衛の依頼が出されたのだ。
 ファリーネは張り切ってカウンターに向かい、参加の手続きを行うのだった。

●今回の参加者

 ea2839 ジェイミー・アリエスタ(27歳・♀・レンジャー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7181 ジェレミー・エルツベルガー(29歳・♂・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ec0052 紫堂 紅々乃(23歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)
 ec4441 エラテリス・エトリゾーレ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ec5166 磯城弥 夢海(34歳・♀・忍者・河童・ジャパン)

●リプレイ本文

●港から港へ
 一日目の朝、冒険者六名を乗せて商人の帆船がパリ船着き場を出港する。
 セーヌ川を下り、途中のルーアンへ寄らずに河口を通過したのは二日目の夕方頃であった。
「見られるかな?」
 うさぎ耳を揺らしながら海面を覗き込んでいるのはエラテリス・エトリゾーレ(ec4441)である。ライトの魔法で作成した光の球を試しに海へ投げ込んでみたのだ。
「結構見えますね。一瞬ですけど魚影がわかりました」
 一緒にいた紫堂紅々乃(ec0052)がエラテリスに笑顔で頷いた。海中が丸見えとはいかなくても、目視の助けにはなりそうである。
「あ、磯城弥さんだ」
 エラテリスと紅々乃は、波間に顔を出した河童の磯城弥夢海(ec5166)に手を振った。かけてあった縄ばしごを使って磯城弥が甲板まであがる。
「ライトがあるとなしでは海の中でも大分違います」
 磯城弥はジャパン語で話すものの、エラテリスと紅々乃にはそのまま通じる。ほとんどの仲間は大丈夫だが、ファリーネはジャパン語がまったくわからなかった。
 加えて依頼者の商人や船乗り達に内緒話をしているような不安感を与えない為、出来るだけノルマンの公用語であるゲルマン語で会話する事が、既に仲間同士で決められていた。通訳は主に紅々乃が受け持つ。
「真っ赤な夕日ですわねえ‥‥。明日になれば青く変わるのですか、ね」
 甲板後部で監視をしていたジェイミー・アリエスタ(ea2839)が、ライトについて話していた仲間に近づく。
「船乗りに聞いたら、次の港で魚を仕入れるそうだ。ギルマンを誘導する分も用意してくれるといってたな」
 ジェレミー・エルツベルガー(ea7181)が階段を登って船内から現れる。
 二人の名前がジェイミーなのは全員が顔を合わせた時に話題となった。特に血の繋がりはないようで、本人達曰く、仲が悪いそうだ。それと仕事はまた別の話しだともいっていた。
「海は広いよねー。とっても♪」
 海上巡回から戻ってきたシフールのファリーネが船縁に座る。
「ファリーネさま、お手数をおかけしましたわ。周囲の海面はどうでしたかしら‥?」
 アリエスタの問いにファリーネが大丈夫と答える。今の所、空を飛ぶカモメぐらいで怪しい影は海面に浮かび上がってはいなかった。
「日が完全に沈むまでは海の中で見張っています」
 磯城弥はジャパン語で話すと、海中へ再び飛び込む。
 ギルマンの生態はよくわかっていないが、魚に近いのならば夜は眠るはずだ。真っ暗な状態では物もよく見えないだろう。
 夜間の見張りも怠らないが、注意すべきは昼間だと冒険者達は考えていた。
 それから数日間、冒険者達は監視と巡回の日々を送る。
 紅々乃がベゾムを使って海中に沈みかける一件があったものの、使用を海岸線近くに限定してからは特に問題はない。多くの空を飛べる道具と同じくベゾムの高度限界は海底からであった。また紅々乃は地図を借りてダウジングを行うが、ドーバー海峡と北海付近は危険な反応がありすぎて絞り込みが出来ずに終わる。
 商人の帆船は忙しく海を渡った。
 朝に魚を仕入れたかと思えば、夕方には別の港の商売人へと卸される。生魚、生貝もあれば、干し魚もある。ワイン、日用雑貨、生肉も運んだ。
 護衛に徹していた冒険者達が手伝う事はなかったが、それはもう大忙しである。働いた分、船乗り達の食欲も旺盛でモリモリに食べていた。
 当然、冒険者達も一緒に頂くのだが、白身魚と貝の魚介スープの美味さは誰もが驚く。
 帆船のコック係が地中海出身者からレシピを教えてもらった料理で、スープ・ド・ポワソンというものらしい。出身地からいってエラテリスだけは食べた経験があったのかも知れない。
 船底の点検も怠りなく、ギルマンの危険が嘘のような日々が続くのだった。

