豊かな季節を前に 〜デュカス〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 72 C

参加人数:5人

サポート参加人数:4人

冒険期間:08月20日〜08月27日

リプレイ公開日:2008年08月29日

●オープニング

 パリから離れた地にあるエテルネル村。
 恵みの森を襲ったラージビーが退治され、村には日常が戻っていた。
 本来なら七月一杯に終わらせておきたかった麦刈りだが、何とか八月初旬に終える。新しい小麦粉によって芳醇な香りのパンが焼かれ、村人達の腹を満たしていた。
 脱穀に使われる水車小屋を作ろうとしたのが村長デュカスの弟フェルナールである。未熟であったが、冒険者の力を借りて無事に完成までこぎ着けた功績は大きかった。
 まだ村人の数が少ないエテルネル村にとって、脱穀の作業を肩代わりしてくれる水車小屋はなくてはならない施設である。
 フェルナールはその他にも馬車や荷馬車の修理を始め、新たに製作も行っていた。手先の器用なフェルナールは様々な技術を身につける。馬車を作るためには木工だけでなく、鍛冶の技術も必要だ。場合によっては裁縫もしなくてはならない。
 当然、革加工も必要となる。かなり以前からフェルナールは鞣しの作業を研究し、元革職人が村人になってくれた事で一気に形になった。
 まずは馬具の製作に心血を注いだ。
 そして出来上がったのが軽快の手綱である。パリにあるエテルネル村出張販売店・四つ葉のクローバーでも少数ながら売られていた。
 その他にも喜ばしい出来事はある。
 村近くの森の放牧場で産まれたコブタ達も成長し、一部のメスが出産の時期を迎えていた。七月中に一頭が出産、八月に入ってもう一頭がコブタを産んでいた。残るお腹が大きいメスは二頭である。
 すべてが無事に産まれれば、森の放牧場のブタ頭数は百を越える。冬の聖夜祭に備え、本格的な食肉販売が見込めた。
 長くかかったブタ飼育も光明が見えてきた。
 ところが先日デュカスが荷馬車で品物を運んだ際、盗賊に狙われる出来事があった。その時はクラーラと輸送担当の村人も一緒だったので無事逃げおおせたものの、今後が心配である。
 デュカスは冒険者ギルドに依頼を出す。村からの品物を無事にパリへ届けながら、盗賊を退治してもらう内容であった。

●今回の参加者

 ea4582 ヴィーヴィル・アイゼン(25歳・♀・神聖騎士・人間・ビザンチン帝国)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb5347 黄桜 喜八(29歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 ec4801 リーマ・アベツ(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

