老翁の騎士と娘

■ショートシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月13日〜01月18日

リプレイ公開日:2007年01月18日

●オープニング

 冒険者ギルドでは、途切れ途切れだが、床を叩く音が続いていた。
 椅子を巻き込み、杖をついていた一人の老翁が倒れる。腰に帯剣している所からしてどうやら騎士らしい。手を差しだした冒険者に礼をいうと、立ち上がった老翁の騎士は受付の場所まで辿り着く。
「助けてくだされ」
 老翁の騎士は受付の女性に蚊の鳴くような声で呟いた。
「お困り事はなんでしょうか?」
 受付の女性が返事をすると、老翁の騎士が語り始める。
 老翁の騎士には一人娘がいるという。その娘がある森の屋敷で行方不明になった。屋敷は誰も住んでいない幽霊屋敷だ。
「わしは本当の親ではない‥‥」
 老翁の騎士は呟く。
 娘は没落した貴族の血筋であった。仕えていた老翁の騎士は娘を預かり、今に至る。
 昔、当主とやり取りした手紙を娘に見られてしまい、血が繋がっていないのがばれてしまった。娘に問いつめられたが、老翁の騎士は何も答えられなかった。
 貴族の本屋敷はすでに跡形もない。だが避暑用の別荘屋敷は残っていた。娘は自分にまつわる何かを探しにいったようだ。
「今はアンデッドが住み着いていると聞き及ぶ。友人2人といっているらしいが、もう帰ってきていい頃にも関わらず。何とか‥‥何とか生きていてくれたなら」
 老翁の騎士は握った拳を震わせる。
「わしが、かつてのわしであったのなら‥‥。すまぬ。嘆いた所でどうにもならん。お願いじゃ。娘を無事救出してくだされ。お願い致す」
 老翁の騎士は受付の女性に懇願するのだった。

●今回の参加者

 ea9343 ウェルリック・アレクセイ(37歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 eb6675 カーテローゼ・フォイエルバッハ(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb6950 ルー・レンヴィ(34歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb9475 アヴリル・ロシュタイン(31歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ec0549 黒 焔星(33歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec0587 なかむら りょうこ(25歳・♀・忍者・河童・ジャパン)

●サポート参加者

リュリス・アルフェイン(ea5640)/ ナノック・リバーシブル(eb3979)/ ウェンペ(ec0548

●リプレイ本文

●騎士の屋敷
 パリの一角に老翁の騎士オドランの屋敷はあった。屋敷とはいってもこぢんまりとした印象のある建物だ。庭の広さだけが過去の栄光を示していた。
「娘、アデリッドをよろしくお願い致す」
 杖をつくオドランは馬車を背にして冒険者に再度お願いをする。
「私がやるから馬車の御者さんはまぁ、要らないとしても‥‥」
 カーテローゼ・フォイエルバッハ(eb6675)はオドランを見つめた。
「別邸についての情報は欲しいわね。隠れ易い場所とか、存在を娘さんは知っていますか?」
「私も訊きたかったのです。娘さんがアンデッドから隠れているとすれば、どこにいると思いますか?」
「別荘屋敷に‥はズゥンビが徘徊し‥‥いると聞く。ただ数はどれ程かわかりかねる」
 カーテローゼとコルリス・フェネストラ(eb9459)が訊ねるとオドランは咳を混じらせながら答える。
「隠れる場所は、小さいなが‥ら屋敷の二階奥に礼拝部屋がある。あ‥そこなら隠れるのに持ってこいと思う。アデリッドが見た手‥‥にも触れた部分があった。きっと知っておる」
 お付きの者がオドランの背中をさする。これ以上寒い外で話すのは限界のようだ。
 ウェルリック・アレクセイ(ea9343)とカーテローゼが持つ二頭を馬車に繋がれていたのと交換する。用意されていたのは四頭立ての馬車である。
「依頼人とはいえ、いっておきたい事があるわ。なぜ最初から娘さんに話さなかったの? ‥‥主君から受けた恩を、娘を育てる事で返そうとした。自らの行いに、騎士の誇りと名誉に賭けてやましいものがなければ、ソレで十分でしょうに」
 カーテローゼの言葉にオドランは答えられず、立ち竦んでいた。
「現場までの時間を考えますと一刻の猶予もなし。すぐに出発しましょう」
 依頼人がその体調から来られそうもないのを知ると、ルー・レンヴィ(eb6950)が馬車に乗り込む。なかむらりょうこ(ec0587)も飛び乗った。
「私はもう少しオドランさんと話してから向かいます。必ず自分の駿馬で追いつけるようにしますので」
 アヴリル・ロシュタイン(eb9475)は仲間の乗る馬車を見送ると、オドランとお付きの者と一緒に屋敷の中に入るのだった。

