●リプレイ本文
●出発
一日目の朝、タマハガネ村行きの馬車に冒険者達が集まり始めていた。
「確かに承りました。必ず伝えさせてもらいます」
見送りに来たアニエスはナオミ・ファラーノ(ea7372)からラルフ領主への要望を頼まれる。手紙にしたためて衛兵詰め所経由で王宮の黒分隊に届けるつもりであった。
冒険者がいないとブラン入りの鋼作成が止まるのはとても痛い。少しでも作業が進むようにと、ヒートハンドが使える者を呼び寄せて欲しいとの願いである。
(「誕生日のピアスの御礼をしないと。激務でしょうからお身体についても‥‥」)
アニエスはラルフを想いながら手紙の内容を考える。
ヒートハンドについては他の冒険者も心砕いていた。
クァイ・エーフォメンス(eb7692)の見送りに来ていたリーマと雀尾が刀吉に話しかける。
「生産体制をある程度融通の利くものにしておいたほうがいいかと思います」
「ヒートハンドを使える魔法使いにはあてがあるので、よろしければ今度呼んできましょうか?」
リーマと雀尾の話しを刀吉が頷きながら聞く。
「シルヴァン殿も現在手を尽くしています。もしどうにもならない時にはお力添えを、よろしくお願いします」
刀吉は丁寧にお辞儀をする。
「どうしたんデス?」
ラムセスが息の荒れた春日龍樹(ec4355)に声をかける。身に付けるものに手先が器用になるレミエラを嬉しくなってつけまくった春日龍樹だが、同時に動きが鈍ってしまったらしい。おかげで待ち合わせ場所に来るのが遅くなってしまった。
ラムセスが作業の直前でつければいいと単純だが至極真っ当な意見を述べる。自分の掌を叩いた春日龍樹はさっそく上着や太刀、指輪などを取り外した。
「気をつけていってきてくださいデス」
「おー、任せろ」
ラムセスが春日龍樹(ec4355)の背中近くで火打ち石を叩いた。ジャパン風の魔除け祓いである。
ラムセスは練習として刀吉の恋占いもした。占いの結果は身近な人と急接近と出る。占いの様子を見送りのセレストがナオミと一緒に微笑ましく眺めていた。
「ではこちらを」
「助かるわ」
セレストは布に包んだワインの風味漂う干し葡萄やプラム入りフルーツケーキをナオミに手渡す。このタイプのケーキは少々日を置いた方がしっとりとして美味しい。村に到着した後が食べ頃であろう。
ナオミは女性限定でちょっとしたお茶会を催すつもりであった。
全員が集まって馬車は発車する。長い道のりを経て、二日目の夕方に森深いタマハガネ村に到着するのであった。
●相談
二日目の夜、冒険者用の家屋にシルヴァン、刀吉、鍔九郎が訪れる。
「魔力炉は是非あった方がよいずらよ〜」
ニセ・アンリィ(eb5734)は魔力炉の必要性についてをシルヴァンに説いた。
加えてヴェルナー領内にあるポーム町リュミエール図書館での資料調査と同時に、ノルマンの鍛冶師で知らぬ者はいないアレキサンドロ・マシュウへの手紙による問い合わせをしたいと告げる。
資料調査は言語に通じた者でなければならないので、ルーアンにいるフミッシュにお願いをする運びとなる。
マシュウへの協力要請は今は控えて欲しいとシルヴァンは答える。いろいろと鍛冶師の世界もあるようだ。
ニセは危惧を抱いていた。このままレミエラが普及すると鍛冶そのものが下火にならないかと。その為にもすべてタマハガネ村で武器製作を完結出来るようにすべきだと考える。
「クレセントグレイブの本格的な生産が開始されますのね」
井伊文霞(ec1565)は正座で白湯を頂いた。
「わたくしは主に朧様の相槌を務めさせて頂く所存です。穂先製作を致します」
井伊文霞は朧虚焔(eb2927)と視線を合わせる。
「クレセントグレイブの製作、心して掛かるといたしましょう。後世の者に数打ちは役に立たぬなどとは言わせません」
朧虚焔がシルヴァンに志を宣言をする。丈夫さと斬れ味の両立は難しい。特にナギナタ系の武器は穂先を加速して扱う。短槍の長さのクレセントグレイブだが、それでもかなりの衝撃のはずだ。打つ際に注意しなければならない。
「俺は研ぎの作業に回ろう」
ユニバス・レイクス(ea9976)が囲炉裏から少し離れた位置に座っていた。手が足りない場合は穂先打ちの相槌を手伝うが、今回は研ぎに専念したいという。
「俺はなんでもしよう。馬車の中で仲間に聞いた所、穂先作りをした方がいいと考えるが」
アレックス・ミンツ(eb3781)の言葉をきっかけにして全員の分担が決められた。
冒険者の穂先打ちは二組。朧虚焔が師となり、井伊文霞が相槌役を行う一班。アレックスと春日龍樹が二班となる。
その他にも刀吉と鍔九郎も時間を見つけて打つ予定だ。