諫早 似鳥(ea7900)/ ポーレット・モラン(ea9589)/ 鳳 令明(eb3759)/ 元 馬祖(ec4154

●リプレイ本文

●相談
 開店前の四つ葉のクローバー店にはすでに多くの冒険者が集まっていた。
 行きの輸送に関しては村で手に入りにくい塩や布類などを載せてゆく。パリに戻る時は農作物や木材の加工品などを運ぶ予定である。
 問題は先日デュカス達が遭遇した盗賊だ。退治、もしくは官憲への引き渡しをしておかないと今後の輸送への影響が危惧される。
「その襲ってきた来た盗賊。特徴を教えてもらえるかしら?」
 セレスト・グラン・クリュ(eb3537)は布で仕切られた着替えの区画からデュカスに質問をする。諫早似鳥の化粧によって女商人に変装している最中だ。
 以前に遭遇した盗賊の数は五人。全員が男のようで、十代後半から三十代までの幅広い年齢で武器は剣と斧だった。状況から想像して魔法は使えないようだ。
 各自騎乗していたが、走りながらの戦闘が始まると盗賊側の馬が暴れだした。デュカス達はその隙をついて逃げたのだという。盗賊共は荷馬車を停車させた上で襲おうとしたようだ。
 店内にいるすべての者がデュカスの話しに耳を傾けて記憶する。
「これでエテルネル村の人に見えるでしょう」
 セレストと同じく変装するリーマ・アベツ(ec4801)は農民の姿になっていた。商人服と農民服の古着は急いで購入してきたものだ。
 ハーフエルフなのを隠す為、諫早似鳥に三つ編みの輪で両耳を隠してもらって完成である。
「この地図、とても助かります。賊が潜伏しそうな地形は――」
 ヴィーヴィル・アイゼン(ea4582)は店長である青年ワンバから地図を預かり、カウンターで広げた。
 人気が少なく、潜伏しやすいなど、襲われやすい条件はいくつかあった。全員の意見も聞いて、襲撃が予想される場所を取り上げてゆく。
「酒場での噂では被害を受けてる人が結構いたのだぁ。デュカスさんのいう通り、あまり手慣れた感じはないのだ」
 仲間に報告する玄間北斗(eb2905)は忍鎧の上に浴衣を羽織って釣竿を持つ。荷馬車に同乗させてもらった釣り人に扮する用意だ。
「なるほど‥な‥」
 黄桜喜八(eb5347)は鳳令明と元馬祖から情報をもらう。水ヒレのある手には胡瓜が握られている。
 エテルネル村に向かう街道筋に限れば、これまでは安全だったので余計に盗賊の存在が目立っていた。かなりの襲撃件数が確認されるが、実際に被害を受けたのはその中の約六割である。
 ちなみに胡瓜はセレストの命によって出かけた諫早似鳥がついでに買ってきてくれたものだ。店に集まる前の一仕事である。
 出発の直前、セレストから招待状を受け取って情報屋を訪ねていたポーレットがやって来る。
 貴族の間ではエテルネル村の評判はごく普通だ。ヴェルナー領への編入がほぼ決まりかけているようだ。
 ガラの悪い連中の間では羽振りのよい村という評判が立ち始めている。もっとも、かつて大規模な盗賊団を撃退した事実も伝えられていた。安易に襲われる事はなさそうである。
 ワンバと女性従業員ノノを店に残し、応援の冒険者達に見送られて、荷馬車は出発するのだった。

