嫌な予感 〜シルヴァン〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 56 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月12日〜08月27日

リプレイ公開日:2008年08月21日

●オープニング

 パリ北西に位置するヴェルナー領は、ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーの領地である。
 その領内の森深い場所に、煙が立ち昇る村があった。
 村の名前は『タマハガネ』。
 鍛冶職人の村である。
 鍛冶といっても他と赴きが違う。ジャパン豊後の流れを汲む作刀鍛冶集団であった。
 村の中心となる人物の名はシルヴァン・ドラノエ。ドワーフである彼はジャパンでの刀鍛冶修行の後、ラルフの懇意により村を一つ与えられた。
 ジャパンでの修行後期に作られた何振りかの刀が帰国以前にノルマン王国へ輸入され、王宮内ですでに名声が高まっていたのだ。
 ジャパンから連れてきた刀吉と鍔九郎、そして新たに集められた鍛冶職人によって炎との格闘の日々が続くが、完成した刀剣は少ない。
 現在はブランシュ騎士団黒分隊に納めるシルヴァンエペの他に、ナギナタ型武器『クレセントグレイブ』を完成させ、量産にこぎ着けたところであった。


 夏の盛りでもタマハガネ村では鎚の音が響き渡る。
 冒険者がいない間にもシルヴァンがシルヴァンエペを、刀吉と鍔九郎がクレセントグレイブの穂先を打ち続けていた。
 専用の小屋ではガラス職人エルザがレミエラ作りに汗を流す。
 デビルサーチを作る際の歩留まりが悪く、成功するレミエラはほんのわずかだ。
 あらかじめ作り置きした素体レミエラもあっという間になくなる。補助アイテムも活用したが完全を期するのは難しい。デビルサーチを付加出来る合成用レミエラはさらに稀な品であった。
 シルヴァンとの相談の上、デビルサーチ作製に使われる材料は秘中の秘とされた。
 失敗が多いとはいえ、今のところデビルサーチのレミエラを作製出来るのはエルザのみである。メモを取りながら一番よい方法をエルザは模索し続けていた。
 トーマ・アロワイヨー領のブランシュ鉱採掘現場からやって来たヒートハンドが使える人材も作業に勤しんでくれている。
 名前はリエアといい、採掘現場が国営になった際に新たに当用された女性なので犯罪に手を染めていた人物とは違う。玉鋼やブランとの合金も順次生産されていた。
 シルヴァンはいつものように刀吉に命じてパリ冒険者ギルドでの依頼を頼んだ。
 すべてが順調であったが、ここ最近胸騒ぎがするシルヴァンであった。