●敵
「ファリーネ、潮風強くても飛べるのか?? 案外吹き飛ばされないもんなのかい?」
 六日目の日中、船縁で海辺を見張っていたエルツベルガーが巡回から戻ってきたファリーネと話しをしていた。
「大丈夫よー。考えて飛んでいるもの。でも、飛ばされちゃう時もあるけどね♪」
 笑う二人の元へ紅々乃のフェアリー・弥日虎が飛んでくる。羊皮紙の端切れに書いてあったマークは問題なしの意味だ。現在、紅々乃は海岸線付近を帆船の移動に合わせてベゾムで飛んでいた。
「青いですわねえ‥空も青い‥‥。ところで――」
 甲板を歩きながら監視していたアリエスタが立ち止まる。潮風に飛ばされる事はないのかとファリーネに訊ねた。つまりは二人とも同じ質問をしたのである。
「わたくし、何か変な事をいったかしらね?」
 アリエスタは笑顔いっぱいのファリーネと、ばつが悪そうなエルツベルガーの態度に戸惑いを感じた。
 同じ質問をされたのをファリーネが説明すると、二人の間で真似をしたと軽い口げんかが始まる。もっともたわいもないもので、側にいたファリーネの笑顔は変わらなかった。
「お魚、けっこう釣れるんだよ。ほら☆」
 そうこうしているうちに、エラテリスが釣り竿を抱えてやって来る。依頼人も誘導の魚を用意してくれたが、少しでも自前でとエラテリスは監視をしながら釣りをしていたのだ。
 海水が張ってある槽には結構な数の魚がいる。弱りかけたのから調理に回し、活きのよいのを残しておく。その方がギルマンが引っかかりそうだからである。
「ごくろうさまです。磯城弥さま。‥‥どうしましたか?」
 勢いよく甲板まであがってきた磯城弥にアリエスタが首を捻る。
「ギルマン達です! 三体が帆船を見つけたようで仲間を呼びに一旦離れましたが、もうすぐ来るはずです!」
 ジャパン語がわかる者は磯城弥の報告に驚きの表情を浮かべた。エルツベルガーがファリーネに、エラテリスが依頼者の商人の所まで走り、通訳して事を伝える。
「探りながらいってくるね!」
 ファリーネがフェアリーに案内を頼んで紅々乃の所まで飛んだ。すぐに引き返した紅々乃はフェアリーを船内に連れてゆく。
「弥日虎、いい子で待っていて下さいね」
 冒険者達用の部屋には紅々乃のフェアリー・弥日虎の他に、エルツベルガーの犬・シルクとエルク、アリエスタの亀・ピールと犬・ライもいた。
 紅々乃はすぐに甲板へと向かい、戦いの準備を始めるのだった。

