陸にあがったギルマン 〜ファリーネ〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 6 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月30日〜08月12日

リプレイ公開日:2008年08月06日

●オープニング

 魚と人を合わせたような海棲モンスターであるギルマン。
 奴らは暴れ、人を傷つけて、物を破壊する。
 そこに目的があるのなら、まだ人にも理解する余地ある。甚だ迷惑この上なく、憎むべき敵である事に変わりはないのだが。


 女性シフールレンジャーのファリーネは冒険者ギルドで、ある漁師から話を聞いていた。
 ファリーネは今まで何度もギルマンに関する依頼に参加した事がある。十分程前、掲示板に貼られたギルマン関連の依頼書を眺めていると中年の男に声をかけられた。その人物が漁師の依頼人であった。
 漁師が住んでいた海沿いの村は津波の被害を受けて海の藻屑となってしまった。めげずに生き残った村の仲間と再建をしようとしたが、問題があって全く進んでいないという。
 津波は海岸付近の地形を削りとった。さらに海岸から離して作られた貯水池に大量の海水を運び込んでいた。そのせいで海が切り取られたように貯水池の水は塩辛くなる。
 村の近くには海へと流れる川があったものの、汽水のせいで日常では使いにくい。そこで川の上流から用水路で引っ張って真水を使えるようにしたのが貯水池であった。
 時間が経てば塩分が抜けて元に戻るかも知れないが、その前にギルマンが住み着いてしまう。
 貯水池と海の間をギルマン共が我が物顔で往復し、とても村の再建をする所ではなくなった。そこで漁師は村の仲間からなけなしの金を集めて冒険者ギルドに駆け込んだのだ。
「あたし、参加してみるね」
「ありがとうな。そうしてもらえると村のみんなも喜ぶよ」
 ファリーネが頷くと漁師がテーブルに手をついて頭を垂れる。
(「でも、なんでギルマンはそんな事しているんだろう?」)
 ファリーネは疑問を心の中で呟く。海があるのに、わざわざ陸の貯水池で泳ぐ必要がギルマン共にあるとは思えないからだ。
(「人の生活を邪魔したいだけなのかなあ‥‥」)
 ファリーネの想像は当たらずとも遠からずであった。
 ギルマンキングの上の存在を疑ってみるファリーネであったが、答えは見つからなかった。

●今回の参加者

 ea2839 ジェイミー・アリエスタ(27歳・♀・レンジャー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec0052 紫堂 紅々乃(23歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)
 ec4441 エラテリス・エトリゾーレ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ec4801 リーマ・アベツ(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec5166 磯城弥 夢海(34歳・♀・忍者・河童・ジャパン)
 ec5199 重井 智親(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●馬車
 冒険者達を乗せた馬車は北の方角へと土煙をあげていた。海岸線はパリから遙か彼方である。
 陸路だと時間がかかるのだが今回は仕方なかった。村は津波で壊滅し、さらに貯水池をギルマンが占領していた。帆船で向かったとしても上陸で苦労をするだろうし、第一かなりのお金がかかる。馬と馬車が依頼人の手元に残っただけでも幸運だといえる。
 重井智親(ec5199)はセブンリーグブーツで先行したので馬車には乗っていない。出発前、村の人達とあらかじめギルマンを葬る穴を用意したいといっていた。
「少しよろしいかしら?」
 ジェイミー・アリエスタ(ea2839)は村の代表で依頼を出した漁師カタと雑談を交わす。その中でいろいろとわかった事がある。
 壊滅した村は貯水池と海岸との中間に位置していた。
 村人達は村跡から離れた場所に集まって野営をしている。何とか持ちだした品や食料で細々と生活しているようだ。
 貯水池近くには林があるものの、草花は津波によって海水を被った為に枯れていた。隠れるには適しておらず、ジェイミーは自分達の野営地場所を再考する。
「貯水池の水はどこに流れるのでしょう?」
 河童の磯城弥夢海(ec5166)はゲルマン語でカタに訊ねる。貯水池から溢れる水は海に流れるものとばかりに思っていた磯城弥だが事実は違っていた。
 貯水池からの水の流れは村跡を通ってさらに海へ向かっているものの、砂浜に近づくと染み込んで途切れてしまう。つまりギルマンは貯水池まで歩いて移動していたのだ。
 ギルマンは海からあがると砂地を歩いて坂道を登る。瓦礫が残る村跡に入り、流れてくる水で身体を一度潤した上で貯水池へ辿り着いていた。大体五体の単位で交代しているようだ。
「貯水池にギルマンさんが住み着いちゃったんだね。やっつけちゃわないとだね」
 エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)は取水の用水路、貯水池、村へと繋がる用水路に興味があった。カタの話しを覚えておいて現地でさらに調べるつもりだ。
「大変な目に遭った人達は怪我をしていませんか?」
 リーマ・アベツ(ec4801)は津波に遭い、さらにギルマンから村跡まで追いだされた村人達を心配する。何名かの年寄りと子供が体調を崩しているとカタは答えた。
 ゆっくりと走る馬車に併走して、紫堂紅々乃(ec0052)は愛馬静流王を駆っていた。
「ギルマンについてわかったこと、ありませんか?」
 紅々乃は御者台のカタに話しかける。果たして以前に戦ったのと今回のギルマン集団が同じなのか興味があったからだ。
 人を極度に嫌っていても、それだけでは証拠にならない。紅々乃は以前にギルマンが攻撃の目標にしたカモメのマークを試すつもりであった。その為に布も用意してある。
「なんで、そんなに人を目の敵にするのかな?」
 シフールのファリーネは馬車の屋根に座って呟く。
 片道四日の道のりはとても長いものだ。地図の上なら短くても実際には地形のせいで遠回りせざるを得ない個所がいくつもある。
「遊んであげましょう。おいで」
 ジェイミーは遊びと称して空いた時間にフロストウルフのライの躾ていた。
 主人であるジェイミーを慕っているが危なっかしいところが見受けられる。目を離すと何かをしでかすかわからない。繋げておくか手元に置いておく注意は必要であった。
 四日目の夕方、馬車は村人達が集まる野営地へと辿り着くのだった。