「カーテローゼ嬢は真っ直ぐな方じゃあのお」
 オドランは暖炉の前に座り、笑顔を零した。すぐ近くの椅子に座るアヴリルはお茶をお付きの者に出されて会釈をする。
「わしにはやましいものがあったのじゃ」
 笑顔から悲しそうなオドランになる。
「わしはかつて仕えていた当主の令夫人を好いておった。つまりアデリッドの母親じゃな」
 暖炉の薪が弾ける音が続く。
「わしの勝手な片想いではあった。しかしアデリッドを預かるときに令夫人への想いがあった事は確かじゃ。もちろん、あの子は娘として育てた。だが、乙女として花咲いてからのアデリッドは令夫人と瓜二つ。後ろめたさから、わしの方から避けるようになったのじゃ‥‥」
「そうなのですか‥‥」
 アヴリルは寂しそうに話すオドランに頷いた。
「だが、こんな事になってから気がついたのだ。かけがえのない娘なのじゃ。無事に連れてきて下され」
 オドランはアヴリルの手を握る。
「約束して欲しい事があります。アデリッドさんが帰ってきたら、聞かれた事に総て正直に答えてあげてください」
「わかった」
 アヴリルは老翁の騎士の返事を聞くと、直ちに追いかける準備をした。追いつくのにさして時間はかからず、三時間の後には合流する。
 途中、なかむらがゲルマン語を話せないのに仲間達は気がつく。アヴリルがジャパン語も出来るので通訳をしてくれる話しがまとまる。
 続いてわかったのは、なかむらは保存食を持ち合わせていなかった。一晩を過ごす為に立ち寄った村で少々高めの保存食を手に入れ、仲間から毛布を借りることで、とりあえずの準備が整うのだった。

●幽霊屋敷
 冒険者達は二日目の午後過ぎに別荘屋敷へ着いた。
 枯れたツタが巻き付く別荘屋敷は至る所が壊れていた。当たり前だが庭も手入れがされてなく、荒れ放題だ。
「我々の任務はアデリッドと友人御二人の救出です。屋敷を徘徊するズゥンビの討伐はあくまで付随的なものであると思いますがどうですか?」
 ウェルリックは別荘屋敷を眺めながら仲間に訊ねる。
「騎士のいってた礼拝部屋を探すべきね。手当たり次第に探しても戦いながらじゃ疲れるだけなのよね。探しに行った人間がズゥンビの仲間入り、なんて笑えない冗談もいいところだわ」
 カーテローゼは腰に手を当てて、別荘屋敷を見上げる。
「例え辺りが暗くても踏み込まなければ。松明を持って来たので、火を灯して照明を確保出来ます」
 ルーはやる気で溢れていた。
「私もすぐに乗り込むべきだと思います。鳴弦の弓をかき鳴らせば、ズゥンビ達の動きをかなり封じられます。その間に娘さんたちを別荘から連れ出してもらうのはどうでしょうか?」
「思ったより早めの陽がある内に着いたのですから、屋敷の間取りを調べながら一階のズゥンビの数を減らすのはどうでしょうか? 先に出来るだけ退治しておきたいと思います」
 アヴリルは壊れた扉から別荘屋敷を覗く。かなりの数のズゥンビが外から見ただけでも窺えた。他の冒険者も覗いて顔を強ばらせる。
「ズゥンビの正確な数も分からないのに無茶は出来ないわね。もしかしたらズゥンビ以外もいるかも知れないし。元持ち主がズゥンビって可能性ないって事もないけど‥‥この大量の数では‥‥減らしておくのに賛成するわ」
 カーテローゼは状況を知り、ズゥンビを減らす策に賛成した。
 相談が行われ、今日一日はズゥンビの数を減らす作戦をとる事となる。明日になれば、どの様な状況であっても二階奥の礼拝部屋に踏み込む事も決められた。

