シャテニエの下で 〜ちびブラ団〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月07日〜10月12日

リプレイ公開日:2008年10月14日

●オープニング

 騎士に憧れる四人の子供達によって結成されたのが、ちびっ子ブランシュ騎士団である。
 略してちびブラ団の四人は親達に頼まれて市場でお使いをしていた。
「えっと野菜は買ったから、次は豚肉だ」
 黒分隊長こと少年ベリムートが子馬テルムの手綱を持って引き連れる。
 買った品物は子馬の背に取り付けられた袋へ入れられてゆく。大した重さはないので子馬でも平気である。
「ここの安くて新鮮だって聞いたことあるよ」
 灰分隊長こと少年アウストのお勧めのお店で豚肉を購入し、すべての買い物は終わった。
「あっ、ソーセージ売っているぜ」
 藍分隊長オベルこと少年クヌットが屋台を指さした。よだれが出そうになるのを我慢するクヌットだ。
「そういえば去年の収穫祭はソーセージ、売るの手伝ったよね〜」
 橙分隊長こと少女コリルが呟く。
 もうすぐパリでも収穫祭が開かれる。ちびブラ団の四人も楽しみにしていた。
「どうしたの?」
 帰り道、コリルが振り返ってアウストに声をかける。立ち止まって見上げているアウストの視線の先には人家の庭でそびえる大木があった。
「シャテニエ。食べられる栗がなる木だよ」
 アウストにつられてコリルも立ち止まり、ベリムートとクヌットも引き返してくる。
「おばさ〜ん、これってシャテニエだよね」
 垣根越しにコリルが声をかけると、庭で作業をしている中年女性が近づいてきた。
「そうさ。よくわかったね」
「あたしじゃないよ。アウストなの。物知りなんだよ」
 中年女性はオミリーアといった。オミリーアとちびブラ団の四人は雑談を続ける。
「もうすぐ本格的に栗の収穫をするんだけどさ。旦那と息子が用が出来てしばらくいなくなるんだよ。毎年、収穫祭には屋台を出して焼き栗を売ってるんだけどさ。今年は間に合うかどうかわかんないね」
「冒険者ギルドって知っている? 冒険者に手伝ってもらったら?」
「聞いた事はあるけど、どんなもんだかよく知らないんだよ。頼りになるのかい?」
「えっとね――」
 腕を組んだオミリーアにベリムートが冒険者ギルドの説明を始めた。
 とりあえず相談してみる事になり、オミリーアはちびブラ団四人の案内で冒険者ギルドを訪れる。考えていたより料金が安かったようで栗拾いの依頼を頼んだ。
「俺様も栗拾いを手伝うぜ」
「本当かい? それりゃ助かるね」
 クヌットだけでなく、ちびブラ団全員がオミリーアと手伝いの約束をするのであった。

●今回の参加者

 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3499 エレシア・ハートネス(25歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 ec2830 サーシャ・トール(18歳・♀・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ec3546 ラルフェン・シュスト(36歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec4491 ラムセス・ミンス(18歳・♂・ジプシー・ジャイアント・エジプト)