●作戦
 到着次第冒険者達はさっそく村人達の治療を行う。体力が落ちていた者には回復の薬を使い、植物知識を駆使して周辺から薬草を集めて怪我の治療を行う。
 冒険者達の野営地も村人達と同じ場所に決まった。
「ギルマンですが――」
 深夜、先行していた重井智親から状況が仲間に伝えられる。
 貯水池には常に五体で一組のギルマンが陣取っていた。朝と夕方に新たな組が訪れると交代する。真夏の日中は陸上での移動を控えているように見受けられた。
 倒したギルマンを葬る為の穴は一つ掘り終えている。穴を掘る道具が少なかったのでこれが精一杯であった。
 ギルマンを倒す作戦は既に考えられていた。
 おびき寄せるのが第一段階。掘った穴に落とすのが第二段階。残ったギルマンを殲滅するのが第三段階だ。
 取水と村跡へと流れ込む両方の用水路を遮断する事が複数の冒険者から意見として出される。これには依頼人カタが戸惑った。遮断するのは構わないが無闇に破壊されると復旧に手間取ってしまう。すぐに直せる程度にしてほしいといっていた。
 村跡へと続く用水路は海にたどり着く途中で途切れてしまうので、それを使ってギルマンが逃げる可能性はない。こちらに関しては手を出さない事にした。手を加えるとしたら取水の用水路のみである。
 朝と夕方のみにギルマンが移動するのならば、日中に落とし穴を掘る時間がとれる。場所は貯水池の村跡の間。海に近いとたくさんの応援を呼ばれてしまうからだ。貯水池と村跡の間なら応援を呼ばれても最悪で十体の相手で済む。
 翌日の五日目から冒険者達は準備を始めた。
 磯城弥は遠回りして海に入り、ギルマンの動きを偵察する。何とか個体の区別をつけてギルマンを数えた。時間がかかったものの、貯水池のギルマンを含めて二十一体が確認される。
 ファリーネは空からギルマンの行動を監視した。ふいに貯水池からあがって周囲を歩くギルマンもいるからだ。
 重井智親は道具類をギルマンに見つからないように村跡から運んだ。破れた網なども使いようである。残念ながら雑草が枯れていて剥きだしの地面が多かった。足を引っかける罠は諦める。
 ジェイミーは子供達に近づいてはいけないと言い聞かせると、元気が残っている村人に穴掘りの計画を説明した。
 エラテリスは歩いて遠くの取水口を確認する。取水口には水を止める工夫はあるものの、遮断用の丸太が腐っていて使い物にならない。新たに用意する必要があった。
 紅々乃はベゾムで空を飛び、具体的にどこへ落とし穴を掘るのかを検討した。ギルマンを誘導しやすく、仲間も安全を確保でき、なおかつ後々の村人達の生活に支障がない場所となるとなかなか難しかった。
 リーマは野営地と貯水池の間でギルマンを警戒していた。バイブレーションセンサーでギルマンの動きをつぶさに観察する。ウサギ程度の小動物が貯水池に近づいただけでギルマンは全力で排除していた。村人がギルマンを恐れる理由がよくわかる。
 穴掘りや取水口の塞ぐ作業も含めて、準備は七日目一杯までかかった。
 ウェザーフォーノリッヂが使えるエラテリスによれば、明日の日中は快晴と予想される。八日目の朝は間近に迫っていた。

