願いは一つだけ

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月11日〜01月16日

リプレイ公開日:2007年01月18日

●オープニング

 イルカの群れに船団が円を描くように群がっていた。血気盛った男共の手には銛が握られている。
 一見イルカを狩ろうとしているように窺えたがそれは間違いであった。
 彼らの目的は戯れていたマーメイドだ。イルカと共にいて逃げ遅れたマーメイドに鋭い銛先が光る。
 青いはずの海が濁り、同胞が殺されてゆく。
 虐殺は一度だけではなかった。何度も悲劇は繰り返される。
 マーメイドの悲鳴は小波の向こうに消え去るのだった。

 揺れる馬車の上でフランシスカは伝え聞いた記憶が蘇る。
 フランシスカが幼い時、祖母に聞かされた一族の物語だ。マーメイドであるフランシスカは思いだす度に泣いた。そしていつも兄がなぐさめてくれたのを覚えている。
 マーメイドにとって人は憎むべき存在であった。マーメイドの肉を食せば不老不死になるなどというのはただの伝説である。だが現在も変わらずマーメイドを狙う輩は多い。
 捕らえられて運ばれた兄を追い、妹フランシスカはパリの街までやってきた。まずは兄の誘拐を手引きした家畜商を発見しなくてはならない。
 今、フランシスカは魚の尾を隠して人の姿をしている。隣には御者をしている人間の男アクセルの姿があった。
 アクセルはフランシスカの正体を知っても、言い伝えとは違って殺そうとはしなかった。それどころか馬車まで出して家畜商を探そうとしてくれたのである。もっとも見つからず仕舞いでパリに引き返す途中ではあるのだが、フランシスカはその優しさがうれしかった。
 フランシスカはアクセルの横顔を眺める。
 アクセルは人である。一族の敵である事は間違いない。何かのきっかけで他の人と同じくマーメイドを狙うようになるかも知れない。フランシスカはそんなアクセルを見たくはなかった。

 家畜商探しに失敗してパリに戻り、数日が経った。
 起きるとアクセルは朝の食卓に向かう。ここ最近はフランシスカがやってくれるのでとても助かっていた。しかし朝食は用意されていたが、フランシスカの姿はない。
 慣れないゲルマン語で書き置きがあった。
 ありがとう。これからは一人で兄を探しますと。

「どうしたってんだい? アクセルよ」
 仕事仲間にアクセルは訊ねられる。最近のアクセルは何をやっても失敗続きだった。
 気分転換にと仕事仲間が酒の席にアクセルを誘った。うまいのかまずいのかわからない酒を呑んでいると隣のテーブルから噂話が聞こえてくる。
「なんだかよ。マーメイドが捕まったらしいや。間抜けな奴で人の姿に化けてたんだが、すっころんで池に落ちて正体がばれたらしい」
「喰うと不老不死になるんだっけ? うまいのかね。マーメイドの肉ってのは。ここ最近は姿現さなかったっていうのにどうしたもんかね」
 アクセルは立ち上がると、隣のテーブルにいた二人組に話しを聞いた。彼らによれば、正体のばれたマーメイドがある村に監禁されているらしい。わずかな情報だが、まずフランシスカに間違いはなかった。
「すまない。元締めにはしばらく休むって伝えてくれ。やる事が出来たんだ」
 先ほどまでの気が抜けた様子から変わったアクセルが酒場を飛びだした。向かった先は冒険者ギルドであった。
 フランシスカを助けなければ食べられてしまう。かといってアクセルは戦うのには不慣れだし、いい作戦も思いつかない。冒険者なら何とかしてくれるはずだと、アクセルは考えた。
 受付の女性に救出に長けた冒険者募集を依頼する。細かい内容はアクセル本人から伝えるつもりだ。そうしなければ、いろいろと不都合がある。
 アクセルは有り金をはたいて依頼をするのであった。

●今回の参加者

 ea1787 ウェルス・サルヴィウス(33歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb1964 護堂 熊夫(50歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb4840 十野間 修(21歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5528 パトゥーシャ・ジルフィアード(33歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

