秋から冬へ

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 72 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月21日〜11月01日

リプレイ公開日:2008年10月28日

●オープニング

 秋の景色を残しながらも、すでに冬の到来を迎えた土地もある。草木に紅葉を残したまま、雪が降る山奥もごくわずかだが存在する。
 ある晴れた日、四十を過ぎたドワーフの猟師がパリの冒険者ギルドを訪れた。
 カウンターに座った猟師はため息をついた後、俯いていた顔をあげて受付嬢を見つめた。
「信じられるかい? もうこの時期に吹雪だぜ。いくら山奥だからって早すぎるだろうよ」
 猟師は状況を受付嬢に語り始める。
 初雪が海から高い土地で今時期に見かけられても不思議ではない。だが、降り積もる事は滅多になかった。ましてや吹雪などホラ話の何物でもないはずだ。
 しかし、現実として猟師が活動する山奥では雪が降り積もり、吹雪で荒れていた。
「雪だるまのオバケみたいなスノーマンが暴れているんだ。いつも冬の山頂付近にいる奴らなんじゃが、今年はなぜかこの時期から現れおって、しかも大分麓まで下りてきている。奴からがたむろする向こう側の山小屋には、夏から秋にかけて集めた薫製肉や干した果実なんかが保管してあってな。それがないと、集落はどうにも立ち行かんのじゃ。山小屋の食料は俺が集落のもんを先導して運びだす。モンスターと戦いに慣れた冒険者には、その間スノーマンの相手をして時間稼ぎをしてもらいたいんだ。よろしく頼む」
 猟師の言葉を受付嬢が書き留める。
 すぐに依頼書は作成され、ギルドの掲示板に貼りだされるのであった。

●今回の参加者

 ec5210 リンデンバウム・カイル・ウィーネ(47歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec5356 シャルロット・フランソワーズ(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ec5511 妙道院 孔宣(38歳・♀・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ec5570 ソペリエ・メハイエ(38歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●リプレイ本文

●出発
「依頼を引き受けてくれてありがとな。俺の名はコモロだ、よろしくな。さあ、乗った乗った!」
 一日目の早朝、荷馬車を操りながら依頼主のドワーフ猟師が待ち合わせの空き地に現れた。四十歳を過ぎたその男の名はコモロという。
 リンデンバウム・カイル・ウィーネ(ec5210)とシャルロット・フランソワーズ(ec5356)が荷台に乗ると、コモロは手綱をしならせて発車させる。
 妙道院孔宣(ec5511)とソペリエ・メハイエ(ec5570)はそれぞれの愛馬に跨り、護衛として併走した。
 山の麓までは荷馬車で三日を要する。そして麓から山小屋までは徒歩で登って約一日だ。
 冒険者達はコモロ率いる集落の人々が山小屋まで到達出来るようにスノーマンの群れを何とかするのが役目であった。
 山小屋から集落の人々が食料類を運びだすのに最短で二日かかることになる。吹雪を考えればもっとかかるはずである。
「スノーマン達と意志疎通は、はかれないものだろうか?」
 リンデンバウムが持ってきたボロ布を千切りながら仲間に話しかける。
 残念ながらテレパシーやオーラテレパスを使える冒険者はいなかった。可能性があるとすれば、スノーマンがゲルマン語などの人側の言語を話せる場合である。
「どうなのだろうか? スノーマンとはこれまでに話しはできたのだろうか?」
「今まで言葉らしきものをスノーマンから聞いたモンはいねぇはずだ。知っている事といえば、奴らの中に王冠みたいなものを被ってるのがいるぐらいか。誰かがいってたっけ、あれはキングスノーだって」
 荷台の藁の上に座るシャルロットの質問に、御者台のコモロが答える。スノーマンとの会話は出来るかどうか怪しいらしい。
「まずは試してみるべきです。武器を身につけずに話しかければあるいは‥‥」
 荷馬車の左側を愛馬ゾフィエルで走るソペリエが意見を述べた。もう一頭の馬は荷馬車に繋がれている。
「私も同意見です。山小屋の食料運びがうまくいけば、それでいいのですから」
 妙道院は愛馬踊躍に乗って荷馬車の右側から話し合いに参加する。
「やり方は任すさ。ただ、これまで問答無用で襲ってきた奴らだ。気をつけた方がいいぞ」
 コモロは荷馬車を少し速めた。
 二回の野営を経て、冒険者一行を乗せた荷馬車は三日目の夕方に山の麓にある集落へ到着する。わずかだが麓にも雪が降り積もっている。
 明日の朝から山に出発する事が集落の人々との間で決められた。
 一晩を過ごす集落の小屋の窓の戸を開けて、冒険者達は山の方角を眺める。
 真っ暗で何も見えないものの、吹雪の激しい音だけははっきりとわかる。山から流れてくる雪が凍える寒さと一緒に小屋の中へ入り込む。
 冒険者達は暖炉の火を強めて室内を暖めてから久しぶりのベットで休むのであった。

