【収穫祭】楽しい時間 〜アロワイヨー〜

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月17日〜10月22日

リプレイ公開日:2008年10月25日

●オープニング

 パリから北西、ヴェルナー領の北方に小さなトーマ・アロワイヨー領はあった。
 トーマ・アロワイヨー領主となった青年アロワイヨーにはまつりごとの他にもう一つ悩みがある。
 パリ近郊の森の集落で出会った娘ミラのことである。
 ミラは冒険者達のおかげで無事にアロワイヨー家の親戚であるバヴェット家の養女になれた。これで家柄について文句をいう者は少なくなるはずだ。
 バヴェット家の屋敷はトーマ・アロワイヨー領内ではなく、別の領内にある。ミラが移り住むとアロワイヨーと離ればなれになってしまう。そこで別荘宅がトーマ・アロワイヨー領内に用意される事となった。
 バヴェット夫人は昔からアロワイヨーの事を気に入っている。二人の結婚が決まるまで、当分の間別荘宅でミラと過ごすつもりのようだ。


「しばらく戻ろう。決めた」
「え?」
 バヴェット夫人の別荘宅。訪ねてきた青年領主アロワイヨーが恋人のミラへと告げる。
「あの森の集落でも収穫祭が開かれる時期だろ? 冬に向けての服を取りに行くついでにしばらく滞在しよう。あの丸太小屋に」
「それはいい考えですね。アロワイヨー様が建てられた丸太小屋‥‥、久しぶりに見たくなりました」
「バヴェット夫人はどうなんだろうか? ああいう生活が苦手なら無理に誘うとかえって悪いし」
「きっと大丈夫ですわ。春の時も結構、お気に召したご様子でしたもの」
 アロワイヨーとミラは相談をした上で、バヴェット夫人も誘った。
「アロちゃん、寂しい事をいうわね。わたくしが行かないで誰が行くというの。ミラ、明日にはさっそく荷造りをしませんと」
「はい。そう致します」
 バヴェット夫人と視線を合わせたミラは笑顔で大きく頷いた。
 トーマ・アロワイヨー領ではすでに収穫祭は終わっていた。これからしばらくは大きな行事はない。今を逃すとパリに戻る機会は当分先であった。
 執事を先にパリへと向かわせて冒険者ギルドで依頼を出してもらう。せっかくの機会なので、冒険者にも護衛という名目で森の集落へ一緒に参加してもらおうとアロワイヨーは考えたのだ。
 アロワイヨーとミラ、バヴェット夫人も数日遅れで出発する。
 目指すはパリ。
 パリで冒険者と合流して森の集落へと一緒に向かう予定であった。

●今回の参加者

 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec1862 エフェリア・シドリ(18歳・♀・バード・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