●今回の参加者

 ea7372 ナオミ・ファラーノ(33歳・♀・ウィザード・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea9976 ユニバス・レイクス(31歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2927 朧 虚焔(40歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec1565 井伊 文霞(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec2965 ヴィルジール・オベール(34歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ec3959 ロラン・オラージュ(26歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ec4355 春日 龍樹(26歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●村の過去
 パリを出発して二日目の夕方、森深き場所にあるタマハガネ村へと馬車は到着する。残念ながら馬車に乗り遅れたようで、到着したのは予定より一人少なかった。
 いつものようにシルヴァン、刀吉、鍔九郎の三人が冒険者用の家屋へと現れる。
「思いだしたくない記憶かも知れないけれど、是非お願いしたいの」
 ナオミ・ファラーノ(ea7372)は、かつてタマハガネ村がデビルに襲われた時の話をシルヴァンに願った。完全に復旧した今こそ、断片的ではなくはっきりとした形で聞いておくべきだと考えたのだ。
 冒険者と同じく村の過去の出来事を知らない女性ガラス職人のエルザと、女性ヒートハンド使いの女性のリエアも呼ばれた。
「あれはとても酷い惨状だった‥‥。日中に黒い翼のたくさんのデビルに村を襲われ、抵抗したが為す術がない。いくら刀で斬りつけても、敵には傷一つ負わせられなかったのだからな。打ち終えていた一振りのシルヴァンエペで戦ってくれたのは鍔九郎だった‥‥」
 腕を組んで座るシルヴァンは、鍔九郎へ一瞬振り向いてから話しを続ける。
「兵士として駐留していたウィザード三名と鍔九郎だけではデビルの攻勢を防ぎきる事など出来ようもない。女子供も関係なく奴らに殺されたり、魂を奪われていった‥‥。全滅を覚悟した時に曇り空に白く輝く何かが現れ、そして何故かデビルは立ち去ったのだ。眼のよい生き残った村人によれば、輝きの中にペガサスに跨った白い翼を生やした天使がいたらしい。俺は観ていないが胸元に仕舞っておいたハニエルの護符が一瞬輝いたのを覚えている。もしかするとラルフ様から聞いた天使プリンシュパリティ・ハニエルが守ってくれたのかも知れないな」
 シルヴァンは目を瞑る。襲撃後の村の状況については刀吉に任せた。
 刀吉は語った。
 村人の約三分の一が亡くなり、当然鍛冶職人の多くが含まれていた。施設も破壊され、復旧にはかなりの時間を要した。その後駐留兵士の増強があり、魔力が込められた刀剣も優先的に配布される。ただし魔力が込められているというだけで特筆すべき武器ではなかった。
「そんな悲しい事が‥‥。ですが今はクレセントグレイブというデビルに対抗する『手段』があります。エルザ様のレミエラもありますし、さらなるデビル対策を考えた方がよい時期なのかも知れませんわ」
 井伊文霞(ec1565)は目頭を抑える。
「相手がデビルならどこまでやってもやりすぎということはないだろう。空を飛んだりいろいろと出来るらしいからな。少し訓練をつけてやるか」
 胡座をかいた春日龍樹(ec4355)の前には空っぽになった大鍋が置かれていた。
「ボクは鍛冶の心得はないのですが、商家の者として参加させてもらいました。それは別にして訓練をお手伝いしたいと考えています。稽古の相手ぐらいは出来るはずです」
 ロラン・オラージュ(ec3959)は後でシルヴァンに商談を持ちかけるつもりである。
「まだ村の全員にクレセントグレイブは行き届いていないはずです。それらしいものを時間をみて用意させてもらいますので、訓練を行う方々は活用して下さい」
 朧虚焔(eb2927)は本物のバランスに近い練習用グレイブを用意するつもりでいた。
「わしも訓練のお手伝いをさせてもらおうかの。それと主にグレイブの穂先作りをするつもりじゃ」
 ヴィルジール・オベール(ec2965)は髭を指先で摘んだ。
「手が回れば私も訓練のお手伝いをするつもりですが、やはり柄の作製を主にするつもりです。それと食事はお任せ下さい。食べるというのはすべての基本ですので大切にしなければいけませんので」
 クァイ・エーフォメンス(eb7692)は暑さ対策用に蜂蜜と塩を用意してきた。水に溶かして鍛冶場や火床で働く者達に振る舞うつもりでいた。
 後でクァイがシルヴァンに進呈した物には銀塊とブランのかけらがある。両方とも村に必要なものだが、無理はしないようにとシルヴァンはお礼の言葉に付け加えた。
 具体的なデビル対策は村の最新状況を知ってから話し合う事となる。
「あたいはリエア・トリア。ヒートハンドが使えるのでこの村に呼ばれたんだ。ナオミさんと同じウィザードだね。よろしく頼むね」
 リエアがあらためて冒険者達に挨拶をする。年齢が近い事もあり、エルザと既に打ち解けている様子が窺えた。
 三日目からは以前と同じように鍛冶作業が行われる。空いた時間を見つけては準備を行う冒険者達であった。

