パリ 秋の街角 〜シーナとゾフィー〜
|
■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月09日〜10月14日
リプレイ公開日:2008年10月17日
|
●オープニング
「シーナさん、この間はどうも♪」
「あ、お肉の友なのです〜」
昼前の冒険者ギルド。うら若き乙女、鳳双樹(eb8121)が受付カウンターから外れようとした受付嬢シーナ・クロウルに声をかける。
シーナは以前から双樹の事を親しみを込めて『お肉の友』と呼んでいた。
「これから休憩時間です? よかったら一緒に食べに行きませんか?」
「お昼を一緒に? 大歓迎なのです〜。すぐに着替えてきます〜♪」
双樹に昼食を誘われたシーナは急いでギルドの奥に入るがすぐに戻ってくる。何を食べようかとお喋りしながら、シーナと双樹はギルドを出た。
(「今のうちですわ‥‥」)
シーナと双樹がギルドから離れてゆくのを建物の影から確認する人物が一人。追跡するかと思いきや、コソコソと冒険者ギルドの出入り口を潜る。
「ふう〜、さてと‥‥」
薄暗い場所から一歩踏みだせば、不審な印象は一掃された。その正体は艶やかな女性リリー・ストーム(ea9927)であった。
実は双樹にシーナをギルドから遠くに連れだしてもらったのは他ならぬリリーだ。それには深い理由がある。
「いましたぁ。いましたわ〜」
「ど、どうしたんです? リリーさん」
リリーはシーナの先輩にあたるゾフィー嬢を見つけると、泣きすがるように駆け寄った。
「シーナに内緒でご相談がありますの。できれば内密にお話したく」
「それなら個室に移動しましょうか」
ゾフィーはリリーの相談を人目がない個室で聞く事にした。
「シーナからアモルって男性について聞きましたかしら?‥‥」
「ええ。皮の水筒を返し忘れた綺麗な男の方がいて、その名前がアモルだったとシーナから聞いた覚えが」
「シーナがそういってたのですか?」
「ええ、そんな感じのいい方でしたよ。‥‥どうかなさったのですか?」
『綺麗な男の方』という言葉がリリーの頭の中で繰り返し響き渡る。『やはりシーナは』とリリーは最悪の想像を脳裏で巡らした。
「あの、その、実は‥‥、アモルの正体は私なんです」
「え?」
リリーは全てをゾフィーに話した。禁断の指輪を使ってアモルという男性にばけて、シーナを騙した事を。
「シーナが男性の目を気にするようになれば、自然とダイエットにも気合いが入ると思ったのですが、まさか本気になっているなんて‥‥」
「どうでしょうね。確かにシーナのダイエットは続いていますが、食欲も衰えていないですし」
ハンカチーフで目頭をおさえるリリーのテーブル向かい側でゾフィーは首を捻る。
「とにかく私、反省していますわ。なんとかシーナに正体を気づかれないまま、よいお別れをしなければと考えましたの。そこでお手伝いの冒険者をシーナにわからないように集めては頂けませんかしら?」
「ギルドの受付嬢であるシーナにばれないように、ですか」
「頼めるかしら‥‥?」
「‥‥かしこまりました。請け負ってくれそうな冒険者を見かけたら、それとなくわたしから声をかけましょう」
内容はともかく募集の仕方がとても難しい依頼であったがゾフィーは引き受けた。ゾフィーにとってシーナは同僚の関係だけでなく、大切な友人でもあるからだ。
リリーはゾフィーにお礼をいい、前金を支払うと冒険者ギルドの外で待機した。
昼食の休憩時間が終わったようで、シーナがギルドに戻ってゆく。
一人になった双樹にリリーは訊ねた。シーナがアモルについてどう思っていたかを。
はっきりとはわからないが、少なくても返しそびれた皮の水筒はいつも持ち歩いているようである。
「そうそう、シーナさん、遠くを見つめるような感じのときがありました」
「‥‥早急になんとかしないといけませんわね」
双樹から一通り聞き終わったリリーは、冒険者ギルドへ振り返るのであった。
●リプレイ本文
●そっと、こっそり
枯葉舞うパリの空き地。
ゾフィーに声をかけられて集まってくれたのはエフェリア・シドリ(ec1862)とアーシャ・イクティノス(eb6702)である。
作戦本番がどうしても他の日になってしまうので、一日目のみ参加の冒険者にはお礼をいって帰って頂いた。
依頼者であるリリー・ストーム(ea9927)と、既に頼まれていた鳳双樹(eb8121)は今回の事情に至った経緯を二人に話した。
