●リプレイ本文
●出発
集合場所はコリルの家。
道の端には二両の荷馬車が停車していた。すでに大量の荷物は載せられており、出発を待つだけである。
「母様、お誕生日おめでとうございます」
アニエス・グラン・クリュ(eb2949)はコリルの家の庭で見送りに来てくれた母のセレストにアメジストのリングを手渡す。出発日の七月十五日はちょうどセレストの誕生日であった。
セレストは見上げる娘アニエスに微笑むと膝を折って屈んで抱きしめた。ゆっくりと離すとアニエスの頭に手を乗せる。
「仕事をこなせば後は自由時間とコリルさんの両親から聞いたわ。お友だちと遊んでいらっしゃい」
セレストにアニエスは大きく頷く。
ブノワがクリュ親子に話しかける。血縁の三人の間で笑い声があがった。
アリスティド・メシアン(eb3084)は木漏れ日の下で庭に生える樹木を見上げていた。
たくさんのフェアリーが葉に隠れたり、枝の隙間を飛び回って遊んでいる。アリスティドのミエルを始め、コリルのプラティナ、アニエスのニュクス、ラムセス・ミンス(ec4491)の花水木はとても楽しそうだ。
「コリルのおばあ様、お元気にしてるかしら?」
「おばあちゃんは元気だよ。薪割りだって自分でやっちゃうんだもん」
ルネ・クライン(ec4004)とコリルが庭に現れる。コリルとたまたま目が合ったミエルは急いでアリスティドの背中に隠れた。
「ミエル、お嬢さん方にご挨拶は?」
アリスティドが頭の後ろに掴まっているミエルに囁く。ミエルはもぞもぞとしながら肩に移動し、ルネとコリルに手を振って挨拶をする。
「もうプラティナとはお友だちみたいね」
コリルが右の人差し指を出してミエルと握手をした。
「僕も妖精さんとお友達になったです。花水木さんデス〜♪」
ドタドタ走ってきたラムセスが砂埃をあげて止まる。するとフェアリーの花水木が肩に留まった。
「女の子だね。プラティナともよろしくねえ〜」
コリルの頭の上にもプラティナが舞い降りた。
しばらくして家の戸締まりを終えたコリルの両親が庭に現れる。
「初めましてデス。ちびブラ団流浪陽術師長のラムセス・ミンスというデス。お仕事頑張るデス」
真っ先にコリルの両親へ挨拶をしたのはラムセスであった。
アニエスがニュクスと一緒にみんなの元に駆け寄る。その時、元気な挨拶をしながら中丹(eb5231)が庭に足を踏み入れた。
「うま丹、うさ丹もよろしくやで〜。およげん人いたら水泳指南や!」
これから向かうノーリアの住む村には、とても綺麗な小川が流れていた。水遊びは予定に組み込まれているも同然である。
「泳ぎ、うまくなりたいんだ。中丹さん、よろしくな」
クヌットがうさ丹を抱きかかえながら中丹を見上げる。ベリムートはうま丹の背中を撫でた。
「任しておくんや!」
中丹は身体を後ろに逸らしながら、かぱぱっと笑った。
「それにしてもニコラ、遅いわね」
ルネが心配していると、ニコラ・ル・ヴァン(ec4540)が駆け足でやって来る。
「お待たせ‥しちゃって‥‥」
息があがっているニコラにアウストが水筒の水をあげた。迷子癖のせいもあったが、歌の詩を直していたのも到着が遅れた理由である。もっともギリギリで遅刻ではなかった。
「いきましょ♪」
「う、うん」
ルネに声をかけられてニコラが馬車に乗り込んだ。その前に書いてきた詩をアリスティドに渡して。
「これはがんばらないとね」
アリスティドは荷馬車に乗ると、受け取った詩を何度も読み直した。
一両の荷馬車はコリルの父親が、もう一両はアニエスが御者を務める。
運ぶ食料を傷めないよう、風通しをよくする為に少しだけ荷台の荷物を動かす。鼻が利く犬のペテロにアニエスはオーラテレパスで注意を頼んでおく。
荷馬車二両はゆっくりと発車した。村までは徒歩でもその日のうちに辿り着ける距離である。
休憩する時、荷馬車は日陰に停められた。
唄ったり、お喋りの時間が続き、暮れなずむ頃には村へと到着する。
全員でさっそく荷馬車から荷物を降ろしてゆく。倉庫には深い地下室があり、夏場でもひんやりと冷たかった。
ラムセスと中丹はワイン樽を斜めに傾けて地面の上で回すように倉庫へ入れる。
ちびブラ団は鳥のスモーク肉が入った袋をみんなで抱えて運んだ。
ニコラとルネは木箱を二人で持った。串や食器の類がたくさん入っていた。
アニエスとアリスティドはソーセージの入った袋をいくつも倉庫に運び入れる。
日が暮れる前に荷物を降ろす作業は完了した。