「来ました!」
 冒険者達はズゥンビを別荘屋敷から誘きだしては一体ずつ倒してゆく。姿をズゥンビに晒しさえすれば勝手についてくる。追いかけてくる速度は遅いので行く手を塞がれさえしなければ余裕である。
 三体程度がまとめて来ても難なく撃破出来た。少しぐらい増えても時間はかかるが連携が崩れる心配はない。
 全部で三十体は仕留めると、一階にズゥンビの姿は見当たらなくなった。すでに辺りは夕日で赤く染まっていた。これで明日が大分やりやすくなったはずである。

「よくまあ、あのズゥンビの群れを通り抜けて二階にいったもんだね。生きているとすればだけど」
 カーテローゼは焚き火に枯れ木をくべた。
 冒険者達は別荘屋敷から少し離れた所に馬車を停めていた。
「囮になる時に感じましたが、生活の真似事をしているズゥンビもいました。時間によっては一所に集まり、なんなく二階に登れるのかも知れません」
 コルリスは集めてきた枯れ木を地面に置く。
「足遅いですし、うまく礼拝部屋に入り込んだのでしょう」
 ルーは遠くに望める別荘屋敷の影を眺める。
「シャキ‥‥ーン!」
 なかむらが寝言で意味の分からぬ言葉を呟き、仲間は笑顔になるのだった。

●救出
 早く起きた冒険者達は日が昇るのと同時に別荘屋敷へと乗り込んだ。二階から降りて来たのか、何体かのズゥンビが一階にいたが、無視をして隠れながら進む。
 暗がりでは何かと行動に支障が出る。なるべく陽が差す場所を通るつもりだが、別荘屋敷は広く、そうはいかない場所もある。灯火を用意出来る者はすべて手にしていた。どれか一つ位が消えたとしても問題はない。
 二階への階段まで辿り着き、ゆっくりと登ってゆく。差し当たり、ズゥンビの姿は見当たらなかった。
 ウェルリックはアデリッド達の名前を呼びながら探すつもりであったが、礼拝部屋を調べるまでは止める事にした。僅かながらズゥンビにも知能はある。呼ぶのは最後の手段にした方がよさそうだった。
 老翁の騎士オドランに教えてもらった通り、二階の中央廊下の奥に礼拝部屋はあった。扉は閉められていたが、特別な仕掛けもない。閉めさえしておけば礼拝の場所であるし、ズゥンビが入れない何かがあるのだろう。
 扉を開けると家具などで一応のバリケードが築かれていた。
「どなたかいますか?」
 たいまつをかざしてルーが声をかける。礼拝部屋から腐った臭いはしない。少なくともズゥンビはいないようだ。
「たっ助けて!」
 暗い礼拝部屋の奥から蜜蝋燭を持って女性三人が現れる。
「アデリッドさんはいますか? オドランさんに頼まれて助けに来ました」
「わっ私ですが、お父様が‥‥?」
 アヴリルが話しかけると一人の女性が前に出た。
「ズゥンビが来ました! 気がついているようです。いちにぃさん‥‥たくさんいます!」
 ウェルリックの報告に冒険者達は急いでバリケードを崩した。冒険者達は助けだした三人の女性にランタンやたいまつを渡し、ズゥンビの群れに立ち向かう。
 コルリスは鳴弦の弓をかき鳴らす。ただでさえ遅いズゥンビの動きがさらに鈍くなる。
 カーテローゼは自らにオーラエリベイションをかけ志気を高めながら、ズゥンビに近づいて剣を振り下ろす。背後にも気をつかい、死角をなくすよう心がけた。
 ルーはコアギュレイトで近づこうとするズゥンビの足留めをする。
『なかむらさん、お願いします』
 アヴリルは助け出した女性をかばいながら、ジャパン語でなかむらに話しかける。なかむらは隠密の能力を使って扉を開けて外に飛びだすと、わずかな縁を伝って庭へと降りる。馬車の準備をお願いしたのである。
 ウェルリックが進路を塞ごうとするズゥンビに黒なる神聖魔法による破壊を行う。ブラックホーリー、ディストロイと砕け散るズゥンビもあった。
 前方のズゥンビだけを払いのけ、一行は一階まで降りた。陽の光が差し込む扉を抜けて、全員が馬車に乗り込む。地面に置かれていた荷物はなかむらのおかげですべて載せられていた。
 カーテローゼが御者の台に立ち、手綱をしならせる。歩みの遅いズゥンビが馬車に着いてこられるはずもなく、全員が別荘屋敷を後にするのだった。