●リプレイ本文

●集合
 草原や森に出かけなくてもパリの様々な場所で秋は感じられた。家々の庭に植えられている木や植物もその中の一つである。
 依頼人オミリーアの庭には五本のシャテニエがそびえていた。
「これやな‥‥。結構あるようやな」
 河童の中丹(eb5231)は馬のうま丹とライトニングバニーのうさ丹を引き連れてオミリーアの庭を訪れる。所々に草が生える地面の上にも落ちていたが、大抵のイガグリはまだ木の枝にぶら下がっていた。
「初めましてデス、ラムセスミンスデス、よろしくデス〜。こっちは花水木さんと、はに井さんです、よろしくデス〜」
「よろしくね。大きいねぇ」
 ラムセス・ミンス(ec4491)はオミリーアに挨拶をした。仲間の元にも回る最中、ちびブラ団の四人が遠くから歩いてくるのに気がついて大きく手を振る。
 到着したちびブラ団はオミリーアに顔を見せた後でラムセスと一緒に中丹に駆け寄った。そして一緒にシャテニエを眺める。
「少しだけ肌寒く、また気持ちのいい秋の日ですね」
 愛馬テオトコスから降りたアニエス・グラン・クリュ(eb2949)もフェアリー・ニュクスと一緒に仲間達へと近づく。
「栗拾いは秋の風物詩だね」
 フェアリー・シーリアを肩に乗せて現れたのはサーシャ・トール(ec2830)である。
「イガグリは当たると大怪我するから用心するんだよ」
「うん♪」
 サーシャの言葉にちびブラ団が大きく頷いた。
「さてと」
 ラルフェン・シュスト(ec3546)は到着するなり背中の袋から荷物を取りだす。まるごとと呼ばれる厚い防寒着二着と三度笠に下駄が草の上に並んだ。
 ちびブラ団の四人が近づいたのを知ると、ラルフェンは膝を曲げて屈む。一人一人と握手を交わした後、落ちているイガグリの棘の一本を摘んで持ち上げる。
「兎に角、皆怪我をしないよう気をつけないとな」
「痛いもんね。このイガイガ」
 ラルフェンはイガグリをちびブラ団と一緒に眺めた。
 他の冒険者達もイガグリ対策として様々な品物を用意してきた。
 アニエスはまるごと二着とハードフード、そして手袋を貸すつもりだ。
 ラムセスは余分に一着のまるごとを持ってきている。
 栗拾いを楽にする為に地面へと敷くテントを用意してきた冒険者もいる。
「メルシア、お母さん猫になったんだ。ちび猫も二匹いるんだよ」
「それは驚きです。今度、メルシアとちび猫さんに会わせて頂けます?」
 エレシア・ハートネス(eb3499)はベリムートと猫談義である。エレシアが知る猫メルシアはまだあどけなさが残る頃までだ。
 シャテニエの枝に留まる鷲のフェミニオンが小さく鳴いた。馬のエミリオンは仲間の馬と共に庭にある杭へと繋がれている。
 全員が集まった所で、アニエスがオミリーアに去年までどうやって栗拾いをしていたかを訊ねた。
 その間に冒険者やちびブラ団はイガグリ対策の服装に着替える。
 まるごと姿を見かけた近所の人達が驚かないようにオミリーアへ説明をしてもらうのも忘れないアニエスである。
 去年までのやり方は次の通りだ。
 厚くて丈夫なマントを被って木を揺らしてイガグリを落とす。箒で掃いて集めてから木棒を使って中身の栗を取りだしてカゴに集める。残ったイガグリは袋に詰めておき、後で馬車で郊外に持ってゆくのだという。肥料として引き取ってくれる農家があるらしい。
 準備を終えるとさっそく栗拾いが始まる。まずはイガグリを枝から落とす作業からであった。

●栗拾い
 イガグリが枝から下がるシャテニエは庭に五本そびえていた。まずは全員で一本の木の下にテントの布を広げる。