●行きの道中
 荷馬車は出発が遅れた分だけ、少しペースを上げて駆ける。
 御者するのはヴィーヴィルで、いつでも交代出来るようにデュカスは横に座っていた。
 輸送担当の村人一名と女性ウィザードクラーラは、村でパリに運ぶ品物の用意をしているはずである。行きは一両だが、帰りは二両の荷馬車での輸送だ。
 商人姿のセレストと村人姿のリーマは荷馬車Aの荷台に座りながら談笑する。パリで流行のファッションや食べ物についてだ。
 女性の笑い声は遠くまでよく届く。すれ違いに振り向く旅人もいる。
 のんびりとした雰囲気を漂わせていたのは、盗賊共を油断させる為の作戦である。くつろぐ冒険者達の足下には武器や防具が隠されていた。
 ヴィーヴィルも細身の身体にわざとだらしなく鎧をつけている。そうすることで頼りない存在を演出していたのだ。
 釣り人に扮した玄間北斗は荷馬車の一番後ろでのほほんとしながらも周囲に目を配る。愛犬五行が傍らで鼻を利かしていた。
 荷台では黄桜喜八が愛犬トシオに警護を任せて昼寝をする。顔に三度笠を被せておけば河童とはまずばれない。夜の見張りを主に行うつもりの黄桜喜八であった。
 パリに近い土地は人目が多く、盗賊に襲われる危険は少ない。襲われるとすれば今夜の野営から明日の村に到着するまでと一行は考えていた。
 もし頭のよい盗賊団ならパリ城塞門を潜り抜けたところで襲う相手に目星をつけて、追跡するだろう。多くの木箱を載せている一行は、すでに見張られている可能性が高かった。
 夕闇が近づき、馬車は停車した。
 雨が凌げる大木と風よけの岩のある場所が野営地となる。パリと村を往復する時、大抵がここで一晩を過ごしている。
「いまのところは安全ですね」
 リーマがバイブレーションセンサーで探った範囲に仲間以外の人はいなかった。
「それほど‥背は高くないけど‥草むらにも‥‥撒いておかねぇとな‥‥」
 黄桜喜八は小枝を集めて野営地周辺にばらまいておく。踏めば確実に折れる音が鳴るはずだ。
「どこかに隠れているかも知れないのだぁ」
 玄間北斗は大木に登り、夕日に染まった大地を監視する。
「たくさん食べて、明日に備えてね」
 ヴィーヴィルは馬達の世話を焼いていた。小川で水を飲ませたり、美味しそうな草がある場所に連れて行ってあげた。
 馬に何かあれば作戦は頓挫する。愛馬や仲間の馬も合わせて面倒をみるヴィーヴィルであった。
「これでいいわ。きっと苛立って冷静さを失うはず」
 セレストはパリで手に入れた食材を使って料理を始める。
 肉の塊にチーズとハーブ類を擦り込み、焚き火の上で回転させながらゆっくりと焼いてゆく。やがて脂が焚き火へと滴り、美味しそうな匂いが周囲に立ちこめた。
 もし空腹の盗賊が見張っているのなら、とても暴力的な香りであろう。
 よく焼けたところで陽気に食事を頂いた。唄い、踊って、まるで宴のように振る舞う。
 黄桜喜八が一晩中の見張りを志願し、他の者が二時間半ごとに相方を務める形となる。
 深夜、黄桜喜八は遠くで小枝が折れる音に気がつく。草むらの方向である。
 黄桜喜八が用を足すといってその場を離れた。わざと隙をみせる為だ。
 ヴィーヴィルは静かに仲間を起こした。
 テントの中でセレストがレミエラを発動をさせる。玄間北斗は自らに疾走の術を施しておく。
 毛布を被せられたフェアリーのりっちーは時間が許す限り、ライトの球を作り続けた。
 玄間北斗も小枝の折れる音を耳にする。
 やがて無風に関わらず、草むらがざわめいた。デュカスが焚き火に油を注いで、周囲をより明るくする。
 草むらを走る人影には武器が握られていた。矢が何本も飛来し、荷馬車の側面に突き刺さる。
 リーマはグラビティーキャノンを唱え、盗賊一人を地面へと叩き伏せる。
 セレストがレミエラの槍でソニックブームを放ち、迫り来る盗賊を牽制した。そのタイミングでヴィーヴィルとデュカスが刀剣を手に盗賊へ立ち向かう。
 ヴィーヴィルは馬達の安全を優先して深追いはせず、デュカスに先鋒を任せた。
 りっちーがあらかじめ作りだしておいたライトの球を転がしてゆく。周囲はより明るくなる。
 黄桜喜八は弓矢の攻撃を盾で排除しながら鞭を宙にしならせた。草むらに隠れていた盗賊の手に絡みつかせて動きを奪い、愛犬トシオに攻撃させる。
 その頃、玄間北斗は愛犬五行と共に草むらの中を潜行していた。
 弓矢を放つ盗賊を見つけると、背後からスタンを放って気絶させる。そして持っていたロープで縛り上げた。
 戦闘は十五分程で集結する。
 生きて捕まえたのは五人。逃がした盗賊は一人もいなかった。
 少々荒い尋問をして狙った動機を全部吐かせる。
 この少数の盗賊団が焦って一行を襲ったのは、もう一つの盗賊団に先を越されたくなかったからだという。
 その盗賊団も五人編成であったが、荷物を奪うだけでなく襲った相手を人質にしてさらにせしめようとする輩のようだ。
 この街道を現在狙っているのは、捕まえた連中を含めて二集団なのがはっきりとする。
 二日目の朝が訪れて一行は出発した。
 盗賊共は縛り上げ、死なない程度に治療を施して荷馬車の隅に転がされる。
 空飛ぶ絨毯で運ぶ案もあったが、もう一つの盗賊団の存在がわかった以上戦力を減らす訳にはいかなかった。

