愛馬を連れて 〜ちびブラ団〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 57 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月19日〜09月25日
リプレイ公開日:2008年09月27日
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●オープニング
ちびっ子ブランシュ騎士団。略してちびブラ団の子供達は珍しく三人のみで空き地に集まっていた。
コリル、アウスト、クヌットが話していたのは仲間の少年ベリムートについてである。もうすぐベリムート十歳の誕生日であり、何か祝ってあげようと考えていたのだ。
「メルシアとチビ猫二匹にうまいものあげたらどうかな? チビ猫も産まれて三ヶ月経ったし、普通のもん食えるんだよな」
少年クヌットが肩に木刀を抱える。
「それじゃあ、ベリムートのお祝いにならないよ〜。お洋服のプレゼントなんて喜ぶんじゃない?」
少女コリルが剣術練習用の木刀を丁寧に拭きながら、視線を仲間に向けていた。
「ベリムートは洋服より本物の剣や馬を欲しがっていると思うよ。危なくてダメとは思うけどさ」
少年アウストは枝に繁る葉一枚を狙って木刀を振った。
「今、アウストがいったけどさ。馬は欲しいよな、俺様達も。騎士になるのなら、馬に乗れないといけないだろ? そりゃ四頭いるのが一番いいけど、一頭いればみんなで練習出来るし、なんとかならないかなあ‥‥」
クヌットが空を見上げると、コリルとアウストもつられて仰いだ。
ちびブラ団四人の父親達も馬は扱える。一部の母親達もそれなりに大丈夫だ。
商売や何やらで馬車や荷馬車を借りる用があるし、職場で馬を飼っている場合もあった。ただし家庭では飼っておらず、その意味ではちびブラ団の四人に騎乗訓練をする機会はない。
「まずは馬を買う許可をもらうために手紙を送ろうよ。アウラシアにさ」
アウストの発案でシスター・アウラシアにシフール便を出すことになる。
ちびブラ団は縁のあるシスター・アウラシア、本名ニーナから正義のためなら使ってよい資金を預かっていた。問題は馬を買うのが資金の使い道として正しいのかどうかだ。
現在、アウラシアは臨時緑分隊長の少女カリナ・カスタニアの話し相手兼教師としてルーアンのヴェルナー城に滞在している。
「アウラシアからの手紙、届いたよ〜」
一週間を待たず、アウラシアからの手紙がコリルの家に届く。ちゃんと飼える場所があるなら、子馬を一頭購入しても構わないとしたためられてあった。
三人はベリムートに内緒のまま、行動を開始する。ベリムートの両親に今は使われていない庭の小屋を馬用として使わせて欲しいと頼んだ。
馬の世話に関してはちびブラ団がちゃんとやると約束して許可がもらえる。定期的にみんなで家のお手伝いをしている実績によって信用してもらえたのだ。
幸いに誕生日までの数日間、ベリムートは母親と共に家を空ける予定になっていた。その間がチャンスである。
三人はベリムートにばれないように冒険者ギルドへ出向く。そして子馬一頭の購入と、馬小屋の補修の手伝いを願いするのだった。
●リプレイ本文
●準備
「いってらっしゃ〜い。気をつけてね〜」
朝早いベリムート宅。ベリムートと母親が出かけるのを父親のボートルとちびブラ団の三人が見送った。
親戚の家に手伝いに行く用事で二人が帰ってくるのは九月二十四日。その日はベリムートの誕生日である。
二人の姿が見えなくなったところで、近くの建物に隠れていた冒険者達がベリムート宅を訪れる。
ここで気づかれては元も子もない。すべては誕生日にベリムートを驚かす為だ。
「これが馬を飼う為に子供達と約束した小屋です。必要なものはすでに運んでありますので自由に使って結構です」
ボートルが小屋の錠前を外して戸を開けた。
小屋といってもかなりの大きさで馬小屋に改造しても問題はなさそうだ。
「充分な広さやな」
試しに中丹(eb5231)が愛馬うま丹を小屋の中に入れてみる。
アニエス・グラン・クリュ(eb2949)の馬テオトコス、レイニー・ホジスン(ec5431)の馬うにくりを入れても余裕があった。もう一頭入れて四頭でも飼えそうだ。
「馬はいいよねぇ。あたしも頑張って探すからさぁ」