●作業
 冒険者達は作業を分担して、それぞれ鍛冶に従事していた。
 火床小屋では鎚の音と共に火花が飛び散る。
 朧虚焔は相槌役をし、シルヴァンが支える真っ赤に輝く刀身を打つ。止めどなく流れる汗によって、まるで水を被ったように濡れていた。
 定期的にクァイが用意してくれた飲み物で渇きを潤し、また炎との戦いに戻る。
 以前より腕を磨いたと自負する朧虚焔は新たな眼でシルヴァンの作業を見つめていた。技術は教えてもらうものでなく盗むものだという師の教えを実践していた朧虚焔である。
 暑い最中でもシルヴァンの動きは淀みない。朧虚焔は感心しながら鎚を振るった。
 クレセントグレイブの穂先作りを任されたのはヴィルジールと春日龍樹であった。冒険者用の火床小屋で炎との戦いに身を投じる。刀吉と鍔九郎も同じ小屋で穂先を打っていた。
 井伊文霞は手が足りていると考えていたが、結果として穂先作りは二組のみである。より作業が進むようにと二組のフォローに回った。水運びや、炭の用意など雑多な作業はたくさんあった。鍛冶に素人のロランにも手伝ってもらう。力が人並みにあれば、手伝える作業は山のようにあった。
 素晴らしい鍛冶技術を持つヴィルジールが刀匠の立場となって、力自慢の春日龍樹が鎚を打ち下ろすコンビは非常に噛み合っていた。より早く、正確に、クレセントグレイブの穂先が出来上がってゆく。
 別の小屋ではナオミとクァイが柄を作る作業を行っていた。
 ナオミが調整した柄にクァイが銀糸を巻く。ナオミはヒートハンドの手伝いや、穂先を研ぐ為に時々席を外した。
 クァイも食事作りや飲み物の用意にいなくなるが柄はちゃんと仕上げられてゆく。
 ブラン鋼を融かして鋼に混ぜる際、ナオミはリエアといくらかの会話をした。言葉遣いは少々荒いが、根は優しそうな娘である。エルザに続きリエアという人間女性がタマハガネ村に増えたのをナオミはセーラ神に感謝した。
 ロランは時期をみてシルヴァンに商談を持ちかける。消費が激しい物品等を仕入れさせてはくれないかという内容だ。
 必要な材料についてはそれぞれに入手ルートを確保してあるとシルヴァンは答えた。村で揃わない日常品も、刀吉がパリ冒険者ギルドで依頼を出してから出発までの滞在期間に手に入れたもので間に合っていた。今後、必要があれば頼むかも知れないとシルヴァンは丁寧に断る。
 空いた時間、朧虚焔が珪砂を使って非常に簡単な鋳型をいくつも作り、穂先に似た鉄の塊を鋳造する。鋼を作る際にどうしても出来てしまう鉄の再利用である。鋳造された穂先を選別から外れた柄に取り付けて練習用グレイブの出来上がりであった。

●訓練と用意
 村に到着してから数日後、状況が調べられてからデビル防衛の検討が行われた。
 過去の状況では日中に襲われており、デビルは村の防衛に脅威を感じていなかった節がある。ただ天使降臨が本当ならば、現在のデビルはかなりの警戒心を持っているはずだ。そうであるならば再び襲撃を起こす際は本気であろう。
 当時、あいにくとデビルに詳しい者は村にはおらず、具体的な敵の名はわからない。インプかグレムリンが主体となっていたのは想像出来るが、指揮をしていたデビルの正体は謎のままだ。
 ナオミと春日龍樹はエルザに頼み、まずは見張りの兵士にデビルサーチの配布をしてもらう。残念ながらそれだけでデビルサーチの在庫は切れてしまう。もっと効率よく作り上げる方法を探し当てるとエルザは唇の端を噛んだ。
 クレセントグレイブは村護衛の兵士に行き渡り、村人にも少しずつ配られ始めていた。まずは各家庭に一柄が優先されて渡される。
 訓練の日取りも決められ、担当する冒険者は準備を怠らなかった。

「たくさんの桶が必要よね。幸い、材料はたくさんあるけれど」
 ナオミは消火訓練の必要性を説いて実施を計画する。その前に水を運ぶ為の桶を用意しなければならなかった。
 時間を見つけてはナオミは桶作りを行った。目の前には村の地図を広げ、どうすれば効率よく消火できるかを考える。
 十二日目の午後、実際に村人総出で訓練が行われた。
 はっきりといえば失敗に終わる。全体の動きが緩慢で統制もとれていなかったのである。だからといって絶望ではない。この失敗から反省し、問題点を洗いだして次の成功に繋げる事こそが大切であった。