楊 書文(eb0191)/ 明王院 月与(eb3600

●リプレイ本文

●村へ
 朝方、パリの外れで冒険者達とアクセルは集まろうとしていた。
 滑らかな足運びで中丹(eb5231)が現れる。パトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)は目を擦りながらやってきた。
「おいら河童の中丹(ちゅんたん)でおま。よろしゅうに」
「パトゥーシャです。よろしくお願いしますね」
 全員が集まり挨拶をし合う中、アクセルは思い詰めた表情をしていた。
「助け出して欲しいのは‥マーメイドです。名はフランシスカといいます」
 アクセルはすべてを包み隠さずに話した。
「マーメイドを食べても不老不死にはなりません。信じて下さい。フランシスカを助けてやって下さい!」
 懇願するアクセルは迷信だと思っているが、かといって証明する術は持ち合わせていない。それこそ食べてみなければわからないのだから。
「事実無根の話と欲望ゆえにひとつの命が‥‥。ひとつの人生と数多の想いが踏みにじられるのを見過ごせません。主よお護りください」
 ウェルス・サルヴィウス(ea1787)はアクセルの前で祈る。
「魔を止める手掛りとして、不老不死に警鐘を与えましょう」
 十野間修(eb4840)は目を瞑りながら呟く。
「アクセルさん、皆さんと協力してフランシスカさんを救出しましょう」
 護堂熊夫(eb1964)は願いを込めて印を結ぶ。
「まあ、マーメイドと遠い遠い親戚みたいなみたいなものやからね。見殺しにはできまへん。一肌脱いだりまんねん」
 アクセルには中丹のクチバシがキラ〜ンと光ったように感じた。
「とても心配なさっているのですね。アクセルさんの気持ち、彼女に伝えようね」
 パトゥーシャは真剣な瞳を投げかける。
「ありがとう‥」
 アクセルは涙目になる。相談が行われ、まずは不老不死になる迷信を払拭するのが決まった。
「もしお金がかかる事があれば、後でお支払いしますので。それと馬車で行きます」
 アクセルは護堂に対し丁寧に断る。
「荷台に幌を張ればテント代わりになります。それにフランシスカはきっと疲れているでしょう。歩く事なく馬車に乗せてあげたいのです」
 馬車を用意したアクセルにウェルスが代金を支払おうとしたが断られる。気持ちだけ受け取るとアクセルは答えた。冒険者達はそれぞれの方法で教えてもらった村に向かうのだった。

 中丹は村に到着すると、小川の側で立ち話をしている村人を見つけた。
「やあ、こんちゃ〜、おいら河童の冒険者でおま。なんか騒がしいけどどないしたん?」
 中丹は愛想良く近づくが村人達は驚いて身構える。
「え、ちょっとまった! 化けもんやないって! おいらは『河童』いうオリエンタルな東洋の種族や、この辺りの海で見る人魚なんかと同じや!」
「なら、食べたら不老不死になるんかい? それならとっ捕まえて‥‥」
 一人の村人が棒を手にする。
「話しをせいてはいかんで。故郷の方でも人魚は見かけるけど、それ食うて長生きしてはる人なんて見たことないな〜」
「いやいや、食べたら長生き出来ると村のえらいさんがいうとりはった。でもまあ、わしが見たマーメイドとは似てないのう」
「父ちゃん、河童さんがいってる事ほんとう?」
 棒を持つ村人の声を遮るように子供が親に訊ねる。
「どっちが本当なんだろうな。村でも違うっていってる人もいるんでな。父ちゃんは食べにいこうかどうか悩んでいるんや」
 中丹は屈んで子供をやさしい瞳で眺める。
「まあ、ヒトがヒト食うても不老不死にならんのと同じやな‥‥分けるほどありそうやけど、おいらの肉食べても不老不死にはならへんからな!」
 ちらっと棒を持った村人を見て中丹は心の中で呟く。徳の高い坊さんを妖怪が食うと強い魔力を得るらしいんやけど、と。
「マーメイドとはいえ、閉じこめるのはあの山賊とやってるの変わらん。わしはああいうやり方は好かん」
「それ、どないな話でっしゃろ」
 中丹は山賊の一件を詳しく聞くのであった。