●村
 二日目の夕方、荷馬車一行はエテルネル村に到着した。
 盗賊共を官憲に引き渡すのは村人達に任される。
 荷物を積み込んでパリに向かうのは一日の余裕を見て五日目の朝と決まった。
 村にいる間、冒険者達は自由である。
 小川まで出向き、本当に釣りをする玄間北斗。
 釣りの邪魔をしないように胡瓜をかじりながら泳ぎを楽しむ黄桜喜八。
 ヴィーヴィルは馬達の世話が終わると村を散策する。
 リーマは空飛ぶ絨毯で荷馬車への積み込みを手伝った。
 セレストはデュカスと一緒に村の近くにある森の放牧場に向かう。出資したブタの成長を確認する為だ。
「豚ちゃん、とても元気だわ」
 セレストは柵を越えて放牧場に入る。
 餌のフスマが置かれる小屋の辺りにはコブタがたくさんいた。屋根の下に敷かれた藁の上で母ブタから乳をもらっている。
「あと一頭の出産待ちですが明後日には産まれるでしょう。これだけ増えるとさすがに一人ぐらいは専属の飼育担当をつけようかと考えています」
 デュカスはセレストに状況を説明した。
 十二月にはパリで食肉販売を行う予定である。四つ葉クローバー店で豚肉を受け取って欲しいと出資者のセレストにデュカスは伝えた。
 一ヶ月もすれば放牧場はコブタ達が走り回ってとても賑やかな状況になるだろう。
 村人の誰もが楽しみにしているとデュカスは話すのだった。

●疾走
 五日目の朝、パリへと荷馬車二両は出発した。
 行きのメンバーに加え、クラーラと輸送担当の村人も同行する。
 荷馬車Aの御者をするのがヴィーヴィル、荷馬車Bが村人であった。
 エテルネル村を出て半日過ぎた頃、遠くから土煙が近づいてきた。騎乗した盗賊達の襲撃である。
「変‥だな」
「そう思うのだぁ」
 黄桜喜八と玄間北斗が盗賊共の動きが奇妙なのを仲間に告げる。まるで罠に追い込むような行動に感じられたのだ。
「この先の街道から逸れると切り立った崖面があります」
 御者をしながらヴィーヴィルは地図で覚えた情報を仲間に伝える。
「仕掛けたとしたらそこかしら?」
 セレストがデュカスに振り向く。
「追いかけてくるのは四頭です」
 リーマがバイブレーションセンサーで追いかけてくる騎乗の盗賊を正確に数えた。二人乗りしている者は見あたらず、情報からすれば一人足りない。
「‥‥ここで戦いましょう」
 デュカスが決断をし、荷馬車二両は急停車した。
 辺り一面が酷い土埃で視界が遮られる。馬達が嘶く中、戦いは始まった。
 ヴィーヴィルは荷馬車周辺に残って盗賊共を近寄らせないように奮闘する。村人のがんばりと、クラーラのアイスコフィンも加わって荷馬車二両は保護される。
 玄間北斗は愛犬を馬達の護衛に残して、潜伏しているであろう盗賊を捜しに向かう。
 敵の斧攻撃を盾で受けた黄桜喜八はそれなりの手応えを感じる。少々本気で攻め入って馬上から引きずり落とし、盗賊の頭を盾で殴り倒す。愛犬は玄間北斗の犬と一緒に馬達を守っていた。
 セレストとデュカスは組になって死角を無くしながら盗賊と戦う。
 リーマがグラビティーキャノンで盗賊共を落馬させてくれたので、そこを狙った。
 四人の盗賊がおとなしくなった頃、玄間北斗が最後の盗賊一人を連れて仲間の元に戻る。
 崖近くで凶悪な仕掛けが施された落とし穴が発見されたという。
 この五人の盗賊にも当然尋問をした。
 荷馬車ごと穴に落とし、こちら側の戦力を削いだ上ですべてを頂くつもりだったようだ。捕らえた者を人質にして村を脅迫するつもりだったのも白状させる。
 考えた末、デュカスはヴェルナー領の官憲がいる町に立ち寄るのを決めた。まだ正式に編入されていないが、ラルフはよい領主だと噂を耳にしていたからだ。盗賊団をちゃんと処罰してくれるはずである。
 少々遠回りになったが、盗賊団を官憲に引き渡してから一行はパリに向かう。
 四つ葉のクローバー店に戻ったのは七日目の昼頃である。
「これ、弟のフェルナールの自信作なんです。よかったら使って下さい」
 デュカスは今回のお礼として軽快の手綱を冒険者達に手渡した。馬の扱いが容易くなるというフェルナールの自信作である。
 荷馬車から卸された品物はさっそく店内に並べられた。
 夕方が近づくと店内は多くの客で賑わい始める。
 当分は盗賊に悩まされることはないだろうと話しながら、冒険者達は報告の為にギルドへ向かうのであった。