●落とし穴
 朝の海岸。五体のギルマンB集団が海からあがるのを空中のファリーネが確認する。すぐさま仲間の元へ知らせに戻った。
 貯水池にいる五体はギルマンA集団と名付けられていた。
 ファリーネは隠れている仲間に伝えると、再びギルマンB集団の監視を行う。坂道を登り、村跡まで辿り着こうとしていた。
 日差しはとても強く、ギルマンB集団は貯水池から流れてくる水で身体を潤そうと用水路に近づく。
 突然、用水路から緑色の何かが水飛沫と共に飛びだしてギルマンB集団はあっけにとられる。水中に隠れていた河童の磯城弥であった。
 ギルマンが水を浴びる用水路の位置は調査済みである。磯城弥は微塵隠れでギルマンB集団を巻き込み、その場から姿を消した。
 怒りの叫び声をあげるギルマンB集団の元に紅々乃がベゾムで舞い降りた。ベゾムの後ろにはカモメマーク付きの布が吊り下げられていた。
 ギルマンB集団は紅々乃を襲おうと水ヒレのある足をばたつかせて走る。
 銛が届かない高度を保ちながら、紅々乃は落とし穴の方向へギルマンを誘導する。
 落とし穴までもう少しだったが、単純なギルマンでも様子が変なのを感じ取って足を止める。
 その時、瓦礫の影から突然ウサギ耳が飛びだす。エラテリスが顔を覗かせると一体のギルマンが気づいて仲間に知らせた。
 エラテリスは光の球を地面へと転がした。突然のまぶしさに戸惑うギルマンにエラテリスは一撃を加えると一目散に逃げだす。
 エラテリスをギルマンB集団が追いかける。磯城弥が合流して二人で逃げ回った。
 二人が向かう先には重井智親とジェイミーが立っていた。
 エラテリスは紅々乃が乗るベゾムに掴まって上昇する。磯城弥は仲間に被害が及ばないように注意しながら二度目の微塵隠れで姿を眩ます。ギルマンB集団は目標を重井智親とジェイミーに変えて突き進んだ。
 ギルマンB集団が間近に迫った時、ジェイミーは後ろに隠していた腕を前に出す。握られていた茨の鞭をしならせて頭上にある木の枝に絡ませた。鞭をロープ代わりにしてジェイミーはぶら下がった。重井智親と一緒に。
 ぶら下がったまま大きく揺れてジェイミーと重井智親はギルマンB集団の攻撃をいなす。
 すぐに止まれなかった事がギルマンB集団にとって致命的になった。枝、草、土で出来た蓋を足で踏み抜き、次々と落とし穴へ落ちてゆく。
 ジェイミーは地面に着地すると枝から鞭をほどき、残ったギルマンを絡め取って穴へと落とした。
 重井智親は小太刀で戦った末にギルマンを穴へと転がす。残念ながらスタンアタックはギルマンには通用しなかった。
 穴の底には杭や枯れ草と共に油が撒かれてある。ギルマンB集団がよじ登る前に火が点いたたいまつを放り込んで勝負を決めた。
 戦っていた冒険者達にとって時間は短く感じられたが、実際にはかなり経過していた。貯水池では交代の仲間が来ない事にギルマンA集団が騒ぎ始めていたのだ。それをなんとかしてくれたのがリーマである。
 リーマは空飛ぶ絨毯に乗ってギルマンA集団を長い間翻弄していた。高速のグラビティーキャノンを放ってはギルマンを転がして注意をひく。
 リーマは落とし穴が掘られた方角から煙が立ちのぼるのを知り、ギルマンA集団を誘導する。
 もう一つの落とし穴へギルマンA集団を落とし、再び火を放って冒険者達は勝利を得た。
 喜んだ冒険者達であったが戦いは終わっていない。海にいるはずのギルマン十一体が残っていた。
 AとBの集団にはそれぞれギルマンリーダーが一体ずつ混じっていた。同じ構成ならCとDのギルマン集団が存在し、さらにギルマンキングが加わって十一体と想像出来る。