ナオミは柄の作成と研ぎに力を傾ける。ヒートハンドによるブラン鋼の融解も忘れていなかった。
クァイは銀糸巻きなどの柄の作成を手伝う。他にも食事の用意などもするつもりである。夏ばての予防には食事が大切だ。
ユニバスは宣言した通り、研ぎと場合によっては穂先打ちの相槌役を行う。
ニセは研ぎを主体に動く。シルヴァンにも話したが魔力炉の構想も続けるつもりであった。
「よろしければこちらを」
「いつも済まないが、無理はしないでおくれ」
シルヴァンがクァイから頂いた銀塊と玉鋼の礼をいう。
「エルザさんをお誘いして女性だけのお茶会を催したいのだけどよろしいかしら?」
「空いている時間ならいつでも構わない。気にしないで自由にやってくれ」
ナオミがシルヴァンの許可を取る。井伊文霞とクァイが顔を合わせて頷くのであった。
●鍛冶
三日目からクレセントグレイブ作りは始まる。熱気溢れる大鍛冶用の建物では職人に混じり、ナオミの姿があった。
「こんなものかしら」
ナオミがヒートハンドの掌でブラン鋼を融かすと、大鍛冶用の炉で輝く鋼に融かし込む。ブラン鋼が全体に混ざりきるのを見計らってすぐに取りだされた。
さらに大鍛冶用の火床作業により、刃物に適した鋼へと変貌してゆく。
ブラン入りの鋼は、さすがにブラン鋼そのものの強度はない。鉄塊を落として割られると欠片が選り分けられた。質のよい部分だけがクレセントグレイブの穂先となる。
冒険者がいない間も穂先が打てるようにと、たくさんの合金が作られた。出来上がったばかりのブラン入り鋼は穂先打ちの元へとすぐに運ばれる。
「それでは打ち始めましょう」
「はい。朧様」
朧虚焔と井伊文霞はさっそく穂先打ちを始めた。
まずは不純物を取りだす為に熱しては叩くを繰り返す。以前にやった刀の鍛え方そのものである。日本刀に比べて刃が短い分、使う材料も少ない。
シルヴァンが作った基準品が基本だが、朧虚焔は峰に近い部分の血溝に工夫を凝らすつもりであった。他にも柄に入る部分も出来る限り細くして材料の軽減をはかる。
「このようでよろしいでしょうか?」
井伊文霞は額の汗を手の甲で拭っては真っ赤な鋼に鎚を振り下ろした。
火床にはクァイが用意した塩入りの甘い飲み水が置かれてある。
夏の太陽に照らされた外気と真っ赤に燃える炭のせいで火床小屋の中はとてつもない暑さである。水分と塩を少しでも欠かすとあっという間に倒れてしまいそうになる。
アレックスと春日龍樹も穂先作りに汗を流していた。
「よいしょ!」
春日龍樹が豪快に鎚を振るう。アレックスが鉄床に載せた真っ赤な鋼から火花が飛び散る。
まずはアレックスに師になってもらい、春日龍樹は相槌役に精をだす。一つが出来上がれば、次は立場を変えて打つ約束である。
春日龍樹は自分が打つ時は刃を気持ち肉厚にするつもりでいた。丈夫さとバランスを考え、敵の攻撃を受けやすくする考えだ。
「これぐらいでよいだろう」
アレックスの作業は淀みない。無駄を排した動きは見事である。
あまりの熱気に誰もが一段落をすると休憩をとる。無理をして倒れてしまっては元も子もない。
刀吉と鍔九郎はシルヴァンが使用している火床小屋で穂先作りの作業をしているようだ。
小物作り用の家屋ではクァイとナオミが柄を作っていた。
最終的には出来上がってきた穂先の寸法に合わせなくてはならないが、ある程度までは前もって作り込んでおける。
「こんな感じでどうでしょう」
「いいわ。とっても」
クァイが見せた銀糸巻きをナオミが笑顔で頷く。最初に出来た穂先の研ぎはニセとユニバスに譲るつもりのナオミである。
「しなり具合といい、トネリコはクレセントグレイブに合っていますね」
木材にも通じているクァイが柄の材料となる木材に触れる。
「そうね。とてもよい素材だわ。ぴったりね」
ナオミも木材に詳しい。二人は木材談義をしながら作業を進めた。
ニセとユニバスは刀吉が行うシルヴァンエペの研ぎ作業を見学する。
研ぎといっても砥石を使うだけではない。焼き入れをした硬い棒を押しつける作業もある。砥石の種類もいくつかあり、どの工程が破綻してもよい研ぎにはならない。しかも感覚で判断するしかない部分も多かった。刀打ちもそうだが経験がものをいう世界である。
仲間が作った穂先が出来上がると、さっそく研ぎの作業が開始された。
「丹念にシャープに仕上げるずらよ〜」
ニセは時折刃先を目線に持ってきては片目を瞑って確認する。光の反射加減で微妙な凸凹を探った。
「こんな感じか」
ユニバスは前に作った普通の鋼製の穂先で研ぎの練習を重ねる。