 十野間は馬で村に着くと市場へと向かった。この村の市場は有名でかなりの人が集まっていた。
「この辺りで人魚が捕まったと言う噂を聞いたのですが、知りませんか?」
「そうみたいですよ。それが何か?」
 十野間は二人の女性に声をかけた。
「いえ、『不老不死』になると言う悪魔の甘言に騙されて取り返しにつかない事になっては‥と」
「どういう? 不老不死にはならないのですか?」
 女性の一人が興味を示す。
「いえ、確かに不老不死でしょうね。『死人返り』となって永遠に彷徨う事を言うのであれば…」
 十野間の言葉に女性二人は絶句する。嘘ではあるが命がかかっている問題である。少々の嘘も方便であろう。
「ジャパンで食した者の末路を見、退治して来ましたが‥欲に目の眩んだ末路は、なんとも悲惨なものでしたよ。怨嗟か、悪魔の仕業か‥‥」
 女性二人は十野間の話を聞き終わらない内に姿を消した。他の者にもパリでのセーヌ川氾濫の一件にマーメイドの活躍があった噂を流す。
「ありがとう」
 夕方頃、十野間はパリに戻る月与に長く手を振る。月与も長く手を振っていた。彼女は周辺の様々な事を調べてくれたのだった。

 護堂は空飛ぶ絨毯に乗りながら馬を引いた。
 村の入る直前に絨緞を畳んで馬に積む。絨緞を貸してくれた楊にも村でいろいろと手伝ってもらいたかったが、そうなると初日にパリへは戻れない。そこで諦めたのだ。
 能力とスクロールを使い、周囲を観察する。今の所フランシスカの姿は見つけられなかった。村の中に入ってからも注意するつもりである。
 酒場に入り、周囲のテーブルから話しが耳に入る。先に着いた冒険者仲間が流した噂で持ちきりになっていた。
「私はジャパンの出ですが、人魚の肉を食べて不老不死になった話は殆ど聞きません」
 護堂は間をみて話しに入り込み、噂を補足する。
「よしんば不老不死になったとしても、人魚の呪いによって異形に成り果てると聞いた事はあります」
 護堂の言葉に「そらみろ!」と自慢げな男が酒をかっくらう。酒場にはいろいろな人が集まっていた。
 護堂はこの場で噂を広める事にするのだった。

「アクセルさん、ウェルスさーん」
 先に村に着き、調べ終わったパトゥーシャはアクセルの馬車を出迎えた。
「子供がさらわれた母親がいるようです。村人を説得する何かになるかも知れません。一緒に行きませんか?」
「もちろんです。案内して頂けますか?」
 馬車を降りたウェルスはパトゥーシャに頷く。
「心が軽くなりました。ありがとうございます」
 アクセルがウェルスに礼をいう。村までの道中、ウェルスはアクセルの話しを聞いてあげたのだ。
 パトゥーシャとウェルスは裕福ではなさそうな家を訊ねた。
「助けて下さい!」
 母親はただひたすらに息子の心配をしていた。母親によれば、村の留守を任された重鎮はマーメイドに夢中で、子供の誘拐には知らん顔であった。村人の中には心配してくれる者もいるが、山賊相手ではどうする事も出来ない。
「お子さんはご心配ですね。でもあなたが子供の身を案じているように、マーメイド、フランシスカさんの身を案じている人がいるんです。お子さんは必ず救出すると約束します」
「息子を助けて頂けるなら何でも致します!」
 パトゥーシャの言葉に母親は頷く。
「解放を拒まれていれば、私達も同じ思いなのです。助けて頂けますか?」
「私もマーメイドは可哀相に思ってました。必ず必ず! ですのでどうか!」
 母親は泣きながらウェルスとパトゥーシャに願うのだった。

