見果てぬ夢 〜シルヴァン〜
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■ショートシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 56 C
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月12日〜10月27日
リプレイ公開日:2008年10月21日
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●オープニング
パリ北西に位置するヴェルナー領は、ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーの領地である。
その領内の森深い場所に、煙が立ち昇る村があった。
村の名前は『タマハガネ』。
鍛冶職人の村である。
鍛冶といっても他と赴きが違う。ジャパン豊後の流れを汲む作刀鍛冶集団であった。
村の中心となる人物の名はシルヴァン・ドラノエ。ドワーフである彼はジャパンでの刀鍛冶修行の後、ラルフの懇意により村を一つ与えられた。
ジャパンでの修行後期に作られた何振りかの刀が帰国以前にノルマン王国へ輸入され、王宮内ですでに名声が高まっていたのだ。
ジャパンから連れてきた刀吉と鍔九郎、そして新たに集められた鍛冶職人によって炎との格闘の日々が続くが、完成した刀剣は少ない。
現在はブランシュ騎士団黒分隊に納めるシルヴァンエペの他に、ナギナタ型武器『クレセントグレイブ』を完成させ、量産にこぎ着けたところであった。
シルヴァンエペ・デビルスレイヤーはついにブランシュ騎士団黒分隊に完納された。特別な事情が起こらない限り、これからは以前よりもせっついた状況ではなくなる。
しかし一般の兵士に渡されるクレセントグレイブの需要が尽きる事はまずあり得ない。
シルヴァンは空いた時間を使って集中的に村の鍛冶職人達の指導を始める。これからは村の鍛冶職人にもクレセントグレイブの穂先を打ってもらうからだ。
新たな村人も増えてきたので、刀打ちが出来る腕前を持つ職人にもようやく余裕が出来てきたのである。デビル襲来時の心の傷が癒えてきたのも理由の一つだ。
冒険者にはまだまだクレセントグレイブ作りを手伝ってもらうので、ギルドでの依頼を止める予定はなかった。
それにシルヴァンにはもう一つの考えがあった。新たな刀剣の模索である。
自らと刀吉と鍔九郎で探ろうとしていたが、望むのであれば冒険者にも挑戦してもらうつもりでいたシルヴァンだ。
但し、いくつか条件がある。
過程で仕上がるであろう刀剣は一度シルヴァンが預かるものの、作刀者の手には必ず戻す。つまり打った冒険者の所有物となる。
冒険者用の作業小屋である火床で打ち、ある程度の玉鋼を使っても構わない。ただブランも含めて、その他にかかる材料費などは当人が持つ。一品物ゆえの高価な材料代もあり得た。
打ち始めたはいいものの、途中で失敗して最初からやり直す可能性もある。考えていた性能よりはるかに劣った武器になるかも知れないが、そうなっても構わない覚悟も必要だ。
タマハガネ村滞在時間の半分までは作刀に使わせるつもりのシルヴァンである。
シルヴァンにとっての利点は他者の創作から受ける刺激だ。ある夜、刀吉と鍔九郎に意見を求めたが特に反対は出なかった。
翌朝、刀吉が馬車でパリへと向かう。その姿をシルヴァンは見送るのだった。
●リプレイ本文
●相談
来られなかった一人を除いて、集まった冒険者達は刀吉が御者をする馬車でパリを出発した。
森深い地にあるタマハガネ村に到着したのは二日目の夕方であるが、すでに夜といってよい暗さであった。日が昇っている時間は短くなり、高い木々のせいでどうしても闇の訪れは早くなる。
シルヴァンエペはブランシュ騎士団黒分隊に完納された。一般の兵士用となるクレセントグレイブについては、まず需要が尽きる事はあり得ないので順次作刀が行われている。