エルディン・アトワイト(ec0290

●リプレイ本文

●出発
 早朝、冒険者ギルドの近くに五騎の護衛に守られた一両の馬車が停まっていた。
 アロワイヨー、ミラ、バヴェット夫人の三人は依頼に参加する冒険者達と挨拶を交わす。最後にエルディンと握手をした。
「お久しぶりです。その後、変わりはありませんか?」
「忙しい毎日でしたが大丈夫です。あれから警戒も怠っていませんし」
 アロワイヨーとエルディンは少々の立ち話をする。
 最後にアロワイヨーが乗り込むのを待って、執事が馬車の扉を閉めた。執事は御者台へと上がった。
「それではお元気で!」
 エルディンに見送られながら馬車が動きだす。
「少し買い物をしていきたいと考えています。よろしいでしょうか?」
 十野間空(eb2456)が必要な品を購入してから森の集落へ向かいたいという。そこでいくつかの店に立ち寄る事となる。パン屋シュクレ堂では焼き菓子、市場では香草や調味料を手に入れた。
 すべてが整い、馬車一行はパリ郊外にある森の集落を目指した。
「一年でも特に楽しい時期がやってまいりましたね♪」
「わたしも楽しみにしてました。特にアロワイヨー様なんか‥‥」
 鳳双樹(eb8121)とミラは話している途中でアロワイヨーに振り向いた。
「そりゃ美味しい季節だ。食べてはいるが、ちゃ、ちゃんと運動は続けているぞ‥‥」
 アロワイヨーが二人の視線に冷や汗をかく。
「本当ですか? アロワイヨーさん? 運動しないといけませんよ〜」
 以前にダイエット兼体力作りを手伝ったアーシャ・イクティノス(eb6702)の視線も加わった。
「アロワイヨーさん、注目を浴びて大変なのです」
「まったくその通りだわ」
 子猫を膝に乗せて座るエフェリア・シドリ(ec1862)の言葉に、バヴェット夫人が大きな口を扇子で隠しながら笑う。
 その声は馬車と併走する五騎の護衛の耳にも届いた。
 十野間空が購入してきた焼き菓子をみんなで頂きながら時間は流れる。昼過ぎに馬車一行は丸太小屋がたくさん建ち並ぶ森の中の集落に辿り着いた。
 収穫祭は明日昼からなので、まだ約一日の猶予がある。その間に済ませておきたい事が冒険者達にはあった。
「森の散策して食材を集めましょうか」
 十野間空の意見に全員が賛成した。背負えるカゴをいくつか借りてさっそく森の中へ出発である。
 集合地点を決め、何人か組になってから一行は森に散らばった。
「気をつけてね〜〜」
 双樹が見上げながら声をかける先には木に登るエフェリアの姿があった。
「落とすのです。受け取ってください」
「いつでも平気です〜」
 野生の葡萄の蔓が木々の幹や枝を伝って上へと伸びていた。高い位置の枝に葡萄の房がぶら下がる。エフェリアはもぎると狙いを定めて落とした。地面に立つ双樹が両手でやさしく受け取める。
「これは?」
 十野間空はたくさんの実が落ちている一帯を発見した。一つを拾うと集合地点へと戻る。
「同じものを市場で見かけたような記憶があるのですが、なんの実でしょう?」
「ハシバミの実、ヘーゼルナッツですね。とっても美味しい実です」
 十野間空はミラが答えを聞いてはっきりと思いだした。さっそく全員で落ち葉の絨毯の上に転がるたくさんのヘーゼルナッツを拾い集める。
「これ‥‥とっても美味しいのよね」
 今すぐにも食べたそうなバヴェット夫人であった。
「これはどうです?」
 今度は双樹がたくさん生えているキノコを発見する。
「これはとっても美味しいキノコです。鍋料理に入れると最高ですね」
 ミラの答えに双樹が喜び、キノコ狩りも始まる。
「この声‥‥」
 アーシャは実を拾う手を止め、頭上からの野鳥の鳴き声に耳を澄ました。
「アロワイヨーさん、明日の朝から獲物を仕留めに狩りをしませんか?」
「か、狩りですか。興味はありますが‥‥」
 アーシャに狩猟を誘われたアロワイヨーであったがとても迷う。はっきりといえば自信がなかった。一応騎士なのだが、武器の扱いはあまり得意ではない。
「行きます。是非狩りをしましょう」
 考えた末、狩りに出かけるのをアロワイヨーは決意する。
「あ、あたしも狩りにつき合いますよ。たろにも頑張ってもらうからね」
 双樹が屈むと愛犬のたろの頭を撫でた。アーシャの愛犬セリムも含めて、とても心強い味方である。
 その他にもたくさんの森の恵みを採集し、夕方には集落へと戻った。
 冒険者達は集落の長が用意してくれた丸太小屋を使わせてもらう。アロワイヨーとミラ、バヴェット夫人は丸太小屋『アロちゃんハウス』で寝泊まりだ。
 明日の朝に備えて、早めに就寝する一行であった。