レイニーはクヌットに近づいた。親が手広く商人をしていると聞いたので、会わせてもらえないかと頼んでみる。
「わかったぜ。父ちゃんに聞くのもいいかもな」
クヌットは引き受けてくれる。中丹もクヌットの父親に頼もうと考えていたようだ。
「馬小屋にするのを認めてくれてありがとうデス」
ラムセス・ミンス(ec4491)がクヌット、コリル、アウストと共にあらためてボートルにお礼をいう。そしてベリムートが帰ってきた時のパーティについても許可をもらった。誰もが大喜びである。
「お料理、がんばります! ばっちりです」
アニエスもパーティの準備に張り切っていた。諫早似鳥からもらったレシピで腕によりをかけて作るつもりであった。
「アニエスはんが料理なら、おいらは魚でも獲ってくるんや。‥‥なんや、うさ丹。それは疑っておる目やな。ちょっと待ちや。‥‥これでええわ。河童が魚獲れへんかったら、どないして生きてゆくねん。ええか? そもそもやな――」
中丹はオーラテレパスを使うと屈み、ライトニングバニーのうさ丹と話し始める。
頃合いをはかってコリルが中丹に訊ねた。オーラテレパスはどうやって覚えるのかと。
「う〜んそうやな〜。良く言えば意思の強さやけど、悪く言えば思い込みや。相手の言う事分かるしおいらの言う事伝わるんやでとか、おいらの攻撃はとっても痛いんや、アンデットには格別やでと思い込むことがコツやな――」
コリルだけでなくアウストもクヌットも中丹の説明に耳を傾けるが、ちんぷんかんぷんで終わった。
許可も得られた所で、役割を決めて行動開始である。
アニエスは子馬探しを仲間に任せて、小屋の修理と改築を主に行う。
中丹は子馬探しと馬の飼い方指南である。
ラムセスは子馬探しと力仕事の手伝い、そしてパーティの用意に力を入れる。
レイニーはよい子馬を安価に購入できるように値切り、ちびブラ団が揃ったのなら騎乗の仕方を教えるつもりである。
まずは子馬探しに多くの者が飛びだしてゆく。小屋に残ったのはボートル、アニエス、ラムセスであった。
アニエスはラムセスにテオトコスからの木材下ろしを手伝ってもらう。続いてボートルに本物の剣を使った稽古についてを相談した。
吉多幸政という老翁の侍について語る。彼の監視の元にちびブラ団へ本物の刀剣を触る機会を許してはもらえないかと頼んだのだ。
ボートルはしばらく考え、他の子の親にも相談してみないと返事は無理だと答えた。正式な返答には少々の日数がかかる事となる。
アニエスは吉多に面会の許可を得るべく手紙を用意する。親達からの答えが出ているであろう五日目の夕方に伺いたいとしたためておく。念の為、諫早似鳥が翻訳したジャパン語訳の別紙も付与された。
ちなみに刀剣に関してはベリムートはもちろん、他のちびブラ団にも内緒である。
それからアニエスはラムセスと木工ギルドに出向き、足りない木材などを手に入れた。新たに購入した材料代についてはちびブラ団持ちだ。
中丹、レイニーとちびブラ団三人はクヌットの父親の所へ出向き、厩舎や牧場の場所をたくさん教えてもらうのだった。
●小屋直し
トンテンカンと金槌の音が響く。アニエスは小屋に手を入れていた。
まずはこれからの冬の時期に備えてすきま風対策である。壊れかけた部分を剥がして新たな板と張り替えた。板と板の隙間には藁と粘土質の泥を詰めた。
すきま風とは別に通気や採光の窓は必要である。建て付けの悪くなった戸を新たなものと取り替えておく。子供でも手が届くようにと踏み台も用意する。
「えんやこらデス」
「任しておくんやで」
「神聖騎士はこういうのも、きっちりやるもんよ」
ラムセス、中丹、レイニーが小屋の周囲の水溝を深くしてくれる。
「ここは濡らしてはいけませんね」
アニエスはちびブラ団の三人と小屋内部の水回りに手を入れた。すべては水はけをよくする用意だ。
柵や棚も作り、綱を固定する為の柱を立てる作業の時も仲間の手を借りる。出入り口となる大きな戸には、子供でも開けやすいように低い位置へ取っ手をつけておく。
(「お友だちと馬をお守り下さい‥‥」)
アニエスは小屋の床中央に教会を建てる時に使われるという聖なる釘を打ちつけてセーラ神へと祈りを捧げた。
アニエスは空いた時間にちびブラ団三人と木工ギルドで教えてもらった道具屋へ買い物に出かける。飼い葉桶やブラシなどを購入して棚に並べておいた。すでに干した藁は馬の休む所に敷かれ、飼い葉も用意されている。