「シーナさんにはナイショ、なのですね」
聞き終わると子猫のスーさんを抱えたエフェリアが大きく頷いた。なるべく目立たないように頭につけていたウサギ耳は外した。
「なるほど。そうことだったのですか」
この時、アーシャは一つのアイデアを考えつく。アモルにしつこく付きまとう女を演じようと。
軽い好きならばシーナも争う前に身を引くだろうし、興味がないのなら深く関わりたいとは思わないだろう。もし、猛烈に好きになっているのなら、醜い姿を反面教師にしてくれるかも知れない。
一緒になって付きまとうようなら、それはとっくの昔に手遅れだ。もっともシーナがそういうタイプではないのはよく知っているアーシャである。
「シーナさん、やっぱり気落ちしますよね‥‥」
双樹はお肉の友であるシーナを心配した。そしてどうするかを相談していると『妹』というキーワードが浮かび上がってくる。
「アモルに妹がいてシーナによく似ている‥‥。いいですわ、それ」
アモル当人でもあるリリーも賛成し、大まかな筋書きが相談された。シーナはアモルの生き別れた妹にそっくりで、それでついシーナに声をかけてしまったと。
後はうまく別れを導きだせば、例えシーナが恋心を持っていたとしても、なんとかなりそうである。
「用意にはいろいろとかかるでしょうから」
リリーは仲間にいくらかの資金の前渡しする。
数日間は準備に費やされた。変装の道具集め、完全なシーナの予定調査、レストラン・ジョワーズの予約など、結構手間のかかるものである。
普段からシーナの近くにいるゾフィーも、様々な面で協力してくれる。
五日目がシーナの休日なので、実際の行動は四日目からとなる。その日に向けて着々と準備を進める一同であった。
●再会
「また誘ってくれてありがとなのです〜☆」
「あたしも楽しいですし♪」
四日目の午後、少し遅い時間だがシーナは双樹に誘われて昼食に出かける。現在、シーナは交代の昼休み時間中である。
二人はレストラン・ジョワーズへと徒歩で向かう。
(「えっとリリーさんはどこに‥‥。あ、いました!」)
双樹はジョワーズ店内に入るとアモルへ化けているリリーを見つけた。それとなくシーナを誘導してアモルがついているテーブルをわざと横切る。
アモルは一人で座りながら窓の外を眺め、テーブルに頬杖をついている。そしてため息をついた。
「あ、えっと‥‥アモルさん?」
シーナはアモルに気づいて立ち止まる。
「ロサ?! いや、君は確か‥‥シーナ君だったかな?」
「そうなのです。シーナなのです。この間はお水ありがとうなのです」
「あれぐらいはどうってことないよ。これから食事かい? 何ならそちらのお嬢さんと一緒にどうだろうか」
シーナは双樹と相談をし、アモルと一緒に昼食をとることにした。
「ロサさんって誰なんです?」
「ああ、すまなかったね。妹の名前なんだ‥」
アモルは昔話を話し始める。約十三年前の復興戦争で離ればなれになった妹がいる事を。
双樹がチラリと横目で眺めると、シーナは真剣に話しを聞いていた。
(「ええっ、あれってリリーさんなのですか!? うそ、信じられな〜い」)
アーシャは深くフードを被ってアモル達から離れたテーブルで監視をしていた。タイミングを計り、アモルを狙う女ストーカーとして登場するつもりである。
シーナにばれそうな時にはアーシャも持っている禁断の指輪で男に変身する用意だ。
「お客様、お決まりになられましたか?」
「えっと、ウェイターさん、これとこれ、お願いしますわ」
ウェイターが注文に現れたので、アーシャはメニューの中から高そうなものを選んで注文する。かかる費用はリリー持ちであるからだ。ただ、美味しく頂きながらも注意だけは忘れなかった。
「似顔絵描きに頼んで描いてもらったロサがこれなんだ」
アモルは丸めた羊皮紙を取りだしてシーナと双樹に見せる。実際に描いたのはエフェリアであり、注文通りシーナに少し似せられていた。
「シーナさんに面影が似てますね」
双樹もフォローを入れてシーナの印象を強める。
「セーヌの畔では声をかけずにはいられなかったんだ。もしやという気持ちもあってね」
「妹のロサさん、大変なのですね。こんなとき商売の話をするのもなんですけど、わたしは冒険者ギルドの受付をしているのです。人探しも請け負いますので、よかったら相談してくださいなのです」