●狩りと釣りと料理
 二日目の早朝、アーシャと双樹はアロワイヨーを連れて狩りに出かけた。
「狩りは貴族のたしなみでしたっけ?」
「そうではあるのですけど、これまでは食べるの専門だったので‥‥。そういうアーシャさんは弓はどうなのです?」
「‥私? えへへ、剣を振るうほうが得意ですから」
 アーシャとアロワイヨーは枯れた茂みに隠れながら獲物を探る。アルテミスの瞳と呼ばれる指輪をはめたアーシャは感覚を研ぎ澄ませて周囲を探った。
 双樹は森の各所に罠を仕掛けていた。それが終われば合流する予定である。
(「あれを狙いましょう」)
 水辺で野鳥を発見したアーシャは光の弓を構えた。魔力を消費して矢を出現させ、狙いを定めて宙を貫く。
 飛び立とうとした野鳥の翼へと見事命中する。野鳥は回転しながら地面へと落下した。アーシャの愛犬であるセリムが草原を駆け、野鳥をくわえて主人の元へ戻る。
 次はアロワイヨーの番だとアーシャは光の弓を貸した。
「お待たせしました♪ 小動物用の罠を仕掛けたのでうまく獲れるといいんですけど」
 双樹も合流し、三人で獲物を探す。しばらくして見つけたのは猪であった。
(「当たってくれ!」)
 木の幹に隠れながらアロワイヨーが光の弓をしならせて矢を放つ。見事、猪の左頬に当たるものの、一撃で仕留めるには至らない。
 暴れだした猪の側の茂みには双樹が隠れていた。
 追いついた犬のたろとセリムが猪の背中にかじりつく。次に双樹が猪の斜め前に飛びだした。
「えいっ!」
 双樹が振り下ろした木剣が猪の額を捉え、かなりの一撃を加える。
「大物ですね。これは」
 フラフラと千鳥足となった猪を、最後アーシャがナイフで仕留めた。
 太い木の枝を拾い、猪の足を縛りつけて三人で担ぐ。仕掛けられた罠にも小動物がかかって、野鳥も合わせて大猟である。
 狩りをした三人は意気揚々と集落へと戻っていった。

「スーさん、食べてはダメなのです。後でちゃんとあげるのです」
 エフェリアは岩の上に竿を持って座り、小川に釣り糸を垂らす。話しかけているのはペットの子猫のスピネットだ。
 ミラによい餌をもらったので一時間に六匹は釣果がある。持ってきたカゴもだんだんと一杯になった。
 エフェリアから少し離れた所では双樹の鴨であるがっちゃんが魚を獲っていた。ただし、主人がいないので自分の胃袋に収めているようだ。
 エフェリアはたまにスピネットとがっちゃんにテレパシーで声をかけた。その時だけは双樹が置いていったカゴにお魚を入れるがっちゃんである。
 昼近くになって双樹が迎えに来たので、エフェリアは一緒に集落へと帰る。
「アロワイヨーさんが猪を獲ったのよ♪」
「‥‥すごいのです」
 双樹の言葉にエフェリアが何度も瞬きをした。
 本当は力を合わせて倒したのだが、ここはアロワイヨーに花を持たせる双樹とアーシャであった。

「もう少し煮込んだ方がよさそうですね。新鮮なミルクが手に入ってとても助かりました」
 十野間空は集落に残り、ミラ、バヴェット夫人と共に料理に専念していた。
 途中で新鮮な肉や魚を仲間が運んできてくれた。途中からアーシャも手を貸してくれて、調理作業はよりはかどった。
 十野間空は持ってきたレシピを元にシチューや、チーズを使ったオーブン料理にチャレンジする。炒めた挽肉に濃いめの味付けをし、発酵させた小麦粉の生地で包んで作り上げる特製パンも、やがて出来上がる。
 猪は余計な部分を処理し、塩と香草だけで味付けをする丸焼きの調理法が選ばれた。新鮮で質がいいので、すぐに使うのなら臭みはなさそうである。漂う美味しそうな匂いは、集落の人々の食欲をかき立てるはずだ。
「アロワイヨーさんって〜、なんだかすっかり男前になりましたよね〜。猟のときも頼もしかったですよ」
「わたしにとっては、出会った頃とあまり変わらないんです。でも、領主として慕われるアロワイヨー様を見ていると嬉しくなります」
 少しポッチャリなのもアロワイヨーの魅力の一つだとアーシャはミラに笑顔で語った。
「念の為、今一度やっておきましょう」
 調理の合間に十野間空は外に出てスクロールのウェザーコントロールを唱える。これまでもよい天気になるように注意を払ってきた十野間空だ。
「こちらを皆でどうぞ」
「これはいいものを。ジャパンのお酒ですか」
 十野間空は機会を見つけて預かってきた宝酒『稲荷神』を集落の長へと贈った。
 昼過ぎ、収穫祭間近を意味する鐘の音が鳴り響く。集落の一番拓けた広場に人々が集まりだした。冒険者達が用意したものだけでなく、たくさんの料理が集落の人々によって持ち寄られる。
 収穫祭の始まりであった。