 ラルフェンの意見によって既に落ちているイガグリを回収する。地面に落ちて長く経った栗には虫が喰っている場合が多い。こちらの判別は栗をよく知っているオミリーアに任せられる。
「なんや縁起悪い装備やな」
 中丹は自分の姿をあらためて眺めた。カースオブヘルムに邪悪なる外套という出で立ちは、どうみても威嚇しまくりの悪人かデビルである。
 不運を避ける為に呪い返しの人形と聖なる守りも身につけておく中丹だ。
「がんばってね〜」
 ちびブラ団の四人が中丹を応援する。
 中丹は肩で風を切ってシャテニエに近づき、ちらりと仲間とちびブラ団に振り向く。
(「ここは『木を揺する』と『脅すの強請る』をかけてボケて、ハートを鷲掴みにするんや!」)
 クチバシを開いてボケようとした瞬間、イガグリが頬を掠める。汗を一筋垂らした中丹は悪い予感を最大限に感じ取った。
「ほな、ゆするで〜。どすこーい、どすこーい〜!!」
 ボケるのを止めた中丹は両手の平を突きだすようにシャテニエの幹を叩き始めた。ジャパンのスモウという格闘技が、こんな感じで稽古をするらしい。かけ声はそれを真似たものだ。
 パラパラとイガグリが落ちてきて布の上へと次々と転がる。
 落ちるのが一段落すると、まずは敷いたテント布の回収である。それから布からこぼれたイガグリを箒などを使って集めた。
「イガグリが落ちてきても平気だったデス」
 ラムセスがまるごとすふぃんくすを脱ぐとちびブラ団も続いた。まるごとぎんこを借りていたのはコリルである。まるごとウサギさんはアウスト、まるごとたいがーはクヌットだ。ベリムートはまるごとクマさんを脱いだ。
 安全を考えてシャテニエの下から外れた場所でイガグリ割りが始まる。
「こうすると外皮が割れます」
 ちびブラ団の前でアニエスが棍棒で剥く方法を教える。
「長靴で踏んで中身を出すね」
「こうすれば簡単に栗が出せるんやで」
 サーシャと中丹がブーツで挟んで取りだす方法を実践する。
「なるほど。そちらの方が早そうだな」
 ラルフェンはナイフを仕舞うと足で踏む方法でイガグリを割った。
「こうすればよいのですね」
 エレシアも見よう見まねでイガグリを棍棒で割ってゆく。
 取りだされた栗はカゴの中に集められた。
 残ったイガグリの外皮も一所にまとめられる。庭の隅に置いておけば、七日後に帰ってくるオミリーアの旦那と息子が引き取りの農家まで運んでくれるという。
 コリルのプラティナも含めてフェアリー全員で栗を持ち上げてはカゴに運んでくれた。あまり役には立たないが、とても微笑ましい光景である。
「いいデスか、はに井君。『地面の栗を拾って籠に』頑張って欲しいデス」
 ラムセスは頬を地面につけるぎりぎりのしゃがんだ恰好で埴輪にお願いをする。一度目はイガグリのままカゴに入れ始めたのでやり直した。三度目の修正でうまくやってくれるようになる。
 アニエスは借りた箒やちりとりを使ってイガグリと一緒に落葉を集めた。
「結構、大きさが違うものだな」
「大きめのはこちらのカゴでいいのか?」
 栗がある程度集まるとサーシャが三段階の大きさで選別し始める。ラルフェンはそれを手伝う。
 途中の休憩でラルフェンが持ってきたお菓子をみんなで頂いた。
「次は私がイガグリを落とします」
 オミリーアから魔法を使う許可をとったエレシアがトルネードを詠唱する。イガグリが散らばらないように位置を注意して竜巻を発生させた。
 巻き上がったイガグリが敷かれたテント布の上に転がった。
 中丹のつっぱりとエレシアのトルネードでイガグリは次々と落とされてゆく。
 一日目だけではとてもすべてを落として拾いきれるものではなかった。
 日数にはまだ余裕がある。冒険者とちびブラ団はオミリーアに明日の作業を約束して家路につくのだった。