●山登り
 四日目の朝、冒険者達とコモロを含む集落の有志者九人は登山を始めた。
 自然に出来た山道に雪は残っていないが、それも最初のうちだけでだんだんと真っ白な世界に近づいてゆく。もっとも、少し強く踏めばすぐに地面は現れる。
 雪は降っていないが、どんよりとした曇り空の天候であった。
 コモロによれば麓から小屋までの道のりの中間辺りにスノーマン達の棲息地域になっているという。
 集落の有志者達は山小屋の食料を運ぶためのソリを一人一台引きずっている。登りはきついが、その代わりに帰りは大量の食料を運んでもそれなりの速さで下山が可能なはずだ。
 山を登りながら冒険者達は作戦の確認を含める雑談を始めた。
 リンデンバウムはノストラダムスの預言の際に起きた寒波を思いだした。もしや山頂を他のモンスターに奪われて仕方なくスノーマン達は下りてきたのではとの説を語った。
 シャルロットにはスノーマン達が下りてきた理由は想像出来なかったが、それとは別に雪上での不利を危惧していた。いつでも取り出せるよう横笛を懐に忍ばせているのは、突然スノーマン達に襲われても注意を引きつけて有志者達を逃がす為だ。
 妙道院もまた突然のスノーマンの来襲に備え、レジストマジックを自らにかける心構えを持ち続ける。この魔法を使えばある程度の時間は魔法による攻撃を受けても問題はない。ただし物理攻撃を伴うものは無理なので注意を心がけなくてはならなかった。
 ソペリエは盾となる覚悟である。有志者達を逃がし終わったのなら、スノーマンの攻勢から冒険者仲間には触れさせないようにするつもりだ。
 ただ、冒険者の誰もが出来るだけ話し合いの解決を望んでいた。戦いは最終的手段である。
 山小屋を目指す一行は、無理をせずに暮れなずむ頃には野営の準備を行う。ソリを引きずって登るのが大変なのと、これ以上進むとスノーマン達の生息地に入るからだ。
 中途半端な道程でスノーマン達と接触したら大変である。説得出来たのならよいが、そうでなければ戦いが始まって山小屋に到着する前に夜になるだろう。
 シャルロットが考えるように地の利があるスノーマン達を相手にして、真っ暗な雪山の中で戦うなど愚行も甚だしい。
 その為の早めの野営である。危険地帯を通過するのは早朝に決まった。
 リンデンバウムがボロ布を焚き付け用に使ったので、雪の中でも比較的簡単に火が起こせた。
 ソペリエの案により、見張りの順番が決められる。その他の者達は風が吹き込まない場所に張られたテントの中で就寝するのだった。