手持ちの日本刀を参考にして研ぎ進めた。抜けない程度に穂先を棒へくくりつけると庭に飛びだす。そして用意した藁束を斬りつけた。
日本刀でも斬ってみて手応えの違いを確認し、再び研ぎの作業に戻る。砥石に関しては用意されたものを使う。近場では砥石の採掘はされていなかった。
自信がついてからブラン入り鋼で作られた穂先の研ぎ作業を行うユニバスであった。
●恋話
村に到着してからあまり間を空けずに、女性だけのお茶会が開かれた。場所はガラス職人エルザの住居兼仕事場である。
「とっても美味しいですわ」
井伊文霞はナオミが持ってきたフルーツケーキを食す度に笑顔が零れる。ワインの風味が効いていて大人の味であった。
「クァイさんのハーブティーもとってもいいわ」
ナオミがカップからハーブティを頂く。夏場なので特別に冷たくしたハーブティである。
「こちらをどうぞ」
「ありがとうございます。頂きますね」
クァイはパリで購入してきたお菓子もエルザに勧めた。
窓は開け放たれ、涼やかな風が部屋を通り抜ける。今は仕事場の火も落としてある。
最初の話題はエルザのガラスに関してであった。当然レミエラについても話される。今は試行錯誤の最中のようだ。
「失敗が多いのですけど、少し変わったレミエラがいくつか出来たのです。シルヴァン様に頼んで、どんな効力があるのかラルフ様の黒分隊で試してもらっています」
レミエラを説明するエルザはとても楽しそうであった。
「エルザさんはタマハガネ村に長くお世話になるつもりなのかしら?」
ナオミが訊ねると今の所はそうですとエルザは答えた。
話題は徐々に男女の話になってゆく。
「刀吉さんは優しいし真面目ですね。鍔九郎さんは口は悪いですけどおおらかかな」
エルザが二人の印象を答えた。
「わたくしのおと‥‥いえ、仕事をなさっている時のお二人はとてもりりしいですわ」
井伊文霞はうっかり弟自慢をしそうになる。
(「誰に脈があるのかしら?」)
ナオミはエルザの好みを探るが、今一わからない。もしも複数いて三角関係になったりしたら困る。
ナオミはエルザに定住してもらいたいと考えていた。その為には誰かと結婚してもらうのが一番である。
「クァイさんはどんな感じの方が好みなのですか?」
「え?」
質問しようとしていたクァイは逆にエルザからされてしまう。
期待が込められたナオミと井伊文霞の視線がクァイの心を突き刺した。ここでうまく答えないとエルザにとぼけられるてしまうかも知れなかった。
「鍔九郎さんです‥‥」
クァイがうつむいてエルザに視線を合わせない。
「どこの辺りがいいんですか?」
「スピットフレアに似ているからです」
「スピットフレアってどなた?」
「私の馬です」
しばしの間の後で笑い声があがった。クァイは冗談の方向でうまく誤魔化し、ほっと胸を撫で下ろす。
「わたしは優しい人が好きかな。それと仕事に理解のある人も」
お茶会の最後にエルザがいった言葉をナオミはしっかりと記憶する。エルザにガラスの話をしてくれた御礼にと髪飾りをあげるナオミであった。
●そして
作業は順調に進み、冒険者達がいる間に十二柄が出来上がる。
十三日の夜、シルヴァンが冒険者用の家屋を訪れた。
「こちらを。長くお待たせして申し訳なかった」
シルヴァンから春日龍樹にシルヴァンエペが贈られる。続いて全員に追加報酬が手渡された。
さらにラルフからの手紙による情報は冒険者達を驚かせる。
魔力炉に関してはヒートハンドの代わりになるようなものではなく、ブラン鋼を使った究極の一振りを作る為に必要な施設であるのが判明した。使用の際にはかなり高位の魔法使いも必要で、さらに様々な道具もいるようだ。
魔力炉については今後も検討が行われる。ヒートハンドの熱を効率よく扱える炉かも知れないからだ。
ヒートハンド使いに関しては、トーマ・アロワイヨー領のブランシュ鉱採掘現場から一人派遣される事が決まった。数日後には村へと到着する。
リュミエール図書館での調べはまだ終了していなかった。
最後にエルザが黒分隊に調べてもらっていたレミエラの中に有用なものが見つかる。半径十メートル以内のデビルに反応し、胸の前で光が点滅する能力を持つレミエラであった。名前はデビルサーチと命名される。
十四日目の朝、冒険者達は刀吉の馬車でパリへの帰路につくのだった。
●六段階貢献度評価
ナオミ エペ進呈済
ユニバス 次次回エペ進呈予定
朧 エペ進呈済
アレックス エペ進呈済
ニセ エペ進呈済
クァイ 次回エペ進呈予定
井伊 エペ進呈済
春日 今回エペ進呈
春日には今回一振り進呈されます。
次回はクァイへの進呈が決まっています。続いてユニバスの順になります。