「先端の穂先が重いのを利点に変えてこそのナギナタ型武器なんだ。そして柄の長さを活かして遠方からの攻撃をする。その際、敵一に対し二人一組で行動するとより効果的だ。魔法も気をつけなくてはいけないが――」
 春日龍樹は井伊文霞、ヴィルジール、ロランと一緒に村の若い者に稽古をつけた。これまでにも何度か行われた訓練だが、今回はクレセントグレイブという具体的な武器を有効に使う事に注意が払われていた。
 訓練は短い時間を数日に渡って行われる。練習の仕方を教え、次の機会に身についているかどうかを判断する繰り返しであった。
「シルヴァンエペもクレセントグレイヴもジャパンの流れを汲んだ武器じゃ。扱いはこちらで一般的な武器とは違う事に注意なされ」
 ヴィルジールが練習用グレイブで宙に円を描き、藁束を真っ二つにする。刃がついていないなまくらであっても穂先の重さを利用すれば可能な技であった。もっともヴィルジールの腕前あっての技でもある。
「そうです。受ける時の足の運びは――」
 ロランは村人に混じって訓練をして型の手本になった。
 村に留まれる最終日近く、井伊文霞が仕上げとして五人の村人を相手に稽古を行った。
 村人に取り囲まれる中、井伊文霞は全ての突きを避け、五人の練習用グレイブを地面に叩き落とす。
「慢心はいけませんわよ。まだまだ武術の入り口に立ったに過ぎませんわ。わたしくたちがいなくても、修練を欠かさないことが一番ですね」
 井伊文霞が戒めの言葉を残し、訓練は終了した。

●そして
「クァイさんの作った飲み物は夏場の今は特に評判だ。おかげで体力の持続すると誰もが喜んでいたよ。それと長くお待たせしてしまって申し訳ない。こちらを」
 十四日目の朝、帰り際にシルヴァンはクァイに感謝の言葉をかける。そしてシルヴァンエペを進呈した。
「デビルに対抗出来るように各家庭にも比較的安価な銀製の品か。確かに何もないのとは雲泥の差だ」
 アイデアを出してくれたナオミとシルヴァンは握手を交わした。
「春日さん、ヴィルジールさん、お二人が作った穂先を拝見させて頂いた。その見事さに目を奪われましたぞ」
 素晴らしい穂先の仕上がりに、シルヴァンは感心しきりであった。
「相槌役、大変だったろう。おかげでよい出来のシルヴァンエペが仕上がった」
 今回の期間、ずっと相槌役をしてくれた朧虚焔にシルヴァンは礼を述べる。
「グレイブの訓練の事、聞きましたぞ。早く本物を持たせてあげなければいけませんな。あんなに練習をしている彼彼女らを裏切れません」
 井伊文霞と話しながらシルヴァンが笑う。村人の真剣さがとても嬉しいシルヴァンであった。
「商売については残念だったが、村では炭や砂鉄運びに始まって力仕事もたくさんある。手伝って頂けるととっても助かるのだが」
 シルヴァンがロランに声をかけた後で、鍔九郎から感謝の追加報酬金が冒険者全員に支払われた。
「みなさーん!」
 冒険者達を乗せた馬車が発車しようとした時、遠くから駆け寄ってきたのはエルザであった。
「昨晩、目処がついたんです!。まだまだ歩留まりは悪いですが、それでも大分改善させる方法が――」
 エルザが出来上がったばかりのデビルサーチレミエラを冒険者達に見せる。互いに喜び合った後で馬車は発車した。
 翌日の十五日目夕方、無事にパリへと到着した冒険者一行であった。



●六段階貢献度評価
ナオミ エペ進呈済
朧 エペ進呈済
クァイ 今回エペ進呈
井伊 エペ進呈済
ロラン 1 計1
春日 エペ進呈済

クァイには今回一振り進呈されます。
次回の進呈者は決まっています。