「ありがとう。でも、近々重要な情報が手に入るかも知れないんだ。無理なようなら、その時は相談させてもらうよ」
シーナとアモルの会話は弾むが、禁断の指輪には時間制限が存在する。
(「あと七分なのです」)
アモルの頭の中だけで聞こえる声があった。エフェリアがテレパシーで禁断の指輪が切れる時間を教えてくれたのだ。リヴィールタイムが使われているので正確である。
「ちょっと手を洗ってくるよ」
アモルが席を立ち、エフェリアの待つ店の奥へと向かった。
「大丈夫です。誰もいないのです」
エフェリアが廊下に立って見張っている間にリリーは禁断の指輪をかけ直して男性のアモルを維持する。部屋の使用はジョワーズの許可を得てあった。
「お待たせしたね。ちょうど食事が来たようだ。冷めないうちに頂こうか」
テーブルに戻ったアモルはシーナと双樹と一緒に昼食を頂いた。
「奢ってもらうなんて悪いのです」
食べ終わった三人は店の外へ出る。
「いいんだ。楽しかったのは私の方だからね。しばらくこの店に通っていたんだが、一人で食べる食事はあまり美味しいものではないからね」
「そうなのですか。シーナも楽しかったのです」
シーナがアモルに笑顔でお礼をいう。その時、道ばたで甲高い声が響き渡った。
「アモル様、毎度おなじみのアマリアですのよ!」
建物の影から姿を現したのは、先に店を出て待機していたアーシャが扮するアマリアだ。フードを深く被って顔や髪型は絶対にシーナには正体がばれないようにする。
「今日こそ貴方を振り向かせて見せますわ!」
「どこかでお会いになりましたか?」
「酷い! 忘れるなんてあんまりだわ。このプレゼント、受け取って欲しいのよ。私の髪の毛入りですわ」
「見ず知らずの方に、そういわれましても」
笑顔でアマリアに対応するアモルだが、心の中は当然違う。
(「この馬鹿‥後で覚えてなさいよ!」)
アモルに化けているリリーは心の中でアーシャに毒づいた。
「もう休憩時間が終わる頃なのです。とっても美味しかったのです☆ ごちそうさまでした〜」
鐘の音を聞いたシーナが急いで冒険者ギルドへ戻ってゆく。双樹はシーナについて行った。
「あ、また返すの忘れたのです!」
ギルドの出入り口を潜ろうとした時、皮の水筒をシーナは思いだす。
「きっとアモルさん、明日もジョワーズに来てますよ。シーナさん、お休みでしたよね? つき合います♪」
「助かるのです〜。やっぱりジョワーズの料理は最高なのですよ〜♪」
双樹と約束をし、シーナは冒険者ギルドの業務に戻るのであった。
●別れ
「ここで会える気がしていたんだ」
五日目の昼頃、シーナと双樹がジョワーズを訪れると昨日と同じテーブルにアモルが座っていた。
「昨日はありがとなのです。えっと、忘れないうちに返しておくのです」
シーナは皮の水筒を取りだしてアモルに渡す。やっと返せたと胸を撫で下ろすシーナである。
「実はアモルさんにも食べてもらいたいジョワーズの特別メニューがあるのですよ〜。お得意さま限定なのです♪ プレ・サレの羊肉をじっくりとローストしたお料理なのです。ほっぺた落ちちゃうのです〜」
「では、それを頼もうか」
シーナが勧める料理をみんなで食べる事にした。ウェイトレスに注文をし、しばらくして料理が運ばれてくる。
「これは‥‥。頼んでいないと思うのだが」
注文していない料理を目の前にして、アモルがウェイトレスに訊ねた。
「あちらのお客様が『あの席の美青年にこれを、私からのおごりよ』と仰いまして」
ウェイトレスが振り向いた先にはアマリアことフードを深く被るアーシャの姿があった。最終的にはリリーが支払うはめになるのを知っていての行動である。
(「ふふふっ‥‥後で見てなさい!」)
アモルに扮した心の中のリリーは空想の杖を真っ二つに割る。
(「もう、時間がないのです。急いだほうがいいのです」)
エフェリアからのテレパシーが頭の中で響き渡り、アモルに扮したリリーはハッとする。何回かテレパシーは届いていたが、怒りでタイミングを逃してしまったリリーであった。
「ちょっとすまない」
アモルが顔をふせながら立ち上がる。シーナに背中を向けた瞬間、女性のリリーに戻ってしまう。
「あ、シーナさん、シーナさん。プレ・サレのお肉、冷めちゃいますよー」
双樹が身を乗りだすようにして、遠ざかってゆくリリーをシーナの視線から隠す。そして運ばれたばかりの料理をシーナに勧めた。