●最終日
「身内に持って帰る分は構わないさ。それ以外のお土産には少しだけ代金をもらおうかね」
 五日目の朝、オミリーアが冒険者達とちびブラ団の前でこう答える。いくらかの栗のお土産を譲ってくれないかという頼みに対してだ。
(「一箱は吉多様、もう一箱はヴェルナー城のラ‥‥アウラシアさんとカリナさんに!」)
 アニエスは脇に抱えられる程度の二つの木箱を用意して栗を譲ってもらう。
 依頼が終わった後で吉多の元に寄り、それから王宮門近くの詰め所に寄るつもりのアニエスであった。
「シーナとゾフィーも忙しいからな。ま、いない時には他のギルド員へ預けておこう」
 ラルフェンも土産以外の栗をいくらか譲ってもらう。ギルドへの報告に向かった際、秋の味覚をシーナとゾフィーに届けるつもりであった。
「栗菓子を作ってもよいだろうか?」
「元々焼き栗を振る舞う予定だったんだから構わないよ。ただし、美味しいのを頼むね」
 サーシャがオミリーアから台所を借りる許可を取ってくれる。
 四日の間にほとんどのイガグリはシャテニエから落とされていた。後は枝にしがみつく頑固なイガグリを一つずつ切り離して作業を完了させるのみである。
「ニュクス、頼みましたよ」
 アニエスはフェアリーのニュクスにオーラテレパスで命じる。
 棘で怪我をしないように手袋で覆ってもらったニュクスはシャテニエの枝に留まり、イガグリを落とす。他のフェアリー達も一緒に手伝う。
 アニエスは台所を借りてお料理である。栗入りのパンを焼く予定だ。
「あのようにイガグリを落としてもらえます?」
 エレシアも鷹のフェミニオンに残りのイガグリ落としを頼んだ。最初は戸惑っていたが、クチバシを使ってイガグリ落としを器用にこなし始める。
 エレシアもまたお菓子作りに台所へと向かった。ほとんどの者は台所で調理の手伝いをする。
 落ちたイガグリは埴輪のはに井さんが一個所に集めてくれた。ベリムートとクヌットがそれらを割ってゆく。栗拾いの追い込みである。
 昼過ぎにはすべてのイガグリが落ちて作業が終了する。
「この香り‥‥」
「うまそ〜だな」
 オミリーアの家からとてもよい香りが漂ってきて、ベリムートとクヌットは走りだした。
 庭に用意されたテーブルに出来たばかりの料理が並べられてゆく。目の間にしたベリムートとクヌットは唾を呑み込んだ。
 まだ熱気が立ちのぼる焼き栗。シンプルでいてほんのりと甘く、収穫祭の到来が待ち遠しくなる味だ。
 蜂蜜で煮られた栗をペースト状にして作られたパイ。ペーストにされた栗の食感と甘さが絶妙である。リンゴの薄切りも加えられていた。
 わざとアクセントとして渋皮付きの栗が混ぜられたパン。パイが甘いので大人の味を狙った逸品だ。
 どれもとても美味しそうである。さっそく全員で頂く事にする。
「ホクホクしています‥‥」
 アニエスは秋の空を見つめながら焼きたての栗入りパンを頂く。その方角の先にあるのはヴェルナー領であった。
「美味しいのデス。秋を感じるのデス」
「ラムセス、ありがと〜」
 力持ちのラムセスはコリルの分の焼き栗も割ってあげた。
「これ、どうやって作るの?」
「それはだな。まず栗は下茹でをして――」
 サーシャはアウストにレシピを教える。アウストはパイの味に感動したので自宅で作ってみるという。
(「あそこでネタやっとったら、どないなっとったんやろ‥‥」)
 中丹はパンをクチバシでかじりながら想像する。いくら不運を相殺するアイテムを持っていたとしても、必ずしも万全ではない。迷信の類ではあるが、ちょっとしたきっかけで運が傾くのはよくある事だ。
 イガグリの棘が刺さりまくった自分の姿を想像し、顔を青くする中丹であった。
「すげー早いな」
 クヌットがラルフェンがナイフで焼き栗を剥く様子に感心して近づく。
「こうすれば簡単だ」
 ラルフェンはクヌットに皮の剥き方を教えた。
 大人になっても忘れられない子供の頃の想い出というものは稀にある。ちびブラ団の心の中に自分の姿が残るとすれば、どのようなものなのかとても興味があったラルフェンだ。
「大きくなりましたね、メルシア。そして初めまして、ちび猫さん」
 エレシアはベリムートが連れてきた猫メルシアを抱き上げる。そして木箱に入ったブチのちび猫二匹に微笑みかけた。
「名前、まだ悩んでいるんだ。いいの浮かばなくてさ」
 ベリムートは腕を組んで考え込んだ。
 食事の時間は終わり、最後は枯葉で焚き火をしてお終いとなる。
「ほんと、助かったよ。これはお礼だよ」
 オミリーアが冒険者達に追加の報酬と甘い味の保存食を贈る。さよならをいってシャテニエがそびえる庭を冒険者とちびブラ団は後にした。まだ日が高く、時間が残っていたので吉多の建物に向かう。
「分隊長様方と一緒に拾った栗です」
「こりゃ、いいものを。ジャパンにも栗はあるのだよ」
 吉多はとても喜んでくれた。
 次に向かったのは冒険者ギルドであった。
「嬉しいのです〜♪」
「喜んでもらえてよかった」
 ラルフェンは報告ついでにシーナとゾフィーに栗を渡した。一部はすぐに食べられるように焼き栗になっている。
「センパイ、栗なのですよ!」
「あら、これが本当のビッ『クリ』ね」
 シーナに答えたゾフィーのオヤジギャグにその場にいた全員が固まる。冷たい視線の矢がゾフィーに突き刺さる。まったく関係のないギルドの客の視線まであった。
(「同じような目に遭うとこやったんか‥‥」)
 あまりの寒い空気に中丹は愕然とした。もしかすると中丹に降りかかろうとした不幸が行き場を失ってゾフィーを襲ったのかも知れない。真実は闇の中だ。
「土産にパイも持ち帰られるし、いうことなしだな」
 サーシャはフェアリーのシーリアと目を合わせる。
「あとでゆっくりと食べるのデス」
 焼き栗、パイ、パンと土産にもらったラムセスは満足顔である。日持ちしないので夜食として食べるつもりであった。他の仲間も同じようだ。
「大切にして下さいね」
「うん♪」
 エレシアがちび猫二匹が入る箱をベリムートに返す。そしてメルシアにも別れの挨拶を告げる。
 ちびブラ団を家まで送り届けて依頼は終了となった。
「こちらをヴェルナー城まで届けて頂きたいのですが」
 帰り道、アニエスは栗の詰まった木箱を王宮前の詰め所で黒分隊の隊員に預ける。隊員は快く引き受けてくれた。
 秋はもうすぐ終わりとなって冬の訪れは近い。
 その前に控えるのがパリの収穫祭であった。