「よく来たねぇ」
「おばあちゃん〜♪」
ノーリアは一行を家の前で出迎えてくれた。コリルが抱きつくとノーリアの顔は笑顔でよりしわくちゃになる。
その晩はノーリアの手料理でお腹を満たし、ゆっくりと休む一行であった。
●水泳
一行は泊めてもらう御礼にと水汲みや薪割り、食事の手伝いを行った。それが終わると水遊びに出かける。
「胸んとこより深いところにはあんまりいかんことや」
「は〜い」
中丹が水泳の先生である。ちびブラ団は薄着で川の中に飛び込んだ。水飛沫が太陽光に照らされて輝いた。
(「深い所もあるし、今回は見張りやな‥‥」)
真っ先にやって来た中丹はすでに泳いで川の中を調べてあった。潜水遊びなども控えて先生に徹する。
「アニエスちゃん、服着たままなの?」
「海での戦いと時とか脱いでいる暇はないので、その練習です」
アウストに訊ねられたアニエスは武装こそ外していたが普段着のままだ。
心配になったアウストがしばらくアニエスを眺める。ぷくぷくとしばらく潜ると、ザバッとアニエスが水面上に頭を出した。やはり服を着たままだとうまく浮かばないようである。これが海だと少しは浮くのだろう。
「やっほ〜い♪」
ニコラが身軽になると子供達と同じように川へ飛び込む。
「ルネさん、冷たくて気持ちいいよ〜」
水面から顔を出したニコラに岸にいるルネに手を振った。そしてちびブラ団と水のかけっこをして遊び始める。
(「せっかくだし、童心に戻って遊んじゃおうかしら?」)
ルネは靴を脱いでスカートの裾をあげながら川に入る。
「ほんと、冷たくてとっても、あれっ!!」
ルネは川底の岩についた苔に足をとられる。両腕を回しながら後ろへと倒れ込む。
「大丈夫? ルネさん」
「あ、ありがとう‥‥ニコラ」
咄嗟に背中からルネを支えてくれたのはニコラであった。ルネの顔が真っ赤に染まる。
ラムセスは泳ぐのを控えるつもりであったが、ちびブラ団の強い勧めで水遊びには参加した。
「いくデス!!」
ラムセスが飛び込むと、とりわけ大きな水飛沫があがる。
「おお、虹だ!」
ベリムートが川面に現れた虹を見つけるがすぐに消え去った。ちびブラ団のリクエストでラムセスは何度も飛び込みをする。
「一瞬で消える虹だけど、きっと子供達の心に永遠に残るのだろうね」
簡易のハンモックを作り終えたアリスティドは子供達の様子に目を細める。そして岩の上に座って足を川に浸した。水の透明度は高く、川魚が泳いでいるのがはっきりと見えた。
「中丹、どの辺りが魚が釣れるのか教えてもらえるかな?」
「上流でいいスポット見つけたんや。おいらも釣りするつもりやから、一緒にいこか? ラムセスはんも釣りしたいといっておったで」
アリスティドと中丹が釣りの話しをしていると、大きな水音が聞こえた。
クヌットは乱水流に巻き込まれて溺れかけていた。すぐに気がついた中丹が川へと飛び込む。すぐさま救出して岸の上にクヌットを岸にあげた。
「くぬっとぉー、だいじょうぶ?」
コリルが咳き込むクヌットの背中をさする。
「まったく言うたやないか! 水は危険なんやで」
珍しく怒る中丹だが、すべてはちびブラ団を心配してである。
「まあ、人間も道で転ぶ。おいらかて強い流れには流される。そうゆうこった」
「うん‥‥。気をつける」
中丹に謝ったクヌットはしばらく岸で休む事となる。
しばらくして子供達全員がお昼寝の時間となる。アリスティドの作ったハンモックにはくじ引きで勝ったコリルが寝ころんだ。
アニエスもちびブラ団と一緒に木陰で寝ころぶ。次第に吐息をたてて寝てしまう。
寝ている子供達はルネとニコラに任せて、アリスティド、中丹、ラムセスは上流に向かった。
昼寝とどちらをとるか迷ったラムセスだが釣りを選んだ。
三人は一緒に釣り糸を垂らす。魚を呼び寄せる為にゴールドフレークが撒かれた。
釣りすぎはよくないので一つだけ使われる。滞在の日数はまだまだあった。残り二つは別の日に使えばよい。
次々と川魚が竿をしならせる。
夕食分の魚を釣り上げるとそこでお終いにした。
ノーリアの家の庭で焚き火がされ、枝に刺された川魚が遠火で焼かれた。塩だけの単純な味付けだが、誰もが頬を綻ばせて頂くのだった。
●祭り
四日目の昼から五日目の朝までが村の祭りである。
昼間は主に食べ物への感謝をして、夜は一晩中歌と踊りで過ごす。この日だけは誰もが夜更かしが許されていた。
アニエスは祭りの由来をノーリアに訊ねる。