タマハガネ村での必要分は満たされて、今はルーアンの一般兵士用として出荷されている状態であった。
集まった冒険者にはクレセントグレイブの作成を手伝ってもらう。しかしそれとは別に個別の作刀についても検討されていた。
新たな刀剣についてを模索する時期だとシルヴァンは考え、ならば腕の立つ冒険者にもと考えたのである。刀吉と鍔九郎にも機会を与えるつもりである。
夜、冒険者用の家屋にシルヴァン、刀吉、鍔九郎、エルザが訪れた。
そして個別の作刀についての相談が行われる。冒険者に個人的に作刀したい刀剣の構想を語ってもらった。
「作ろうとしている武器は平たく言えば片刃が日本刀、もう片刃が西洋刀だ。鎧や甲殻など硬い相手を叩ききる時は西洋刀の刃で叩き斬り、比較的軽装で斬り易い相手には日本刀の刃で切り裂くといった所だ」
ユニバス・レイクス(ea9976)は野太刀を参考に、二つの刃を両立させる剣を考えていた。
シルヴァンはしばし考えた後で答える。ユニバスの腕ならば技術的に問題はないが、果たして両刃のどちらもが役に立つかはまた別の問題である。
硬い相手を叩き斬るには刀剣に重量があった方が有利であり、軽装の相手を斬るには軽さを求めて機動性を高めた方がよい結果に繋がりやすい。両方を求めるという事は相反する特性を一つにまとめ上げなくてはならず、どっちつかずの凡俗の刀剣が出来上がる可能性が非常に高かった。構造を確かめる為にひとまず試作品を作ってはどうかとシルヴァンは薦めた。
「形状は日本刀か大太刀みたいな感じで行きたいずら。大きくて重い武器になる方が作刀は難しいズラか?」
「ニセさんの腕ならば、その点は大丈夫であろう」
ニセ・アンリィ(eb5734)にシルヴァンが答える。続いて魔法武器の作り方やかかる材料代などの質問をニセはしたが、シルヴァンは後でまとめて答えるとした。同じ疑問を持つ冒険者が多いと判断したからである。
「わしも日本刀、または野太刀ですな。気をつけるべきは重心ですな。柄は長くし、持つ場所によって取り回しを制御しやすいように計らい、また、握りは若干細くしておきつもですわぃ。鍔はジャパンの十手をイメージし、敵の攻撃を受けたり絡めとれるように考えてみますな」
ヴィルジール・オベール(ec2965)は考えてきたアイデアが理に適ったものかシルヴァンに相談する。その他に刃の部分へ竜の鱗を模した文様を銀で彫り込むなども話された。
シルヴァンは充分な腕をヴィルジールが持っていると太鼓判を押す。ただ、ヴィルジールも自分に魔法武器の作成が出来るのかどうかを気にしていた。
「友人の武道家が『自分は蹴り主体で戦っているので足に装備できる魔法武器が欲しい』と言っていたのですが、技術的には可能でしょうか?」
「俺は刀鍛冶ゆえに、その質問に答える知恵は持っていない。出来れば答えてあげたいところなのだが‥‥」
残念ながらクァイ・エーフォメンス(eb7692)の質問にシルヴァンは答える術を持っていなかった。
「私も作刀を希望です。ですが今回はクレセントグレイブの穂先打ちに専念しようと考えています」
「今の所は素案出しだけで良いわよね。頭の中だけじゃ煮詰まるかもだし、雑談から発想が浮かぶ事もあるわ」
朧虚焔(eb2927)とナオミ・ファラーノ(ea7372)は具体的な相談は保留のようである。
話題は材料代と魔法武器の作成方法に移った。
玉鋼に関してはシルヴァンエペぐらいの刀剣分ならば60Gだが、これは望めば無償で提供される。多く使う分は購入してもらう形となる。
但し、玉鋼を使ったからといって魔力を持つ訳ではない。シルヴァンはハニエルの護符と呼ばれる特別なアイテムによってシルヴァンエペに魔力とデビルスレイヤーの加護を授かっているからだ。
魔力の付加をしたいのであれば、ブランを使うのが早道である。
魔力を持つクレセントグレイブの穂先に使われる合金には約一割のブランが混ぜられていた。金の百倍以上の価値を持つブランなので、合金といえども相当な金額であった。