「そうですか。お父様が‥‥」
 老翁の騎士の娘アデリッドは座席に座りながら項垂れていた。長く怯えて隠れていたせいか、やつれた様子が窺える。友達二人は疲労で眠っていた。
「バカな真似をして。家が没落して、別の家に子供が引き取られるなんて珍しくもないわよ。‥‥身売りじゃなかっただけマシじゃない。と言うよりも恵まれてるわ」
 御者をするカーテローゼは馬車内から聞こえてきたアデリッドの言葉に呟いた。聞こえたアデリッドは唇を噛んだ。
「本当の父親ではなかったとは言え、貴女を育ててくれた事には変わらないでしょう? 何故なじるような真似を?」
 ウェルリックは諭そうとする。
「それはお父様が信じられなくなってたからです」
 アデリッドは項垂れたままだ。
「今までの生活の中で、貴方の『親』は血がつながっていないと感じさせるような接し方を、育て方を貴方にしていましたか?」
「子供の頃は‥‥優しいお父様でとても楽しい思い出があります。でもここ数年の間のお父様はわたしを避けているようで、しかも血が繋がらないのを知ってしまって‥‥探しにいったんです。自分が何者なのか知りたくて。結局何も見つかりませんでした」
「帰らない貴方達を心配になって私達を手配したくらいです。それでも貴方は、その人を『親』だと思うことはできませんか?」
「お父様には内緒で出かけたんです。それなのに貴方達が来て驚きました」
「その質問の答えが、今回の貴方の旅の答えですよ」
 コルリスはアデリッドの慰める。
「確かに血の繋がりは大切です。ですが心の繋がりというのもあるのですよ。もう一度義父様とお話をしてみてください、大切な物が見つかりますよ」
 アヴリルはアデリッドの乱れた髪を撫でつけてあげた。
「御二人に『父』が道を示されん事を‥‥」
 ウェルリックは揺れる馬車の中で祈りを捧げるのだった。

●父と娘
 一行は帰り道で二晩を過ごし、依頼の五日目の朝にパリに着く。
「お父様!」
 屋敷に着いたアデリッドは真っ先にオドランの元に駆け寄って抱きついた。
「すまぬ‥‥すまぬのお。助けにも行かれずに‥‥」
「何をいうのお父様。心配かけたのは私なのに」
「大事な娘を自分で守れなくて、何が騎士ぞ」
「そんな事いわないで。大切なお父様を心配させてごめんなさい」
「わしの方こそ。‥‥訊きたい事があればすべてを話そう。今度こそは包み隠すような真似はせぬ」
「もういいの。いいです‥‥。さあお父様、お部屋に戻らないとお身体に障ります」
 アデリッドはオドランに肩を貸しながら冒険者達に会釈し、屋敷へと戻っていった。
「一緒にいきましょうか」
 馬を持つ者は手綱を引いて歩く。冒険者全員で足取り軽くギルドへ報告に向かうのだった。