「この前、このお料理を運んでいたウェイトレスさんを、つい見つめてしまったのですよ〜。寒くてボート漕ぎはやめちゃったんで、お肉控えていたんですけど、今日は特別なのです☆」
シーナはさっそくフォークとナイフと手に取ってプレ・サレのロースト料理を食べ始めた。
「エフェリア、助かったわ」
男性のアモルに変身し直したリリーが深呼吸をする。
「私とリリーさんの両方にかけておいたほうがよいのです」
エフェリアは自分とリリーにリヴィールタイムをかけ直す。テレパシーが切れる時間も含めてさらなる万全を期した。
「この後、パリを散策するつもりなんだ。よかったらつき合ってくれるかな?」
テーブルに戻ったアモルは料理を頂きながらシーナと双樹を誘う。
秋の空の下、三人はパリの石畳を歩いた。
「昨日の話の続きなんだが、ロサに似た女性を異国で見たと聞いてね。旅立つつもりなんだ」
「いつ旅立つのですか?」
「それが今日なんだ」
「えっ!」
シーナと双樹は同じタイミングで驚きの声をあげる。
「一度はロサを探すのをあきらめかけていたんだ。でもシーナの姿を見て、そんな事じゃいけないって気がついたよ」
「シーナは何にもしていないのです。‥‥ん?」
アモルの言葉に恥ずかしそうにしていたシーナは妙な音に気がついて足下を眺める。すると小石が転がってくるのに気がつく。
「アモル様はアマリアのものだわ! 近づくなんてもっての他よ!!」
小石を握ったアマリアが叫ぶと裏路地に逃げていった。
「シーナさんになんて事をするんですか!」
「あ、当たっていないのでだいじょうぶ‥‥。双樹さん、いっちゃったのです」
アマリアを追いかけて双樹も裏路地に消える。シーナとアモルの二人きりになった。
「ちょっと待っていてくれるかい?」
変身をし直す為にアモルもシーナの前から一度立ち去った。そして花やスカーフを買ってきて誤魔化すアモルである。
(「シーナさん、空を眺めているのです。あれが乙女心なのでしょうか」)
リリーが変身し直している間、シーナの監視はエフェリアがやってくれた。
「途中でベゾムに乗って、逃げられてしまいました。石を投げるなんて酷いですよね」
双樹が戻ってきて再び三人で歩き始める。
アモルがロサの事を語り、シーナと双樹は耳を傾け続けた。
「見送りはここで良い‥君との別れが辛くなるからね」
ちょうど冒険者ギルド前でアモルは立ち止まる。
「ありがとう。シーナたちのお陰で、私は再び歩き出す事が出来るようになったよ」
「ロサさんが見つかるといいのです〜。これを。軽くなるタイプなのです」
シーナは手持ちのレミエラをアモルに贈った。
「旅は大変なのです。お金に変えてもいいし、エチゴヤに立ち寄って使えるようにするのもいいのですよ。持ち物が軽くなれば旅もしやすくなるのです」
手を振ってアモルを見送るシーナが笑顔なのを双樹は確認する。
「とってもお可哀想なアモル様‥‥」
また建物の影から甲高い声が響き渡った。どうやら妹の話をアマリアは聞いていたようだ。遠ざかるアモルを追いかけるようにアマリアがベゾムで飛んでゆく。
「知り合った人と別れるの辛いですよね」
「その通りなのです‥‥」
「でも記憶は残ります。想いでも‥‥」
「少しの間でしたけど、忘れないのですよ。アモルさんの事は」
シーナと双樹はしばらくアモルが消えた街角を見つめ続けるのであった。
「生きて帰れるかわからないのです。イクティノスさん」
アモルが消えた街角の先でエフェリアは子猫のスーさんを膝に抱えて階段に座っていた。そしてリリーに追いかけられるアーシャの姿を目で追いかける。
空き家に飛び込んだリリーはレザードレスに着替えて手には鞭を持っていた。
「アーシャ! お仕置きですわー!」
しなった鞭が逃げようとしたアーシャのベゾムを絡み取る。
「うまくいったからいいと思いますよ〜〜」
アーシャはなんとか地面に着地すると逃げ回り続けた。
小一時間のバタバタの後で、ようやく二人は落ち着いた。正確にいえば疲れすぎて動けなくなった。
双樹が三人の前で報告をしてくれる。特に落ち込んだ様子もなく、今度新しい運動を一緒にやろうとシーナと約束したという。
「ふぅ〜、これで元通りですわ」
エフェリアが皮の水筒に水を汲んできてくれてリリーは喉を潤す。仕方なくアーシャにも皮の水筒を手渡して水を飲ませてあげる。
シーナからアモルとしてもらったレミエラは公平に分配された。報酬にも少し色をつけて仲間に渡すリリーであった。