シルヴァンがラルフ領主に掛け合った上で、一人につき一振りのみの必要分という条件でブランを入手してくれるという。クレセントグレイブの穂先と同等の合金で、シルヴァンエペと同じ大きさの刀剣を打つとすれば120Gとされる。純粋なブランならば10倍の1200Gだ。これでもラルフ領主のおかげでかなりの割安である。
大鍛冶で調整された鋼ではなく玉鋼とブランとの合金にする方法もあるが、まだ試されていなかった。
クレセントグレイブの穂先でしてきたように、合金ならば今までの鍛冶の延長でもなんとかなる。しかし純粋なブランを使って武器製作を行うのなら、さらなる困難が待ち受けていた。
以前に話題になった力の炉とも呼ばれる『魔力炉』が必要だ。そして『竜の籠手』、『月雫のハンマー』、『太陽の箱』と呼ばれるアイテムも不可欠だ。
魔力炉については準備が整い次第、タマハガネ村に造られる予定である。魔力を注入しなければならないので、その時になれば何らかの形でウィザードを複数招く形になるだろう。
竜の籠手、月雫のハンマーに関しては極稀に古代の遺跡などで発見されるようだ。自ら探しだすか、スポンサーとなって探してもらうかしなければならない。シルヴァンも手を貸すつもりだが、果たして手に入るかはとても怪しい。
『太陽の箱』は、シルヴァンの実家にも一つだけだが伝えられていた。ただ、これを使うと同じ形のものしか出来上がらない。手元にあるのは極普通のロングソードの型であった。
ブランに頼らない場合、鍛冶の技術と鉱物知識のみでは魔力の込められた武器製作は不可能であろう。少なくともシルヴァンにはその知識はなかった。
ハニエルの護符がなければシルヴァンには魔力付加のデビルスレイヤーを完成させる事は出来ない。だからといって誰もがハニエルの護符を使っても奇跡を顕現させられない。
シルヴァンとて敬虔なジーザス教信者であるからこその能力なのである。
ハニエルの護符と同じように魔力とデビルスレイヤーの能力を付加する奇跡を起こせるとすれば、それは敬虔なジーザス教信者であろう。
シルヴァンは詳しくないが、精霊魔法の特性を持つマジックアイテムに関しても似たような傾向があると思われる。ただし、その道を極める程の能力がなければ不可能に違いない。
余談として、レミエラに関しては個人の資質と出現した性能との関連性は無さそうだとエルザが隣りに座るナオミに囁いた。
長い相談の間に、クァイは銀塊をシルヴァンに贈る。
夜も更け、さすがに明日からの仕事に支障が出るのできりのよい所で終わりになるのだった。
●クレセントグレイブ
三日目から冒険者達はクレセントグレイブの作成を始めた。
穂先打ちは二人での作業が基本である。
ナオミとクァイ、朧虚焔とヴィルジールの二組が冒険者用の鍛冶小屋である火床で炎と格闘する。
(「女が打ったから質が落ちたなんて云わせないから」)
ナオミがテコ棒を持ち、クァイの鎚が振り下ろされる。穂先が一柄分打ち終わると、立場を交代して作業は続けられた。
「それでは食事の用意をしてきますので」
クァイは時間を見つけて調理も行う。いつもの蜂蜜と塩分が含まれた飲み物の用意も忘れなかった。
柄の作業については割ける時間がなく、今回は別の村の職人に任された。
「素材の特性を腕で覚えることで、自分の刀剣を打つ際にも役に立つでしょう」
朧虚焔が鎚を振い、ヴィルジールが微妙に動かして調整をする。テコ棒の先端にある鋼に熱が加えられ、泥や藁灰がまぶされた。
「気合いを入れて穂先打ちをしませんとな!」
ヴィルジールは汗だくになりながら、懸命に鍛冶作業を続けた。
今までタタラ製鉄や大鍛冶をしていた村の職人の一部はクレセントグレイブの穂先打ちをしている。足りなくなった部分を補助する意味も込めて、ユニバスとニセはタタラ製鉄の場を手伝っていた。
大量の乾燥した砂鉄と炭を運び込む。その二つを炉へと交互に三日三晩入れ続けるのがタタラ製鉄だ。炉に空けられた穴からノロと呼ばれる不純物が流れだす。その様子から炉の中を想像して、どこまで続けるのかを決める。