後は子馬を待つのみである。
「ベリムートさんはこんな感じかな。剣を携えて‥‥」
アニエスはベリムートへのプレゼントとして木彫りの人形を彫る。成長した未来の姿を想像したものである。
今回はベリムートのだが、どうやらちびブラ団の十歳の誕生日は比較的近いらしい。順次、彫り上げて贈るつもりのアニエスであった。
●子馬
「これで七件目やな」
「子馬はいたけど牡馬のみじゃん。牝馬がいいみたいね」
中丹の後に続いてレイニーが馬小屋から出てくる。コリル、クヌット、アウスト、ラムセスと続く。
六人でパリにある子馬を譲ってくれそうな個所を回っていた。
次に行こうとした矢先、ラムセスの腹の虫が鳴る。
「市場に屋台が出ていたのデス‥‥」
恥ずかしそうにラムセスがいうと、ちびブラ団の三人が食事の時間に賛成してくれる。
近くだったので市場に立ち寄って全員が小腹を満たす。アニエスとボートル用にお土産として購入するのも忘れない。
この時、ラムセスは市場でジャムの材料を手に入れた。木苺や林檎など、秋は美味しそうな果物が豊富だ。ジャムの材料としてうってつけである。
子馬探しは何日もかかる。
その間にアニエスの小屋の改築を手伝ったりするが、なかなかよい牝の子馬は見つからなかった。
短い見学だけで子馬の性格まではわかりにくいので、中丹がオーラテレパスで話しかけたりする。
飼い主はおとなしい子馬だといっても、そうでない場合もあった。嘘をついた飼い主の所は早々と立ち去る。
個人から大規模な牧場まで、出来る限り歩いて回った。
「なにしてるの?」
コリルが柵の上に座っているアウストに声をかける。よく見ると子馬とにらめっこをしていた。
「ん? なんかあったのか?」
クヌットもアウストに近づく。
「この子馬、よさそうじゃない? 中丹さんがいってたみたいに栗毛の毛並みはいいし、すっきりした感じで、飼い葉もよく食べてたよ」
アウストが気に入った子馬をコリルとクヌットもしばらく観察する。アウストのいう通りであった。
ちびブラ団の三人は、他を見ていた冒険者三人の腕を引っ張って子馬を見せる。
「牝馬だし。いいんじゃん」
レイニーは子馬の背中を撫でた。
「話してみたけど、いい感じやで」
中丹がクチバシをキラ〜ン☆とさせる。
「優しい目なのデス。きっといい馬さんなのデス」
ラムセスがアウストと頷き合った。
ここからは交渉の時間となる。
レイニーは大道芸をして『子供にプレゼントするんだよぅ。まけておくれよう』と粘り腰をしてでも安く買い付けるつもりであった。ただし、礼節を重んじる神聖騎士として子供達のイメージを壊さないようにしたいレイニーである。
どちらかを取れば片方は失う。普通は相反するものだ。
悩んだ末、レイニーは値切る方を取った。仲間にちびブラ団を別の場所に連れて行ってもらってから交渉を始める。
結果、少しだけだが安くしてもらえる。買い食いとパーティの材料費代がまかなえる程度には。
アウラシアの手紙にも少々の出費はよいと書かれてあったので使い込みにはならない。
「あ!」
子馬を連れて帰る途中でコリルは思いだした。
小屋はすっかり馬小屋に変身していた。戻ったコリルはアニエスに伝える。カリナの誕生日はまだまだ先だが、ラルフの誕生日は十二月十六日であると。
以前アニエスがラルフに訊ねたのだが、邪魔が入って聞けずじまいになった事がある。後で思いだしたラルフがアウラシアに頼んで手紙に書き添えてもらったようだ。
「ありがとうございます。そうですか‥‥十二月十六日」
コリルにはアニエスの歩く姿が弾んでいるように見えた。
「飼い葉といってもいろいろあるんやで。あと自然に生えてる草でも好き嫌いはあるんや」
子馬が馬小屋に納まった所で、中丹が世話の仕方についてちびブラ団三人に指導を始めた。帰ってきたらベリムートにも教えるつもりである。
ブラシのかけ方などうま丹を使って練習してきた腕を実践する。
「もう少し、甘いほうがいいのデス。蜂蜜あったはずなのデス」
ラムセスは台所を借りてジャム作りに挑戦していた。チーズとバターは購入済みで、パンは当日に焼くつもりだ。
「もう、ダメ‥‥」
レイニーは大道芸のやりすぎで疲れて馬小屋の壁に寄りかかる。しかしちびブラ団の視線を感じるとピシッと立ち上がった。神聖騎士とは辛いものだ。
ちびブラ団三人がそれぞれの自宅に帰る。