 ギルマンA集団が海に戻らない状況はギルマンキングを苛立たせているはずである。夕方には残りが一斉にやって来ると冒険者達は睨んでいた。
 動ける村人にも手伝ってもらい、貯水池近くに新たな落とし穴を作る。かんかん照りの天気はギルマンの動きを牽制するにはうってつけだが、穴掘り作業をする者にとっては厳しいものがあった。突然の来襲も想定して、穴掘り作業は一個所のみに留められる。
 魔力の回復が必要な者は逆算して睡眠をとってもらう。
 作戦はギルマンB集団を陥れた時と同じだ。敵の数と落とし穴の位置のみが違っていた。
 夕暮れ時になり、ファリーネが砂浜にあがるギルマン十一体を発見する。
 朝の出来事をなぞるように作戦は遂行された。ただし、穴に落とせたのは六体のみであった。残るギルマン五体と冒険者達の戦闘が始まる。
 ジェイミーは弓矢による遠隔攻撃をした後で鞭に武器を交換した。貯水池に向かうギルマンの足を絡めて転倒させる。
 ほとんどのギルマンが貯水池に飛び込もうとしていた。磯城弥の妨害により村跡での水浴びが出来ず、身体が乾きかかっていたからだ。
 二日前から取水口は閉じられて新たな水は貯水池に流れ込んでいない。既に貯水池の水位はかなり下がっていた。
 エラテリスは網を投げ被せ、一時的にギルマンを動けなくする。網から出た所をマトックofラックで思いっきり叩いた。
 ベゾムの上から魔法攻撃をしようとした紅々乃だが、うまくいかないので地上に降りてからサンレーザーを放つ。仲間に一声かけてからダズリングアーマーでギルマン共の目を眩ませた。
 リーマはグラビティーキャノンで次々とギルマンを転ばせる。動きを止めておけばそれだけ仲間の有利に繋がるからだ。
 重井智親によって落とし穴から炎と煙がのぼり始める。
 充分な火力に達するのを見届けてから重井智親は戦いに参加した。乾きかかったギルマンを倒すのは比較的容易いことであった。
 残るはギルマンキングのみになる。
 手下がやられている間に貯水池へ飛び込み、ギルマンキングは水を帯びて元気を取り戻していた。手にした銛を手元で回すと冒険者達に挑みかかる。
 フロストウルフ・ライが吹雪を放ってギルマンキングの勢いを削いだ。後は冒険者達が一気に畳み込む。
 さすがのギルマンキングでも手下がいなければ冒険者七名の一斉攻撃に敵うはずもなかった。
 三つ目の落とし穴の炎は弱まっていたので、最初に掘られた葬る為の穴にギルマンの遺体は運ばれる。空飛ぶ絨毯が活用された。
 あとは残るギルマンの遺体を焼き、全ての穴を埋める作業が残るのみである。
 誰も知らない事実だが、ギルマンキングを魅了して動かしていたのはシップウォーターと呼ばれるデビルであった。すでに他の冒険者達によって退治されてしまったデビルの命令に従ってギルマン集団は動いていたのである。
 別のギルマン集団はまだ北海とドーバー海峡周辺に棲息している。だがファリーネが関わってきたギルマン集団はここに壊滅した。

●そして
「報酬は半分だけお受取りします。少しですが‥これも受取って下さいです」
 紅々乃はもらうはずの依頼金の約半分と持ってきた物資の一部を村人達に譲った。
 苦しい道のりであろうが、復興のきっかけが出来て村人達は喜んでいた。邪魔者さえいなければ後は何とかなる。海で魚を獲れば命を繋いでゆけると。
 カタの馬車に乗って冒険者達はパリへの帰路につく。十三日の夕方には到着した。
 ギルマンキングが持っていたレミエラを報告時にギルド員へ渡すと、別のものと交換してくれる。
「ずっと海だったから今度は別の場所の依頼に入ろうかなあ〜。また一緒になったらよろしくね♪」
 ファリーネは仲間に別れの挨拶をし、冒険者ギルドを飛び去っていった。