火を落として炉を壊し、出来上がった巨大な鋼の塊を割って選別する。よい出来の部分が玉鋼である。
「これは微妙に刃先が太いな」
ユニバスはその他の時間で穂先の研ぎを行った。同じ穂先でも微妙に打った者のクセというのがあり、それは研ぐという行為ではっきりと浮かび上がる。
直接の鍛冶作業の一歩離れた所で観察してみるのも、また知識の一つとなるのであった。
夜、冒険者用の家屋では自然と囲炉裏を囲んで鍛冶談義が始まる。
「自らの名を冠した武器を作るのも大変ズラよ。一番現実的なのは穂先用のブランと鋼の合金ズラか‥‥。手に入れた玉鋼を合金用に使うのもいいズラ。純粋なブランはどうしようズラか‥‥」
ニセは鉄鉱石と鋼の塊を提供し、その代わりといってはなんだが自分の分の玉鋼を確保してもらった。
「少し見せてもらってよいかな。う〜む、この玉鋼にブランを混ぜてもらい、合金にしたとしてどのような打ち具合なのじゃろうか」
ヴィルジールが興味深く玉鋼を眺める。
「私もよろしいですか?」
朧虚焔も手にとってよくよく玉鋼を見つめた。
「そう、なるほどね。出来る部分は改良をしないとね」
ナオミは冒険者用の家屋を訪れていた鍔九郎から実戦でのクレセントグレイブの使い心地を聞いていた。
最初に形状を吟味しただけあって、とても使いやすかったという。デビル・アガチオンに対しても確固たる手応えがあり、幻と戦っているような不安感はなかった。刃こぼれもほとんどなく、日々の手入れの範囲で充分に補える程度だ。
唯一の欠点はその長さだ。鍔九郎は大丈夫であったが、ある程度の身長がないと扱いづらい印象を持ったようだ。こればかりは量産品であり、しょうがない部分である。どのような武器にもあり得る欠点であろう。
「ところで。鍔九郎さん、何だか少し変わったような気がしないでもないのだけど」
「そんな事はないと思うが」
「‥‥もしかして、エルザさん?」
「そっ、そ、それは! あ、いや用事を思いだしまして。失礼!!」
顔を赤くして慌てて出てゆく鍔九郎の姿にナオミは含み笑いをする。
「どう、思う?」
明日の献立を考えながら側にいたクァイにナオミが軽く肩をぶつけた。
「意識してます。かなり」
「そうよね、絶対」
クァイとナオミは同意見である。鍔九郎はエルザの事が好きなようであった。
●レミエラ
時間がある時、何名かの冒険者がエルザのレミエラ工房を訪れる。
ラルフ領主から預かっているウォーターダイブを付与出来るレミエラの再現にエルザはとても苦労していた。はっきりといえば、まったく活路が見つからない状況である。
デビルサーチのレミエラについては順調に生産されていた。
忙しいのはわかっていたが、ナオミはエルザにバーニングソードが付与可能なレミエラは作れないかを相談する。
バーニングソードを付与出来れば、対トーネードドラゴン用の射撃車両ラ・ペの活用が楽になるからだ。
話しをした所、リエアはバーニングソードを付与出来るようである。一部の兵士のオーラパワーと合わせてタマハガネ村での運用には支障がないようだ。
すでに三基がタマハガネ村には配備されている。順次、製作も続いていた。
●そして
「シルヴァンエペの重さと長さから換算して、大体の自分が打ちたい刀に必要な金属の量を把握しておいて欲しい。それと後困らないように鞘や握りの部分などの材料代や、細工の手間なども考慮しておいた方がよい。肝心な事を忘れていた。騎士やファイターなどの、どんな職業者の武器なのかもはっきりとさせておいて欲しい。作ったはよいが、職業によって、装備出来る、出来ないがあるからな」
シルヴァンは冒険者達に追加の謝礼とレミエラを贈る。
十四日目の昼頃、刀吉が御者をする馬車で村を出発する。十五日の夕方にパリへと到着するまで、冒険者の多くは刀剣談義に花を咲かせるのであった。
●六段階貢献度評価
ナオミ エペ進呈済
ユニバス エペ進呈済
朧 エペ進呈済
ニセ エペ進呈済
クァイ エペ進呈済
ヴィルジール エペ進呈済
今回はシルヴァンエペ配布の必要がありませんでした。