ボートルが親達が出した刀剣についての結論を冒険者達に伝えた。吉多と人物を信用して任せるという。刀剣の取り扱いの他に馬の扱い方も教えてくれるのが親達が気に入った点であった。
五日目は子馬の世話を懸命にやるちびブラ団の三人だ。律儀な事に一番最初はベリムートだといって、子馬に乗る者はいなかった。
アニエスとラムセスは台所に入り浸る。
ソース作りをするアニエス。ジャムを完成させる為にラムセスは奮闘していた。ちびブラ団に教えてもらって、パン作りの前段階もやっておく。
夕方、冒険者だけで吉多の住居を訪ねる。吉多は正式に引き受けてくれた。
これで万全だと安心する一同であった。
●誕生日
(「釣りもええけど、直接獲るのもいいもんやで」)
六日目の朝、中丹はセーヌ川に潜って魚を掴まえる。中には両手で抱える程の大物もある。
充分な数を獲るとうま丹に載せて、そのままベリムート宅へと向かう。すでに待機していたアニエスに魚が引き継がれた。
ベリムートと母親が帰ってきたのは、ボートルの予想通り昼頃であった。
「みんな、どうしたの?!」
ベリムートは父親のボートルの他に仲間と冒険者達が出迎えてくれた事に驚く。
「お誕生日、おめでとう〜♪」
コリルに続いて拍手やお祝いの言葉が沸き上がる。そして何故か馬の啼き声を聞こえてきた。
ベリムートが振り向くとラムセスがゆっくりと馬小屋の戸を開ける。庭にいるベリムートからでも窓からの日光に照らされた子馬がよく見えた。
「ベリムートの馬だぜ。俺様達からの誕生日プレゼントだ」
クヌットがベリムートの背中を押す。
「はい。ベリムートのだよ」
アウストが子馬を馬小屋から出すと手綱がベリムートに手渡される。
「俺の‥‥馬なんだ!」
ベリムートが子馬の首に抱きついた。
「これは私からです。将来のベリムートさんです」
アニエスのプレゼントは木彫りの人形である。鎧を身につけた格好良い騎士姿だ。
「ありがと〜、アニエスちゃん。大事にするよ」
ベリムートはしばらく木彫りの像を眺めていた。
「パーティの時間なのデス。せっかくなのでお外で食べるのデス」
ラムセスがテーブルを馬小屋の近くまで運ぶ。用意された料理も次々と並べられた。
焼きたてのパンにバターが塗られ、チーズが挟まれたもの。ラムセス特製のジャムたっぷりのパンもたくさんあった。
くるんであった大葉が開かれると湯気と香りが辺りに広がった。香草とワインのソースで風味がつけられて蒸し上げられた魚料理だ。
「ベリムートはん、お誕生日おめでとうや! プリプリして美味いやろ」
「うん! 中丹さんが獲ってきてくれたんだ」
「アニエスはんが料理してくれたんやで」
「すごいなあ。とっても美味しいよ」
中丹の横で中丹が倒れそうなぐらい大きく胸を張る。他にも魚は焼かれたり、煮込み料理に使われていた。
ベリムートの母親が旅の途中で買ってきたワインも並べられる。
「子馬さんにはダメなのデス」
ベリムートが子馬に魚をあげようとしたのをラムセスが止める。草食の馬には厳禁であった。
林檎や葡萄、野苺のジャムはそのまま舐めても美味しい。ちびブラ団のみんなが気に入ってくれたようでラムセスは大満足であったが、一つだけ問題が残る。
「るー君、痛いデス‥‥」
鶏の『る〜』がラムセスの脛をクチバシで突っつく。どうやらパン屑が足下にこぼれたらしい。パン屑を払ってもなかなか止めてくれなくて涙目のラムセスである。
「もう一つ、プレゼントがあります」
アニエスの口から吉多の元で剣術の指南を受けられる事がちびブラ団に伝えられた。場合によっては本物の剣も触らせてくれるという。
「剣は騎士の特権であり名誉の象徴ですが、誇示や濫用は不名誉とされます。大切なのは適切な場面でそれを使う『倫理』ですよ」
アニエスは騎士の心構えをちびブラ団によく話しておく。
パーティが終わるとレイニーによる騎乗指南が始まった。まずは飼い主のベリムートからである。
「そう、停まるときは手綱を――」
レイニーは乗馬の基本を教える。後の訓練は吉多に引き継がれる事となった。
子馬の名はベリムートによってテルムとつけられる。
旅の途中で手に入れたレミエラがベリムートの母親から冒険者達に贈られる。持っていても仕方がないものなので是非もらって欲しいという。
夕暮れ時、冒険者達はベリムート宅を後にした。ちびブラ団の三人を家に送り届けてから報告の為に冒険者ギルドへ向かうのであった。