●収穫祭
 集落の長の挨拶に続いて、アロワイヨーにも一言が求められた。
 そつなくこなすアロワイヨーの姿に何人かの冒険者は驚きの表情を浮かべる。
 話しが終わると集落の有志達がリュートの演奏を始めた。それに合わせて村の娘達が踊る。
「スーさん、一緒に踊るのです」
 エフェリアもみんなの前に飛びだして踊りだす。足下では子猫のスピネットが跳びはねた。
 頭には天使の羽飾りをつけ、ホワイトドレスを身にまとうエフェリアは天使のようであった。ホーリーハンドベルを鳴らして踊る姿を集落の人々が応援する。
「この鳥肉いけるわ。程良い弾力に野趣溢れる味。『ジビエ』って感じだわ」
「それ私が獲ったんです! どうです、えっへん!!」
 串に刺された肉汁滴る料理を頬張るバヴェット夫人にアーシャが胸を張る。ちなみに胸を張りすぎて後ろに倒れそうになったアーシャを助けてくれたのは執事であった。
「どうぞ。どれも美味しいですよ」
 十野間空は木製の器にシチューをよそって集落の人々に渡してゆく。ミラとアーシャは肉を切り分けるのを手伝ってくれた。
「アロワイヨーさんのおかげで大変だった領地も大分持ち直しているようです。ミラさんも――」
 配り終わると、十野間空は集落の人々が気にしているだろうアロワイヨーの活躍をなるべくわかりやすく伝えた。ワインや発泡酒を呑み交わしながら、摘むヘーゼルナッツはとても美味である。
「あちらでの最近の生活はどうですか?」
 双樹はミラと特製パンを頂きながらお喋りをする。ほっかほっかの特製パンを二つに割ると湯気とともに美味しい味付け挽肉が中から現れた。
「ここしばらく壁掛けの製作に集中しすぎていました。アロワイヨー様を心配させてしまったかも知れません」
 ミラは笑顔で双樹に答える。
「幸せそうでなによりです♪ 壁掛けの出来上がり、楽しみにしてますね」
「ありがとう、双樹さん」
「最近ですと、あたしブルッヘという港町に行って来たんです。運河があってとても情緒のある街でした♪ ゴンドラって舟にも乗ったんです」
「噂には聞いた事があります。わたしもいってみたいです。アロワイヨー様と」
 双樹とミラの楽しそうな会話は続く。別の場所ではアロワイヨーとエフェリアの姿があった。
「このワイン、とっても美味しいのです」
「これはいい香りだ。ところで、その恰好はかたつむりかい?」
「エスカルゴさんの真似なのです」
「そうか。あの葡萄の葉にいるのだね」
 まるごとかたつむりに着替えたエフェリアはアロワイヨーのカップにワインを注いだ。
「わたしも欲しいです〜♪」
「どうぞです。よいワインなのです」
「いいわ。ほんのりしちゃう‥‥」
 アーシャがエフェリアに注いでもらったワインを一口呑んで頬を抑えた。
(「ミラさんも気にしていないようだし、このままでいいかも」)
 アーシャはポッコリと出ているアロワイヨーのお腹については触れない事にした。
「あ、アロちゃん、こんなとこで何しているのよ。せっかくの獲ってきた猪の丸焼き、なくなっちゃうわよ。早く食べないと!」
「わかりました。すぐ行きますので」
 バヴェット夫人に呼ばれてアロワイヨーが走ってゆく。領主であるはずのアロワイヨーも特別の世話になっているバヴェット夫人には頭が上がらないようだ。
 それからエフェリアは太鼓を取りだして演奏のリズムに合わせて叩いた。
 アーシャと双樹はアロワイヨーとミラを連れだして二人っきりにさせてあげる。
 十野間空は気が合ったのか、何人かの集落の者と肩に腕を掛け合って歌っていた。
 三日目だけでなく四日目も収穫祭は続いた。
 とても楽しい夢のような二日間はあっという間に過ぎ去った。

●そして
 五日目の昼前、一行は馬車に乗って森の集落を後にした。エフェリアの焼き菓子を摘みながらの帰り道である。
 暮れなずむ頃にはパリに到着し、アロワイヨー、ミラ、バヴェット夫人との別れの時となる。
 とても楽しかったとバヴェット夫人から追加の報酬と紅茶の葉が冒険者達に贈られた。
「さようなら〜」
 冒険者達は遠ざかる馬車に手を振る。そして想い出を胸に抱きながら冒険者ギルドに向かうのであった。