昔、この村の青年がジーザス教の聖人になったのを祝って祭りが始まったのだという。伝えられている名前がいくつもあり、本当の話かはわからないが、聖人を称える祭りは今日まで続いているそうだ。
アリスティドは鷲のルガールを連れて村の猟師と狩りをしに出かける。昼過ぎにはたくさんの獲物を抱えて村に戻ってきた。
中丹とラムセスが釣ってきた魚と合わせて祭りの料理となる。香ばしい匂いが祭りの広場に漂った。
鳥のスモーク肉を始め、茹でたソーセージも簡易のテーブルに並ぶ。他にもたくさんの料理が並んだ。
ニコラとルネは仲むつまじく、輪切りにされた丸太の椅子に座って料理を頂く。
ラムセスとアニエスはちびブラ団と一緒にテーブルを囲んだ。コリルの両親、ノーリアも同じテーブルについた。
アリスティドは側で黄金の竪琴を奏でる。ニコラが作ってくれた詩に合わせた曲の最後の調整である。
中丹は受け取った茹でソーセージをじっと眺め続ける。その様子をちびブラ団が観察していた。奇妙な状況にルネがアニエスの耳元で囁く。アニエスも母から聞いたのだが、あまりに大量のソーセージを中丹が宣伝の為に食べまくった事があるらしい。そのせいで中丹がソーセージを嫌いになった可能性は充分にあり得る。
パクッと中丹がソーセージを食べるのを見てちびブラ団は安心をした。
好き嫌いはいけないといって中丹は笑う。
クヌットがテーブルから離れ、カゴを抱えて戻ってくる。カゴにはたくさんの野菜や果物が入っていた。川の水で冷やされてとても美味しそうである。
瞳がキラ〜ン☆と輝いた中丹は野菜を食べ尽くす。
「か、かぱぱぱ、うまそうな果物やキュウリがあると、どうしても止められへんのやぁ。おいらの癖や‥‥」
中丹は満足げにお腹をポンポンを叩く。
「中丹さん、ゴメンな」
「助けられたこと、まだ気にしておったんやな。よくあることや、でも経験しとけば次は気をつけようと思うやろ」
クヌットが中丹に頷いた。
祭りの夜の準備は既に終わっていた。手伝おうと考えていたアニエスだが、せっかくなので仲間や村の子供達と食べたり騒いだりと楽しい時間を過ごす。
日が暮れると巨大な火櫓が燃えさかる。歌と踊りの長い夜が始まった。
アリスティドとニコラが特製の舞台にあがった。多くの村人達が二人を見つめる。もちろん仲間達も。
「それでは僕とニコラで唄わせてもらいますね」
アリスティドがたおやかに椅子へ座ると、流れるような指づかいで旋律を奏でる。そしてニコラが唄いあげた。
「♪弦の響きも軽やかに
麗しき舞手は輝いて
全ての祈りを篝火に託して
舞い上がれ火の粉よ 輝く星に届くように
愛も希望も篝火に託して
舞い上がれ若人よ娘よ 輝く星に届くように♪」
唄と演奏が終わると拍手が起こる。アンコールがあり、もう一度村人達の前で披露された。
アリスティドが唄と演奏を引き受け、ニコラはルネの手をひいて踊りに参加する。
ニコラは不器用な動きながら、ルネと一緒にこれ以上ない笑顔で踊る。
「お祭りは書き入れ時と、お母さんが言ってたデス☆」
「ラムセスくん、変なの♪」
コリルとラムセスが組んで踊った。背の高さは合わないが、そこはご愛敬である。
アニエスとちびブラ団の少年三人は、四人で輪になって踊った。
中丹はもっぱら野菜をかじりまくる。村の野菜をとても気に入ったようだ。
一晩中起きていてよいとはいっても、子供達は徐々に眠くなる。完全に眠らないうちにノーリアの家へと全員が戻った。
ちびブラ団を寝かしつけた後、アニエスがコリルの父親にこの村での生活はどうだったのかを訊ねる。
コリルの父親は、今の子供達のように森や小川で遊び、そして父と母に怒られてばかりいたと懐かしそうに語るのだった。
●祖母
六日目の朝、村での時間を過ごした一行は荷馬車二両へと乗り込んだ。
「孫と一緒に暮らせるのなら‥‥パリもいいかもしれないね」
別れ際、ノーリアは息子夫婦に呟く。
いつでも歓迎するとコリルの母親はノーリアの手を握る。
コリルの父親は母親と一緒に暮らせるのを待ち望んでいた。ただ、もしもの心変わりを考えてコリルを含めてみんなには内緒にする。コリルをがっかりさせたくない為だ。
帰路でも荷馬車はゆっくりと走る。途中でお弁当を頂いて夕方前にパリへと到着した。
コリルの父親は友人のバムハットからもらったレミエラを冒険者達に譲った。これからも娘コリルを含めたちびブラ団の良き理解者でいて欲しいと頼みながら。
少し日焼けしたちびブラ団が去りゆく冒険者達に手を振るのであった。