(「帆船ではなく、こちらに――」)
 河童の磯城弥は得意の泳ぎでギルマンを撹乱していた。
 上下左右前後と、海中を突っ走る。海底にある岩場や海藻を利用して追ってくるギルマンを翻弄した。
 大きく曲がった瞬間に追いかけてくる数を確認する。先程までは二体だったが、今は四体に増えていた。
(「ここです」)
 磯城弥はわざと手足の動きを緩め、泳ぐ速度を抑える。銛を振りかざしたギルマンを巻き込むように微塵隠れの術を使う。
 近かったせいか、飛沫が海面に吹き上がる。磯城弥は追いかけてきたギルマン共が見失わない範囲に瞬時移動して再び囮となった。
 すべてのギルマンが帆船に向かったら仲間の手が回らなくなってしまう。ダメージを与えながら一部を引きつけておくのが磯城弥の作戦であった。
 その頃、帆船ではギルマンとの攻防が始まっていた。
「えいっと!」
 エラテリスは生きた魚を釣り針に引っかけたまま海に放り込んで、ギルマンをおびき寄せた。確認する為のライトの球も用意してある。海上にギルマンが頭を出すと、ミドルクラブを叩きつける。
(「なんだろ?」)
 エラテリスは不思議に思う。ギルマン共は帆船の一所に集まってからよじ登ろうとしていた。特に登りやすい梯子などがある訳ではないのに。
 ギルマンの数は多く、すぐに甲板まで登ってくる。弓矢を用意していたアリエスタとエルツベルガーだが、ほとんどが海中深くを泳いできたせいで狙えなかった。
「こっちよ〜。美味しいわよ〜」
 ファリーネが空中から活きのよい海魚をばらまいてギルマン共を一個所に誘導する。
「こいつら、何がほしいんだ?」
 エルツベルガーは紅々乃の詠唱が邪魔されないように牽制の意味を含めた遠隔攻撃をしていた。帆船に備え付けの矢はいくらでも使ってよいと依頼者からいわれていたので、遠慮なく撃ち続ける。
「光よ! 我が身に纏いてこの場を照らせ!」
 紅々乃がダズリングアーマーで強く輝いた。ギルマン共が怯んだ隙に冒険者達は一気に攻勢へと出る。
「襲撃で船、壊れないといいのだけど」
 アリエスタは船乗りの一部を船内に避難させてから弓矢を構える。足を狙い、ギルマンの動きを止めるように心がける。
「ダメだよ。甲板にあがったら」
 エラテリスは網を投げて二体のギルマンを絡め取った。身動き出来ないようにしたところで一気に仕留めてゆく。
 時折、海面で不自然な飛沫が飛び散る。磯城弥が頑張っている証拠だ。
「生臭い手でさわるんじゃねえっ!」
 エルツベルガーがアリエスタに近づいたギルマンに蹴りを入れて転がす。距離を作ったところで二人のジェイミーは弓矢でギルマンを仕留めた。
「陽光の矢!」
 紅々乃はサンレーザーで太陽光を落とし、ギルマンを焦がす。
「姿を現したのなら‥‥」
 アリエスタは海中で戦う磯城弥の支援を始める。海面に浮き上がった瞬間を見逃さず、ギルマンを射ってゆく。
「もうすぐ海流に乗れる! もう一頑張りだ! 全員船に乗ってくれ!」
 依頼者の商人が叫び、逃げ切れる公算が大きくなった。
 ファリーネは空中を漂いながら懸命にギルマンを魚で誘導していて手が離せない。
「私が知らせてきます!」
 紅々乃はベゾムに跨り、波飛沫を被りながら海面ギリギリを飛ぶ。
「磯城弥さんー、急いで船に乗ってください!」
 海面に現れた磯城弥に向かって紅々乃はジャパン語で力一杯叫んだ。わかってくれたようで、もう一度海面上に跳ねた磯城弥が手を振る。
 磯城弥が最後の微塵隠れの術を行い、水飛沫が立ちのぼる。それを観た紅々乃も急いで引き返した。
「なんでしょう?」
 紅々乃が帆船に戻る最中である事に気がつく。帆船側面に描かれた丸にカモメの羽根マークがやけに傷ついている。銛も突き刺さっていた。
 紅々乃が甲板に降り立ち、帆船は大きく進路を変える。すぐに海流に乗って速度が増す。
 甲板にいた最後のギルマンが倒され、帆船には平和が戻るのであった。

●目印
「マークが怪しいって?」
 ギルマンとの戦いが終わった後で、冒険者達は情報を交換した上で商人に告げた。
 磯城弥が挑発したギルマン以外は、必ず一度は丸にカモメの羽根が描かれたマークを確認している節がある。その証拠にマークのある部分のみ傷みが激しい。エラテリスもギルマンの妙な行動を目撃していた。
「わかった。ありがとう。なるべく早いうちにまったく別のマークに変えておこう。それだけでギルマンに襲われないのなら助かるってもんだ」
 商人は感謝する。まだパリに戻っていなかったが冒険者達に報酬を手渡した。
 依頼とは直接関係ないが、磯城弥は同じ言葉をギルマン全員が叫ぶのを聞いたという。名前のようだが、聞き慣れない異国の発音ではっきりとは聞き取れなかった。もしかすると、その名の持ち主がギルマンキングのさらに上となる親玉なのかも知れない。
 エルツベルガーとアリエスタの印象としては、ギルマンの攻撃対象は紛れもなく人のようだ。
 頭が悪いのか、船を狙って沈めるという発想にまで至らないギルマンだが、裏を返せば人に対しての剥きだしの憎悪を秘めているともいえる。それがギルマンの性なのか、植え付けられたものなのかまではわからないが。
 八日目の朝にセーヌ川を上り始めた帆船は昼頃ルーアンに寄港する。たくさんの魚介類を降ろし、九日目の昼には出航した。
 十日目の夕方、帆船はパリの船着き場へと着く。
 船乗り達に別れを惜しまれながら、冒険者達は報告の為にギルドへと向かうのであった。