●スノーマン
 五日目の朝には雪が降り始めていた。天気がこれ以上悪くならないうちにと一行は出発する。
 雪が被る茂みの中に動くものを妙道院が発見した。全員に知らせた瞬間、飛びだしてきたのは一体のスノーマンであった。
(「この姿‥‥」)
 シャルロットはスノーマンのあまりのかわいらしさに一瞬和んでしまう。黒い目と鼻と口を持ったスノーマンがバタバタと一所を回る。
 ソペリエが雪面に槌矛と盾を置こうとした時にスノーマンが突進してくる。
「話し合いがしたいのです」
 ソペリエはひとまず攻撃には転じずに鎧でスノーマンの体当たりを受け止めた。
 やがて茂みの中から次々とスノーマンが飛びだしてきて一行を取り囲んだ。
「邪魔をしないでもらえませんでしょうか?」
 妙道院もスノーマンに攻撃をせずに受け止めるにとどめた。レジストマジックは付与済みである。
「話しを聞いて欲しい! この方々はこの先に用があるだけなのだ。それが済めばすぐに山を下りる!」
 リンデンバウムは叫んだが、スノーマンとのゲルマン語による会話は成立しなかった。その他の言語を使っても無理である。どうやらスノーマンは人語を理解出来ないらしい。
 あるいはテレパシーやオーラテレパスならば話せたのかも知れないが、それと理解しあえたかはまた別の問題だ。
 ソペリエは仕方なく雪面に置いた槌矛と盾を手に取る。
 冒険者達は強制的に有志者達の道を切り開く作戦へ切り替えた。
 スノーマン達の体当たり攻撃は大したものではなかったが、アイスブリザードが厄介である。かなりの広範囲に魔法の雪が吹き荒れるので避けるのが難しい。
 それでもソペリエと妙道院は冒険者仲間と有志者達の壁となった。
「酷い音色だな‥‥さあ来い、相手は此方だぞ!」
 シャルロットは横笛を吹いてスノーマン達を振り向かせる。そしてスノーマンに矢を放って、より注意を引きつけた。
「出来れば使いたくはなかったのだが‥‥」
 リンデンバウムはスノーマン達の中に王冠を被った個体を発見する。情報が正しければ、キングスノーであろう。
「急いで登りましょう!」
 妙道院はキングスノーが放ったアイスブリザードに晒されながら叫んだ。レジストマジックが持続していたので平気だが、スノーマン達が放ったものより強力なのはわかる。もしかすると別の厄介な魔法を使われる可能性もあった。
「仕方ない‥‥」
 リンデンバウムは攻撃魔法を使う覚悟を決める。その時、背後から近づく二体のスノーマンには気がついていなかった。
「止めなさい。無益です!」
 リンデンバウムの危険に気がついたソペリエは、スノーマン一体をコアギュレイトで足止めする。もう一体は身を挺して体当たりを受け止めた。
 リンデンバウムの詠唱の終わりと共に真っ赤な火球がスノーマン達の真上で弾けた。ファイヤーボムである。
 範囲に巻き込まれたスノーマン達は一気に憔悴して動きが鈍くなった。
「行くぞ!」
 コモロが叫び、一行は一気に雪に覆われた山道を登る。三十分後には疲れて立ち止まるものの、すでに追ってくるスノーマンの姿はなかった。
 雪は止まず、逆にだんだんと強まり、休憩もそこそこにして一行は登山を続行する。
 吹雪で視界が悪くなってきた頃、山小屋に到着した。
 日が暮れて雪山の夜を山小屋で過ごす。外は完全に吹雪となって風が激しく戸を叩き続けた。幸いに山小屋にはたくさんの薪が用意されていて、暖をとるには問題はない。
 六日目の朝になっても吹雪は止まなかった。
 有志者達は山小屋に保存されていた食料をソリに積んでおく。落ちないようにしっかりとロープで固定した。背負うバックにも出来る限りを詰め込んだ。
 冒険者達は周囲の警戒に徹した。吹雪に紛れてスノーマン達が来たのなら山小屋は死守しなければならない。下山も不可能な今、山小屋は一行の生命線である。
 七日目になっても天候はよくならず、山小屋に足止めされる。
 まるでこの吹雪はスノーマン達の怒りのようだと誰かが呟く。だが即座に否定する者もいた。
 山小屋の食料がなければ、麓の集落では今年の冬には餓死者が出るであろう。スノーマン達にも理由はあるのかも知れないが、今は集落の人々の為に食料を運ぶのが先決であった。
 七日目の深夜、ようやく雪は小降りとなる。
 八日目の朝日が昇るのと同時に一行は下山を始めた。
 有志者達がソリから伸びるロープから手を離さないように気をつける。新雪のせいでソリが沈み、あまり滑らないのがかえって助かった。
 冒険者達も注意を怠らずに雪の中を下ってゆくのだった。

●滑降
 下山の一行は急斜面に差しかかって覚悟を決めた。
 これから先はスノーマン達の棲息地域である。行きとは違い、たくさんの食料が載せられたソリを守った上で突破しなくてはならなかった。
 新雪は滑りにくいが、急斜面を利用すればソリで一気に下るのも可能である。
 勢いをつけたソリ九台に冒険者達と有志者達はしがみついた。雪煙を巻き上げながらソリは加速してゆく。
 スノーマンを発見すると、冒険者は次々と雪上に飛び降りた。
 途中で斜面が緩くなるのはわかっていた。逃げ切る前にソリはスノーマン達に追いつかれてしまうだろう。そうならない為には時間稼ぎが必要であった。
 無理に倒す必要はなく、リンデンバウムがファイヤーボムを使ってスノーマン達を威嚇する。妙道院、ソペリエ、シャルロットはリンデンバウムを守る。
 スノーマン達と対峙しながら、冒険者達はじりじりと下山してゆく。やがてスノーマン達が追いかけてこなくなってからは一目散に麓の集落を目指した。
 日が完全に暮れる前に集落に到着して冒険者達は安心をする。すでに有志者達はソリに載せた食料と共に戻っていた。
 その夜、疲れた冒険者達は泥のように眠った。

●そして
 九日目の朝、集落の人々に見送られて冒険者達は集落を後にする。行きと同じ編成でコモロが御者をする荷馬車に冒険者二人が乗り込んだ。残る二人は愛馬での移動だ。
 十一日目の夕方に一行はパリへと到着した。
「これは保存食を買った分の補充にでもしてくれ。こっちのはスノーマンが落としていったのを拾ったもんだ。俺達には役に立たないが、冒険者なら欲しがるって聞いたんでな。もらってくれ」
 コモロは追加の報酬とレミエラを冒険者達に贈って立ち去った。
 ギルドを訪れた冒険者達はレミエラを使える品と交換してもらう。報告も終え、少々の立ち話をしてから解散するのであった。