●来訪者
 冒険者達はアクセルと一緒に一晩を馬車で過ごす。二日目は初日と同じく噂を流すのに終始した。
 噂はすでに村中に広まっていた。しかしすべての者が信じた訳ではない。
 夕方、冒険者達とアクセスは馬車に集まって相談をする。明日も噂を流してより印象づけるのか、子供を助けに行くのか、それとも村の重鎮にかけあってみるのかが選択としてあがった。
 四日目にはフランシスカは食べられてしまう。猶予はあまり残っていなかった。
「話しがあって来た。子供をさらわれた母親から頼まれた者だ」
 馬車の外から声がしてアクセルが顔を出す。武器は持ってないようなので男を幌の中に招き入れる。
「単刀直入にいこう。俺はマーメイドを食べるのに反対だ。まず、人語を話す生き物を食べるのは気が引ける。不老不死も嘘だろう。それが本当ならこの世はとっくに死なない人間で溢れている。もっともお前たちが流した噂もウソだろうがな」
 男は全てお見通しといった表情で冒険者達を眺めた。
「俺は食べるのを反対だが村の中では少数派だ。凝り固まった常識を持つ者達を説得するのは並大抵ではない。みんなにとっては獣肉や魚肉と変わりないのだから」
 冒険者達とアクセルは反論出来なかった。
「なあなあ、山賊退治するから人魚はんの命、救ってくれへんか?」
 中丹は男を話しを聞かなかった事にして相談する。
「誘拐された子は他の事情と関係なく助けたいと考えています」
 ウェルスは呟いた。
「わかっている。流してくれた噂のおかげで大分やりやすくなっている。もう一押しなんだ。心の奥底で重鎮アレジに反感を持つ奴らも多い。どうかお願いしたい」
 男の一言に冒険者達はアクセルを見つめた。決断の権利はアクセルにあると全員が思ったからだ。
「冒険者のみなさんは明日、子供を救出してもらえますか? あなたは村人の説得をお願いできますか? フランシスカと子供は同じような立場。俺も出来る事をさせてもらいます」
 アクセルと冒険者四人と男は手を握り合うのだった。

●殲滅
「はいはいはいはい!」
 中丹は舞う。円の軌跡を描きながら敵を翻弄して攻撃を回避する。
 山賊の根城にやってきた冒険者はウェルスの補助魔法をかけてもらうと、さっそく攻め入った。初日に手伝ってくれた仲間のおかげで実力がわかっていたからだ。数は多いが鍛えられた冒険者の前では烏合の衆である。
 護堂はスープレックスで止めを刺す。わざと狭い通路となる岩の間で山賊と対峙した。こうすれば取り囲まれる心配もなく、少数と闘えるからだ。根城に関しては初日には役に立たなかったスクロールや能力を発揮する。子供を連れだすパトゥーシャと十野間にはすでに伝えてあった。
「助けに来たよ。早くこっちに」
 パトゥーシャは囚われていた男の子を抱き締める。
「行こう」
 十野間がシャドウバインディングで動きを止めた見張り後目に脱出を試みる。パトゥーシャが男の子を抱え、十野間が残る山賊を蹴散らす。集団の敵がいるならばシャドゥボムで活路をみいだした。
「はい〜!」
 目まぐるしく動く中丹は拳を打ち込んでゆく。
「撤収です!」
 アクセルが合図を出すと中丹と護堂は駆け足で脱出をはかる。
「ほいや〜」
 道を塞いでいた山賊を中丹が龍飛翔で吹き飛ばす。逆光になった中丹のクチバシはまぎれもなくキラ〜ンと光っていた。
「のおおおおおおっ!」
 護堂は体ごとぶつかり山賊を吹き飛ばして外に出た。外ではアクセルが馬車を用意していた。全員が乗ったのを確認してアクセルは手綱をしならせる。
 過半数を倒したせいか、誰一人として追って来る山賊はいなかった。
 村に着くとすでに暗くなっていた。家まで男の子を送り届ける。母親は息子を抱き締めて涙を流したのだった。

●運命の日
 湯気の昇る釜。刻まれる野菜。
 村の重鎮アレジの庭では宴の用意が始まっていた。すべてはマーメイドの肉を食す段取りである。
「少ないな‥‥」
 アレジは庭に集まった村人達を眺めて呟いた。考えていた人数の半分程度だ。しかも食すのを強く反対していた者達の数もかなり見かける。
「まあ、いい。変な噂もある。こいつらに食べさせて、問題がないのを確かめてからワシは食べよう。ちゃんと残しておくのだぞ」
 アレジはお付きの者に指示をしながらほくそ笑む。アレジには悪巧みがあった。全てがうまくいったのなら、今いる村人達の支持は確実だ。次の村の長は自分となるであろう。
「連れてまいれ!」
 アレジが叫ぶと、台車に載せられた巨大な桶が運ばれる。不老不死をもたらす大事なマーメイドである。監禁していた小屋から厳重な体勢でアレジの屋敷まで運ばれていた。
「フランシスカ!」
 アクセルは桶に向かって大声で声をかける。桶の水の中からマーメイドが顔を覗かせる。紛れもなくアクセルの知るフランシスカであった。
 猿ぐつわを咬まされてフランシスカは言葉を発せられないようにされていた。うなり声をあげ、必死に桶から出ようとする。しかし篭で作られた蓋のせいでどうしようもない様子だ。
「見た事ない顔だな? 村人以外は参加禁止だぞ。つまみ出せ!」
 アクセルを掴もうとする警備の者を中丹と護堂は軽く捻る。
「災いがこの村に訪れるやも知れません。天がそれを示します。さらなる暗雲たちこめ‥雷鳴鳴り響き渡る事でしょう」
「なんだ?」
 護堂がこの場の者達に話しかけると、雨粒が落ちてきた。元々曇り空ではあったが、急激に悪くなってゆく。少し前に護堂は天候操作の魔法を使っていた。
「ギルドや図書館でも調べましたが、不老不死なんて迷信です。そして、その彼女の身を案じている方もいます。知ってなお食べるというなら、それは彼女を思う方々にとって立派な殺人ですよ」
 パトゥーシャはアレジの真正面に立ち、睨みつける。
「不老不死は事実無根です。事実ならむしろ呪いにも似た結果、人の自然な在り方から外れ、全てが自分を置いて去るのをただ見送り、永遠の時を過ごさねばなりません。それが真に幸せですか!」
 ウェルスは村人に問うた。
「あんたは村の子供を見捨てたんだ! そして関係ないはずのこの人達が助けてくれたんだ。あんたは自分が長生きしたいのに村人を巻き込もうとしてこんな宴を開いたのさ。みんなどっちを信用するんだ?」
 馬車を訪れた男が村人に声をかけた。その場にいた殆どが集まり、アレジを囲んだ。
「ワシは‥‥みんなの為を思うてだな」
「どうであれ、このマーメイドは助けてあげるのが筋ではありませんか?」
「わっわかった。好きにするがいい‥‥」
 アレジはその場にへたり込むのだった。

●二人
 五日目の昼間にはアクセルはフランシスカを連れてパリに戻っていた。もちろん帰りは冒険者達も一緒である。
 早い時間に戻れたので、冒険者達は家畜商の事を調べてくれた。あくまで噂だが、もうすぐパリに家畜商が戻ってくるらしい。
「人間として今回の件と同族の方々への仕打ち、申し訳御座いません」
 ウェルスはフランシスカとたまたま二人になった時に詫びる。フランシスカは、人の中にも優しい方が少なくないのがわかりましたと微笑んだ。
「フランシスカさん、人間は信じにくいと思うけどアクセルさんは信じてあげて良いと思うよ」
「もらろんです」
 パトゥーシャに答えたフランシスカの手をアクセルが握る。
 二人は馬車に乗り、冷たい風の街中を肩寄せあって消えてゆくのだった。